第一章6話
しばらくの休息の後、俺とリディアは森の中をさまよっていた。
不慣れな森のためどの方向に進めばよいかが本来ならわからなかったが、事前に方位磁針を用意していたため、迷うことなく森を抜けることができた。
歩いている最中、いくつか木の実を見つけ拾っておいた。
森を抜けると草原が広がっており、丘が見える。
その丘の頂上からオレンジ色に輝く綺麗な夕日が差し込んできている。
「なんてきれいなの……初めて見たわ……」
「そうだったのか。この夕陽を見てると故郷のことを思い出すよ」
かつて俺が住んでいた村の方を眺める。
村から見る夕日もこんな景色だったな。
「……オルト、大丈夫?」
「……あぁ、何でもないよ。とりあえず今日はここで野宿だな。夜の旅は危険が多いからな」
「そうなの?」
リディアは首を傾げてこっちを見ている。
夜は魔物が活発になり、多く徘徊するため手練れの冒険家でないと厳しいことは知っている。
どうやらリディアはそのあたりの知識は乏しいようだ。
「あぁ。囲まれでもしたらさっきのようにはいかないと思う」
「えぇ……大丈夫なのそれって……?」
俺は背負っていた背負い袋から小型のランタンを取り出した。
それに火をつけると紫色の炎が揺らめいている。
「これはなに?」
不思議そうにランタンを眺め、リディアが問いかけてくる。
「これはハイドランタン。周囲の気配を消してくれる道具なんだ。旅に出る前に家から持ってきてたんだよ」
「そうだったんだ。これがあったら魔物に襲われなくなるの?」
「襲われなくなるよ。魔物が苦手とする匂いも放ってるらしいからね」
リディアは納得したようで、ランタンをじっと見つめたままその場に座っている。
俺も荷物を置いて、地面に腰を下ろす。
背負い袋から寝袋を取出し、リディアに渡す。
「リディアの寝袋がなかったから俺の寝袋を使ってくれ」
「え、でもそれだとオルトはどうするの?」
リディアは心配そうに俺のことを見つめてくる。
「俺は大丈夫だ。心配しなくて大丈夫だよ」
笑顔で返すも、それでもリディアは心配そうにしている。
「さ、そろそろご飯を食べよう。日干し肉とかドライフルーツしかないが……」
「そうだね。大丈夫だよ、もらっていい?」
「あぁ、ちょっと固いから気をつけてね」
そう言って日干し肉とドライフルーツの入った袋を手渡す。
俺もさっき森で取った木の実で、表面の皮は赤く、甘みと酸味の効いたレッドベリーを取出して口にほおばる。
リディアは慣れない日干し肉を頑張って食べている。
食事を取っていると、太陽も沈んで月が夜の闇を照らしてくる。
「そろそろ寝るか。明日は朝早いからしっかり寝ておかないといけないから」
「うん。そういえば今はどこに向かってるの?」
地図を取り出して、リディアの前に地図を広げ指差しながら説明をする。
「今いるのがシャムル近隣にあるこの森。目の前に丘が見えるだろ、だからこのあたりだ。それで俺たちが目指しているのはガブリスなんだが、準備もしっかりできてないし丘を越えたとこにあるボントって村に立ち寄ろうと思う」
「ガブリスって所にはどんな用事があるの?」
「その村は最近、謎の集団に襲われたらしくて。もしかしたら俺の村を襲った連中の仲間かもしれないからさ。何でもいいから情報が欲しいんだよ……」
思いつめた表情を浮かべ、手を強く握る。
何としても姉さんを助けないと。
「あ、ごめん。リディアの問題もどうにかしないといけないのに……」
「ううん、いいのよ。私自身、何をしたらいいのかわからないもの」
少し困った様子を浮かべるも笑顔で返してくる。
リディアも大変な状況というのに、俺も何ができるかわからない。
ただそれでも、一つだけわかることがある。
それはリディアのことは俺が守らないといけない。
「それじゃ、明日はボント目指して頑張ろうね」
「……あぁ!」
そう言って俺とリディアは眠りにつき、しっかりと休息を取った。