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剣と魔法と、異世界の旅 ~異世界勇者の冒険録~  作者: 関取ジャイアント
第一章
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第二話 「仲直り」

「…て…さい」

 

 「起きて…ください」


 「起きてください!」

 

 目覚めると、アリスが涙を流しながら、俺へと語りかけていた。

 さっき蹴りを入れたのを申し訳なく思っているのか、膝を枕にして俺の頭を支えてくれている。

 泣いている彼女の顔は赤くなっていて、特徴的な猫耳も垂れ下がっていた。

 さっき助けてくれた優しい女の子に、こんな顔をさせてしまっている俺は最低だ。

 そう、俺は彼女の裸を見てしまったのだ。

 タオルで隠れながらも、小さくて華奢な体、それに対して似合わない豊満な胸、柔らかそうな耳と尻尾、健康的な小麦色の肌。

自分がいる異世界において、美少女というのは彼女のことを言うのだろうと思った。


(キョウちゃん、ごめん、俺、乗り換えちゃうかも)


「ごめん、メイドさん。わざと覗くつもりじゃなかったんだ、本当にごめん…」


俺とあまり歳の変わらなそうな彼女に対して、覗かれるという恥じらいはとても苦しいものだろう。

泣くほどに心を痛めている彼女を尻目に、俺は裸を見てしまったことに喜びを覚えていた。

先ほど仲間に入れてもらった主の従者を慰み者にしているのだ、関係を取り消されても文句は言えなかった。

罪悪感を感じつつも悦に浸っている自分が許せなかった。


「いえ、私が驚いて蹴りを入れてしまったのが悪いんです…」

「俺が君の心を傷つけてしまったんだ。どう詫びればいいかわからないけど、本当にごめん。」

「いえ、トウゴ様は勇者様なんですから、何も悪くありません、私がすべて悪いんです。」

 アリスは、エルドから俺が勇者であるということを聞いたようだった。

 「困っているようだな。トウゴ君」

  先ほど仲間の契約をしたばかりのエルドが、眉を細めながら話す。


 「すいません、さっき話をつけたばかりなのにメイドさんにこんなことをしてしまって。許される話ではないです、さっきの話は無しにしてください。」

 

 「いや、私はいいんだ。私も君も、それにアリスも対等な関係だ。アリスは私の従者ではない、やってくれているだけだからね。アリスが許すかどうかが問題なんだ。」


 二人が従者と主の関係でないにしろ、こんなことをしてしまったんだ、今後一緒に行くときにしがらみとなるだろうと思った。


 「いいんです、確かに見られたのは恥ずかしかったですけど、勇者様、なんですから…メイドとして、仲間として使えるのは私の務めですから、裸を見られるくらいなんとも…」


 「そんなに自分を卑下しないでほしい、自分のことは、大切にするべきだよ。」


「勇者様のためだと思えば、私も心は痛くありません…」

そういいながらも涙を流している彼女はとてもいたいけだった。

元の世界でも、こういうことがあった気がする、どれだけ謝っても、自分が悪いの一点張りで、溝ができてしまう相手、俺が口下手だからか、そのあと仲直りも話すこともなかった。

そんな自己犠牲の塊だと、いつか自分を壊してしまうと思うから、どうにか仲直りをするしかない、でも、どうすれば…


「アリス、自分を大切にしなさい、トウゴ君も、もう気にしない、そうだ、アリスは釣りが好きでね、仲直りの意味も込めて、一緒にしてこればいい。私は少し休憩をしようと思うからね。」


エルドはアリスの涙を拭いてあげて、釣りをするように言ってくれた。

 彼が誰よりも大人なのだ、と思うと本当に申し訳なかったと思う。

 これから寝泊まりをこなしていく仲間なのだから、もう傷つけたくない、そう思った。

 

 「メイドさん、さっきは本当にごめんね、その代わり、晩御飯分は釣るからさ、これでも釣りには自信があるんだ。」

 元の世界では釣りには自信があった。友達と何度も行くぐらいだったし、自分の竿も持っていた。

 金原も灰田も、いつかは会えるかもしれないが、向こうにいる友達には数年は会えないのだろうと思うと、少し寂しくなった。

 

 「メイドさん、じゃなくてアリスでいいですよ。勇者様。」


 「俺も、勇者様じゃなくトウゴでいいよ。」

 

 「じゃあ、トウゴさん、私もさっきはすみませんでした、私も釣りはたしなんでいますから、一緒に釣りましょう。」

 

 少し暗い顔をしているが、さっきよりは落ち着いている、本当にエルドのおかげだ。

 自分を壊してしまいそうな優しさを持っている彼女を、一緒にいる間は守ってあげよう、絶対に。

 

 「まず竿に簡易魔法炉をつけるんですよ、これで釣りと魔法を併用できるんです。」

 ルアーみたいなものか、と思っていると、アリスは竿を振り入れた。

―ザバァッ!―

 釣竿は、すぐに魚をとらえていた。

 すると、水中の魔法炉から光が走った。すると、アリスは細い腕で簡単に魚を釣り上げた。

 「すごいなアリス、そんな簡単に釣り上げるなんて、それに水中で何が起こってたんだ?あれが魔法との併用ってこと?」


 「そうなんです、私が使えるのは雷魔法なんですけど、魔法炉で水の中で雷魔法を発生させて魚を気絶させたんです。雷魔法は魚にダメージを与えずに釣ることができるので釣りでは効果的なんです。」

 先ほどまで泣いていたとは思えないくらい、アリスは楽しそうに釣りをしていた。彼女の顔を見ていると、さっきまでの寂しさが飛ぶかのように感じた。

 異世界でできた初めての友達がこんな純粋な少女でよかったと思う。

 「さぁ俺もやるぞ、ほらっ!」

 俺も魚をとらえ、魔法炉にどうにか魔法を流そうとした。

―ジリジリィッ!―

 「うわあああああっ!」


 「大丈夫ですか、トウゴさん、トウゴさん!」

 俺が魔法を込めたところ、力を籠めすぎたのか光が逆流して爆発が起こった。

 「すいません、すいません、私が使い方を教えなかったから!」

 

 また謝らせてしまった、なんて思っている彼女の頭の上には、爆発で水の中から飛んできた魚が乗っていた。

 

「いいんだよ、うん、でもアリス、頭の上に、ぷっ、あははははははは!!」


「えっ、そんな、いけない、トウゴさん、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」


「ごめんごめん、俺の魔法が逆流して爆発が起こったみたいだね。」


「本当に、笑い事じゃないですよ、トウゴさんが使ったのは光魔法なんだと思いますけど、光魔法は危険な魔法なんですからね!」


「思えば俺たち、謝ってばっかりだね、でも、さっきよりアリスが笑顔になってよかったよ。」


「えっ?あ、そうですね、謝ってばっかりです、でも、さっきよりは悲しくありません、仲直りできましたでしょうか?」


「君の笑顔が何よりの証拠だよ、アリス、言い忘れてたけど、これからよろしくね」


「はい、よろしくお願いします。」

エルドの提案は、大成功だった、泣いていたアリスは笑顔になってくれて、少しは自信を取り戻したようだった。そして俺も少しは寂しさを忘れることができた。

先行きが見えなかった異世界転移だが、アリスとエルド、この二人とならやっていけそうだ。

第二話 「仲直り」 おわり


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