表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/57

第30話「禁術」

「かかったり」


風をまとうは葉緩の十八番おはこ

花も風も、乗っ取って葉緩は自分の力に変えていく。


「忍法【花嵐はなあらし】!」


「うっ……キャアアアアアアッ!!」


凝縮された花びらの塊が弾丸のように佐和にぶつかった。

風の勢いと花びらをあわせ、強烈な一撃を食らわせる葉緩のお得意技だ。


直撃した佐和は壁にたたきつけられ、ダメージに身体を震わせる。

あまりの衝撃にろくに動くことが出来なくなり、がっくりとうなだれて弱体化していた。


決定的な勝利に葉緩は腰に両手をあて、大胆不敵に口角をあげた。


「こう見えて私、優秀なので!」


四ツ井家の忍びは伊達じゃない。

葵斗には通用しないので、久々に己は優秀な忍びと実感してふんぞり返る。

それを見ていた葵斗がうっとりと目を細め、極上の甘さをもって葉緩に手を伸ばした。


「葉緩カッコいい、もっと好きになった」

「あわわわわっ! 葵斗くん、離してください!」

「やーだ」


まるで愛らしき動物を愛でるように抱きしめてくる。

胸に顔が押しついてしまい、息苦しくなって慌てて手足をばたつかせた。


だが力では勝てない。


普段は脱力しがちな葵斗ではあるが、こうして距離が近くなると鍛えられた男性だと実感する。

この腕からは逃れられない。

少しだけ早くなった鼓動にソワソワしながら葵斗の背に手を回す。


(ほんと、自由な方です)


ドキドキする胸の高鳴りはもう見て見ぬ振りができない。

自分の幸せを考えるとは、なんと歯がゆくて難しいのかと深いため息を吐いた。


とはいえ、うじうじしてはいられないと葉緩は葵斗の胸を押す。

切り替えて倒れた佐和に歩み寄ると、膝に手をついて様子をうかがった。


(結構、強めにやってしまいました。……大丈夫でしょうか?)


直接誰かと対決するのははじめてのため、力加減がわからなかった。


さすがにやりすぎたと心配になり、佐和に手を伸ばす。


「忍法……【心象風景しんしょうふうけい】」


手が触れる直前、弱々しかったが低く唸るような声で佐和は攻撃の意志を見せる。

鋭く斬りつける眼差しが葉緩をとらえ、黒いモヤが葉緩の内側に襲いかかった。


「禁術混合【誹刺諷誡ひしふうかい】!」


誹刺諷誡ひしふうかい、それは人を批判し間接的に戒めるということ。

心象風景しんしょうふうけい、心の中で思い浮かぶ風景をさす。


禁術とはあまりに危険なため、使用してはならないと忍びが封じた技だ。

佐和が放ったのは、忍術の組み合わせでより高度となった扱いの難しいものだ。


二つの技が混ざり、葉緩の精神領域に侵食して割れるような痛みが走る。

葉緩が意識的、無意識的に抑え込んでいたネガティブな感情が引き出され、飲みこまれていく。



「葉緩っ!」


視界がかすんで、光が見えなくなる。

葵斗に身体を支えられるも、どんどん意識が技に飲み込まれて遠のいていった。


「葉緩、葉緩……! 佐和、葉緩に何をした!?」

「別に、彼女の中に戒めるべきことがなければなんの問題もない術よ」


強気に佐和はニタリと笑うも、口から血を流している。

禁術は使用者にも反動があり、佐和も例外ではなく血を吐いて息を切らしていた。


「眠りに落ちたってことはなんらかの罪の意識があるのね」

「罪の意識?」

「葵斗、その女は裏切りの子孫。あなたは正当な望月家の忍。本来の番と結ばれるべきよ。その女は相応しくない」


佐和の断定的な言い方に葵斗は口を開くも、言葉を詰まらせる。


「ねぇ、本当は匂いなんてわかってないんでしょ?」

「……別に。匂いなんてどうでもいいんだ。葉緩ならなんだっていい」

「やめて! そんな里から出た者を」

「もし、裏切り者だから認めないのなら。……俺もふさわしくないよ」

「何を言って……葵斗?」


あぁ、ダメだ。二人の会話を聞き取るのも難しいくらい意識が落ちていく。

何も考えられなくなり、潜在意識の中に取り込まれていくなかで、葉緩は嗅いだことのない潮の香りを脳裏によぎらせた。

葵斗の海が濁っている。内側に、侵食されているのは葉緩だけではなかった。


「俺もまた、抜忍だから」

「どういうこと?」


どこまでも深く沈んでいく。

青さを失った深海へと溺れて、身体の感覚を失ってクラゲのように漂うばかり。


まどろみの中、目を開くと口から泡が出た。


これが心象風景だとして、飲み込まれた状態では指先ひとつ動かせない。


苦しい。涙が止まらない。

この張り裂けそうなほどの悲痛さを……“私”は知っている――・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ