縁談
ここはどこでしょうか。
何だか、懐かしい風景が広がっています。
「松、話があるの。」
誰でしょうか?
見覚えのある顔です。
私にとって、大切な人だったはず・・・
それなのに、思い出せません。
「あなたは誰ですか?」
「・・・松、熱があるのかしら?私はあなたの母・桃よ。」
・・・私の母。
久しぶりです。
久しぶりに会いました。
「母上っ、私、会いたかったのですよ。寂しかったのですよっ。」
「松ったら。怖い夢を見たのね。で、聞いて。あなたの婚約者が決まったのよ。尾張の信長殿の嫡男で、名は奇妙、と言ったかしら?信長殿は2000の兵で今川義元の2万5千の兵に打ち勝ったのよ。そんな信長殿の嫡男に嫁ぐのなら、松も幸せね。」
・・・結局、破棄になってしまいますが。
弱気になってはいけない。
ここは婚約破棄にならぬよう努力しなければ。
私は前世での曖昧な記憶を頼りに、父上の部屋に入りました。
そこには、かすかに覚えていた勝頼兄様もいました。
「松、めでたいな。信長殿の嫡男に嫁げるとは。」
「わしからも祝福するぞ、松。」
兄上と父上、2人とも私の縁談を喜んでくださっている・・・
そこへ、1人の女性が入ってきました。
「勝頼、来なさい。」
思い出しました、勝頼兄様の母、藤様です。
「はい、母上。」
兄様は障子を閉めようとしました。
・・・え?
私は戸惑いました。
兄上が戸惑いの表情を浮かべていたからです。
「松、そなたは武田と織田の架け橋となるのだ。」
武田と織田の、架け橋。
結局私は、架け橋になれないまま死んで行くのでしょうか。
いえ、弱腰になってはいけません。
最初から諦めてしまうと、どんなに頑張っても結果は見出せないままです。
知恵を、振り絞って、考えなければ。
「松、気を重くするでない。そなたはただ、子を産み育てれば良いのだ。頼んだぞ、松。」
「・・・はい。」
例え、武田家が滅びても、私は信忠様を慕っていた。
今度こそ、嫁いで見せる。