00029 : 災害規模の生き物が来襲しましたよっ!
神獣と呼ばれるフェンリルが人里へ現れたら大騒ぎになるだろう。
っか、大騒ぎで済めば良いが、相手がこちらへ害をなそうとすれば、被害は甚大となる。
若い個体とは言え、体高が5メートルほど。
この体高は地面から背中の上までの高さと考えて欲しい。
頭までとなれば6メートル近いか。
体型は狼だから、体高から大きさを想像すれば、どれほど巨大か知れるというもの。
これで若い個体っと言うのだから堪らない。
成体となれば、その大きさは如何ほどになるのやら…恐ろしいな。
正直、しがらみが無ければ転移して逃げ去りたい気分だ。
戦った場合、勝てるかどうか…
大陸中央部は真那濃度が高い場所で、そこで育った生物は真那耐性が高いんだ。
つまり、俺程度の魔術は効かない可能性が高い。
魔術が効かない場合、俺がフェンリルに対し対抗する術は無いと言って良いだろう。
まぁ…周囲の被害を鑑みずに行使すれば、もしかしたら対抗できる可能性も。
しかし、そんなことをすれば、フェンリルが暴れる以前に安芸領が壊滅してしまう。
本末転倒と言っても良いだろう。
「正に八方塞がりとは、このことか…」
苦り切って、つい、呟いているとな。
『それで、どうするの?
もう時間が無いわよ』って風精霊さんが急かすんですがっ!
「取り敢えず、そのフェンリルへ会ってみるよ。
相手の目的が知れれば、交戦せずに解決できるかもしれないし」
希望的観測ってヤツに過ぎないが、遣ってみないことには進展しないっしょっ!
っう訳で、フェンリルさんが進んでる先へ転移です。
時刻は夜中で家中の者達は寝静まっている。
でも万が一、部屋へ誰かが来ても良いように、ダミーを魔術で創り出しベッドへとね。
そしてね、いざ転移しようとしたらさ。
【くぅぅん】ってシルバーウルフのシャルがさ。
いや、くっ付いていたら、お前も一緒に転移しちゃうからねっ!
困ってると風精霊さんがさぁ。
『早くしないと取り返しが付かないかもよっ!』って急かす訳で…
ままよっ!
仕方ないのでシャルを伴って転移を強行!
フェンリルが現れると思われる地点へと至り、即座に障壁を何重にも展開した。
すると直後にドドドォ~ンって轟音と共に衝撃がっ!
フェンリルが障壁へ突っ込んだみたいだね。
半分以上の障壁が砕け散り、それで、ようやくフェンリルが止まったみたいだ。
『ぬぅぅぅっ!
誰だぁっ!我の行く手を阻むのはっ!』
進路妨害にて激怒したようで吠えるような念話がさ。
『初めまして神獣様。
卑賎な身で推参いたし申し訳ごせざりませぬ。
ここより先は我ら人の地なれば、玉体を運ばれし訳を賜れぬかと愚考したしだい。
何卒、矮小たる身へ、ご教示いただければ教悦至極』
相手の力量は強大。
ハッキリ言って冷や汗ダラダラれすよ、ションベンチビリそう。
『ふぅ~むぅ。
我も、このように真那の薄き地へ罷り越すのは論外ではあるが…
我が一族の末が里を黙って抜け出しおってな。
匂いを追って来たのだ。
好奇心が旺盛で困った末でな、長に連れ戻せと下知を受け、我がな』
苦り切ったように。
え~っとぉ、末って…何?
不思議に思い、アカシックレコードにて調べると…
フェンリル一族で一番若い個体のことだったよ。
どうやら、その個体がフェンリルの里を抜け出したようでね。
このフェンリルさんはフェンリルの長に命令されて探しに来たと。
って、シャル?
俺の後ろに隠れるように縮こまってんだけど、どうした?
何時もヤンチャで落ち着かないのに、妙におとなしいな。
まぁ、今は良いか。
それよりは、その幼い個体とやらを見付けてフェンリルさんに帰って貰わねば。
『お言葉賜り恐悦至極。
して、末たる御方の御容姿について賜ることは許されまするか?』
そう尋ねると。
『なにゆえ、そのようなことを尋ねるか?』っと。
『これより先は人の住まう地なれば、玉体を運ばれるは下策と言上申し上げまする。
人の世の混乱にて場が乱れ、末の御方を探すは困難となるかと。
なれば卑賎な身なれど、私目に御役を賜れればと』
そう告げると、フェンリルさんが考え込む仕草を。
狼型なのに表情豊かだな、をいっ!
『で、あるか…あい分かった。
末の容姿を教えよう。
その姿はシルバーウルフに似ており、白銀の毛並みを持つ。
胸から腹に掛けて薄い金色の毛が混ざっており、目が蒼玉の如く輝いておる。
何れは我らの長となる者である』
そのようにね。
って…んっ?
シルバーウルフで毛の色が白と言うより白銀。
そして胸から腹に掛けて金色の毛が混ざり、目の色がサファイアブルー…
「シャル、ちょっと良い?」ったら、更に縮こまったよ。
うん、これって…シャルのことだよね。
おまっ!フェンリルだったんかいっ!
小さくイヤイヤって感じで首を左右に振っている。
今の遣り取りを理解してっぞ。
絶対に普通のシルバーウルフじゃねぇだろがぁっ!
しかし、シャルは今では我が家の一員でもある。
無情にも引き渡すのは、ねぇ。
『言上申し上げる』
『なにか?』
『末の御方を即座に連れ帰られるので?
猶予などは、いただけぬので?』
そう尋ねると、少し困ったようにね。
『う~むぅ、少なくとも三百年後までには連れ帰らぬとなるまい』
いや、三百年は少なく無いからねっ!
どうやら寿命が違う生き物は時間の感覚がおかしいようだ。
「シャル、直ぐに連れ帰られることは無いみたいだから、教えて良い?」
そう尋ねたら仕方ないっうように首を縦にさ。
ならば告げますかねぇ。
しかし…本当にぃ、ヤレヤレだぜ。




