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第18話「我慢なんて無理です!」

現実を直視したくないと葉緩は固く目を閉じ、思考が落ちつけようと必死にもがく。


(ダメ、思考がぐちゃぐちゃになる。頭が痛い。……なんで)


振り回されるのか、と疑問を抱いた瞬間、葉緩の脳内に一つの景色が駆け巡った。


”根の絡み合う一本の木。白い枝を、手折る”


――これはいったいなんだろう。

知りたくないと頭痛がひどくなり、耐えがたいと汗が止まらなくなった。


これ以上、中に入り込まれると“四ツ井 葉緩”はどこにもいなくなる。


お願いだから壊さないで――と頭を支配しようとする光景を黒く塗り消した。


身体が大きく痙攣をおこし、葉緩は膝を折って崩れてしまう。


「――葉緩っ!!」


気を失いそうになった葉緩を、葵斗は流れる動作で抱きあげ、飛び上がって後退する。


いつものゆったりとした動きからは想像も出来ない素早いものだった。


風を浴びて葉緩はハッキリと意識を保てるようになり、葵斗の腕を借りて着地する。


元々立っていた場所に目をやると、一本の矢が地面に刺さっていた。


「文矢……ですか」


今どき古風なものだと、葉緩はふらふらとその矢を拾いに行く。

思考はまともに働いていないが、わずかな理性で忍びの意識を保っていた。


紙を開くと、草書体で葉緩への警告文が記載されているのを読み取った。


「“裏切り者が望月 葵斗に近づくな”。……裏切り者?」


なんなんだ、この内容は。

葉緩を脅しているものだと身震いすると、葵斗がそっと手紙を掴んで握りしめる。


「気にしないで。俺が好きなのは葉緩だけだから」


その言葉に葉緩は目を鋭くし、葵斗を睨みつける。

もう誤魔化されないと、意識を取り戻して葵斗に突っかかりだす。


「私があなたの何を裏切ったと!? 好きって、そんなの信じられるはずが――」


心当たりのない警告に激怒し、葵斗を問い詰めようと喰いかかる。

だがその疑問を解決する間もなく、次の出来事が訪れた。


バンッ――と床に叩きつける大きな音。


体育館から響いてきた音に、葉緩は文から手を離すと即座に耳を澄ませる。


(なんですか? ずいぶん強い音でしたが)


――バンッ……と音がまた響く。


キュキュッと床をこする音と、ボールの弾む音、そのなかで小さな物音を聞き取った。


(姫の声だ……!)


他にも異常を葉緩の嗅覚は嗅ぎ取ったが、それは葵斗も同様だった。


「血の匂いがする」


――やはり葵斗は忍びの血筋だ。


こんなささいな音と匂いが嗅ぎ取れるだけでなく、番の認識を持つのだから間違いない。


とはいえ、今の葉緩にそれを気に留める余裕はない。

葉緩は血相を変え、体育館へと駆けていく。


柚姫が危ない。

いや、すでに事は怒っていると目を血走らせて体育館に飛び込んだ。


「何事ですか!?」


鉄扉を勢いで開けると、壁際に逃げていたクラスメイトの女子たちに問い詰める。


「と、隣のクラスの女子たちが徳山さんに集中攻撃してるのよ。アイツら、たちわるいから」


その中に紛れていたクレアがこっそりと指をさし、状況を説明してくれた。


関わりたくないだろうに、精一杯の助力をみせてくれて葉緩は意外とクレアは悪い奴ではないと見直す。


隣のクラスの女子複数人がバレーボールの練習でアタックを打つふりをし、柚姫にボールをぶつけているようだ。


あからさまな嫌がらせだとわかりながらも、誰も止めることが出来ない。


かつて柚姫に友人が出来なかった一年生の時期が過ぎる。


犯人はこいつらだと、葉緩は断定して牙をむいた。


「あの人ら怒らせると怖いんだよね。先生が見てないタイミングで攻撃しててさ」


陰湿極まりない。女子たちに告げ口も許さない威圧で取り締まっている。

攻撃の対象となる柚姫もグッと唇を噛みしめて耐えているようだ。


ああいう胸くそ悪い連中を見過ごすしかなかったのは過去の話。


今は忍びではなく、柚姫の友人として腹を立てているので正当防衛だ。


「あんなの怪我するに決まってるよ。でもあの人たち……って、四ツ井さん?」

「クレア殿、感謝します。もう恐れませんから」


クレアの忠告を無視して、葉緩は一直線に柚姫のもとへ駆けていく。


友だちを守るのに建前はいらない。忍びとして見て見ぬふりをするのはもうやめだ。



『堅忍不抜』我慢強く志しを変えない。四ツ井家の家訓だ。


かつての葉緩ならばこの家訓に従い、柚姫へのいじめは桐哉を呼んで終わらせていただろう。


けっして出しゃばらないと、葉緩が表立って助けるなんてことはしなかった。


(主様への忠誠を第一としてきた。どんな厳しいことも我慢して耐えてきました)


それは確実に葉緩の自信へと変わっていた。

時には耐え抜き、忍ぶことも美徳としていた。


だがそれは大切な人が傷つくのを見過ごすことに繋げてはダメだ。


これが我慢すべきことならば、葉緩は家訓を破ろう。

志は変わらなくても、行動は変わる者なのだから。


大切な人を守るためならば多少派手でも、葉緩にとっての正義になる。


(これは忠誠なので、志に基づいてのもの……!)


カッと目を開き、床に転がっていたボールを拾うと上へと勢いよく投げつけ、限界点まで高く飛びあがる。


(私の姫が傷つけられて、我慢なんて無理に決まっていますからっ!!)


これは“正当防衛”、我慢すべき事項ではない。

柚姫を守ることが葉緩のつとめであり、友情の証だった。


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