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第6話「作戦大成功★」

***


時間は流れ、午前最後の授業。

選択授業の家庭科である。


音楽・美術・家庭の三種類の中から選択して実施するのだが、葉緩は躊躇もなく家庭科を選んでいた。


「葉緩ちゃん、頑張って美味しいクッキー作ろうね」

「お任せ下さい、柚姫!」


桐哉が美術を選択する中、葉緩は同じ授業にしなかった。

それはすべて桐哉の愛すべき伴侶(仮)の柚姫が家庭科を選択しているためである。


「さぁ、生地を伸ばして型をとります! 姫、ハートでくりぬいてください!」

「葉緩ちゃん手際よすぎるよー」


あっという間にクッキーは完成、試食用のクッキーはぬかりなく普通のクッキーだ。

葉緩がさんざん暴れて作ったので不安そうに口に含み、問題ないことを確認して安堵する柚姫。


「姫! ラッピングしましょう!」

「うん……」


紅潮した頬があいらしい。


「柚姫は桐哉くんに渡すんですよね?」

「う、うん。 渡せたらいいなって思ってる」


桐哉を想い、照れ笑いをする柚姫は最高峰のかわいさだ。

その笑みは桐哉ではなく、葉緩のハートまでも射抜く。


「姫なら大丈夫です! 絶対に渡してくださいね! くれぐれも他の人に食べさせるなんてことないように!」


「が、がんばります……?」


念を押し、柚姫の行動を制限する。

この念押しもすべては葉緩の狙い通りだと、心の中でガッツポーズ。

勢いにのって神輿でも担ぎたい気分だ。


(あとは現場を見守って結ばれればおっけーです。ぐふっ。主様と姫の血筋が子々孫々繁栄されていくことが私の喜びです)


子孫?栄。忍びのお役目として達成すべきと、葉緩は策に策を練る。

表だっての行動ができないならば、忍びらしくずる賢い策を講じよう。

ラッピングしたクッキーを手に、葉緩は満足した様子で鼻の穴を膨らませた。


この先の展開に来たいしながら、出来立てのクッキーを頬張る。

葉緩には渡す相手もいないので、自分で食べてしまうか、もしくは父にあげてもいいかもしれないと考えていたとき、目の前にいた柚姫の顔に影がさしたことに気づいた。


「いいんだよね?」

「姫?」

「ううん。なんでもない」


言葉の通り、明るく微笑むと柚姫は気張って食器を片付けに行ってしまった。

気のせいだろう。

多少の不安はつきものだと、葉緩は深く考えずに柚姫の頑張る後ろ姿を微笑ましく見つめていた。


***


「桐哉くーん。クッキー作ったのもらってぇ!」

「うちもうちもー!」

「あ、ありがとう……」


昼休みになると桐哉のもとに女子が殺到する。

家庭科の授業を選択していた女子たちがこぞってクッキーを渡そうと、一口目争奪戦にすらなっていた。


桐哉の整った顔立ちだけでも素晴らしいというのに、男女隔てなくやさしいものだから爆発的にモテてしまう。

それはそれで素敵なことだが、柚姫を思うとネックに思えてしまう。


「ねね、クレアの食べてみてぇ! 絶対美味しいからぁ!」

「あ、ずるい抜けがけー!」

「いや、オレは……」

「遠慮しないで! はい、あーん」

断れ! と突っ込みたい気持ちをおさえ、忍びとして何をすべきか瞬時に答えを出す。

桐哉がハッキリ断れないのならば、寄ってくる者たちを遠ざけるしかない。


葉緩には歯がゆいところだが、主と姫の恋を死守してこそ、真の忍びだと割り切りスッと気配を消した。


(忍法・風清弊絶ふうせいへいぜつ!)


誰にも聞こえない小さな声で、しかし狙いはしっかり定めて忍術を放つ。

窓を通り道に外から強い風が入り込むと、机の上に乗っていたノートや筆記用具を落としていく。


唐突に襲ってきた風に教室内がざわつき、困惑しながら落ちたものを拾いだした。

室内に吹くにしては不自然な風だったと口々にするなか、女子たちが異変に気づく。


「あっ? クッキーがない!」

「飛ばされたんだわ! 桐哉くん、待っててね! 探してくる!」


桐哉目当てでクッキーを持ってきた女子たちの手からクッキーが消えていた。

風に巻き込まれたのだと、目を血走らせた女子たちが我先にと教室から飛び出していく。

騒ぎが落ちつき、断り方に悩んでいた桐哉は問題から解放されたとホッと息を吐いていた。


もちろん、これは葉緩のしわざだ。

作戦大成功と、葉緩は悪役らしくほくそ笑んでいた。

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