00025 : さて、お暇しますかね。
幕僚長殿宅にてお茶をシバキつつ歓談した後で帰ることに。
応接間から玄関ホールまで移動したんだけどね、美樹ちゃんが僕の服の裾を持った侭で付いて来るよ。
引っ付き虫は、誰かな?
「ぐぬぬぬぬぬっ」って幕僚長殿が五月蝿いんですけど…困った方だ。
しかし、困ったことに、俺が靴を履いても美樹ちゃんが服裾を放さない。
っか、美樹ちゃんも靴を履いてんだけど…外までお見送りなのかな?
俺は困って美樹ちゃんへさ。
「美樹ちゃん、今日は色々ありがとね。
また遊びに来るからさ」ったんだけど…
「いやっ!美樹も慶ちゃんと行くんだもん!
慶ちゃんと一緒が良いんだもん!」っと、涙目の上目でさ。
ぐぅはっ!あざとい…いや、天然だ、これ!記念物レベルの破壊力!恐るべし!
服裾どころか、俺の腕を持って抱き着いて来てんだけどさ、どうすんの、この子。
「あらあらあら、まあまあまあ、美樹ったら、うふふふふふっ。
余程慶君を気に入っちゃったのねぇ。
ほんと、お・ま・せ・さん、なんだから」って、微笑んでないで、何とかしてくださいやぁぁぁっ!
「ぐぉぉぉぉっ!
美樹ぃっ!お爺ちゃんと慶君、どっちが良いのじゃぁぁぁ」っと。
いや、幕僚長殿?何を張り合ってんのさ。
したらね。
「慶君」って、迷いなく。
俺、この子に何かしたっけか?
「美樹、慶君は、これからお家へ帰られるのですよ。
放してあげなさい」っと夫人が告げると。
「美樹も慶君に付いて行くんだもん」って。
いやいや、無理だからね。
そしたら夫人が「美樹!我儘言わないっ!」っと、一喝。
「ひっ!
ごべんなざぁぁぁいっ!」って、泣き泣き俺から離れたよ。
………いや、夫人?どんだけ恐れられてんやねんな。
いやいや、深く知ってはならない、第六感が鋭く警告を。
っか、精霊達がダメダメっと蒼くなって首を左右に振ってんだが…お前ら血は通ってないんじゃね?
なんで蒼くなってんだよっ!
まぁ…そがぁなこともあったが、幕僚長殿宅を辞すことにさ。
玄関を出ると、既にリムジンが待ってたよ。
幕僚長殿とも、ここでお別れ。
案内を仰せ付かった兵隊さんが、俺達をリムジンへエスコートしてくれるね。
軍服の階級章をチラリと確認すると1等海佐だったよ。
いや、そんな階級の高級軍人を案内役にせんでもさぁ…
っても、送って貰わないと帰れないし、仕方ないか。
まぁ、俺一人で能力制限なしならば、楽々帰ることは可能ではある。
だが、大騒ぎ必須だろうけどね。
だから素直にリムジンへ乗り込んだ訳なんだけど…なんだか美人さんがね。
いや、どなた?
「ご自宅まで、ご一緒させていただきます、麗輝と申します。
昨日む、今日と兄の我儘に付き合っていただきありがとうございました。
それでですね、私も慶君とお話をさせていただきたく、罷り越しましたの」っと、随分丁寧に。
しかし…この方の兄?
誰のことだろか、はて?
考えても分からないので尋ねることにね。
「あのぉ~失礼ですけど、麗輝さんのお兄さんって、どなたのことなんです?」
そう尋ねるとね、可笑しそうにコロコロと笑って告げて来た。
「それもそうですわね。
いきなり、私の兄と申しましても戸惑うと言うものですか…
私の名も、兄ほどには知られてはおりませんし」っと、麗輝さんが告げるとね、お爺ちゃんが慌てて告げたよ。
「とんでもございませぬ。
慶は若輩にて麗輝殿下を知らぬだけでございまする。
天帝様の妹君を存じぬ者は国民に居りませぬゆえ」
爺ちゃんが畏まって告げた訳だけど…天帝様の妹様ぁぁぁっ!なんでぇここへっ!
「し、失礼いたしましたぁぁぁっ!
天帝様の妹様とは、知らぬとは言え、どうかご容赦を!」
俺が慌てて告げるとね、麗輝様は面白くなさそうに。
「そんなに畏まられては、お話もできませんわ。
昨日、兄から散々自慢話をされましたの。
慶君の知る世界の話を私もお聞きしたいですわ。
よろしくて?」って言われるんだけど…良いのかなぁ~
「だいたい宮殿は退屈過ぎますの。
娯楽と言えば唄合わせや歌謡ていどですもの。
芝居も飽きてしまいましたわ。
なのに自由に外へ出れませんしねぇ。
けれど、このリムジンと、暮町へ待機させているリムジンでの移動でリムジンから街中へ降りねば、慶君と会っても良いと、お兄様から許可いただきましたのよ。
慶君とのお話できることを、昨日から楽しみにしてましたわ」だってさ。
いやいや、そがぁにハードル上げられてもさぁ…
まぁ麗輝様は凄い美人さんで、話していて楽しいことには間違いない。
歳は10代後半だと思われる。
色白で黒目黒髪、眉がシュッっと弧を描き、鼻梁もスッと伸びている。
ピンク色の唇は紅を刺して無いのに濡れ濡れと艶めかしい。
髪はストレートの長髪で、腰まで伸びているんだけど、光が反射してキラキラと輝いてんな。
艶々サラサラの髪は素晴らしいの一言だ。
声も涼やかで耳朶に心地よい。
完成された美にまでは届いていないが、成長されたら絶世の美女どころか傾国美女となられることだろう。
そんな麗輝様とお話しながら移動をね。
前世世界の話を色々とすると興味を引かられたのか、続き続きっと話をせがまれるので絶えず話してたよ。
軍の転移ターミナルへ着くまで話し通しだったから喉がガラガラになりましたよ、ええ。
そしてリムジンを降りて徒歩での移動。
軍事基地内だといっても帝族の方が気安く出歩いても良いのかな?
まぁ…物々しい警戒がされていたからさ、そういうものなんだろね。
しかし…どうして、こうなったし?




