第1話
テコ村の外れで、ひっそりと生活するのは、とある夫婦とその息子ムンクであった。
ムンクは今日も勤勉に畑仕事を行い、仕事から帰る父を待っていた。
母親のジェリナは家から出て、ムンクを呼んだ。
「お父さんは今日も遅くなるから、あんたが寝る時間になっても帰ってこれないかもよ」
ムンクはそれに対して特に返事もせずに「今日のご飯は何だろう?」と急に脈絡もなくそう母に質問した。
ジェリナはふわぁとあくびをした。
最近、仕事を始めた。綿織物を作る仕事だ。
受注生産なので、お客の要望を上手く引き出すのが
難しい。「完成しました」といざ、お客に完成品を
提示した時にお客から「思ってたのと違う」と
跳ね除けられることはこうした仕事でよくありがちだ。
決して焦らずお客との認識の齟齬がないように
慎重に事を進めなくてはならない。
遅い時間までお客との会話に夢中になる為、
ジェリナもここ数日はあまりよく眠れていなかった。
ムンクはそんな母を見て気遣った。
「今日は僕が作るよ!」
「何言ってんのよ。もう仕込みまでできてんだから。
今日は牛の肉の煮込みよ」
「それ俺、大好きだなぁ。父さんの大好物でもあるよね」
ムンクは目移りしやすい。
すぐに興味の対象がコロコロ変わる。
だから、ムンクは幼さもあるが、落ち着きのなさがひどい為、
周りがコミュニケーションをとりづらく感じる。
少し気を使う事を覚えたと思ったら、
すぐに自分の興味があることに目がいき、
気遣いなど忘れてしまう。
「そうそう、お父さん喜ぶね。全部食べちゃダメよ」
「え、出された分しか食べないよ」