第47話「ポンコツな君な好き」
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次の日、あらためて場を仕切り直して佐和と話し合いとなった。
以前、抹茶パフェを食べた喫茶店の隅の席。
レトロなジャズが流れる店内で、死角なことをいいことに葵斗が葉緩の手を撫でまわす。
(この人は本当にボディタッチが好きですねぇ……! 生粋の変態でした!)
隠す気もない。
むっつりではなく、オープン助平だと頭が痛くなった。
これは簡単に逃げられるものではないと理解しながらも、こちらはこちらで意地があるため何食わぬ顔をする。執着に振り回されていないと、のらりくらりとかわしたかった。
(今世は貞操固く生きなくては。葵斗くんに合わせていたらキリがありません)
OKサインが出る前から、葉緩が番だというだけで承認されたと勝手な行動をしていた。
よくよく考えれば、キスもハグも、全部がおかしい。
通常ならば嫌悪感に殴っているところだが、葉緩も葉緩でどこかあきらめて受け入れていた節がある。
匂いがわからなくても、本能的に葵斗を許していたといったところだろう。
貞操観念に葉緩は険しい顔をして、葵斗との距離感に悩んでいた。
「改めまして、望月 佐和です。以前は蒼依の双子の姉で、名を千夜と言います」
向かい側に座る佐和が静かに紅茶をすする。
視線を向ける場所がないと悩み抜いた結果、あたたかい紅茶のカップに口をつけたまま中々顔をみせようとしなかった。気まずさ防止といったところだろう。
それはそうとして、葉緩は佐和を見るなり別のことが気になって仕方ない。
いかにも優秀そうな白いブレザーに細めの青リボン、濃紺のスカートをあわせた制服。
「その制服は……某有名校の! 入学するためにはとってもお金を払わないといけないやつ!」
「失礼ね! ちゃんと正面から入学してるわよ!」
佐和は立ち上がると、勢いでスパーンと葉緩の頭にチョップする。
髪飾りに見せかけた忍びの武具が落ち、葉緩はそそくさと拾ってケロリと髪を直した。
教室で戦ったくノ一とは同一人物とは思えないと、佐和はため息をついて再び腰かける。
ミルクを追加で淹れてから紅茶を飲む姿は気品にあふれ、まさにエリートで真面目一直線。
優秀だと自称する葉緩であったが、財力と学力の壁に佐和には敵わないとガクッとうなだれた。
葉緩は忍びとしては優秀だが、勉強となるとポンコツ。
特に数字にはめっぽう弱かった。
「去年までは葵斗も一緒だったのよ」
「なっ……なんですと!?」
恨めしそうに葵斗を睨みつけると、変わらずニコニコしたまま葉緩を愛でようとしてくる。
サッとかわして唇を尖らせると、葵斗のハイスペックさに憤慨した。
葵斗は二年生になると同時に転校してきた謎多きイケメンだった。
まさかそれほどまでのエリート校からやってくるとは、葵斗の行動はめちゃくちゃだ。
それほどまでに番の匂いは離れがたいものなのか、あいかわらず匂いのわからない葉緩には理解できなかった。
「根からのエリートですか。住む世界が違いますね」
「俺は葉緩ならなんでもいいよ。頑張って優秀になった葉緩も、ポンコツな葉緩も」
ドッカーン!!!
今、確実に葉緩の地雷を踏んだ。
葵斗の発言に葉緩はショックを受け、ムキーッと爪を尖らせて葵斗に殴りかかる。
「酷くないですか!? ポンコツって、そんなこと思ってたんですか!?」
「そんないい匂いを漂わせて気づかないわけないからね」
驚愕する葉緩に尻尾を振り、抱きしめてくる葵斗。
匂いがわからないのは“葉緩のせい”だと言っているようなもので、事実のため葉緩は言い訳も出来ずに小さく縮こまるしかない。
それがまた葵斗の溺愛心を刺激しているとも知らず、抱きしめられる人形と化していた。。
「はぁぁ、うっざー……」
佐和からすればイチャイチャ迷惑だ。
自分の恋愛観をまだ把握しきれていあい葉緩は、佐和の言葉に涙目となる。
大事なものが多すぎるのもそれはそれで難題だと、頬がコケてしまいそうだった。




