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第51話「本当に、仕方のない方ですね」

生まれたときから共に笑い、傍にいた白夜が離れる。


そんなのは嫌。

なぜそうも簡単に葉緩と白夜の関係を切り分ける?


忍びと枝で言い表せるほど、愛想のない関係ではなかったはずだ。

どうして白夜は葉緩につらく当たる?

現実を受け止められず、背を向けてひたすらに駆けた。

いまさら枝として扱えと言われ、「はい、そうですか」とすんなり受け入れることは出来なかった。


「……阿呆が」


大気に溶け込むような呟きは葉緩に届かない。


***


白夜と向き合えないまま、葉緩は家へと帰って部屋に鍵をかける。

ベッドに腰掛け、お気に入りのくまのぬいぐるみを抱きしめながら唇を尖らせた。


「はあぁ……。ちゃっかり部屋に不法侵入ですか」

「葉緩の部屋、かわいいね」


葉緩は自分の家のため、真っ当に玄関口から入ったが何食わぬ顔で葵斗が窓から忍び込む。

ジロリと睨んで何も言わずにいると、葵斗は当たり前のように葉緩の隣に腰かけた。

あまりの節操なしだと、葉緩はしかめっ面に葵斗を睨みつける。


「ものすごーく今更ですけど、葵斗くんって結構Sっ気が強いですよね。というか変態? 葉名さんに対して強引だったのではないですか?」

「男はみんな変態だよ? 好きな女の子は可愛いものだし、構いたいし構ってほしいし」


にこにこゆるゆるな笑顔を見て、葉緩は気恥ずかしくなって顔を背ける。

不健全で、下心満載な気持ちを直球にぶつけられ、羞恥心が限界だと枕で葵斗を叩きつけた。

あっさりと受け止められ、悔しさに葉緩は涙目になって枕に顔を押しつけた。


「いい感じに言えたみたいな顔しないでください。葉名さんが主様たちに会えなかったらどうなってたか。少しは反省してくださいよ」


「……うん、綺麗事にはならないよね」


青い瞳が陰る。

目の前にいるのは葵斗のはずなのに、まるで蒼依と対面している気分だ。


憂いに満ちた表情を向けられると、まるで葉緩が悪いみたいだ。


だが女として譲れないものもある。

愛し合っていたとはいえ、番でもなかった蒼依の行動は無責任すぎた。


桐人と柚が葉名を助けてくれなかったら、母子ともにどうなっていたかと想像するだけゾッとした。

ゆえに葉緩は折れてはいけない。

ましてや桐哉と柚姫の健全なる子孫?栄を願っているのだから、その意志は固かった。


葵斗はぬいぐるみを手放し、ベッドから降りると葉緩の前に膝をつく。

葉緩の手を両手で包み込み、上目遣いに不安も隠さずに葉緩に告白をした。


「今世はほどほどにする。あと、無責任にはしない」


握る手が汗ばんでいる。

葵斗と蒼依の後悔が入り混じった複雑さがある。

蒼依が死んだことで葉名は一人あてもなくさまようことになり、子どもには父親のいない苦労をかけた。


罪悪感と番の匂いに抗えない感覚に板挟みとなっていた。


「葉緩の気持ちが固まるまでちゃんと待つ。今度こそ、一緒に頑張りたいから」

「葵斗くん……」


二人で里を出ることしか考えておらず、生きようとあがいていたため、突然訪れた死は二人の夢を断絶した。


葉名との未来には障害が多く、乗り越えるためには若すぎた。

里の価値観も凝り固まっていたため、余計に難しかった。

真面目さゆえに苦悩は大きかったかもしれない。

今はお互いを縛るものがなくなったので、焦らずに将来を見つめたい。


(本当に、仕方のない方ですね)


こんな歪な愛し方を受け止められるのは他にいない。

運命さえくつがえそうとするいとおしさで結びついた彼の手を、葉緩はそっと握り返した。


「葉緩……!」

「特別ですよ? 特別、私の心に葵斗くんを入れてあげます」


その言葉に葵斗はまぶたを震わせる。

膨れっ面になった葵斗は年相応の男の子の顔をし、やけくそに葉緩の腰に腕を回した。

甘えん坊な一面に、葉緩の顔がボッと赤く染まる。


「なんかさぁ、桐哉ってズルいよね。柚ちゃんもいて、めっちゃパパしてたんじゃん」

「はい?」


話がぶっ飛んだような、おかしな焦点のあて方に首をかしげる。

桐哉は葉緩にとっての主であり、かつて命を救ってくれた桐人と同じ魂を持つ存在。


蒼依がいなくなり、一人で赤子を育てることになったが、桐人が我が子のように子をかわいがってくれた。


実質、桐人が父親と言っても過言ではない。

葵斗の視点で考えると、それは叶わなかった夢を取って代わられた気分なのだろう。

拗ねる葵斗がまるで子どものようで、おかしくなって葉緩は笑わずにはいられなかった。


「妬くところがおかしいですよ?」

「別に。妬いてるというより、悔しいだけ」


どちらかと言えば蒼依の想いが強めだ。

そこに葵斗の独占欲が上乗せされているような口ぶりで。

甘え知らずの人が抱きついてくる姿に、母性がくすぐられてそっと頭を撫でてみた。

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