鏡とはなんぞや?
鏡とはなんぞや。
この議題はたった1人の金持ちによって始まった一言が原因だった。
「誰か、誰か教えてくれ! 鏡とは、鏡とは一体なんなのだ! 」
彼は自身の死が近い事を悟って己の最後の疑問に答えが欲しくなった。
つまり、鏡とはなんだ。
彼は鏡というものを知っている。鏡とは物を写す物質である。
それでも彼は疑問は残った。
言葉に出せない疑問が彼には残った。
だからこそ己の疑問をこの一言に込めていたのだ。
「誰か私が納得する答えをくれ…。金ならいくらでも渡そう。1億でも100億でも構わない。期限は私の死ぬ前だ。さあ、早く早く…」
この言葉は動画になって世界中に配信され、多くの者がこぞって彼に押し掛けた。
しかし、誰1人として彼を納得させられた者は居なかった。
そして誰も答えられないまま1年が過ぎた。
「まだか。まだか。私の問いに答える者は居ないのか…」
「私がいるわ! その疑問、私が答えてあげる」
バアァンと勢い良く扉が開かれる。
現れたのは6歳ぐらいの少女だった。
実は最近、彼の元を訪問する人が居ないせいか少女が来てくれたことはとても嬉しく感じている。
「おお…! よく来てくれた。何か飲みたい物はあるか?お菓子はどうだ?」
「ありがとう! でもそれは後で頂くわ。今は貴方の疑問に答えましょう」
「そうかそうか、では聞こう。鏡とは何だ? 」
「貴方よ」
「何?」
「鏡には自分が写るのだから自分自身でしょう? 」
「そんなことは知っておる。しかしそれは私の求める答えとは違うのだ」
彼は落ち込んでしまった。
分かっていたことだ。今まで誰も、学会の教授でさえも答えられなかったのにこんなに小さい女の子が答えられる訳が無かったのだ。
「いいえ、これが答えよ。ちょっと待ってね…あったわ! ほら見て! 」
彼女が見せたのは何の変哲もないコンパクト型の小さな鏡だ。
「この鏡には貴方が写っているわ。カッコいい貴方の姿が綺麗に写っているでしょう?鏡に映るのは何時だってカッコいい貴方しか写らないわ! 」
カッコいい自分が写るのが鏡。
そう言われたのは初めてだった。
学問的でも学術的な内容でもない。小難しい専門的な内容でも無かったが、意外と納得できてしまった。
「そうか…カッコいい私が写る物か。鏡とはそうだったのか」
「ええ、そうよ。それじゃあお菓子をちょうだい! 一緒に食べましょう。お金なんて要らないわ。一緒にお菓子を食べながら鏡に写るカッコいい私たちを見ましょう」