第48話「痴話げんかかよ……」
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「ま、千夜が里に戻ったときにはもう里はなかったというわけ」
なんとか葵斗の求愛を制止して、手をつなぐことで落ちついた。
葉緩は反対の手でスプーンを握り、今度は溶けないうちにと抹茶パフェを頬張った。
佐和の記憶を聞きながら、葉緩は過去生に起きたことを整理していく。
佐和は蒼依の双子の姉・千夜の生まれ変わりで葉名との接触はなかった。
千夜にとって葉名は関心の外にいたため、お互いに思い入れはない。
優秀なくノ一だった千夜は外の任務に出ており、ほとんど村にはいなかった。
女性が跡取りとなることはないため、番が判明するまで外にいる主に仕えることはよくある話。
「私の番は里の外にいた。だけど里は全滅。生き残った千夜の子孫が今の望月家。……他に生き残りがいるかはわからないまま」
葉緩の脳裏に番だった依久と、蒼依の番の穂高が思い浮かぶ。
二人とも遠い昔に生きた人。今さら二人と会うことも叶わない。
今は葉緩として生きているため、葉緩が二人を思っても時は戻らないと悟っていた。
「何か言うことないわけ?」
佐和の責めに葉緩はゆっくりと首を横に振る。
「狂ったのは事実ですし。ここで私が何か言って千夜さんは救われますか?」
里が滅びたあと、千夜は番と結ばれてどのように生きたのか。
望月家の成り立ちも、里が滅んだ理由を考えても、葉緩になにか出来るわけでもない。
番と結ばれ、正しき運命に従ってきた忍びの里。
歯車を壊したのは蒼依と葉名だ、
命をすくわれた葉名は蒼依との子を産み、今の四ツ井家に繋がった。
ただそれだけのこと……。
二人の血筋であり、生まれ変わりとはなんとも複雑な縁だと考え込むも、それもまた変わらぬ事実と葉緩はパフェを平らげた。
大好きな抹茶パフェを堪能したことで葉緩はすまし顔で佐和に微笑みかける。
「ここにあなたがいるのは戒めでしょう。だから何も言いません」
「あんたまで葵斗と同じこと言うのね」
呆れた、と佐和は背もたれに身体を預けて腕を組む。
ずいぶん深刻な話題のはずだが、会話をするのは葉緩と佐和だけで、葵斗は我関せずの態度だった。
いくらなんでも不謹慎だと葉緩が葵斗の手を強く握ると、葵斗が艶っぽく微笑むので葉緩の心臓は射抜かれてしまう。
(むぅぅ、なんだか悔しいです……)
「俺は葉緩が欲しかっただけだし。蒼依は死んでるし、葉名も里から出た。葉緩が番として結びついたなら何の問題もない」
「……葵斗くん、不真面目になりすぎでは?」
「葉緩がそう言ったんじゃん。肩の力抜けって」
「抜きすぎですっ!」
かつての葉名の言質をとった葵斗に、葉緩は敗北する。
蒼依はとても真面目で、長子で常に緊張していた。
張りつめた様子の多かったので、葉名は蒼依を心配しながらも黙って隣に座るだけだった。
もっと楽に生きてほしい。
どうか次に生を受けたら羽根を伸ばして生きてほしいと願っていた。
……それがここまでゆるゆるな脱力系男子になると想像できるはずもない。
物は言いようだと、葵斗の調子のよさにゲッソリしてしまった。
「で、連理の枝を折れたままなのにどうして葵斗は匂いに気づいたわけ? そもそもあなたたちは元々絡んでなかったはずよ」
「……分かりません」
「うーん、俺の嗅覚が優れすぎているとか?」
「わ、私だって優秀な忍びです! 嗅覚だって優れてる方なのですよ!!」
ポカポカと葵斗の頭を叩くも、葵斗は笑って誤魔化すばかり。
キリがない葵斗の惚気に、佐和は頭が痛いとあからさまに苦い顔をした。
「なんで私は痴話げんかを見なきゃいけないの? アホくさ」
「痴話げんか……」
「これを機に真面目に考えたら? あなたたち、あり方が歪だから」
結局、葉緩は葵斗から番としての匂いを嗅ぎ取れないまま。
手は繋がっても、折れた枝はそのままなので誰かと絡むはずもない。
かつては匂いを感じていなかったのに、今は葵斗だけが嗅ぎ取っている。
葵斗の枝はどうなっているのだろうと考えても、忍びの里はすでにない。
答えにたどり着くことは出来ず、葉緩は食べきったパフェの器からスプーンをとって、誤魔化すように口に含んだ。
(甘苦い……。苦いはずなのにもう葵斗くんの手を離すことが一番怖い)
苦い環境下でも甘さには勝てなかったのだから。




