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第19話「鼻血が出ています」

「我流忍法・一撃必殺アターック!!」

「「は――!?」」


――ドゴォーンッ!!!


宙高く投げたボールを思いきりアタック。

バレーボール、しかし葉緩にはボール一つとて武器となる。


威力は強烈なもので、直撃した女子はなだれ込むように勢いに倒れてしまった。


「……葉緩ちゃん?」


耐え抜いていた柚姫が目を丸くし、葉緩を凝視する。


葉緩は柚姫を見るや、痛ましい姿に悔しくなって飛びつくように抱きついた。


「姫ぇええ! 大丈夫ですかぁ!? 怪我は……やだ、鼻血が出てますよお!」


体操着のポケットからティッシュを取り出し、柚姫の鼻に押しつける。


いざという時のため、葉緩はたいていの緊急キットは持ちあわせていた。


メソメソと声をあげながら泣き、柚姫の顔をウェットティッシュで血のカスを拭きとった。


「ふええん、姫の愛らしいお顔がぁ……」

「な、なんでティッシュを」

「なんでもありますよ! いざと言うときのために準備万端です!」


どやっと誇らしげに口角をあげるが、実態は白夜に持たせた荷物。


それでも葉緩は桐哉と柚姫を守るためならば、リスク管理も大事だと考えて白夜を巻き込んでいる。


もとは白夜の入れ知恵ではあるが、葉緩はすっかり自分の成果と鼻を高くしていた。


自信満々に見えて、心は柚姫を傷つけたショックに震えている。


それを感じ取った柚姫は、フッと力を抜いて笑い出す。


「ふふ、葉緩ちゃんらしいや。ありがとね」

「……はい。駆けつけるのが遅くなり申し訳ないです」

「来てくれたことがうれしいんだよ~」


きっかけは桐哉の想い人だったからかもしれない。

だが今は柚姫を特別大切な友人だと思い、愛おしさがさく裂している。


もはや桐哉より放っておけないと、葉緩は懐いた猫のように柚姫に擦り寄った。


「よ~つ~い~!」


その時、ちょうど体育館を離れていた体育教師が戻ってくる。


葉緩のもとへズンズンと詰め寄り、葉緩の攻撃で負傷した生徒たちを一瞥して怒声をあげた。


「お前は何しとるか! あきらかに悪意があったぞ!」

「友達を傷つけられて怒らないのは無理があります!!」


教師の説教に葉緩は猛反発をする。

柚姫への攻撃現場を見ていなかったようだが、それとこれは別問題。


葉緩にとって重要なのは“柚姫の心”だ。


悪意をぶつけられて平気な人はいないと、柚姫の傷ついた心を思うと葉緩だって必要悪になる。


柚姫を守るためならば、怖いものなどない。


「私は悪意を持って攻撃しました。その報いとして今、先生に怒られているのです」


あっけにとられる教師に葉緩は胸をはる。


許せずに攻撃してしまったのだから、これは正当な報いを受けていると葉緩はしたり顔を浮かべた。


「因果応報になるかはわかりませんが」

「う、うーん……」


たしかに葉緩は女子たちに悪意をもって攻撃した。


報いとして教師に怒られる、これでスッキリ解決とこじつけに近いまとめ方だ。


困り果てる体育教師に、正当防衛と鼻の穴を膨らませる葉緩。


答えを出すのは難しいと体育教師が頭を悩ませているが、それを見て柚姫は深呼吸をするとボールを手に立ちあがる。


「姫?」


一人で進みだす柚姫に、葉緩は不安を抱くも追いかけはしない。


だが一体何をする気だろうと首を傾げると、柚姫は運動音痴な動きで両手を使い、ボールを投げた。


見事、ボールは柚姫をいじめてきた主犯女子の顔面に直撃する。


「いったーいっ!?」

「ちょっと、徳山のくせに何するのよ!」


柚姫の攻撃に吠える女子たち。

対して柚姫は静かに眉をひそめ、強気に睨み返した。


はじめて見る柚姫の威圧に女子たちの肩が跳ねあがる。


「いじめてきたことへのお返しだよ。あたしが感じた痛み、こんなものじゃないんだから」


柚姫は一年生の時、陰ながらにいじめを受けていた。

陰湿な行為は人目に付くことなく、水面下で行われていた。


聞こえてくる笑い声に何度も耳を塞ぎ、俯いてばかり……。


「だから罪を罪のまま残してあげる。もうあなたたちなんて怖くない」


抵抗を示した柚姫を見て、葉緩はもう大丈夫だと不安が一掃される。


葉緩が心配に駆けまわる必要がないくらい、柚姫は強い女の子だ。


桐哉が好きになった女の子がカッコよくないわけないと、葉緩は期待に笑顔を咲かせた。

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