表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/57

第15話「単純に好みで言えば」

「何をバカなことを言いますか」

「葉緩に呼ばれたい」


真っ直ぐ見つめてくる葵斗に下腹部がムズムズしてしまう。

振り回されるのは嫌だと目をそらす。忍びたるもの、迷いは禁物だ。


常に冷静でなくてはと頭の中に叩きこんだはずなのに、葵斗の前では無に帰する。


(なんでこんな動揺ばかり……。恥ずかしいです……)


それに、とチラッと前髪の隙間から見える葵斗の瞳をひと目見る。


(この人の目はキレイすぎる。まるで深い海のようだ)


桐哉はイケメンだと騒がれるのに、葵斗はなぜか騒がれない。

美貌のレベルでは二人に甲乙つけがたいはず。


最初は騒がれていた分、今は静かなことに違和感さえあった。


(単純に顔の好みで言えば、私は主様よりも……)


そんな頭のおかしいことが過ぎり、我に返って葵斗の肩を突き飛ばす。


「どうしたの? 葉緩」


藤色の瞳をのぞこうとしてくる葵斗に、恥ずかしさの限界だと葉緩は身をよじって教室に駆けこむ。


クラスメイトの視線が一気に向けられるのに、忍びらしさを失って教室の扉を強く叩いてしまった。


「もう授業がはじまりますので!」

「……うん、そうだね。葉緩はやっぱりかわいいなぁ」


そんな言葉、聞きたくない。

葵斗の声はじっとりと絡みついてくる。


桐哉と柚姫の恋路だけ応援していたいのに、どうしてこうも胸が締め付けられるのだろう。


まるで意志そのものが何かに引っ張られているかのようだ。


意地で振り返らないと着席すると、机に突っ伏して気配を引っ込ませようと悶々とした。


まったく集中できないまま、葉緩は耐え切れずにこっそりと葵斗をチラ見する。


ずっと葉緩を見つめていたのか、視線に気づいた葵斗がにっこりと甘く微笑んでくる。


やっぱり何かがおかしいと葉緩は青ざめ、視界を閉ざして思考を回そうとした。


(あぁ、どうしたものか……)


「葉緩ちゃん、おはよう」


困惑の波にのまれた葉緩を救うのはいつだってこの声だ。


ウグイスの鳴き声に似た美しい声に葉緩は顔をあげると、目を丸くした柚姫に手を伸ばす。



「姫ーっ! おはようございます!」

「わっ!?」


本能だけで柚姫に飛びつき、腰に手をまわしてメソメソと擦り寄った。


さすがの柚姫も驚きはしたが、すぐに葉緩が甘えてくれることを嬉しく思い、おだやかに微笑んで葉緩の頭を撫でた。


のほほんと受け入れてくれる柚姫に救われる想いになった葉緩は、鼻をすすってヘラッと笑顔を作った。


「姫は今日も最高ですね」

「なっ……もう! 葉緩ちゃん! 何を言ってるのよ!」


照れ隠しにもならない柚姫の赤くなった顔に葉緩はデレデレだ。


直接、愛情と友情を口に出来るのも“ともだち”になった特権だと幸せに浸る。


「あのね、昨日はクッキー全部食べちゃったからこれお詫びに」


柚姫が腕に抱えていた紙袋を葉緩の机に置く。


「ドーナツ作ってみたの。……食べてくれるかな?」


――ズッキューン!


「もちろんであります! さすが姫! 女子力高い! かわいい! 好き! 最高でございます!」

「は、葉緩ちゃん。大げさだよ……恥ずかしい」


こんな愛らしい柚姫に心が射抜かれないはずがない!!


忍ぶ口はどこにもなく、葉緩は溢れんばかりの言葉を口から飛び出させた。


ヨダレを垂らしそうにありながら紙袋に手を突っ込み、輝かしいドーナツを一つ手に。


「ではさっそく一ついただき……」


大きく口を開けて食べようとする。

さすがは柚姫、お菓子作りも完ぺきだ。


元々料理上手なのだろうが、柚姫が作ったとなればおいしさ倍増と葉緩はドーナツにかぶりついた。


(なんという美味! 幸せの味です――)

「おいしそう。葉緩、ひとくち」


おいしい、と思ったところで、葉緩の背後から影がかかった。


なんだと振り向く間もなく、後ろからサラリとした黒髪が頬を撫でそのまま魅惑的な唇がドーナツに食らいつく。


パクリ、とひとくち奪われてしまい、呆然としているうちに葉緩の手から葵斗はドーナツを奪ってしまう。


そして親指で唇を拭うと、ペロリと口角をあげて妖しく微笑んだ。



「……ごちそうさま」


あっさりと目的を果たし、席につく葵斗。

葉緩は欠けてしまったドーナツにわなわなと震えだす。


「姫からいただいた私へのドーナツが……!」


葵斗に接近されたことより、柚姫のドーナツを奪われたことの方がショックだったようだ。

意識がそちらに集中し、恨みがましく葵斗に振り返って睨みつける。


「ま、まだあるから……」

「申し訳ございません! もう誰にも渡しませんので!」


やけになって次のドーナツを紙袋から取り出して口の中に押し込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ