プロローグ 「神隠し」
初めて書いた小説なので、しっかりと書けているかはわかりませんが、よろしくお願いします。
夏休みの作文を書いている俺に、同じクラスの金原ソウジから吉報がやってきた。そう、男女六人で肝試しをするというのだ。
一見するとただのトリプルデートに過ぎないが、なんと俺の最近のお気に入りの羽原キョウちゃんもいるというのだからたまらない。
受験勉強と夏の課題、それと強すぎる猛暑に耐えかねていたところにこのイベントがやってくるというのは最高としか言いようがない。俺は課題の手を止めて、絶好のチャンスをものにするために身支度を始めた。
今日は八月二十六日、夏休みも佳境に入ったころだ。セミは鳴かなくなったが、受験生は泣いているのだよ、なんて思いながら歯磨きをし、手元のスマホで時間を確認した。
「もう五時半か、すっかり身支度に時間をかけてしまった、そろそろ出るか。」
母親に何の用かも告げず、俺は家を出て神社に向かった。
時刻はすでに六時をまわっていて、俺だけが遅れているようだった。
「ごめん遅れちまった、まっただろみんな。」
女子がいるので少し猫をかぶりつつも遅れたことを謝った。
「まってないぜ、みんなも今来たところらしいからな。一応肝試しの後に飯にも行こうと思ってるからよ、財布を取りに帰ンなら今のうちだぜ。」
ソウジが告げるがすごい前髪が気になって笑いをこらえるのに困る、なんなんだこいつは。
「枯木君もライトちゃんと持ってきた?今日はとっても暗くなるみたいだからね。」
「枯木君はしっかりしてるから忘れるはずないよねー!」
俺が今日必要になるライトを忘れていないかが心配で聞いてくる町田ルルに、キョウちゃんがフォローをいれてくれている、とてもうれしい。
今日参加しているメンバーは俺とソウジ、そして仲のいい灰田メイト。ソウジは似合わないおしゃれをしてきているが、もはやギャグなのだろうか。正直無理に取り繕っているようで女子受けはよくないと思う、というか決まっているな、うん。メイトはクラスでモテているが、いわゆる天然なので変な服を着ている。想像どおりだわ、うん。
女子は俺のおきにいりの羽川キョウちゃんと、その取り巻きの町田ルルと水川カオリだった。モブA,Bは髪が長い、髪が短いくらいしか特徴がない。正直どうでもいいが、横にいるとキョウちゃんの素晴らしさが際立つ。やっぱりキョウちゃんはたまらない、夏らしい青のワンピースを着ていて、スタイルもいいからモデルみたいだ。しかも愛らしい笑顔が目に留まる。夕焼けに染まるキョウちゃんの姿は額縁にでも入れたいくらいだ、神は二物を与えずなんて嘘に決まってるよな。
「じゃあ誰と行くか決めようぜ、くじ引きな。」
ソウジは俺がキョウちゃんのことが好きなのを知っているので、事前に仕込んでもらった。俺はソウジが忘れないように目で合図をうった。
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「じゃあ俺と羽川さん、トウゴとカオリ、メイトとルルちゃんね。」
なぜだ、仕込んでくれてるんじゃなかったのか、なんでキョウちゃんと一緒じゃないんだ。ふざけるな。そう思っていると、キョウちゃんは俺も狙ってるんだと言いたげにソウジが合図を送ってきた。ゆるせない。
まぁ水川さんもよく見ればかわいい部類に入るし、キョウちゃんがいなければむしろあたりと呼べるだろうが、俺は今キョウちゃんにお熱なので、正直眼中にない。
仕方ない、飯にも行くんだろうし、女の子と過ごせるだけでもいいと思って行くしかないな。
そう思いながら、俺たち三組は五分ごとに分かれて山の上にある神社に向かった。
「枯木くん、今日はよろしくね、神社の鐘を鳴らして裏道で帰るまでだったよね。階段が長いから気を付けてね。」
水川さんはそう言ってフォローを入れてくれた、正直優しくていい子だと思うが、やっぱり空気がつかみにくい
「水川さんってこういう怖いの大丈夫なの?しかも俺なんかと一緒で。」
「えへへ、実は夏休みに肝試しをするのは二回目なんだ、ちょっぴり怖いけど、何かあったら枯木君が助けてくれるよね。私、枯木君のこと信頼してるからさ、一緒に頑張ろうね。」
顔の良さと優しさもあるからこそ思いが揺らぎそうになってしまう、これがつり橋効果というのだろうか。
キョウちゃんへの思いは最大級だが、水川カオリ、か。覚えてやってもいいな、なんて思いつつ雑談を続けていたところ、気づけば階段を登り切っていた。
「うわ、やっぱ暗いね、何か現れても驚かないレベルだよ。帰りは気をつけなきゃね。」
「お化けなんかでないよ、そん時は俺が助けてやるからさ、ちゃんと後ろついてきてよ。」
少し積極的なカオリちゃんにたじろぎつつ俺は鳥居をくぐろうとした。
―ズキッ…!―
なんだ、変に頭痛がする。それに何だこの寒気は、ほんとにお化けでも出たのだろうか。風邪なんかとはシャレにならないくらい違う、この痛みは、なんなんだ。急な体調不良なのか、もしくは怪奇現象なのか、進むことすらままならないまま立ち止まってしまった俺に、さすがの水川さんも声をかけてきた。
「枯木君、大丈夫?顔色悪いけど、ほんとにどうしたの?」
「い、いや、ただ風にやられただけなんだ、大丈夫だから、早く行こうか。」
そんな訳はない、風にやられただけなわけがない、正直シャレにならない。脳が大きな力につぶされているような感覚だ。人生でこんな経験はしたことがない。はやく、進んで裏道から帰るしかない。そう思いながら進んだ、が
「きゃあッ!」
―ドンッ!-
何かが背中に当たった。人肌のような温かさがあったが、何かの塊のような感触だった。異変を感じ、恐怖を感じながら振り返った。
水川さんが消えた。どこかに行ったとかではない、消えたのだ。ついさっきまで話していたはずなのに、足跡だけを残していなくなった。
さっきの感触は水川さんだったのだろうか、そう思うと、ここに何かがいるということになる、どういうことだ、肝試しに来て真に化かされたというのか。
彼女を探そうにも逃げようにも頭痛が恐怖でさらに激しくなり、動けない、足が震えている。なんだっていうんだ。まさか、俺まで…?
―グオオオオオッ―
突き刺さるような痛みが、頭を貫く。くそっ、こんな時に、なんだ、頭が重い、めまいが、する。ただ女の子と遊びたかっただけなのに、何が起こって、る、ぅ、ぁ…
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プロローグ 「神隠し」 おわり。