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第28話「愛のために欲を持て!」

「葵斗、家に戻りなさい。その女は裏切り者の子孫よ」

「だから何? 葉緩は俺の番だから会いに来ただけなんだけど」


気にも止めない葵斗の態度に佐和はカッとなり、近くの椅子を蹴りつけた。


「それは本来の番じゃないわ。いつか木も元に戻る」

「どうでもいい。枝が誰に伸びていても俺が好きなのは葉緩だ」


一体、二人は何の話をしているのだろう。

二人の会話についていけない葉緩は俯き、手を握りしめる。


葵斗が語るには葉緩は番。だが特有の香りを嗅ぎ取れない。

さらには全く聞き覚えのない枝がどうだ、裏切りがなんだと、会話がどんどん広がっている。

忍びとして誇りをもち、必死に努力を重ねてきた葉緩にとって“裏切り者”呼ばわりは非常に屈辱的なものだった。


「抜忍の末路は死のみ! なのに生き延びていて……。子孫まで残しているのがおかしいのよ!」

「抜忍ってなんの事ですか!? 私たちはちゃんと代々続く忍の家系……」

「黙れ、くノ一の恥が! 葵斗から離れないっ!!」


佐和が葉緩をターゲットにし、集中的に手裏剣を投げてくる。

葉緩の言葉に耳を傾ける気もないようだ。

身に覚えのないことを責められて、葉緩はすっかりお冠状態に。


スピードなら負けないと覚悟を決めて対峙しようとした……が、それはダメだと言わんばかりに葵斗が葉緩をお姫様抱っこをしながらひょいひょいと攻撃をかわしていく。

あまりに俊敏な動きで、葉緩を抱えてもハンデになっていない。


関心しそうになって、すぐに葉緩は我にかえると葵斗の襟元を掴んで一喝した。


「何をやってるんですか! これは私に向けられた敵意……!」


はじめて葵斗が忍びらしい動きをした。


さすがに理解してしまう、葵斗の忍びとしての優秀さ。

自信満々だった葉緩でさえ、葵斗には敵わないと思い知らされる器用な動きに目を見張った。


葵斗が葉緩を抱えたまま、机の上を飛んで避けていく姿に佐和は焦燥感を募らせる。


「葵斗! いい加減目を覚ましなさい!」


怒りの的が葵斗に移る。

それを確認すると、葵斗はわざと足をとめ、佐和の攻撃にクナイを投げて相殺した。



「葉緩を傷つけるなら佐和も敵。戦うよ?」

「くっ……抜忍を見逃してるのよ!? これ以上、うちには関わらせない!」


ついに佐和は本気を出したようで、腕を前に突き出して気を一点に集中させる。

忍術が突風となり、教室の机が倒していく。

まるで地震が発生したかのようにガタガタと足元が崩れそうだ。


忍術の模範ともいえる佐和の攻撃に、葵斗はため息をつくと葉緩を教室の隅に降ろす。

面倒になったのか、一気に片をつけようと葵斗は忍びの装束に一転する。

そしてかまいたちが目の前に迫ったところで、葵斗は余裕めいた反撃に出た。


三尺秋水さんじゃくしゅうすい!」


冷たく澄んだ秋の水が剣の形となり、斬りつけるように佐和へ襲いかかる。

鋭い冴えわたった水の動きが佐和を押し、繊細さで強い威力を見せつける技だ。


こうも端々まで行き届く整った技に目を奪われ、葵斗が優れた忍びと認識する。

これは長年努力してきた葉緩でもたどり着けない水の攻撃の極みだ。


(羨ましいなんて……忍びとして嫉妬するのははじめてです)


魂の主を守り、子孫繁栄を願う。


ただ一途にお役目をまっとうする未来をみてきた。


それが葉緩の生きる理由であり、ようやく桐哉に出会い、柚姫へと繋がったことで確固たる意志となった。


だがいざ、葵斗の優秀さを目の当たりにし、葉緩は悔しさに唇を噛みしめる。

家族という枠組みでしか忍びを見たことがなかった。

外に出ればこんなにも高みにいる存在がいる。

まだまだ葉緩は未熟者だったと、負けたくない意志が炎を巻き起こす。


守るものはいくらあってもいい。

葉緩を強くするならば、いくらでも努力を重ねて上を目指そう。


葉緩の大切なもの。簡単には譲れない。

どれだけ罵倒されようとも、それは葉緩を堕とすものではない。

過去、そして目に見えぬ番の証。

たしかに葉緩を構成する一つではあるが、未来を阻害される理由にはならない。


(守られるだけは性に合いません)


目の前で攻撃をされ、守られているだけが葉緩の生き方か?


――いや、ちがう。

葉緩が信じたものは、欲しいものは――自分で手を伸ばさなくては手に入るものではない。


多少派手だとしても、今必要なのは葉緩を強くするための衣装。

制服を脱ぎ捨てて、葉緩のためにくノ一の装束を纏うと藤色の瞳に炎を燃やした。


「スピードも自信ありますが、ジャンプ力にも自信ありますので!」


飛んできたまきびしをクナイで弾くと、床を強く蹴り飛ばし一気に葵斗との距離を詰める。

ふんぞり返って隣に並ぶと、肘で葵斗のわき腹をつつき、鼻息を荒くした。


「私も忍の末裔ですからね! 守るのもまた、私の務めです!」

「……はっ、そうだね」


険しかった葵斗の表情がやわらぎ、極上の微笑みを葉緩に向けた。

ふいうちに葉緩は吐血しそうになるも、唾を飲みこんで佐和の真似をして椅子を蹴り飛ばした。


(多少荒くなるのは良しとしましょう)

藤の瞳に迷いはない。

桐哉や柚姫を守るときと同じように、根性むき出しに葉緩は戦いの意志をみせた。


「イチャイチャは推奨しても、別れさせるのは無粋というもの! 誰を好きになるかは私が決めます!」


忍びの務め。

その二、主の子孫繁栄に全力を尽くすこと。


同じくらい、葉緩のための務めを追加しよう。

その三、イチャイチャ推奨! 愛のために欲を持て!


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