七夕大魔王。
「魔王様、お目覚めになられましたか?」
【ん……ん?ここ、どこ?】
禍々しい空間。
壁にはなんの動物か分からない骨がズラリ。
仄暗く、松明が寂しく燃えている。
「魔王様?どうなさいました?」
さっきから尋ねてくるこの化け物はなんだ?
長い爪、巨大な羽。
鋭い牙、変な角。
この世のものじゃない。
っていうか魔王って言ってたな。
ふと、自分の手を見てみる。
うわぁ……なに?この手は……
紫色だし目玉みたいのいっぱいついてるし。
どんな顔なのかな……
ちょっとだけ見てみよっかな……
【あのさ、鏡ある?】
「はっ!こちらをお使い下さい。」
隣の化け物は手から光のようなものを出しその光は鏡の様になっている。
まるで魔法だな。
恐る恐る見る。
うわぁ……これヤバい奴じゃん。
強そうだけどさ……
多分第三形態くらいかな。
大体そのくらいから気持ち悪くなるもんね。
「流石魔王様は美しいですね。第一形態でその貫禄。惚れ惚れします!」
えっ?これ第一形態なの?
っていうかこれは何?夢?
「魔王様!報告です!北東の村より勇者が現れました!!手始めに末端の魔物が勇者討伐に向かいました!!」
【勇者……なんで末端の魔物なの?全力で潰せばいいじゃん。】
「しかし始まりの村にボスが現れるのはどうかと……」
無駄に礼儀正しいというか。
【四天王とかいないの?】
「四天王、八魔神、十六罪獣、三十ニ妖仙、お好きな魔物をお選び下さい!」
【えー……じゃあ八魔神に行ってもらっていいかな?】
「はっ!」
どうしてこんな事になったのか。
心当たりはある。
七夕の日、ふざけて短冊に世界征服と書いた。
……なんでこんな願い叶えちゃうかな。
元に戻る算段はない。
っていうか勇者がいるって事は世界征服はまだしていないのか?
となると世界征服を果たせば元に戻れる可能性が……
可能性があるならやってみるしかないか。
「魔王様!八魔神が勇者討伐に成功しました!」
【おー、やったな。】
「魔王様!南方の村より勇者が出現しました!!」
勇者ってそんなにワラワラ出てくるものなの?
魔王側が圧倒的に不利じゃん。
「魔王様……第一の……魔物の村が勇者によって壊滅しました……」
魔物の村……
報告してきた魔物は涙を堪えている。
とてつもなくブサイクだ。
【おい、どうした?なにかあったのか?】
「……第一の魔物の村は私の故郷でして……その……幼馴染の婚約者が……くっ……くそっ!!勇者め!!!」
魔物には魔物の生活がかかっているんだな。
……勇者から見れば魔物は悪なんだろうけど。
こいつから見れば勇者が悪か。
【……よし、俺が行く。案内してくれ。】
「ま、魔王様があんな辺鄙な村になど……畏れ多いです……」
【部下が泣いているんだ。見過ごせないよ。】
「っ……魔王様!!!」
泣きつく顔にドン引きしつつも、第一の魔物の村へ向かった。
……
……
「よーし、魔物退治完了!ちょろいもんだな。」
「勇者様、油断は禁物ですよ?」
「しかしあの魔物、なかなかいいアイテムを持ってたな。」
ゴゴゴゴゴゴ……
「なっ、なんだ!?この禍々しい気は!?」
【お前が勇者か。】
「なっ、なっ!!??なんで魔王がこんな所に!??」
【なんでって……お前が村を壊したからだろ?】
「!!勇者が付けている指輪、あれは……あれは私の婚約者の物!!おのれぇぇええ!!!!」
そうか、じゃあこいつの婚約者はもう……
「くそ!!!私に……私に力があれば!!!」
【……俺の力を貸してやるよ。多分出来るんだよな?】
目を閉じて部下を強く意識する。
すると部下の身体は何倍にも大きくなり全てがパワーアップした。
「すっ、すごい!!魔王様!!ありがとうございます!!これなら…………ティミー、君の仇は俺が討つ!!!」
「くそっ!魔王め……!!」
【お前がこの村にした事と同じだ。身を持って味わえ。】
……
……
「魔王様!やりました!!勇者を……勇者を!!!」
【うん、よくやった。お前の気持ちは必ず婚約者に届くよ。】
「まっ……魔王様……」
【もう泣くな、気持ち悪いから。】
「魔王様!!天空の城より伝説の三賢者が復活しました!!」
魔王も忙しいんだな。
やられたらやり返して。
この世界はそんな事を繰り返している。
人々からみれば勇者こそが正義。
でもこの魔物達からみたら魔王こそが勇者であり正義。
ならやるしかないよな。
俺は勇者であり魔王なのだから。
【じゃあ始めるか、世界征服を。】
七夕から異世界へ。
短冊の願いは、まだ半ば。