第一章7話
翌朝、俺が目を覚ましてゆっくりと起き上がる。
一つ大きなあくびをすると、周囲を見渡した。
寝袋で寝ていたはずのリディアの姿が見当たらない。
「……リディア?」
少し眠気は残っていたが、ゆっくりと立ち上がり再び辺りを見渡す。
すぐ近くで立ち尽くしているリディアの姿を目にする。
「リディア、何してるんだ?」
「あ、オルト。おはよう、朝日がすごくきれいだったからつい見とれてたの。オルトも見てみなよ」
「おはよう、そうだったのか」
日が差している方を見てみると、そこにはとても美しい朝日が照りつけていた。
清々しい気持ちになり、眠気もどこかへ行ってしまったようだ。
「確かに綺麗だな……今日も頑張ろうな!」
「うん!」
あの朝日にも負けないくらい明るい笑顔で、リディアは返してきた。
その後準備を済ませ、丘を目指し俺とリディアは平原を進んでいく。
ここオーリス平原は比較的温厚な魔物が住み着いており、商人たちの交易路としても利用されている。
そのため、安全な旅路を辿ることができる。
半日ほど歩いているとようやく丘の麓へとたどり着く。
「ふぅ、やっと着いたな」
「そうだね、歩きっぱなしだったから疲れちゃったよ」
「ここら辺で休憩するか」
そう言ってその場に腰掛けようとした。
しかし、どこからか視線を感じる。
腰に差している剣に手をかけ、周囲を見渡す。
すると、四つん這いで全身に灰色の毛を纏い、牙をむいてこちらに迫ってくる魔物、ウルフが三匹いることがわかる。
こちらを凝視しており、狙われていることが見てとれる。
「……ウルフか、リディア構えて。あいつら俺たちを狙ってる」
「え、あ、うん……」
俺が剣を抜くと、リディアも短めの杖を抜き出す。
ウルフは待つことなくこちらに飛びかかってくる。
一匹の攻撃を半身で避け、もう一匹の攻撃は剣を横に振りウルフを切り飛ばす。
避けた方のウルフが再び俺に牙を向ける。
後ろに身を引き、距離を少しとると剣を振りかぶりウルフを垂直に切りつける。
切りつけたウルフたちはかろうじてだが息はあるが、ろくに動ける様子ではない。
村で習った剣技の基礎がここで役に立った。
少しの安心感に浸っていると、リディアの悲鳴が聞こえてくる。
声の方を見るとウルフが前足でリディアの両肩を押さえつけられており、今にもウルフに食べられてしまいそうな状態だ。
「……⁉ リディア!」
俺はリディアの方に駆けつけ、剣を振りかぶる。
垂直に剣を振るうもウルフは後方に飛び、斬撃を避ける。
そして、そのウルフの周りにさっき切りつけた二匹のウルフが群がる。
恐らくあのウルフがリーダーなのだろう。
倒れているリディアの前に立ち、ウルフの群れと対峙する。
ウルフたちは再びこちらに向かって襲いかかってくる。。
後ろを走っていた二匹はすでにダメージを負っているためか動きが鈍く見える。
リーダーのウルフが俺に飛びかかってき、それに合わせて剣を水平に振る。
刃はウルフの体を捉え、こちらに迫ってくる二体のウルフの手前まで飛ばされる。
切られたものの再び立ち上がり、こちらに敵意のまなざしを向ける。
そして再び俺めがけて飛びかかってくる。
向けられた牙を剣で受け止め、ウルフの腹部に蹴りを入れる。
力をなくしたようにその場に倒れこみ、こちらを見ている。
「今のうちに逃げるよ!」
そう言ってリディアの手首をつかむと丘を駆け上る。
丘を駆け上っている途中後ろを振り返ってみるとウルフたちが追いかけてきている。
しかし、先ほどのような速さはなく何とか走れるといったようだ。
しばらく走り、丘の上まで来たところでウルフたちは平原の方へと戻っていった。
縄張りから離れたからなのかは分からないが逃げきることができた。
「はぁ……はぁ……何とか逃げ切れたね」
「う、うん……私ちょっと疲れた……」
リディアはその場に座り込み、肩で息をしている。
無理もない、一国の王女が戦闘などすることは少ないだろう。
「少し休んだらまた進もう。多分もうすぐボント村につくだろうし」
リディアは息を荒くしながらもゆっくりと頷く。
さっきのように魔物が出るかもしれないため、周囲への警戒は怠らず気を引き締めてボント村を目指していく。