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第26話「四ツ井、補習」

「四ツ井、補習な」


学校に到着し、さっそく昨日の数学のテストが返される。

やたらと採点結果が早く出たわけだが、告げられた言葉に葉緩はショックを隠せない。


(絢葉に渡された結果と同じ。がーん! つくづくバカにされている!)


絢葉に見せられた紙は数学の答案用紙。葉緩の赤点のコピーだ。

赤っ恥をかかされたと葉緩はぐっと涙をこらえて机に突っ伏せる。


「あと望月も。テスト、サボったから補習後、再テスト」


自席でうつ伏せに寝ようとしていた葵斗がむすっとして顔をあげる。


「めんどくさい。……でもまぁ、いっか」

「望月はもう少しやる気出そうなー。先生ちょっと寂しいぞー」


教師の言葉を無視し、葵斗は涙目の葉緩にニコニコと視線を投げる。


背中に視線を感じ、葉緩は何故こんな時に葵斗までと泣きべそをかきたい気持ちになった。


「それとなー。この後緊急で全校集会があるから全員体育館に行ってくれ」

「えー、何の話があるんすかー?」

「校長が話す。ほらほら、さっさと廊下に並べ―」


予定になかった全校集会に教室内がざわつきだす。

教師の指示に従い、生徒たちはぞろぞろと教室を出て、廊下に整列をはじめる。

柚姫が廊下に出ると、あたりを見回して葉緩がいないことに気づく。


教室を覗きこみ、数学の赤点に落ち込む葉緩に声をかけようと思ったが、誰もいない。

どこに行ったのだろうと首を傾げていると、桐哉が柚姫に気付いて駆け寄ってくる。


「徳山さん、どうしたの?」

「あ……っと、葉緩ちゃんの姿が見当たらなくて」

「またか。よくいなくなるよなぁ。中学の時から急にいなくなるんだよ」

「そうなの?」


長く付き合っていると葉緩の奇行にも慣れるというもの。

桐哉は大して心配をしていなかったが、柚姫には面白くないようで頬を膨らませてそっぽを向いた。


「二人って仲良しだよね。……いいなぁ、あたしももっと葉緩ちゃんのこと知りたい」


葉緩を大切に思う柚姫に、桐哉もまたムッとする。


「徳山さんって葉緩のこと本当に好きだよね」

「当たり前だよ!」

「……ちょっと妬ける」


恥ずかしがりやの桐哉がポツリと漏らした本音。

何を言われたか、瞬時に理解できなかった柚姫は目を丸くするも、じわじわと実感を伴って顔を赤らめた。


「え、えぇー? 何を言ってるの? 桐哉くんって本当に言葉上手なんだから」

「いや、オレは本当に」


柚姫が笑ってかわそうとするので、桐哉もむきになって前のめりになる。

しかし柚姫はあいまいに微笑んで、ざわつく生徒たちに紛れようと桐哉に背を向けた。


「……体育館、行こ? 早く行かないと怒られちゃう。緊急で全校集会ってなんだろうね?」


笑って誤魔化された。

その後ろ姿に桐哉は歯ぎしりをし、拳を握りしめるとおとなしく生徒たちの列に紛れた。


「葵斗みたいにはなれないな……」

「松前、どうした? 顔色悪いぞ」

「いや、なんでもない。ほら、行こうぜ」

クラスメイトの男子に声をかけられるも笑って誤魔化し、さっさと体育館へ向かった。


桐哉はまわりも羨むイケメン男子で、女子たちにモテモテと嫉妬をかいやすい。

周りには輝かしく見えても、本人は気持ちを陰らせている。

どれだけかっこいいと騒がれようとも、一番見て欲しい人には振り向いてもらえない。

友人の葵斗はさらっと先へ行こうとするので、劣等感を刺激されていた。


遠ざかる背中。

誰もいなくなった教室から葉緩は顔だけ出して廊下をのぞき込む。

お得意の壁と化して隠れていたが、桐哉も柚姫もいなくなり壁布をはがす。

不安定な足元を見下ろし、いつものように気持ちが上がらないと唾を飲み込んだ。


「……お役目に集中しなくては。二人が一緒にいるとき、私は隠れるのが筋ですから」

「葉緩」

「ギャンッ!? あああ、葵斗くん……!」


また気配がない。


顔をあげると、こちらを心配そうに見つめる葵斗が立っていた。

気づけない分、心のかき乱され方は激しくなる。

佐和には強く出たが、いざ葵斗を前にするとうまく立ち回れない。

何を口にすればよいのか、どんな表情をしていればいいのか。

意識すればするほど、葵斗の瞳に映る自分が気になって胸が焼けてしまいそうだった。


「何かあった?」

「別に、何も……」

「葉緩にとって俺は迷惑?」

「! 迷惑とかそういうわけでは……」


可愛げのないに加え、ハッキリとしない返答だ。

柚姫のように可憐に腹を立てることも出来ない。

どうして桐哉と柚姫は互いに恋慕して、想いを秘めて後ろ姿を見つめるばかりなのだろう。


ゆっくりと近づいていく恋愛に対し、葵斗は距離を詰めるのが早い。

あまりにまっすぐで迷いがない愛情はどこからくるのだろう。

どうして葉緩を求めてくるのか、モヤモヤした気持ちに葵斗を直視できなかった。


(ドキドキする。痛いの。……ダメだって思ってしまう)


――それは何故?

ダメだと思う恋愛って、何?


海の色が気になるくせに、また俯いてしまう。

人のことには“もっとやれー”と文句を言えるくせに、自分事だと難しい。

素直になる方法がわからず、逃げ惑う顔は葵斗によって上向きにされてしまった。

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