ヲタッキーズ186 レオタードに網タイツ
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第186話「レオタードに網タイツ」。さて、今回はマジシャン女子がレオタード姿で殺されます。
捜査線上に浮上する大物マジシャン、レオタード姿の助手達、老政治家…そして、被害者の双子の妹が出現し捜査の混乱に輪をかけて…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 レオタードがいっぱい
朝焼けに染まる"秋葉原マンハッタン"。オレンジ色の太陽が昇り、摩天楼の谷間にも朝が来る。
彼女のswitch onで"Magic"の文字が点灯、様々なランプが明滅を始め、人形の目が動き出すw
「さぁ秋葉原1のマジックショップの開店ょ!」
コートを脱ぐと、下は赤いレオタードに網タイツ。踊るような足取りで奥の脱出マジック装置に進む。
「スタトレの転送装置みたいね」
カーテンを引くと水が満ちた脱出用シリンダーの中には…逆さ吊りになったオーナーの溺死体。絶叫w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝のベッド。白いシーツに埋もれた2つの裸体。サイドに置いたスマホが鳴って、女達の手が伸びる。
「仕事、行かなきゃ」
「私もょ」
「2人同時?また"blood type BLUE"ね」
スマホを見せ合う。キス。
「じゃ現場で会いましょ」
「現場で」
「エアリ。現場からウィンクはヤメてね。仔猫みたいな目で、寂しそうに私を見るのも禁止。OK?」
応えずルイナの写真を撮るエアリ。メイド服を着て出撃。超天才は、溜め息をついて車椅子に収まる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
摩天楼の谷間の殺人現場。僕はブルージーンズに黒ジャケ。臙脂の開襟シャツ。スマホしながら到着。
「ヒカリ・ヒカル、またその話か?これ以上話すコトは無い。仕事だから逝かなきゃ。ホントに仕事」
スマホを切る。エアリが絡んで来る。
「テリィたん、調子は?」
「悪いコトは逝わない。仕事仲間とは寝るな」
「どーゆーコト?!」
泡を食うエアリw
「信じろ。ウマく逝きっこナイ!」
「テリィたん!誰が知ってるの?」
「みんな知ってるさ」
絶句するエアリ。ソコヘ寝惚け眼のラギィが参戦。
「何の話?」
「別に!」✖️2
僕とエアリは異口同音。テレ隠しからか、トランシーバーにムダに大声で応えるエアリ。踵をかえすw
「今、行くわ!」
「ねぇ。みんな何かイライラしてない?大丈夫?」
「そんなコトないよ。なぜ?」
"ドレクのマジックショップ"は摩天楼1Fにある路面店。大理石の柱の間に赤いインテリアが見える。
「109号室はマジックイリュージョンズか…ココには13才の時から通ってる。少年の夢が詰まった楽園だ。マジック用品にスパイ道具、ブーブークッションみたいな悪戯グッズまで、何でも揃ってた」
「男の子だけじゃないわ。少女にとっても同じ。私も通った。祖父がアマチュアマジシャンで日曜の午後はいつもココに来てたの」
「ラギィがマジック好きだったとは意外だ。どんなマジックが出来るの?」
ショーウィンドウにチョロリと赤い舌が映る。
「氷を使う、セクシーな奴ょ」
え。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"由来の事件に対処スル秘密組織だ。
スーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"はSATOの傘下で行動スル民間軍事会社で僕がCEO。
「被害者はマジックショップのオーナー、ザルマ・ドレク。財布から身元が判明した。"blood type BLUE"。"リアルの裂け目"の影響で"覚醒"した超能力者だから、今回もSATOとの合同捜査になるわ。よろしくね。助手イラザ・ウィタが開店準備に来たら、水槽の中にステージ衣装の白いレオタード姿の遺体が逆さ釣りに入ってた」
「エアリ。誰かが襲った形跡は?」
「ソレが無いのょラギィ。しかし、わかんないのよね。何が面白いの?水槽に逆さに吊るされるナンて。バカでしょ」
ラギィ達の会話を聞きながら横の機械をいじっていたら小さなバネがピョーンと飛んで逝ってしまうw
「水槽を使った脱出マジックは、マジック業界に変革をもたらした。つまり、以後、マジックは命がけのモノになっていったのさ。マジシャンは息を止めて、観客は息を飲んだ…」
「じゃ被害者は、8時間から10時間水に浸ってたけど、その間息を止めておくのに失敗したから死んでしまったのね?」
「その原因は、さっき何処かへ飛んで逝った小さなバネのせいかしら」
ヤバい。見てたのかw
「ルイナ!犯行は0時から2時の間ってコト?」
「YES。目の点状出血からして溺死ね」
「脱出に失敗したのかな?」
僕のタブレットをハッキングして、ラボから"リモート鑑識"中のルイナが冷静に分析して否定スル。
「縛られてた足首にもがいた形跡がナイ。私の予想だと、死んでから水槽に入れられた可能性もある。ま、詳しくはラボで調べなきゃ」
「ある意味、被害者はもがいてたわ。遺書を発見」
「遺書?」
譜面台の上に乗っていたA4サイズの紙1枚。ビニ手をして手に取るエアリ。ざっと目を通す。
「赤字で店を失うのが辛い。自殺スルって」
「センセが自殺するハズがナイわ!」
「なんでわかるの?」
突然割り込み突然モジモジするレオタードの助手。
「…いや。なんとなく」
「店は潰れかけてたのはホント?」
「いいえ!いや、ホント。危なかったけど、2週間前にセンセがお金の問題は解決したって言ってたわ」
自分でも良くわかってないコトをシドロモドロになりながら主張する赤レオタードの女子…萌えるなw
「どうやって解決したの?大金が入ったとか、投資家が現れたとか?」
「ソコまでは聞いてないわ」
「水槽に入って自殺スルことは可能?」
ラギィの率直な質問。
「出来るけど…センセは、絶対にそんなコトはしない。マジックを心から愛してる人だったから!」
「エアリ。遺書にサインがないわ」
「ルイナに指紋を見てもらいましょ」
"遺書"を預かるエアリ。因みに、ヲタッキーズメンバーの彼女はメイド服。ココはアキバだからね。
「ついでに、水槽もルイナに調べてもらって」
「ROG。ルイナ、ラボに持ってくわ」
「楽しみ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
店を出て通りのベンチに腰掛けるイラザ。赤レオタードのママだがコスプレの街なので気にならない。
「最後にセンセと会ったのはいつ?」
「昨日の朝です。センセは午後からお出掛けに」
「どこに行ったの?」
不審な行動だ。
「営業中に店を抜けるコトは良くあるの?」
「まぁタマには」
「最近センセに変化や気になる点はあった?」
畳み掛けるような質問ラッシュ。深呼吸してから、慎重に答えるイラザ。
「確かに、ココ1ヵ月は出掛けるコトが多かった。センセは、私には作業がアルとしか言わなかったけど。あんまり眠れてないのか、疲れてるみたいだった」
「何か思い当たるコトは?」
「あるわ。先月のコトょ。女が店にやってきて、センセに暴力をふるったの。ショーケースに押し付けガラスがヒビ割れた。お前を潰すとスゴい剣幕で怒鳴ってたわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。ラギィがスマホを切る。
「えぇ。ありがとう、待ちます…確かにザルマは1ヵ月前に訴訟を起こされてるわ」
「ラギィ!聞き込みをしたら、真夜中、店の前で白いバンが目撃されてる」
「じゃヲタッキーズは、そのコトを良く調べて。ザルマが店を抜け出して何をしてたかも知りたいわ。身内は見つかった?」
エアリが入って来る。
「乙女ロードに妹がいた。連絡は未だ取れてない」
「へぇ2人姉妹なのね」
「乙女ロードか」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラギィのテーブルサイド。僕は、真ん中に穴が開き X-ray vision と大描きされた眼鏡をかけている。
「コレ、ザルマのショップで買った透視メガネだ。ラギィの服、透けて見えるから」
「あらそう。へそピアスが見える?その横に描いてある元カレの名前は?」
「え。」
まさか僕じゃナイだろーなw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。すぐ横のギャレーでヲタッキーズ。
「誰かさんには秘密があるようね」
「えっ!秘密?な、何のコト?」
「内緒にしたい気持ちもワカルけどね」
真っ青になるエアリ。
「ど、どーして?みんな知ってるの?」
「当たり前でしょ?ゴシップ欄を見て。6ページ」
「え。どれどれ?」
今どき珍しい紙の新聞を寄越すエアリ。秘めゴトがバレたワケでないと知りホッとしてエスポも笑顔。
"Hikari & Terry trade biting words(ヒカリとテリィが大喧嘩)"
「"SF作家、ハッピーエンドならず。恋人と破局か"か。ヒドい見出しね」
「"キャッスルは元推しであり、恋人であり、かつての出版担当、今は秋葉原特別区 大統領のヒカリと"ル・シルクス"で食事しながら怒鳴り合ってた"だって」
「だから、今朝あんなコトを言ってたのか」
余裕でコメントするエアリ。
「水臭いょね。ヲタッキーズは家族なんだから、私達にも話せば良いのに」
「どう思われるかが怖いんだわ」
「身内に"文秋砲"の犠牲者が出るとは、私達も、いよいよセレブの仲間入りね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ギャレーでソンな話がされてるとはツユ知らズ、間抜けな透視眼鏡をかけて、ラギィと話し込む僕w
「ザルマを訴えたのはジロム・アスピよ。そして昨日訴えは棄却された」
「 だから、ジロムは自分で制裁を加えたのか。でも何を訴えたんだろう?」
「本人に聞いてみる?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室。中年男ジロム・アスピは怒っている。
「名誉棄損だ。俺の名誉を棄損し、そして人生そのものを台無しにした」
「名誉棄損ってどんなコトをされたのですか?」
「300人の前で俺の心を読んだんだ」
ソレは…罪なのか?
「マジックをしてる時のコト?」
「チャリティのマジックショーだった。タダ飯が食えるから、ちょうど良い位に思って出かけて行ったら、とんでもない目にあった」
「詳しく聞かせてください」
嫌な予感はスルが、とりあえず、身を乗り出すラギィ。示されたザルマの顔写真を指で叩くジロム。
「 コイツは人を消しちまう、スゴいトリックを始めたんだ。いや、ホントにスゴいトリックだった。次は妻に勧められて、俺がステージに上がるコトになった。ザルマは、美しいレオタード姿で"何か楽しいコトを考えて"と言うから、必死に考えたら、奴は俺の額を触りながら言った。"先週、リィタと旅行したでしょ"と」
「当たった?」
「あぁだが、最悪なコトに…」
僕は楽しそうに先を続ける。
「リィタは愛人だった?」
「その通り!アンタ、男なのに"覚醒"してるのか?」
「何なの?」
驚くジロム。呆れるラギィ。
「お陰様で、今じゃ、俺はモーテル暮らし。会社もクビになって、リィタとも別れた」
「…昨夜の0時から2時の間、貴方はどこに?」
「 どうしてソンなコトを聞くんだ?」
急に真顔になって僕に聞く。遅いんだょ。
「ソレは、いわゆる、ひとつの、まぁその、アリバイの確認って奴だね」
「どうして?」
「昨夜ザルマが殺されたんだ」
ソレを聞き机をドンと叩き雄叫びをあげるジロム。
「神田明神も照覧あれ!ざまぁみろ!」
「あのさ。ジロムさん、心を読まれた時に彼は時間がかかってた?」
「さぁな。でも、余り長くない」
だろうな。何て組みしやすい容疑者だ。
「ジロム、店でザルマに暴力をふるっただろ?」
「昨日裁判所で訴えが棄却されたから、自分の手でザルマを殺しに行ったンじゃないの?」
「おまわりさん、俺は殺ってない。昨夜は57丁目のパブにいた。何しろザルマのおかげで帰る家も愛人も、人生全てを失ってしまったンだからな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室から出て来る僕とラギィ。徒労感w
「リィタとの愛人旅行は、きっと奥さんが離婚協議を有利に進めるために仕組んだ芝居ね。あら?私、何でこんなモノを…」
「うわっ?僕のパスケース?!…ラギィ、いつポケットに手を入れたのかわからなかったょ」
「ホラ、秋葉原特別区の大統領閣下からょ」
鳴動中のスマホを受け取る。画面の中のヒカリは、大統領になる遥か前の学生時代だ…そのママ切る。
「テリィたん…エアリ!昨日のザルマの行動は?」
「ラギィ、未だ確認出来てナイわ。でも、確かにジロムは閉店までパブにいたみたい」
「酒で脳細胞を潰してたのか」
早速裏取りしてたエアリは続ける。因みに、彼女はメイド服だ。なんたって、ココはアキバだからね。
「それと、ルイナが水槽からはザルマ以外の指紋は出なかったって」
「 じゃザルマは自殺したの?」
「いや、犯人が手袋をしていただけかも」
僕が慎重な見解を述べると今度はマリレが絡んで来る。因みに、彼女もメイド服だ。何しろココは…略
「でも、その手袋は途中で外してるわ。しかも、衣装は第三者の指紋だらけだった」
「え。誰の指紋?」
「チャク・ラッセ。ストリートマジシャン。前歴があるわ。1つは放火で、もう1つは爆発物の所持」
誰それ?
「何やってる人?被害者との関係は?」
「ザルマはマジック組合の権力者だった。ある時、チャクは爆破トリックでケガ人を出し、ザルマに組合を追い出された。だから、チャクは今でも主な劇場ではショーが出来ない」
「干されたワケ?彼女は、今どーしてるの?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原の和泉パーク。台の上でマジックをするストリートマジシャン。いや、パークマジシャンか。
客は疎ら。買い物帰りのオバさんの時計を預かる。ピンクレオタードに網タイツで頑張ってる。脱帽w
「それでは、今から彼女の時計を消します。実は、旦那を消して欲しいらしいけど、ソレは、ちょっと面倒ナンで。そして時計は…ホラ、消えた。この通り。拍手!」
チャクは、右手をクルクルと回して、時計を消してみせる。僕とラギィは、顔を見合わせて苦笑スル。
「さぁ、どう?ありがとう。オバさん!」
オバさんの後で、台の前のシルクハットに、これ見よがしにピン札を入れる僕。領収書が欲しいなw
「旦那!ウレしいわ。コレで今宵は麺屋大和でつけ麺のメガ盛りが食べられる。アンタの顔は忘れない。ソチラのお姉さんからは何もナシ?」
「あら。モチロンあるわ。ザルマのコトで少し話を聞きたいの」
「やべぇ万世橋かょ」
ラギィがバッジを示すと、マジシャンは大層驚き、やたら真剣な顔で呪文を唱え始める。
「マハリクマハリタヤンバラノンノンノン!」
次の瞬間、ハデな音と光!たちまち、マジシャンの全身が白煙に覆われ…白煙が消えると姿は無い。
「おやおや。チップは誰に払えば良いの?」
ラギィは、ウンザリ顔で台に歩み寄り、蓋を開け、耳を摘んで、中からマジシャンを引きずり出す。
「私はダマされないわよ」
第2章 ガレージで会いましょう
万世橋の取調室。
「私が何をしたの?」
「チャク。コレが何かわかる?」
「ん?ビニール袋に入ったお手紙かしら?次の質問は?」
軽く流そうとするチャク。僕が釘を刺す。
「気をつけろ。殺人罪の捜査だ」
「そうょ。貴方の指紋がついてたの。自殺した人が残した遺書に、なぜ貴方の指紋がついてたの?」
「何の話ょ?」
混乱するチャト。初めてビニール袋に入った証拠品の手紙に目を凝らして…つぶらな瞳で僕を見るw
「お友達のザルマが残した遺書だぜ」
「ザルマの遺書?ザルマが自殺したの?」
「ショップにある脱出マジック用の水槽の中で溺死してたわ」
ラギィの答えに、僕が重要なポイントを補足スル。
「でも、自殺に見えるように見せかけて、実は殺された疑いがあるンだ」
「私は殺してナイわ!」
「 じゃ何で遺書にベタベタ指紋がついてるのょ?」
絶句するチャック。早々に立ち上がるラギィ。
「じゃ決まりね」
「待って!違うわ。このペーパーは、確かに私が渡したモノね」
「彼女に遺書を描いてあげたワケ?遺書代行サービスとか?」
大儀そうに着席するラギィ(実はホッとしてるw)。
「違う。見えない文字が描いてある。コレは遺書じゃないの。ブラックライトを当ててみて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
署内でブラックライトを探すのがちょっとした騒ぎだったが、何とか殴り描きの文面が浮かび上がる。
「仕事の請求書なの。発注書でもある」
「どんな仕事?」
「ブラックマーケットから爆薬の違法入手をリクエストされた」
警察の取調室で録音も録画もされてルンだが…
「C4?軍用爆薬じゃないの」
「YES。皮肉ょね。爆薬が問題で組合から出されたのに、ソレを用意しろだなんて。 でも、用意すれば組合に戻す、と言われたから受けるコトにしたの。仕事が欲しくて…」
「犯人は、このペーパーを白紙だと思ったのね」
チャクは力を込める。
「誰だろうがソレは私じゃない!」
「外神田一帯を噴き飛ばすほどの爆薬を何のために手に入れるの?目的は何?」
「さあ?マジック用だとは思うけど。ザルマはタダのマジシャンじゃなく、優秀なトリックのエンジニアでもあった。今、話題のイリュージョンのいくつかは彼女が作ってたの」
今度こそ立ち上がるラギィ。
「あら。 誰のイリュージョンかしら?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室から出て来る僕とラギィ。
「トビア・スレジは、大物マジシャンだぞ。以前フェラーリを消すトコロを見たコトがアル」
「フェラーリを消すなんてもったいないな」
「私も、 この前彼のショーを見たわ。とにかく最高のショーでさぁ、2人で感激しちゃった」
エアリの発言に全員が目を三角。
「 2人?」
「友達ょ…友達のレイ子」
「そのレイ子って女友達と2人でマジックショーを見に行ったのね?」
真っ赤になって詰まるエアリ。ラギィの助け舟。
「もう良いわ。チャクは、C4の不法入手で拘留。私達はスレジと会って、ザルマが爆薬を買った理由を探ってみるわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
劇場リハーサル中だ。スレジは舞台中央の脱出装置。左右に助手。全員白レオタードに網タイツ。
「さあ、このロープを上まで引っ張って…そうょ。決して離さないでね。OK?30秒ょ。ソレではイリュージョンスタート!」
「トビア・スレジさん。すみません!」
「え?」
スレジが脱出装置に入り扉が閉められる。が、迂闊な声掛けに驚いた助手がロープを離す、その瞬間!
「きゃああああっ!」
さっきスレジが姿を消した扉を生身の白刃8本が貫く!左右から慌てふためき男の助手が飛び出すw
「大丈夫か?センセは?」
扉を開くが…誰もいない。
「ねぇ!私はココょ!リハーサル中は立ち入り禁止でしょ?誰が入れたの?ってかアンタ達、誰?」
客席から姿を現すスレジ。茹蛸のように顔を真っ赤にして激ヲコだ。ゆっくりとバッジを示すラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
劇場の客席で話を聞く。
「ザルマはショップを継いでからは、常に秋葉原のマジック界の中心にいたわ」
「貴女と仕事をしていたとか」
「それも先月までのコト」
フト遠い目になるスレジ。
「今はしてないの?」
「別のマジシャンの依頼を受けてるようなの。 つまり、高額で引き抜かれたってワケ」
「引き抜いたのは誰?」
首を振るスレジ。
「言わなかったわ。彼女は15年間私の専属エンジニアだった。私の代表作は、全て彼女が作った。 才能豊かな彼女は、なろうと思えば世界的なマジシャンにさえなれた」
「その彼女が引き抜かれたと知って、君は怒っただろう?トリックの種をバラされたら大変だしな」
「そう思う?」
首を振るスレジ。ワカッテナイと逝うように。
「私は、そんなコトは心配してない。確かに腹も立ったけど、彼がネタバレするとも思えないし」
「イリュージョンに爆薬を使う事は?」
「確かに爆発のトリックはアルけど、光で爆発に見せかけてるだけょ」
淡々と種明かしが進むw
「C4は使いますか?」
「今の世の中、 安全が保障されてないとマジックなど出来ない。C4は、マジックで使うには威力の割に不安定過ぎるの。マジシャンは戦闘工兵じゃない。下手にC4を使えば舞台で死者が出るわ」
「でも、ソレを敢えて使うとしたら?」
即答だ。
「ソレは恐らくマジックとは無関係。きっと良いコトには使ってナイ。彼女の作業場は見た?」
「作業場って何だ?ソンなモノがあるナンて知らなかった。しょっちゅうソコに通ってたのかな」
「その作業場って何処にありますか?」
肩をスボめ天を仰ぐスレジ。
「知らないわ。マジシャンは秘密が多いから。でも、作業場に行けば、きっとヒントがアルと思うの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
舞台ではリハーサル再開だ。僕達は出口へと急ぐ。
「よくある話だ。 きっとスレジが殺したな。ザルマが、新しいスポンサーに自分のマジックの秘密を漏らすコトを恐れたんだ」
「考え過ぎよ」
「でも、わざわざ軍用爆薬を入手してルンだぜ?」
ソレでもラギィは懐疑的だw
「なんとも言えないわ。まだ他殺と決まったワケじゃない。自殺の可能性も残ってるし…あ。ラニから電話」
「当てようか。きっと鑑識の結論は他殺だ」
「もしもし?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボ。車椅子のルイナは激ヲコだ。ドレス姿でw
「 2人とも遅い!何処にいたのよ?」
「ソレが昭和通りが渋滞で」
「サイレンを鳴らせれば良いでしょ?」
ソンな無茶な。しかし、かなり怒ってるw
「バッチリおしゃれキメて、何処かにお急ぎのようだ。で、何処へ行くの?誰と?」
「別に教えても良いけど、代わりに"ル・シルク"の1件について話せば、色々と教えてあげる」
「ちょっとソレ、何の話なの?」
女子トークのノリで興味津々って感じだが… ゴシップに疎過ぎるだろ、ラギィ。
「テリィたんが元カノの大統領と大喧嘩したって秋葉原中のパパラッチが大騒ぎしてる」
「…ルイナ。良いから被害者の話を聞かせてくれ」
「OK。先ず肺に水は入ってなかった。溺死じゃなくて窒息死。 溺死と似てて紛らわしいのよねぇ」
モニターに首筋の痣の画像。
「痣?」
「YES。誰かが水槽に入れる前に、彼女の鼻と口を手で塞いで殺してる」
「そして、近場にあった紙に偽の遺言を描き残したのか」
首を傾げるラギィ。
「なぜ自殺に見せかけたのかな」
「そりゃ殺人の隠蔽だな」
「もっと重大なコトの隠蔽カモ。早く作業場を見つけなきゃ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
黄昏に染まる松住町架道橋。帰宅を急ぐ者達を乗せ何本もの電車が行き交う。アーンエムの橋みたい…
御帰宅するとソファ席にミユリさんとスピア。
「ずいぶん文化的な夜の過ごし方だな」
「そーゆーテリィたんは、すっかりスキャンダラスな男になった。ヒカリとは話したの?"ル・シルク"でみんなの前でヤラカした後の話だけど」
「テリィ様」
ミユリさんの質問は簡潔だ。
「なぜ喧嘩したのですか?」
「ソレが、マァ、喧嘩したのは…どうしても知りたい?聞いても仕方ナイっしょ」
「ソレが聞きたいの」
スピアは身を乗り出す。
「最近喧嘩ばかりしてるから喧嘩になったんだ。な?もう、この件は良いだろ?2人さえ良ければ、話題を変えたいな」
スピアの耳からコインを出してみせる。
「そんなの子供騙し。せめてお札にして」
目の前のコインが…ピン札に。え、どーやるの?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。摩天楼の谷間にある万世橋警察署。ベンティカップ2つを両手に、捜査本部にやって来る僕。
「遅いわょ」
「何処へ行くの?」
「作業場」
さすがに驚く。
「どうやって見つけたの?」
「ザルマのスマホに入っていた地下鉄アプリの履歴を調べた。ザルマは、マジックショップに近い駅から終点まで通ってた」
「じゃ終着駅の界隈を探さなきゃ。奥村チヨの世界だな。念のために対テレパス用ヘッドギアを被ろう」
僕はサイドに"SF作家"と大描きされたヘッドギアを被ってみせる。あらゆるテレパス波を跳ね返す。
「あ。ソレ必要ナイから。メトロが止まった日、2週間前に彼女がタクシーで作業場まで行ってたコトが判明した。乗合タクシーの停車座標はコレ」
打ち出しをヒラヒラさせるラギィ。つかみ損ねる僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田リバー沿いの保税倉庫街。アチコチの水たまりをハネ飛ばしながら、覆面パトカーで乗りつける。
「ホントにココで合ってるのか」
「確かにタクシーを降りた座標ナンだけど」
「何もナイ。そもそも封鎖エリアだし」
人通りの全くナイ、殺風景な倉庫街だ。殺人事件とかが起きそう。いや、もう起きてるかw
「地面に足跡がアルわ」
「でも、壁に突き当たってる。行き止まりだ」
「そう思わせておいて…」
煉瓦壁だ。ラギィが煉瓦1つ1つを丁寧に確認して逝く。その中の1つが奥に沈み…壁が左右に開くw
「オープンセサミ!なんちゃって」
倉庫の中に入ると背後で壁は自動で閉まり真っ暗になる。素早くLEDライトを取り出し周囲を照らす。
「ココがザルマの"孤独の要塞"か」
倉庫のアチコチを照らす。脱出装置なのか、棺やシリンダーやらマジック道具が所せましと並んでる。
「見て。ウチのおじいちゃんが見たら、もう大喜びしそうだわ」
「ギロチン台もアイアンメイデンも…ジグザグボックスまでアル!」
「古今東西のマジック道具が全部揃ってるわ」
魔法少女のように目を輝かせるラギィ。僕は、頭に被る四角い箱を見つけ、早速被ってみる。
「テリィたんは、ウチのおじいちゃんとちょっと似てるかも」
「光栄だな」
「…車椅子の跡だわ」
頭に被った箱の蓋を開けたママ振り向いたら、ラギィにフタをピシャっと閉められる。鍵をかけるな!
「秘密の作業場に車椅子のお客か。キャストが揃って来たな」
「いつ来たの?最近?」
「事件当日の新聞の上に車椅子の痕がある」
暗闇に目を凝らすが、車椅子は影も形もナイ。
「鑑識を呼んで詳しく調べてもらいましょう」
「この壁のXは何だろう」
「テリィたん。何枚か破られたページがある。きっと見られたくなかったのね」
僕は壁に描かれた緑のXを、ラギィは作業日誌みたいな大学ノートを指差す。
ギギギッ
その時、突然ハデな音がして振り向くとツタンカーメンの棺が開くトコロだ!
棺から出て来たのは、ひっつめ髪のメガネ女子。目が合い、思わず息を飲むw
「ザルマ?」
「え。そーゆー貴女達は?誰なの?」
「こりゃ最高のトリックだ!」
ライトに照らし出され、目を細める…ザルマ?
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「万世橋警察署よ!手を見えるように、ゆっくりと上げなさい!」
「わかった!撃たないで!」
「わ!まぶしい!」
手を挙げながらメガネ女子がポンポンと手を叩くと、天井の巨大インテリアに灯が灯る。
倉庫の中の暗闇がスーッと消えて逝き、脱出装置、恐竜、飛行船、蒸気機関が姿を現して…
遠くにスフィンクスとかも見える。コレはスゴイ。まるでナイトミュージアムに迷い込んだみたいだ。
「待って。貴女達は一体ココで何をしてるの?」
「ザルマ?ホントにザルマなの?」
「違うわ。私はエドマ・ドレク」
ザルマのファイルを思い出すラギィ。
「ザルマの妹さんね?」
「YES。手を下ろしても?」
「モチロン。貴女達、双子なの?」
ラギィも音波銃のラッパ型の銃口を下ろす。
「ええ。私達は双子ょ」
「なぜツタンカーメンの棺に隠れてたんだ?」
「あの棺は、隣の部屋へ通じてる。脱出マジックの練習用なの」
そーですか。
「エドマさん。お姉さんの件ですが…」
「私もよ。今、姉を探しているトコロなの」
「え。貴女、何も聞いてないの?」
ラギィに、いきなり辛い役が回って来る。
「ドレクさん。お気の毒ですが、お姉さんは亡くなりました」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。ギャレーでコーヒーを飲む2人。
「冗談だろ。イキナリ双子なんて怪しさMaxだ。いきなりステーキじゃあるまいし。あのメガネだってスーパーマンの変装並みにお粗末だ。 こんな話、信じられるか?」
「でも、逆に信じない理由もナイでしょ。ほら、あんなにショックを受けてるわ」
「演技さ。演技に決まってる。本編じゃ良くある話だ。実際に死んだのは、実は妹のエドマだ。 アソコにいるのはザルマじゃないか?妹を秘かに殺し、彼女の人生を乗っ取るつもりナンだ」
我ながら、目の醒めるような、素晴らしい妄想だとウレしくなったけど、相変わらずラギィは塩反応w
「田舎に住む税理士の人生を誰が乗っ取るの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の会議室。ギャレーのコーヒーを1口飲むエドマ。
「この前、ザルマから電話があって…確かに何だか様子が変でした」
「どんな用件でした?」
「ある人から5000万円が支払われるんだけど、ソレを隠したいと言っていました」
え。5000万円?!
「隠したいって…どうやって?」
「金の出所がバレないようにして欲しいと言われました。ええ。立派なマネーロンダリングですね。きっと、姉は何か違法なコトに関わっていたのだと思います」
「エドマさん。貴女は、あの作業場には何をしに来たの?」
つい詰問調になるラギィ。
「昨日、ふとムシの知らせがあって不安になった。最近、連絡もないコトだし、会いに行ったのです。 双子の勘って奴です。昔から、姉との間には、そーゆー勘が良く働きました。双子は、心でつながっている。好むと好まざるとに関わらず」
「双子の勘か。ドレクさん、教えてくれ。なぜマジックショップを継がず、そもそもマジックとは全く違う税理士の道を選んだの?」
「はい。率直に言って、私にはマジックに賭ける情熱も才能もなかった。それだけの話です。ヒッツメ髪に黒縁メガネ。レオタードに網タイツとは一生縁のナイ私です…でも、JKの頃は、姉と2人で組んでマジックショーを良くやりました。ほら」
パスケースに小さく折りたたんだコピーを示す。
「姉が舞台で消えると、私が客席の背後から現れるワケ。私達が双子だと知らない人は、それだけで騙され、大騒ぎだったわ。私が、唯一人生でレオタードを着て人様の前に立った思い出よ。太ももがプルプル震えてたのを覚えてる…」
「エドマ。そうやって、他にも色んな人を騙して来たンだね?」
「そんな…」
エドマの顔から微笑が消え、JK時代のコピーを折りたたんで、パスケースにしまってしまう。
「ドレクさん。ザルマの作業場を見たら、彼が何に関わっていたか、わかりますか?」
「姉はマジシャンであると同時に天才的なエンジニアでもありました。私の頭では到底理解するコトは不可能です。とにかく、姉は、みんなを喜ばせるコトが得意で、ソレに才能のある人でした。真相はわかりませんが、姉は殺されるような人ではありません」
「…でも、殺されたンです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
エレベーターに乗り黙礼、本部から去るエドマ。
「なぜエルマを逮捕しないんだ?」
「何の罪で逮捕するのよ?双子だから?」
「いやマジックを使う邪悪な双子だからだ。そもそも5000万円のマネロンとか軍用爆薬を入手したりするのは…」
ラギィのスマホが鳴動。エアリからだ。
「ラギィ?今、鑑識とザルマの作業場を調べてる。今のところ、スレジ以外に誰の依頼を受けてたかは不明。でも、作業台から微量の爆薬が検出された」
「上等ょ。車椅子の車輪の跡はどう?」
「車椅子に間違いナイ。模様に特徴があるから、メーカーを特定出来そうょ」
ラギィがスマホを切ったので、何気に聞く。
「何だって?」
「どーやらザルマの依頼人は、車椅子のプロフェッサーXみたいね」
「うーんソレより、金に困ってたザルマは、妹をアキバに誘い出し、自分が死んだかのように見せかけて殺して入れ替わる。そして、店を引き継ぎ、自分の保険金を運転資金にして経営を立て直し、さらに、エドマの人生を全部自分のモノにしてしまう…あれ?こーゆー映画、どっかで見たな。とにかく!ザルマが犯人だから。ね?」
誰も聞いてない。ラギィが振り向く。
「あら。未だ話してたの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局は地下にある。ザルマの遺体を引き出す。モニターには、赤いスクラブを着たルイナ。
「その遺体だけど、指紋照合の結果、確実にザルマであるコトを確認した。コレで御満足?」
「スッキリしたわ」
「海より深くガッカリした。立ち直れない」
僕とラギィの反応をそれぞれ楽しむルイナ。僕達の手元に透明ビニールの証拠品袋が回って来る。
「 じゃコレを見て元気を出して」
「お年寄りの髪の毛?」
「違う。ウサギさんの毛。喉から検出されたわ」
またまた妄想スタート!
「犯人はウサギだ!シルクハットに入れられるのを嫌がって…」
「却下。でも、謎ばかりよね。あと遺体の鼻と喉から、少量の有機化合物も検出された」
「有機化合物?」
何だソレ?
「ジェット機のオイルや神経ガスに使われるわね。殺虫剤とか」
「神経ガス?C4も持ってるし、テロリスト確定だな」
「検出されたのは微量ナンだけど、最近関わりがあったハズょ…」
そこへモニター画面の向こうから陽気な鼻歌が…
「車椅子の可愛い子ちゃん!近くに寄ったから顔を出してみた、なんちゃって!」
浮かれてエアリが入って来るw
「あ?あれ?リモート会議中?やっちまった?」
「エアリ!検査結果を取りに来たのね?少し待って」
「あ。ラギィなの?今、連絡しようと思ってたトコロょ。作業場にあった車輪の跡は、タイヤの模様から特定メーカーの電動車椅子用の車輪だとわかった。販売店に連絡して、その車椅子の購入者リストをもらい、マジックショップのメーリングリストと照合してみた」
テレ隠しからか、やたらテキパキ報告するエアリ。
「で、該当者は?」
「老政治活動家のサデス・マヌス。市民的不服従で複数の前歴アリ。乗ってる車は白いバンょ」
「問題行動を起こした政治活動家、C4爆薬、神経ガス…こりゃ確実にテロリストだな」
ラボからの画像が住所データに変わる。
「ラギィ、住所は調べておいた」
「上出来。テリィたん、来る?」
「モチロンさ」
捜査本部は全員出動だ!一方、ラボでは…
「エアリ。今のは危なかったわ」
「でも、コレはもっと危ないカモ」
「いやん」
キス。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田山本町の古い雑居ビル。暗い廊下の突き当たりの部屋だ。ヤタラ分厚い鋼鉄のドアをノックする。
「そもそも、車椅子の人には難しい犯行だと思うんだよな」
「とにかく!会ってみないとね…サデスさん。万世橋警察署です。開けてください」
「どーせ車椅子で現れルンだろうけど、実は歩けるって線もよろしく。マジックには、予想外のヒネリが不可欠だからね」
ドアが開く。車椅子の老人。バッジを示すラギィ。
「万世橋警察署のラギィです。ザルマ・ドレクの件で、いくつか質問があります」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
町の発明家の実験室のような部屋だ。作りかけのメカや化学実験セットなどが乱雑に放置されている。
「あの女は、マジックのザルマとも呼ばれてね。トリックの失敗で死んだと聞いて、1つの時代が終わったと思った。脱出に失敗したんだろう?」
「サデスさん。どーやら殺人のようです」
「遺体が水槽に入れられた疑いがあります」
車椅子の上で息を呑むサデス。
「マジで殺されたのか?」
「サデスさん。ソレに殺害時刻に貴方の白いバンが目撃されてる…」
「おい!頼むから勝手に触らないでくれ!ソレは、調整だけで3年かかったんだ!」
僕が人形の目を覗き込みながら話してたら、サデス老人は怒りたつ。この人形、生きてるのか?
「ザルマにどんな仕事を依頼したんですか?爆薬を使うマジック?」
「爆薬?何の話だ?しかも、私が依頼したんじゃなくて、ザルマから依頼を受けてたんだ。彼女の最近のトリックは、全て私が考えたモノだ。爆薬なんか一切使ってない」
「でも、殺害時刻には店にいたんですね?」
うーん我ながら鋭い指摘だw
「おいおい。このカラダじゃ遺体を水槽には入れられないょ。おい、触るな!」
「このギロチン台からハミ出てる足みたいに、誰かの足を借りたんじゃないか?」
「ヤメろ!そこまで言うなら、きっと犯人はアイツらだ!間違いナイ!」
ギロチン台からハミ出てる蝋細工の足を触ってたら老人の怒りに触れ、真実ぽい何かが躍り出る。
「ザルマにマジックを依頼してた連中だ。私が装置の代金をもらうために、作業場に行った時に、ちょうど奴らから電話がかかってきてた。マジックショップの閉店後に会いたいとザルマに言って来たそうだ。だから、私はザルマを店まで送り届けた。彼女が死んだのは、その後だ。でも、まさか殺されたとは…」
「サデスさん。貴方はどんな仕事を頼まれていたんですか?」
「メカニカルアームだ。遠隔操作が可能なアームで遠くからスイッチを入れるコトが出来る」
げ。爺さんソンなメカも作るのか。内心舌を巻くw
「何の操作に使う奴?AI搭載?」
「何にだって使える。ベルを鳴らしたり、鳩を出したり、ナイフも投げたり…」
「何かを爆破したり?」
ラギィがしつこく絡むと、老人は初めて悔恨の情を見せる。何やら深く反省している風情だ。
「てっきり、ザルマの冗談だと思っていたのだ」
「あら。何のコトかしら?」
「コレが人生最大のマジックになると言っていた。成功すれば大金が手に入る。しかし、そのために人を殺すとも言っていた」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜。捜査本部のホワイトボードの前。 僕の話を聞き、天を仰いで呆れるヲタッキーズのメイド達。
「マジシャンに殺人の協力を依頼?」
「マジ?」
「でもさ。抜け目のないやり方だとは思わないか?マジシャンは人の目を欺くプロだ。観客を騙すように、目撃者を騙したり、ウソの証言をさせたり出来るぜ?」
珍しくラギィが懐疑的だw
「でも、マジックを愛するザルマが、そのマジックを殺人に使うかしら?」
「あのさ、ラギィ。マジックショップを守るためには、どーしても5000万円が必要だった。ソレを忘れるなょ」
「でも、結局お金をもらう代わりに殺されちゃったワケでしょ?」
ソレもそーだ。どーも考えがまとまらないw
「きっと犯人はマジックの依頼者ね。いつかザルマが秘密を漏らすカモと怯えて暮らすぐらいなら!と彼女を殺したんだわ」
「良い妄想だ。ラギィぽい。 で、そのマジックの依頼者をどうやって探す?」
「先ずは、ザルマが誰を殺したかを調べる。爆薬と遠隔装置を使うトリック殺人よね?最近、爆発で死者が出た事件は多くナイ。火器局と消防の方はどう?」
ラギィはヲタッキーズを振り向く。
「リクエスト済み。明朝、連絡が来るわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝焼けが窓を染めて逝く。僕は"潜り酒場"のバーカウンターでPCを睨んでる内に徹夜してしまう。
「秋葉原って意外に爆発事故が多いんだな。例えば蒸気缶の爆発とかガスコンロの爆発とか」
「不幸な元恋人同士の爆発もあったわ。テリィたんも"ル・シルク"で爆発したんでしょ?ほら、案ずればって奴だわ」
「テリィ様。スマホが鳴ってます」
受信画面は…ヒカリだw
「大統領からの、文字通りホットラインでしょ? 出てあげないの?」
「え。何の話かな?」
「もぉヤメて」
うるさく明滅するスマホをマジックで消してしまう(袖の中に滑り込ませるw)僕。鮮やかなマジック。
「何のコトかな?」
「あら、お見事。でもOK?スマホを消したトコロでテリィたんの悩みは消えないの。ねぇヒカリと何があったのか話をして」
「別に何もナイさ。ホントに心配するコトはナイょ。全部順調。いつも通り。毎日が昨日みたい…でも、ソレが嫌ナンだ。僕が欲しいのは自由…」
カウンターの中で溜め息つくミユリさん。
「そう。テリィたんとヒカリは、もう愛し合っていないのね?お互い認めないだけ?」
「黙れ、スピア」
「テリィたん、何?」
御屋敷のモニターに流れる"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"のウェブニュースの画像だ。
見出しは"ダール氏飛行中に死亡"。最新鋭の黒いロケット飛行艇を背景に立つダール氏の画像。
「有機化合物ってコレか!」
「勇気が動物?」
「神経ガスじゃなくて、ロケット艇のオイルだったんだ。となると、犯行現場は神田リバー水上空港か…逝かなきゃ!」
飛び出して逝く僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。ホワイトボードの前で腕組みをしているラギィ。スゴい勢いで飛び込む僕w
「ラギィ!ザルマがマジックで誰を殺そうとしてたか、わかったぞ!」
「ネット億万長者のクチャ・ダールね!」
「ビンゴ…でも、何でソレがわかった?」
心底驚く僕。
「有機リン化合物がヒントになったわ」
「うーん僕達双子みたいに通じ合ってるな」
「でも、未だ憶測に過ぎないわ」
僕とラギィは、偶然2人同時に指をクルクル回し出し、ヲタッキーズのメイド達を面食らわせる。
「億万長者のダール氏は、太平洋横断の最速記録を出すために、土曜の午後に神田リバー水上空港を飛び立った」
「でも、彼のロケット飛行艇は、トラブルが発生、東京湾上空で爆発。当時、浦賀水道を出航中だった第8649次遣欧潜水艦作戦中の原子力U-boatから、その瞬間に空に白い光と煙が目撃されてる」
「ザルマがC4爆薬で爆破させたんだ!ソレもきっとサデス老人のロボットアームを使って、リモートで起爆したんだろう。そして、ザルマは、その依頼者に殺された…」
僕とラギィは顔を見合わせニヤニヤだ。妄想シンクロ率は200%…確かに未だ全て妄想の域を出ない。
エアリがPC片手に飛び込んで来る。
「航空局に頼んでた、ダールが離陸した時の画像が届いた。見る?」
モチロンだ。画像データ"5月31日15時29分。DARL to set record""millionaire takes transpacific flight"などのクレジット。
「わぉカッコ良いなー」
黒い流線型のロケット飛行艇に乗り込むダール。ソコへケータリング車が大きく回り込んで来て停車。
「ダールがロケット艇に乗り込んだわ。飛行前点検をしてる」
「ラギィ。ケータリングの車のロゴが作業場の壁にあったXマークと同じだ」
「そっか。ケータリング車に転写してロゴを描いたのね?エアリ。ケータリングの男の顔をUPにして!」
しかし、エアリがUPにスルまでもなく…
「ザルマ・ドレク!」
全員が異口同音。僕とラギィは顔を見合わせる。同じロゴのベストを着たザルマがサイドドアOpen!
「ケータリング業者のフリをしてたのか。その方が楽に警備を通過出来るからな」
「見て。何か機内に運び込んでる。きっとC4爆薬と起爆のためのリモート装置だわ。やっぱり、ザルマが殺人犯なのね。早送りして…止めて。この時、ダール氏はコクピットから手を振ってる」
「飛行中に爆破する計画だったのか。完璧な犯罪だ。証拠は残らないし、遺体も犯人も残らないw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋のギャレー。楽しそうにスマホするエアリ。
「冗談でしょ?ソンなコト、スルの?えっ!ハズいわ…ROG!わかったわ。後で!」
急に真面目モードで(慌てて?)切り上げるエアリ。
傍らで、マリレは不思議そうな顔をして見てるw
「誰?」
「第3管区海上保安本部。ロケット飛行艇のブラックボックス回収の件を打合せてたの」
「わかった、わかった。で、ソレで?」
何ょ?気味悪そうに目を伏せるエアリ。
「で、億万長者のダールについては調べたわ。彼は、なかなかスゴいわ。いつも抜群のタイミングで株や商品に投資しては大金を稼いでる。人気が出るドンピシャのタイミングで買うワケ。天性の勘ね」
「敵はいなかったの?脅して来た人とか?」
「ソレがいないの!いないドコロか、太っ腹だから、みんなに好かれていたわ。慈善家で、オカルトやUFO研究にも、かなりの額を援助してる」
まるで彼氏を自慢スルかのような口調のマリレw
「エベレスト登頂や熱気球、犬ぞりレースにも参加してるのょ!」
「でもさ、マリレ。いかに人気者だとしても、何人かの人には嫌われてたんじゃないの?」
「…実は1人だけいたわ。しかも、彼女には彼を殺す動機も機会もあった」
結局マリレのペースだ。ギャレーに落ちてた億万長者雑誌をひっくり返しページを開き指差すエアリ。
「YES。ナヲミ・ウルド・ダール、その写真の人ょ。億万長者クチャ・ダールの妻で元モデル。先月ナヲミは浮気がバレた。でも、婚前契約をしてるから離婚しても¥1ももらえない」
「でも、ダールが冒険で死ねば、遺産となった大金が転がり込む。あら?コレは何の写真?」
「気づいた?6週間前のダール夫妻主催のガザ救済チャリティパーティの時の写真ょ。この時のショーを任されたのがザルマ・ドレク、その人」
うなずき合うエアリとマリレ。いつの間にか、僕とラギィもいる。事件は現場じゃない。ギャレーで…
「きっとザルマは、お得意の人を消すトリックをしてみせたのね?」
「そして、そのパフォーマンスを見たナヲミは考える。夫のコトもマジックみたいに消してくれないかしら?」
「そーよ。そーすれば、何十億円もの遺産が手に入る。そのためなら、5000万円なんて安いモンだわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室に元ファッションモデル。 背筋の伸びた、凛とした美人だ。ラギィも映え系だが、分が悪いw
「私もそう思った」
「では、御主人のロケット艇が爆発したのは、事故ではなかったと?」
「夫は完璧主義者だったし、とても迷信深かった。結婚前には身辺調査もされたわ」
書類のコピーを示すラギィ。
「お2人は、きっちりと婚前契約を交わしていましたね?」
「立場のある者同士の婚姻では、特に珍しいコトではナイわ」
「契約に拠れば、浮気をすれば、離婚後は扶養料も養育費も貴女はもらえない」
顔色1つ変えず肯定するラギィ。
「そうね、そういう決まりょ。でも、私にはキャリアがあるからやっていくコトが出来る」
「では、浮気はしてたんですよね?」
「ソレは、貴女には関係ないコトでしょ?他の男性と付き合うために私が夫を殺した、と言うのなら、ソレは大間違い。私は、誰も殺してない」
顔色1つ変えず自論を主張スル。手強いw
「でも、御主人が事故死すれば、大金が手に入るのですょね?」
「こんな笑える話はナイわ。大金なんて入らない。遺産なんてもらえない。夫の口座は、とっくに当局に凍結されている」
「え。そーなの?検認中だから?」
風向きがおかしい。戸惑うラギィ。
「違う。検認じゃない。凍結ょ」
「どうして?」
「ソレは当局に聞いて。私は教えてもらってナイ」
第4章 鶴のいない単なる掃溜め
その夜の"潜り酒場"。僕はカウンター席で長いスマホ話を切り上げる。
「で、テリィたんの元祖元カノ、最高検察庁ミクス次長検事様のお話しは聞けた?」
「うん。億万長者のダールは、証券取引委員会の調査を受けてる。彼は、古典的な手口により、投資用の大金を集めてる。ソレは、いわゆる"ウマい話"だ。つまり、投資詐欺だね。ダールにまつわる投資の成功話は、全て出資を募るためのデッチ上げだ。ロケット艇の事故がなければ、数週間後のXデーに巨額の投資詐欺事件の首謀者として告発される予定だった」
「というコトは…ダールは既に全財産を失っていたし、最低50年間は蔵前橋に服役するコトになっていたってコト?」
さしものハッカー、スピアもアングリ口を開ける。
「そりゃ姿を消したくもなるね、ミユリさん」
「ですね、テリィ様。で、姿を消したい時、最も良い方法は?」
「マジシャンに頼む」
僕とミユリさんは、互いを指差す。
「ビンゴ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そのママ、ダールの離陸直前の画像を送ってもらって、ヲタッキーズの全員+スピアでチェックするw
ヲタッキーズのリーダー、ミユリさんとエアリとマリレ。そして僕。僕はヲタッキーズのCEOナンだ。
「ダールは、コクピットで飛行前点検をしてる。このコックピットで動く人影が彼だ。一方、この段階ではザルマはロケット艇から降りてる。ダールは艇をタキシング…」
「今までの何処かでダールも降りてるハズですね。自殺ならマジシャンを雇う必要はナイし」
「…もしかして、このコクピットの人影は、ダールじゃナイのカモ」
フトそんな気がスルw
「でも、人影的には似てるわ」
「そぉよ。人影的にソックリ」
「何なんだょ、その人影的って?きっとコクピットはダミーだ。ダールはとっくに降りて、遠隔操作で動くダミーを乗せてルンだ」
とゆーコトは?
「マグヌ老人が作った遠隔装置は、機体を爆破させるためのモノではなく、操縦してるように見せる機械人形だったワケさ。ソレが今回のマジックの種明かしでもアル。ラギィとスレジのリハーサルを見に逝った時も、いつの間にかマジシャンは消え去せ、客席の方から現れた。ダールもロケット艇で飛び立ったかに見せかけて、実際は降機してたんだ」
「テリィ様。ダールは、ケータリングのカートで運び出されたのでは?ダルマが持ち込んだカートです。最初はダミー人形を運び込み、帰りはダールを載せた?」
「そりゃゴーンみたいだな」
しかし、ヲタッキーズからは懐疑の声。
「でも、ソレじゃロケット艇は誰が操縦したの?」
「モチロン、ダールさ。ただし、コクピットからではなくてリモートでだ。ココを見て。ダールが何か積んでる。きっと、あの中にロケット艇と接続したコンソールが入ってルンだ」
「そっか。そして、ロケット艇は離水スル。ダールはリモートで飛ばし、その後、機体を爆破させて、世間には自分が死んだと思わせた?」
ヲタッキーズのメイド達も"妄想"の輪に加わる。
「ホントはピンピンしてるのにね。でも、ソレを知っているのは、この世にたった1人だけ」
「ソレはザルマね。そして、犯人は秘密が漏れるコトを何よりも恐れた。 だから"処分"を計画した」
「でも、人に頼むのはリスクが高いから出来ない。だから、ヤルしかなかった。自分の手で」
謎が解けた瞬間の喜びを味わう僕とヲタッキーズ。スピアと顔が近い。見つめ合い、ふと正気に戻る。
「何?」
「別に。ソレでどうする?」
「え。」
ちょっち残念そうなスピア。クスクス笑いながら、ミユリさんは、僕の瞳を覗き込むように話す。
「もう4日前のコトですね。ダールは、とっくに犯人引き渡し協定のない海外へ逃亡してるハズです。如何なさいますか、テリィ様?」
「うーん、だろうなぁ。でも、待てょ?」
「どうかなさいましたか?テリィ様」
ミユリさんのうれしそうな顔。ミユリさんとは"妄想"のシンクロ率は常に"200%"なのさ。
「投資詐欺を生業にスルぐらいだから、人前に立つのは大好きなハズだ。つまり、注目を集めたり、自分がネタで盛り上がってる場所は…いや、やっぱり渋谷ぶっ飛びガールズ、じゃなかった、少しぶっ飛んでるカモしれない。あり得ないな」
「今は、そのぶっ飛びガールズ、じゃなかった、少しぶっ飛んだ"妄想"が必要だと思います」
「そうだね、ミユリさん」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原の和泉町教会。イーゼルの遺影に"in loving you LEE Chricha DARL"の文字。弔問の行列。
「確かにぶっ飛んでますね」
「でも、ザルマならあり得る。ミユリさん、思い出してくれ。マジシャンは、注目を浴びるのが大好きだし、ダールは、オカルトにも興味がアル。そんなダールが自分の葬式を絶対に見逃すハズがナイだろう?」
「テリィ様も?」
僕を覗き込むミユリさん…いや、スーパーヒロインに変身してるからムーンライトセレナーダーかな。
ムーンライトセレナーダーは、セパレートタイプのヘソ出しセパレートのメイド服で今日は喪服ver.w
「うん。僕も出れるモノなら自分の葬式は見てみたいな。草葉の陰からコッソリね」
「わかりました…では、ココにダールが来てるとして、どうやって探しましょうか?」
「当然、変装してるだろうね。先ず仲間ハズレを探そう。周りと馴染もうとしながらも、1人で行動してる。誰とも言葉を交わさないけど、他人の会話は耳をそばだてて聞いてる億万長者。その特徴は…」
「髪が長くて、高級な靴を履いている?」
僕の首をダールの方に向けるムーンライトセレナーダー。ちょうどサングラスを取ったトコロだ。
やれやれ。探し甲斐のない真犯人だな。あふれる弔問客をかき分けて、微笑みを浮かべて近づく。
「ダールさん?」
僕達を振り向き、慌てて走り出そうとすると、目の前に音波銃を構えたヲタッキーズが踊り出る。
「そのママ死んでれば良かったのに。何で、ワザワザ生き返ったの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。 ラギィの出番だ。
「自分の死を偽装スルのは犯罪なのか?海をオイルで汚した罪で訴えるか?もっと汚してる奴は、いくらでもいる」
「あら。貴方の計画殺人の罪ょ。でしょ?ムーンライトセレナーダー?」
「ダールさん。もう全部バレてる。貴方は、ザルマがマジックショーで人を消すのを見て、自分も消してもらうコトを思いついた。お金にモノを言わせてザルマに引き受けさせた」
目の前に敏腕警部とスーパーヒロイン。無敵だ。
「でも、貴方は最初から払う気はなかった。ザルマは大切な店を失うコトに耐えられなくて自殺した、周りがそう思うように仕向けた。そうょね?ラギィ警部」
「YES。つまり、最初からザルマを殺すつもりだった。でも、音波銃を使うのは得策じゃない。警察の気を引くから。だから、自ら手を下した。ザルマさえ死ねば、貴方の存在を知っている人は、この世にいなくなる。ザルマさえ殺せば、貴女は自由の身」
「おい!お前達は捜査に行き詰まると、こうやって話をでっち上げるのか?」
ダールは、不敵な笑みを浮かべ、ニヤニヤ聞いている。両手を大きく広げて威迫スル。
「貴方の手についていたウサギの毛が、遺体からも出たわ。あの日、ダルマに電話して、マジックショップに呼び出し、その手袋をつけて口を覆い窒息死させたでしょ?」
「お前も証券取引委員会も怖くない。私にしてみれば、お前達を叩き潰すコトなど、造作も無いコトだ。良いか?覚えておけ。どうせ、直ぐに保釈される。そうしたら、お前達と2度と会うコトはナイだろう」
「ダールさん。ホントに恐ろしいのは、私でも証券取引委員会でもナイ。今の貴方自身だと気づいて」
鼻で笑う元億万長者。
「くだらない説教が済んだなら、もう弁護士を呼んでくれ…」
突然、見えない誰かに呼ばれたかのように振り向くダール。 キョロキョロ挙動不審。再び咳払いスル。
「弁護士を、呼べ…」
ラギィの背後で目が泳いでいる。
「ダールさん、どうかしたの?」
突然目を見開くダール。
「どういうことだ?」
明らかに動揺している。ラギィ達は、マジックミラーの方を振り向くが、誰もいない。
「何のコト?ダールさん、大丈夫?」
ところが、誰かの気配を感じたのか、ダールは思わズ息を飲み、立ち上がってしまう。
タールで汚れた手が自分に迫る?手を引っ込めて、背中を壁に当てたママ立ち上がる。
「フラッシュバックかしら?」
「さぁ?」
「アンタ達、見えないのか?!」
ほとんど絶叫のダール。
「何が?」
「ソコにいたじゃないか!どうなってルンだ?生きてるハズがナイ!」
「誰が?」
その時、マジックミラーの向こうに赤いレオタードの女が現れる。その顔は窒息しドス黒く澱んでる。
しかし、その焦点の定まらない目は明らかにダールを見ている。責めるような視線を放ち立っている。
ダール絶叫。
「死んだだろ!だって、私が…殺したのに」
胸に手を当てたママ、ガックリと膝をつく。
「私が殺したのに」
ダールをじっと見つめる赤いレオタード女の姿が、フッと消える。目を見開き、息を飲むダール。
「引っかかったわね、おバカさん」
唇の端2mmで笑うラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
制服警官に付き添われて、取調室から出るダール。その後からムーンライトセレナーダーとラギィ。
「ラギィ、最初からウマく逝くと思ってたのか?」
「まさか。ムーンライトセレナーダーに弁護士を呼ぶ前にダメ元で試してみょ?って言われて」
「ソレは、ラギィのお爺ちゃんが聞いたら、さぞかし喜ぶだろうな。nice stingでした」
ココでマジックミラーで隔てた隣室のドアが開き、赤いレオタードに死に化粧のエドマが現れる。
「どうもありがとう、エドマ」
「こちらこそ。警察のためなら、いつでも喜んで協力するわ。でも、死に装束が真っ赤なレオタードだなんて、姉らしいわ。田舎で税理士やってる私には無理」
「いいや。ソンなコトはナイ。やはり君には才能がアル。今度、私のショーでやらないか?このマジックは、君のお姉さんに捧げたい」
今回のマジック?をプロデュースしてくれたトビア・スレジだ。彼も今回の捜査の協力者なのだ。
「え。私がレオタード…とにかく!ムーンライトセレナーダーにラギィ警部、どうもありがとう」
「(あれ?僕が呼ばれないw)エドマ、あのマジックショップはどうするんだい?」
「え。あのショップは…」
偉大なる魔術師と田舎の税理士は顔を見合わす。
「トビアと話だったんだけど、姉が必死で守ろうとした店だから、何とか続けたい」
「私達が力を合わせれば、きっと解決出来る。イザとなったらマジックを使うさ」
「お願いね、トビア」
僕達は大笑いだ。本部を去る2人の後ろ姿は、まさしくマジシャンと、その助手に見えたな。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ちょっとコレいい?」
マリレからペンを渡されるラギィ。SATOとの合同捜査の報告書だ。僕の背中でペーパーにサインw
「ソレでエアリは?」
「当ててみて?」
「ルイナと?」
全員が異口同音だ。今さら笑いも起きない。
「未だ回りにバレてないと思ってる」
「じゃほっときましょ」
「いつかは熱も覚めるさ。モノホンなら冷めないけどね。あ、電話だ。出なきゃ」
僕は、うるさく明滅するスマホ片手に廊下へ。ソレを横目にギャレーの自販機で烏龍茶を飲むラギィ。
「…違うょ。つまり、もう僕達は終わりだ…」
目を見開くラギィ。僕の後ろ姿を見て歩き去る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「もう帰るの?」
解散が決まり、後片付けが始まった捜査本部。長い通話を終えて、顔を出した僕に声をかけるラギィ。
「おや、ラギィ。もう遅いけど"お面ライダー"と待ち合わせか?」
「その呼び方はヤメて。嫌なんだけど」
「じゃ"お面ドクター"だ」
ラギィの新しいボーイフレンドをからかう。
「今宵は当直医ょ。私は、屋台に寄って何か食べて帰ろうかと思ってる。一緒にどう?」
「久しぶりにマカロニチーズか。あとビスケットにココアだ。断れるハズがナイ」
「でしょ?私は愛される元カノNo.1ナンだから」
肩をぶつけ合いながらエレベーターへ。
「礼を言うよ。ヒカリとのゴシップを一言も詮索しないでくれて」
ラギィは何も答えズ、僕のコトを探るような目線で見ていたが、次の瞬間、手からパッと花束を出す!
やられた!フラワーマジックだw
「大したコトじゃないわ。お安い御用ょ」
「次は、レオタードに網タイツでやってくれ」
「ダメょ。ソレは彼専用」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"マジシャン"をテーマに、マジシャン女子、その双子の妹、その助手達、大物マジシャンにストリートマジシャン、老政治家を名乗るエンジニア、マジシャン殺しを追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公の最大の元カノ秋葉原D.A.大統領の恋の行方などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりカタコト英語が公用語となりつつある秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。