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第44話「花想い、蒼の心」


***


波の音が聞こえる。

押し寄せるあたたかい想い。

これはずっと愛おしいと思い続けた青の音だ。


「海の色……」

「――っ葉緩?」


目を開き、心が向かうままに言の葉を紡ぐ。


「花よ、舞え。我が想い、蒼き海の如し」


これは葉名が編み出し、葉緩が完成させた忍ばぬ心。


花想蒼心かそうそうしん!!」


青い花が開いていき、中から藤の光が現れる。

あたりをやさしい光で包み込み、緩やかに心に溶け込んでいった。


葉が緩く青に輝き、生命が息吹く。


「は……ゆる……」


目を見開く葵斗に顔を向け、葉緩は満面にはにかんだ。


「ただいまです! 葵斗くん!」

「葉緩! よかった、葉緩!」



「わっ!?」


葵斗は飛びつくように葉緩を抱きしめ、圧迫されそうな力加減につぶされそうになる。

だがそれだけ葵斗が求めてくれたと知り、ほっこりとした気持ちで抱きしめ返した。


葵斗の黒髪が頬をくすぐったので、思い付きで鼻をくんくんさせてみる。


「うーん、やっぱり匂いはわからないままですねぇ」


葉名として生きた記憶を取り戻したことで、番の匂いというものがわかるかと思った。

しかし嗅いでみても匂いはまったくわからない。

連理の枝を手折ってしまっているので、運命は繋がっていないのかもしれない。


「まぁどうでもいいです! 嬉しいのは蒼依くんがずっと私を想い続けてくれたということです!」


すっかり楽観的になった葉緩は悲観せず、葵斗が葉緩を抱きしめてくることに喜びを噛みしめる。

葵斗は間抜けた顔で、おそるおそる葉緩の頬に触れた。


「俺のこと、覚えてるの?」

「はい。ずいぶんとゆる~くなられましたね」


葵斗の手に手を重ね、擦り寄る。

するといつもは淡々とした葵斗が瞳を揺らし、頬に雫を伝わせた。

案外、葉緩よりも繊細な人かもしれないと可愛らしく見えて笑った。


「私、蒼依くんを信じていたつもりで、どこか怖い気持ちはぬぐえなかった。たくさん悲しいことが起きて。でも主様と姫に救われました」



桐哉と柚姫に感じる忠誠心はかつて助けられたから。

二人の幸せを想い、未来永劫それを見守り続けたいという願いが縁を結び付けた。


「これ以上、失うことが嫌だったんです。ずっと葵斗くんは私に伝えてくれてたのに」

「いい。また会えた。それだけで幸せだ」


それは葵斗であり蒼依の言葉。

不確かで断言も出来ず、刻まれた記憶にほんろうされる。


葉緩を前にしても簡単には捕まえられない。

目の前にいる好きな子の顕現は幻想なのか、現実なのか。


不安定だった想いを支える愛情に触れ、かつての繊細さを取り戻した葵斗が葉緩を強く抱きしめた。


「一人で頑張らせてごめん。いっぱいいっぱいだったよな。それでも俺を見ようとしてくれてありがとう」


――溢れ出す。

心を震わせて泣くことはやめたはずだったのに。


きっとこれまでの道をがんばっていたと認めたくなかった。

それをすれば辛いことを辛いものだと刻まれてしまう。


一心不乱に主と姫を守る。

忠誠心に生きることが葉緩の誉だったために、そこに行きつくまでの過程は見て見ぬふりをした。


喉が焼け、嗚咽とともにボロボロ涙がこぼれだした。


「う、うあ……うあああああん!」


想像もしなかった泣きじゃくる自分に葉緩は戸惑い、余計に涙が止まらなくなっていた。



(そっか、私は泣きたかったんだ。 ずっと自分のために泣いてなかったから)


強くあろうとした。

そうして生きるのが葉緩の支えだった。


自分のために泣くことがなく、強さを手に入れても味わったはずの悲しみが欠落していた。


たしかに傷ついてきたことはたくさんあるのに、死ぬほど痛いと思ったことがない。

……それ以上はダメだと自己防衛し、最低限の感覚を残して痛みを遮断した。


この腕の中は、葉緩が甘えていい場所。

笑うことも、泣くことも、全部許されるあたたかい居場所だ。



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