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6 六蔵の魔法の成果とキャロラインの魔法


「クリスさん、食事の用意ができたよー」


「全て任せてしもうて申し訳ござらん」


 六蔵が振り返ると、巾着袋から出されたテーブルには木の器に盛られた夕食が完成していた。中央の大皿には串刺しの焼き魚、椀には汁物とご飯、その横にスプーン・フォーク・箸が置かれていた。


「早く座って。お腹空いたでしょう」


椅子を示すとキャロラインは自分も座ろうとしたが、ハッと気付いて六蔵の側に行くと、手をかざした。


「ご飯の前に汗を流しましょう。クリーン」


 六蔵は体がサッパリするのを感じると共に、着物の汚れが取れているのに気が付いた。恐らくこれも魔法なのだろう。キャロラインも自分にクリーンをかけると今度こそ椅子に座って「冷めないうちに食べよう」と、急かした。六蔵は聞きたい事もあったが、まずはせっかく用意してくれた食事を摂ることにした。


「いただきます」「頂き申す」


 最初に汁物に口を付けた六蔵は驚いた。


「これは猪鍋ではないか」


故郷で馴染んだ味が異国で食べられたのを不思議に思う。


「クリスさんの所では猪鍋って言うんだ。こっちじゃ特に名前は無いけど、父さんがよく猪を獲ってくるから味噌味のスープに入れるんだ」


「味噌も有るのだな。それにしてもこの飯の何と白いことか」


「生物の勉強で習ったんだけど、昔は黄色っぽい色だったのを品種改良したり、精米技術が発達したから白くて美味しい米になったんだって」


「なるほど。ん、甘い」


六蔵は旨い飯に箸が進んだ。


「この小振りな鮭は程よい脂と塩加減で実に旨い。香ばしく焼けた皮は格別じゃのう」


 今まで無口だった六蔵が饒舌になる程気に入ってもらえて、キャロライン母さんはご満悦だ。


「お代わりもあるからいっぱい食べてね~♪」



 食事の片づけが終わると、二人は焚き木を囲んでお茶を飲んだ。辺りは既に真っ暗で、焚き木の炎だけが明るさと温かさをもたらした。


「クリスさん、どの位水魔法出来るようになった?」


「見て下さるか」


 立ち上がった六蔵は、湖に近づき片手を伸ばして水を放った。直径10cm程の太さの水は、弧を描いて勢い良く湖に注がれた。もしも昼間だったら虹が出ていただろう。


「いかがであろう」


振り返った六蔵は、期待に満ちた顔でキャロラインに訪ねた。


「スバラシイトオモイマス」


悔しさで奥歯を噛み締めながらも、何とか答えるキャロライン。


「何でそんな早く魔法が使えるの?私なんて一週間(本当は1ヶ月)以上掛かったのに」


「恐らくでは有るが、途中までは常日頃からやっている事と同じだからではないかと」


「同じ?」


「左様。まずはヘソの上の丹田に気を集中する。後は、何度も刀を振る鍛錬を繰り返して身に付けた型通りに動く。その時には刀の先まで気が通っている感覚がある。水を操る時も同じ様な感覚であった」


「なるほど。気ってやつと魔力が同じ感じなんだ」


「丹田に集中し、そこに重心を置く事で動きも良くなるぞ」


「なにそれ!やってみたい!」


 急いで立ち上がったキャロラインは、広めの場所で剣を抜くと父から教わった構えをした。深呼吸をして丹田に集中し重心を置くといつも通りに剣を振ってみた。すると普段より早く正確に動けるではないか。特に下半身が安定し左右のバランスが取りやすい。


「中々良い動きをするのう」


 初めて見た型ではあるが、実戦を想定した動きだということは六蔵にも分かった。それを年端も行かぬ小僧が体現出来ている事に感心した。


「こんなに動きやすいの初めてだよ!ありがとうクリスさん!」


 子供らしく無邪気に喜ぶキャロラインを見て、六蔵も明るい気持ちになった。受けた恩を少しでも返せたのなら良かったとホッとした。


 

 明日に備えて寝ることにしたキャロラインは、焚き木の両側に草を集めて巾着袋から出した防水シートを敷き、六蔵にも毛布を渡した。すると六蔵が申し出た。


「わしが見張りをする故休むと良い」


「見張りは必要ないよ。バリアを張るから」


「バリアとは?」


「結界とも言うけど、敵の攻撃を防ぐ壁の事。お椀をひっくり返して大きくしたのを被せた感じかな。やってみるね」


言うなり、キャロラインは手を空にかざした。しかし何の変化も無いように見える。怪訝な顔をする六蔵を見て、これじゃ分からないなと再び手をかざす。


「どう?」


 色が付いて可視化された半球状のバリアは、焚き木を中心に二人を覆っていた。透明なその表面にはシャボンのように青の濃淡が色を変化させながら動いていた。六蔵は目を見開いてそれを見上げている。


「中からは自由に出られるけど、一度出たら入れないよ」


バリアに手を伸ばす六蔵に注意するキャロライン。そう言われて焚き木の方を見ると、煙はバリアをすり抜けて上空に立ち昇っていた。


「体の一部が残ってたら戻れるけど、用を足す時は気を付けてね」


それを聞いた六蔵は、用心のため先に木陰で用を済ませてきた。

 戻るとバリアの硬さを確かめる為に拳で叩いてみたがびくともしない。小石を拾ってキャロラインに万が一にも当たらない位置に力いっぱい投げてみたが、それでもガラスのように見えるバリアは壊れなかった。不敵に笑うキャロライン。


王熊(おうぐま)(魔獣のキングベア)が何匹襲ってきても壊れないから安心して」


大熊(おおぐま)(大きい熊)でも壊せぬのか」


 声は通るようだ。一度解除してもらって中に入ると再びバリアが張られた。


「そなたが寝ても結界は維持されるのか」


「大丈夫。私が解除しようと思わなければそのままだから」


 不思議ながらも仕組みを理解した六蔵は、やっと横になった。


「魔法を限界まで使ったら倒れるんだよ。クリスさんは加減が分かるまで無理しないで。疲れを取るには寝るのが一番だから早く寝てね。私は全然大丈夫だけどもう寝るよ。おやすみ」


六蔵が今日は寝付けない事は分かってはいたが、そう言って毛布を被ったキャロラインはすぐに寝てしまった。普段使わない部分の脳を限界まで使っていたらしい。



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