第20話「よっしゃあ! イチャイチャきた……ぬおお!?」
「味方になってくれる友達がいると、それだけで勇気が湧いてくるね。とても素敵なことを学べたよ。ありがとう」
にっこりと微笑む柚姫に、女子たちは焦燥感にかられて再び吠えだす。
「な、何なのよ、ウザッ! 毒山のくせに!」
「やばい、鼻血が止まらないよぉ……」
「ほら、保健室行くぞ。話はそれからだ」
状況を察した体育教師はため息をつき、女子たちの腕を引き上げる。
そして他の生徒に片づけを指示し、怪我をした女子たちを保健室へと連れていった。
事が落ち着き、柚姫は安堵の息をつくと葉緩へと振り返る。
その笑顔はとても晴れやかものだった。
「ありがとう、葉緩ちゃん」
「姫が傷つけられたら怒る! 当たり前です!」
「葉緩ちゃん……」
柚姫が喜びに浮かれ、葉緩に抱きつこうとするもギリギリのところで手を止める。
体育館の外から走ってくる足音に振り返って、血相を変えて寄ってくる人物に目を見開いた。
「徳山さんっ!!」
「えっ……桐哉くん? きゃっ!?」
駆け寄ってきたかと思えば肩を掴まれ、つい柚姫は短い悲鳴をあげる。
(キターーーーーーッ!!!)
桐哉は焦った様子で柚姫の顔を両手で包み、距離を詰めていく。
「葵斗から徳山さんがピンチだって聞いて! ケガは!?」
「だ、大丈夫。鼻血がちょっと出ただけだから……」
そこで止まったはずの鼻血が再び流れ出す。
たら~と唇を伝って顎から垂れると、柚姫はあわててティッシュで鼻をおさえつける。
女子として鼻血をだす姿を見られるのが恥ずかしいのはわかる。
わかるが、これぞビッグイベント開催だと葉緩の内側は祭りの準備にとりかかった。
桐哉はいったん青ざめるも、すぐにムッと腹をたてた様子で柚姫を抱き上げる。
まわりは当然……黄色い悲鳴一色だ。
「えっ!? き、桐哉くんなにを……!」
「全然良くない! 服にも血がついてる! 早く洗わないと! それにティッシュももっと必要だ!」
「え、ええーっ!?」
柚姫をお姫様抱っこして桐哉は体育館から出ていく。
現場にいた女子たちは“圧倒的な王子の登場”にすっかり射抜かれ、黄色い歓声をあげていた。
それは葉緩もまた同様で、目を輝かせてガッツポーズをとっていた。
(きました、やってきました! 主様と姫のイチャイチャですよーっ!!!)
ひゃっほい、これぞ愛の勝利。
桐哉と柚姫の相思相愛は世界で一番尊い!
(これは進捗ありますかね!? あー、気になります! 行かねば!)
調子に乗った葉緩は二人のラブイチャを見逃しはしないと走り出す。
体育館を飛び出し、軽い足取りで追いかけようとしていた。
「はい、そこまで」
「ふぬぅ!? 望月くん!?」
「二人がちゃんと寄り添うのに邪魔しちゃダメだよ?」
また性懲りもなく葉緩の邪魔をする。
葵斗はニコニコと笑いながら葉緩を羽織いじめし、動きを妨げていた。
やっぱり力では敵わず、葉緩は手足をばたつかせてギャーギャーと吠えた。
「ふぬぬ……これは私の人生の楽しみ! 邪魔しないでください!」
「他のことに夢中になればいいよ」
「なにを……」
ひょいと身体を持ち上げられる。
まるで桐哉の“お姫様抱っこ”を再現し、葉緩は真っ赤になってあられもない悲鳴をあげた。
何かがおかしい。
おろされたかと思うと壁に押し付けられている。
互いの息づかいの近さに葉緩の思考はぼんやりと霞みがかっていた。
「今は壁じゃないですよ?」
「知ってる」
「んっ……!」
重なる唇に抵抗する気持ちは起きなかった。
焦がれるようにもっと欲しいとわがままになっていく。
全身が脈打つように熱く、息苦しくなった。
(どうしてだろう)
葵斗の伏せられた長いまつ毛を見て、葉緩は恥ずかしさに目を固く閉じる。
(私、この人に触れられるとドキドキが止まらないのです)
唇を重ねることも、嫌ではない。
むしろそれが当たり前のように感じることが不思議であった。
指が絡まって、欲がどんどん溢れてくる。
邪魔をされたくないのに、葵斗の熱い気持ちに流されるばかり。
抗えない恋情に葉緩はおとなしくなり、葵斗を受け入れた。




