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15 粗食と金貨


 日が暮れ始める頃、六蔵が「今夜の飯はわしが炊く」と言うので、頼むことにした。キャロラインとしてはパンでも良かったのだが、どうやら六蔵は米の飯が好きなようだ。


「薪を集めてから炊くとなると時間が掛かるが良ろしいか」


「そんなら良い方法があるよ」


 キャロラインは、老木を風魔法で根元から切り倒し、要らない葉っぱや小枝を取り除く。再び木に手をかざして魔力を込めると、木は見る見る枯れていった。今度は薪割りとばかりに、風魔法で次々と輪切りにした丸太を縦に切断した。もちろん枝も手頃な大きさに切っていく。大人が二人で抱えられる程の太さの木は、中心まで乾燥していた。


「これで充分でしょ。余ったら次に使えるし」


 呆気に取られる六蔵を尻目に、当たり前のように言うキャロラン。六蔵には、この国の魔法が凄いのかキャロラインが特別なのか、判断がつかなかった。


 キャロラインがテーブルに米と釜を出すと、早速米を研ぎ始める六蔵。


「釜が大きいからといって米を入れすぎてはいけない」


「最初の水は素早く捨てるのが肝要じゃ」


などと呟いているが、次回からも米は六蔵に炊いてもらつもりのキャロラインは、程々に聞き流していた。 

 キャロラインは米を炊くための竈は土魔法で真面目に作りった。六蔵に細かい指導をされたからだ。竈の大きさや、焚き口の穴の大きさ等、中々こだわりが有るようだ。

 キャロラインは薪をくべて魔法で火を点けると、竈は六蔵に任せてその他の支度を始めた。

 

 実は二人共、先程熊肉を粗末に扱うような発言をしたのを引け目に感じていた。その為、いかに自分は粗食が好きかという事を主張しあったのだ。結果夕食のメニューは、ご飯、即席の漬物、味噌汁となった。

 

 キャロラインが、即席の漬物と味噌汁の下拵えを終えて六蔵の方を見ると、まだ飯は炊けていないようだ。


「クリスさん、後どのくらいで炊ける?」


「四半時をみて欲しい」


「わっかりましたー」


 キャロラインはそう答えたが『四半時』が何分なのか分かっていない。時間についても教え(教わら)なくてはいけないとキャロラインは心にメモをした。


「そうだ、薪も仕舞っておかなきゃ」


 熊を仕舞った時と同じ様に、薪をどんどん巾着袋に吸い込む。互いに接している物は一塊と認識されるので、一気に片付くのだ。ある程度残してストップする。

 

 味噌汁を仕上げ器などをセットし、漬物盛り付けて完了。時間が余ったキャロラインは、釜の蓋を開けようとして六蔵に怒られたり、薪をくべようとして怒られたりして過ごした。


「ライン殿、飯が炊けたでござる」


「こっちも準備できてるよ。頂きましょー」


 山盛りによそってもらったご飯は、艶々と輝いている。キャロラインは六蔵の炊いたご飯に期待した。


「何このご飯、美味しい!いつものご飯と全然違う!」


「米が違う故水加減が難しかったが、上手く行って良かったわい」


「浅漬けのしょっぱさが、ご飯の甘さを引き立てて幾らでも食べられる」


「この飯なら、塩だけでもいけるな」


「あぁ、味噌汁とご飯の組み合わせは、シンプルだけどほっとする味ですなー」


「やはり粗食は良いのぅ」「粗食は最高だね」



 片付けを終えて、六蔵が入れた緑茶を飲む二人。


「………」「………」


 キャロラインは例の袋からマドレーヌを何個も取り出して皿に並べ、そっとテーブルに置いた。六蔵の方に押しやると、彼は無言でそれを一つ手に取った。もちろんキャロラインも頂いた。

 しばらくは粗食大会は開かれないだろう。



 デザートタイムも終わり、予定通りお金の授業の準備をするキャロライン。実物を見せるため、巾着袋に手を入れてお金の入った袋を探す。彼女は小さいときから小遣いを貯めていたので、小さい麻袋一杯の硬貨が有るはずだ。

 麻袋を探し当てて持ち上げると、予想外に軽い。それもそのはず、袋の半分程しか膨らんでいない。驚いて中を見ると、なんとキャロラインが持っているはずのない金貨と大金貨が輝いているではないか。


(なんじゃこりゃあ!)


 心当たりは有る。居空間魔法で作られた巾着袋は持ち主しか出し入れできないが、それを作った人物なら入れる事は出来るのだ。作ったのは母である。食料を大量に入れてくれたのは知っているが、これは知らなかった。他に何がどの位入っているのか確かめるのが怖くなったキャロラインである。


(合計幾らになるんだろう。子供が持って良い金額じゃないよね。平常心の為に数えるのは止そう)


 キャロラインはそこから金貨と大金貨を一枚ずつ取り出すと、残りは仕舞った。そして小遣いの入った麻袋から各種類の硬貨を一枚ずつ取り出すと、六蔵に声を掛けた。


「さあ、お待ちかねのお金のお勉強の時間ですよ」


 お待ちかねではなかったが、六蔵は席に着いてノートと鉛筆を用意した。


「ここにあるのが、この国を含むスプリング大陸共通のお金です。鉄貨・銅貨・銀貨・金貨・大金貨の順に額が大きくなります。どうぞゆっくり書いて下さい」


 教師ぶりが板に付いてきたキャロライン先生。


「お金の単位はリンです。鉄貨は10リン・銅貨は100リン・銀貨は1000リン・金貨は1万リン・大金貨は10万リンです。鉄貨10枚で銅貨1枚と同じ価値という事です。ここまではよろしいでしょうか」


 六蔵は『リン』と『(りん)』の読みが同じなので混乱しそうだが、それ以外は理解したので頷いた。


「では買い物の練習をしましょう。クリス君は銅貨1枚のリンゴを3つ買いました。銀貨1枚を渡すとお釣りは、どの硬貨を何枚でしょう」


「……銅貨7枚であろう」


「正解です。クリスく……さんには簡単な問題でしたね。次は、クリス君は屋台で1本250リンの串焼きを2本、1本300リンの新商品のタンドリーチキン味を3本買いました。金貨1枚を屋台のおじさんに渡すといやな顔をされましたが、誤魔化さずにお釣りを返してくれました。さて、お釣りはどの硬貨を何枚でしょうか。一番枚数の少ない例で答えて下さい」


 問題の中に質問したい事がいくつかあるが、六蔵はとりあえず計算した。


「銀貨8枚と銅貨6枚」


「正解!流石ですね。以上となりますが、何か質問はありますか」


「まずは、釣りを誤魔化す店もあるのか」


「観光客相手の店や屋台では稀にあるそうです。昔と違って今のスプリング大陸は平民まで教育が行き届いていますので、騙される人はまず居ないでしょう」


「金貨で嫌な顔をされるのは、釣りが足りなくなるからか」


「その通りです。あと、金貨を使っているのを見られるとスリに狙われやすいので気をつけましょう」


「硬貨で何枚と言わなければいけないのか?リンで良いと思うのじゃが」


「ほとんどの場合リンで売買しています。が、数百年前、『硬貨何枚』でのやり取りの伝統を残そうという運動が起こり、今では伝統芸や風物詩の扱いで、サービストークとして根付いています」


「新商品の事といい、そなたは何でも知っているのじゃな」


「全部、2ヶ月に1回村に来る行商のおじさんから聞いたことだよ。私がいずれ村を出るのを知ってたから、心配して教えてくれたんだろうなぁ」


「親切なおやじさんじゃな」


「そうなんだよ!」


 この行商のおじさんは、後に謎の人物として話題に上がるのだが、それはまた後日。


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