水溜まりのお話
このお話はフィクションです。実際の人物、場所は関係ありません。
水溜まりのおはなし
雨の中、ふと水溜まりを覗き込むと、中に人がいた。
当然そんな事は有り得ない。はずなのだが、私以外の人物が映り込んでいた。
驚いて後ずさる。
だが好奇心に抗えず、もう一度見てしまう。すると、
「やあ」
その人物が頭を出してきた。
「うわっ」
思わず尻もちをついてしまう所だったが、足を踏ん張りぎりぎり留まる。
二、三歩後ずさり、様子を見る。
そいつは頭どころか全身を出し、水溜まりから完全に姿を見せた。
スーツ姿のそいつは、私に執事風の会釈をして言った。
「驚かせてしまったかい?」
「え、いやまぁ、えぇ・・・・・・」
反応にすごく困る。
残念ながらこれで驚かない優秀な肝っ玉を私は持ち合わせてない。
「さて、突然だけど、君は雨は好きかい?」
そいつは私に質問を投げかけてきた。
どうせ暇なのだし、質問に付き合う事にした。
「昔は好きだったけど・・・・・・」
「今は違うと」
「ええ」
「どうして好きじゃなくなったか、理由を聞いても?」
「・・・・・・昔は好きか嫌いか考えもしなかったんじゃないかしら。子供なんて考え無しに遊ぶのが好きだから、雨が降るといういつもとは違う天気に興奮して外に出てびしょ濡れになって、・・・・・・今となっては邪魔でしかない。片手に傘を持たないといけないし、靴やらズボンやらが濡れるし、散々よ。良い事なんて一つもないわ」
「僕と出会った事は?」
ニヤリと笑むそいつ。
「ばからし」
嘲笑し、その場を去ろうとすると、そいつが止めてきた。
「帰るのかい?」
「ええ、当たり前よ。下らない時間を過ごす程暇じゃないの」
嘯いた。だが見破られていた。
「さっきまで僕と楽しく問答していたのに?」
「楽しくではないわよ」
「本当に?」
「・・・・・・」
うるさいやつだ。早々にこの場を去ろう。
すると、最後にやつは言った。
「僕の事、覚えておいてね」「断る」
「その答えは初耳だなぁ」
そいつはやれやれといった様子で首を振った。
一つ気になったので聞いてみた。
「他の人にもこんな悪趣味な事をしてるの?」
「まぁね、僕は暇人なんだ」
「そんな自慢げに言われても」
警察に通報した方がいいのかもしれない。
「さようなら。もう話しかけて来ないで」
「ツンデレかぁ。嫌いじゃない」
そいつの言葉を無視して、今度こそその場を去った。
またいつか続くかも。