気付けば狂人勇者パーティーに?!
私たちが住むこのマフラー大陸は魔王軍と長らく戦争を繰り返してきました。
しかし、この世界は均衡契約という契約によって、世界のパワーバランスはある一定に保たれているため、戦争はあるものの、ある程度は平和でした。
そしてその均衡契約は、この世界の均衡を保つ役割を持つ、伝説的な種族である神族、龍族、幻獣族のいずれかの代表が交代する時に開かれる神帝会議によって再度結び直されるものになっています。
これは契約者の1柱が変わることによって契約が破棄されたと判定されるため、再度結び直されるのです。
そして数ヶ月前、マフラー大陸に住む全種族に、神族代表がテイロンからゼウスに変わることが発表されました。
数千年に一度のビッグイベントです。
均衡契約は一時無効になるものの、この日はどの種族ともお祭り騒ぎだったと言います。
しかし、事件は起こりました。
かの来たる神帝会議当日、何者かによる次元介入によって、神帝会議に出席予定であった【神族代表】ゼウス、【龍族代表】リーリャ、【幻獣族代表】パヌマの所在が不明になりました。
混乱に陥ったこの三族は神帝会議を中止し、均衡契約を保留にして、代表者3名を助けるため現在全勢力をかけ捜索中という事態です。
そして、神帝会議中止という事はこの世界の均衡を保つ契約が結び直される機会を失ったという事。
これは人族に危機感を与えました。
この三族によって数千年にわたり拮抗していた人族と魔王軍でしたが、三族なき今、パワーバランスは確実に魔王軍に傾きました。
そして何よりこの伝説の三族を出し抜き、禁忌の古代魔法、次元介入を発動させた存在がいることに人々は恐怖を覚えました。
その時から私たちは、【人族の王】ユーリマッハを筆頭に戦争に対する準備を続けてきました。
なんとか耐え凌いできたものの、魔王直属部隊【六花】を前に人族は敗戦の色が濃くなる一方でした。
そんな中、【賢者】マハラバは次元介入に並ぶ禁忌の古代魔法、勇英召喚を発動することをユーリマッハに提案。
国議を通し、遂に勇英召喚を発動することが決まりました。
マハラバによると、この魔法は異世界から魂と肉体を引っ張り出すというもの。その者はとてつもない魔力と闘力を有し、戦闘力はあの【六花】と肩を並べるほどと言います。
しかし、その代償に術者の魂を捧げなければならないと。
マハラバの弟子であり、右腕であった私、エライザ・ネクロは勇者を導く役としてこの世界の命運を託されました。
師匠との別れは本当に辛い物でしたが、この世界のために魂を捧げた師匠の勇姿は本当に英雄さながらでした。
そして人族を救わんとし、現れた勇者様。
ですが、それは私の想定とは少し違ったもので、勇者様とその他に3人のお仲間が。。。
「と、ここまでが私達のわかる範囲でかつあなた方が今置かれている状況です。」
私がそう説明すると、長髪の赤髪を揺らし眼帯をした長身の女性が答える。
「私たちがこの世界に来る時に、マハラバ様からある程度の事はお聞かせいただきました。そして、エライザ様を頼むと。彼からの最後の伝言です。」
おしとやかな声に丁寧な態度。
おそらく異世界では貴族であったであろうという事が立ち振る舞いから容易に想像できた。
まさに勇者様のお仲間として完璧なお方である。
「それでは私たちとあなた方。まずは自己紹介から致しましょうか」
長髪の赤髪がなびき彼女が場を仕切る。
ふっと息をついて彼女は言った。
「私は勇者パーティ、【聖女の加護】を持ちし者。リン・ハーネットと申します。気軽にリンとお呼びください。」
スカートの端を持ち、彼女は優雅に挨拶をした。
王族であっても不思議ではない彼女は口を止める事なく、お次は‥と仲間に挨拶を促す。
「じゃあ、次はオレ様だな。【闘神の加護】を持ちし者。ガフル・スティーチャーだ。ガフルでいいぞ。ちなみに俺は最強だ。」
金髪を逆立てた彼は背丈の割に態度がでかい。
しかし、実力は本物だろう。彼から滲み出る抑えきれない闘気が彼の強さを物語っている。
私がそんなことを考えている間にでかい帽子をかぶった小さな女の子が小さい声で話し出す。
「私はマナ・メイアンと‥申します‥。【魔星の加護】を‥持ちし‥者です‥。皆様の‥お好きに‥お呼びください‥。」
ひどく小さい声に耳を澄ましながらマナ様の自己紹介を聞いた。おそらく恥ずかしがり屋なのだろう。
コミュニケーションには細心の注意を払うべきか。
しかし、勇者様のお仲間はお三方とも、最高級の加護をお持ちだ。これでも勇者様ではなく、お仲間なのだ。となると勇者様はどれほどお強いのか‥
「さぁ、最後は貴方ですよ。」
リン様はそう言って下を向いている彼に声をかけた。
そして、勇者様であろう彼は、初めてその顔を私たちの方に向けて言った。
「俺の名前はユリウス・ダーウィン。【進化の加護】を持ちし勇者だ。」
そう言って彼はこっちに歩み寄る。
一歩一歩と近付いてくるうちに、彼の意図が少しずつ少しずつ明確になる。
「ハハッ、お前らに救う価値があるのか、確かめさせろ」
彼はそう言って満面の笑みを溢した。
その瞬間に彼の意図が完全にその場の全員に理解された。
これは殺されっ‥
と思った頃には私たち全ての首が飛んでいる未来が見えた。
はずだった。
気付いた時には、リン様・ガフル様・マナ様の三名が私たちの前に立ち、私たちを守っている様子だ。
この1秒の間に何が起きたのか。
それを理解しているのはこの場では勇者様御一行である4人だけだった。
そして、リン様が口を開く。
「もー、ユリウス辞めなって。かわいそうでしょ?」
「ちっ、うっせーよ、チチデカババァ。まだ何も入ってねぇんだ。冷静な上で試したのに止めてんじゃねぇよ。ククッ」
「誰がチチデカババァよ!あんたがムカつくのは分かるけど、何も説明せずはダメでしょ?」
リン様の口調が崩れていることもしかり、彼が私たちに向けた殺気しかり、守られている状況全てが私たちには訳がわからなかった。
もちろん私を【賢者】マハラバの右腕として慕ってくれている彼ら【賢者の弟子】のみんなもだ。
彼らの代表者であるような立場である私が聞くしかない。
そう思い勇気を振り絞って言った。
「あの、なぜ私たちに刃を向けるのか、どういう事かお聞かせ願いますか?」
「あぁそれはね、イライラしてるから!」
「はい‥?」
完全に何を言っているのか理解ができなかった。
◇◇◇
詳しい話を聞くために私は勇者様御一行を応接間へと、案内し、そこでお話しを聞いた。
彼らの話を簡単に説明すると、勇者ユリウス様は85回勇者様として召喚され、リン様は3回目の召喚で出会い、ガフル様は15回目、マナ様は22回目で出会い、4人で何十回と異世界を救ったり救えなかったり。
【勇者の称号】の呪縛とその勇者との契約により何回死んでも召喚されれば彼らの肉体と魂は蘇りを果たすらしい。
そして勇者ユリウス様は最初の方は善良な心を持ち、世界を救っていて、その自分を誇りに思っていたが、裏切りによる救出失敗や、救おうとした者を救えなかった絶望を何度も繰り返した事により、少し心が狂ってしまったという。
彼らにとって世界救出はポ○モンの殿堂入り後にレベル上げをするためにチャンピオンを周回するのと同じくらいの作業になってしまったらしく、そんな感じの気分で84回目の召喚も早くクリアしようとしていたら、王の裏切りに会い、パーティ全滅。
そして、タイミングが良いのか悪いのか、全滅した瞬間に休む間もなくこの世界に召喚され、イライラが最高潮になったと。
「危うく、世界を滅ぼす魔王になりかけるところだったよぉ。」
リン様はそう言って私に笑いかけた。
私は本当に実現できそうなその言葉に戦慄を覚えながら、先ほどから気になっていたことを彼女に聞く。
「あはは・・・ところでリン様その喋り方は・・」
「あぁ、これが素よ。マハちゃんが召喚する時に王都に召喚するって言ってたから丁寧に話してただけ。あと敬語なんていらないわ。」
師匠の事をマハちゃんって‥と思いながら私は彼女の言葉に納得を示す。
「あぁ、そういう事ですか。いえいえ、そういう訳にはいきません。」
「何を言ってるの?仲間に敬語を使う必要なんてないじゃない」
また私の頭の中がフリーズする。
リン様の言っている事がまた訳の分からない事だったのだ。
「キョトンとしないで。そりゃ急に勇者の仲間って言われたら驚くだろうけど、ステータス見てみな。貴方の師匠からお土産が届いてるいるわ。」
彼女の言葉に素直に従い、私はステータスを開けた。
魔法によるステータス確認。
そこには今までになかった、ステータスが書いてあった。
そして勇者ユリウスは口を開いた。
「85回目で見つけた仲間だァァ。キキッ。ようこそ勇者パーティーへ。【賢者の加護】を持ちし者。エライザ・ネクロ。これでお前も呪われた俺の仲間だ。ハハッ。」
気の狂ったユリウスがそういうと私のステータスに新たに勇者の契約という文字が追加された。
私は嫌な予感がしてリンを見ると彼女はにっこり微笑んでこう言った。
「勇者の契約って強制なんだぁ〜!これで貴方もみ・ち・づ・れ♡」
そう言って彼女は嬉しそうにささやく。
「クソユリウスのせいで私たちがどれだけ酷い目に会い、どれだけ彼を殺したいと思ったか。これで私たちは同じ考えを共有できるねっ!」
「そ、そんなぁ・・・」
「ハハッ。俺に勝ったら、その勇者の契約を外してやんよ。ケケッ。無理だろうけどな。」
彼の高笑いとともに、リン・ガフル・マナの3人が彼へ殺意の目線を向ける。
そして、寸分の間もなく、
「これからよろしくね!」
リン達3人は地獄へ道連れにするいい仲間できた。といわんばかりのニヤケ面で私を歓迎した。
こうして私の勇者パーティーとの冒険が幕を開けたのである。