表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/65

9 六蔵 この世界の数字を覚える


 食後、約束どおり六蔵はキャロラインに文字を書いて見せる事にした。土の地面を足で慣らし、木の枝を使って縦書きで文章を書いた。


(私が知らないと思って適当に書いた?)


 その文字は、子供がふざけてぐちゃぐやに書いた物のように見えた。


「あのー、これは何て書いてあるの?」


「『異なる国に参りて候。立ち行かぬ故逸る心持なれど、飯格別に旨し』と書いたのじゃ」


「うん。ご飯のとこだけ分かった。難しい言葉だね」


「左様か。ならば数字はどうじゃ。簡単故すぐに覚えられるぞ」


 そう言うと六蔵は今度は横書きで数字を声にしながら書いていった。


「一、二、三「あー分かった!私、続き書きたい!」」


六蔵から素早く木の枝を奪って続きを書いて行くキャロライン。


「よーん、ごーーお、ろーーーく「あいや待たれぃライン殿。違うておる」」

 

 張りきったキャロラインが書いたのは、短い横棒を4つ重ねた文字(?)だった。もちろんその横に、5段重ね・6段重ねと続く。畳を斜めに切ったような絵面に、六蔵はストップをかけた。更に書き続けようとしていたキャロラインはしゃがんだまま六蔵に顔だけ向けて、遺憾の意を表した。


「簡単とは申したが、そこまでではない」


枝を奪い返した六蔵は、3から先を足で消すと、漢数字で10まで書いて見せた。


「急に難しくなった」


やる気の無くなったキャロラインの興味を惹こうと、十を指し示して六蔵は言った。


「これはどうじゃ。縦横の棒を合わせただけで十が表せるぞ」


「10は覚えた。でも他は……」


「八も簡単じゃ。斜めに2本の棒を書くだけじゃ」


「そうだけど、どっち向きの斜めなのか忘れそう」


 一度削がれたキャロラインの興味は中々復活しない。

 六蔵は、俯くキャロラインの肩を叩くと自分の顔を指差した。


「ブフォッ!なんなのその顔!お腹壊したの?」


 キャロラインが噴き出したのも無理は無い。常に半眼でクールな無表情を保った六蔵の顔は今、いかにも『僕困ってるの』と言わんばかりに眉が下がり、若干口も尖っているのだ。


「これは八の字眉と言うて、困ったり情けない時に下がる眉を指す言葉じゃ。これで八の字は忘れまい」


 キャロラインはちょっとした事でふて腐れた事を反省した。一生懸命教えてくれる六蔵の様子に、晴れやかな気持ちになったキャロラインは、よりいっそう明るい声で笑った。


「キャッハハハ……その顔のまま話すの止めて………可笑しすぎてお腹が痛い……フフッ」 


 機嫌の直ったキャロラインは、六蔵にここの数字を教えることにした。


「値段を誤魔化されたりしないように数字は覚えておいた方がいいよ」


 キャロラインは、六蔵の前の地面に数字を読み上げながら書いていった。

 

 ちなみにこの世界の数字や長さや重さの単位・日時等は、平成の日本に準じている。文字は異世界仕様となっているが、それもこれも大いなる者の仕業である。転生者に理解しやすい世界を創ると共に、『文字が違う方が異世界らしくて良いんじゃない』というお気楽な考えからこのようになったのだ。

 

 1から9まで、そして0の数字を書き終えたキャロラインは、その下に四角いワクを横に繋げて書いた。


「このワクに数字を入れると何桁でも表せるよ。ちなみに右詰で左に2、右に0を書くと20だよ」


「横書きなのじゃな。しかし、十や百の文字は書かぬのか」


「書かないよ。ほら、こうやって下段に桁を合わせて数字を書くと計算しやすいでしょ」


 キャロラインは、ワクの中に20と書き入れると、その下に195と書き、横線を引いた。


「上と下の数を足したら線の下に答えが出るんだよ」


 六蔵のようにもっと面白く教えたかったキャロラインだが、当の六蔵はハッと閃くと、ワクの上に、右から一・十・百・千・万と書いた。そして、キャロラインが書いた数字を読んでもらうと、口頭で答えた。


「確かに計算しやすい。二百十五であるな」


「すっごーいクリスさん!正解だよ!」


「ライン殿の教え方が上手だったからの」


「クリスさんの変な顔ほどじゃないよ」


「……左様か」


 心から褒めてはいるのだが、中々に失礼なキャロラインである。

 それから六蔵は、再度読みを教えてもらい、熱心に地面の数字を見つめて覚えだした。それを見たキャロラインは、巾着袋からノートと鉛筆を取り出した。ノートとはいえ、重ねた紙を真ん中で折り、折り目を糸で閉じたお手製である。

 開いたページの一番上に、1から0まで書いたキャロラインは、ノートと鉛筆を六蔵に手渡した。


「鉛筆で書いたのを消す道具もあるんだけど、紙も少ししかないから、これを見ながら地面で練習したらいいよ。それと、覚えておきたい事も書きとめておいたら良いと思うよ」


「そのような貴重な物を頂いて良いのか」


「私の分も有るから大丈夫」


「忝い」


 綺麗な礼をすると、六蔵は嬉しそうにノートを見ながら何度も数字を地面に書いていた。

 キャロラインも勉強熱心な六蔵を見習って、ノートに漢数字を書き写した。覚えるために地面に一から順に書いていくが、八まで来る度噴き出してしまうのは見逃して欲しいところである。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ