第13話「結構ディープな襲撃です!?」
「何なんですか!?」
「やっと反応してくれた」
にこっと笑う葵斗に、葉緩の怒りはヒートアップする。
「ふざけないでくださいよ! お、乙女の唇奪うとは酷いです! だいだい、どうして私に気づいて」
「匂いでわかるよ? 隠れてたの?」
「え……」
まさかの発言に葉緩の思考は停止する。
困惑する葉緩に葵斗は合点がいったようで、顎に手をあてて頷きだす。
「そっか、だからこっち見てくれなかったんだ。納得した」
「ええっ!?」
「ね、葉緩。もう一回キスしていい?」
「ダメに決まって――」
カッとなったときにはすでに葵斗の手のひらで転がされる状態だ。
抱きしめられキスをされ、深く飲み込むような熱さに抵抗も出来なかった。
「ンンッ……はぁっ……!」
(やだ、クラクラする。心臓の音がうるさい。乱される。 ……コントロール出来ない)
ドキドキと、ふわふわと、もやもや。
色んなものが混じりあい、かき乱された葉緩の目尻に涙がにじんだ。
喉が焼けるように熱くて、口の中がねっとりと濡れている。
こんなのは知りたくもないと、葉緩は力が抜け切る前に全力で葵斗の肩を突き飛ばした。
たいして地に足が根付いていない葵斗は葉緩から唇を離して、一歩引きさがる。
「葉緩?」
「いやです!」
これは求めていることと違う。
葉緩の人生、主と姫の幸せを願うだけ。
いまだに出会えぬ番のために、この身は固く守らなくてはならない。
理由はわからないが、忍びには番という概念があり、匂いですぐにわかるそうだ。
葉緩にだっていずれわかるだろうが、少なくとも葵斗から匂いはしない。
「こ、こういうのは好きな方としかしたくありません! 私は一生を添い遂げる方としか……」
「なら大丈夫。俺は葉緩と添い遂げる気持ちあるから」
その小恥ずかしい言葉に葉緩の身体が熱く燃え上がる。
真っ直ぐな葵斗の瞳に酔いそうだ。
先ほどまで重なっていた唇に視線がいってしまう。
その色っぽい姿は葉緩にとって危険だ。
艶やかさに心臓がはちきれそうだった。
「なんで? だってクラスメイトなだけじゃないですか」
「違うよ。 俺はずっと葉緩のことが好きだったから」
「好きって……わ、わかりません!」
突っぱねてしまう葉緩。
それに対し、葵斗は悲しそうに葉緩を見つめる。
「わからないの?」
「え……?」
「覚えてないのは葉緩の気持ち? それとも……」
――ざわっ……開かれた玄関から風が入り込んできて、葉緩の黒髪を乱す。
風にのってきた香りはかぎとれても、やはり至近距離の葵斗からは何も匂ってこなかった。
だけどこのまなざしは見たことがあるような……。
海のような瞳に映る自分の姿がうれしいと何度も想ったはずだが、霞むの光景にいる人は葵斗ではない。
(私はなにを見ている……?)
そこで葉緩の思考がガラスを割るように粉々になった。
何かが過ぎりそうになって、葉緩に姿さえ見せないまま景色は通り過ぎてしまう。
視界がチカチカして、意識が遠のいた。
(なんなの? 私は忍びとして……)
そこで葉緩の限界がきて、葵斗の腕の中でボーっと天井を眺める。
「……葉緩? 葉緩!」
もう何も考えられないと、ただまどろみの中にいた。
急な葉緩の変化に葵斗が焦っていると、スルスルと一匹の白蛇が近づいてくる。
白煙とともに姿を変え、金色の瞳で葵斗をとらえた。
「そこまで」
現れたのは白夜であった。
葉緩は意識を失い、葵斗の腕の中でぐったりとしていた。
「お前は?」
「そうだな、葉緩の使い魔といったところだろうか」
「俺と葉緩のことに干渉しないでほしいんだけど」
威嚇する葵斗に口角をあげ、白夜は妖艶に舌なめずりをする。
「葉緩には刺激が強すぎる。もう少し手加減してもらいたくてね」
「だって全然振り向いてくれないから。なんでわからないのかな」
「鈍いのが葉緩だ。それでも好きなのだろう?」
白夜の問いに葵斗は、やわらかい雲のような微笑みを浮かべる。
愛おしそうに葉緩を抱きしめる姿は、どこか遠く懐かしいもの。
「うん。葉緩が好きだ。だから俺は諦めないよ」
葵斗の返答に白夜は満悦してフッと目を細めた。
葵斗の腕に包まれる葉緩を引き寄せると、長い爪で葉緩の頬を突くとむずがゆそうに葉緩が唸りだす。
「ま、頑張れ。だが苦労するぞ?」
「それはどういう……」
「また会おう、葵斗」
煙幕が広がる。
それが晴れたころ、葵斗の前から二人はいなくなっていた。
外に出て白夜が空を翔けるなか、葉緩はおぼろげな意識に目を開く。
「びゃくやぁ……」
「寝てろ。気持ちが整わなければただ性急なだけだろうから」
何の話だろう。
だがそれを考えたい気持ちもなく、白夜の腕の中は心地よいと擦り寄って眠りについた。




