第一章5話
「そろそろ入り口の門に着くぞ……あっ」
俺が急に立ち止まると、リディアが背中にぶつかってくる。
俺が目にしたのは、王国騎士が門の前で三人が立ちふさがっていた。
「急にどうし……」
「しっ、静かに」
そう言って、リディアの左手首を引いて建物の影に隠れる。
「入り口が王国騎士にふさがれてる。このままだと外には出られない」
「そ、そんな……」
困った様子で、目に涙を浮かべている。
実際困った状況には変わりない、通行人の中から王女がいないか監視して連れ帰そうとしているのだから。
「どうする、戻るか?」
「戻ってどうするの……?」
「……後日出直すしかないだろ」
「それだと見つかっちゃわないかな……?」
リディアの言う通り、このままこの町にい続けていたら見つかるのも時間の問題だ。
何せ王女の行方を捜しているのだ、くまなく探すに違いない。
少し予定より早いがこの町を出るしかないだろう。
ポケットから地図を取出し、周辺を確認する。
近くに森がある、そこまで全力で走れば何とかまくことができるかもしれない。
だが問題はあの門をどうやって通り抜けるかだ。
「ねぇ、どうするの?」
「……門を出ると近くに森がある。そこまで走るぞ」
リディアは不安そうな表情を浮かべているが、ゆっくりと小さく頷く。
「王国騎士の検問に捕まってはすぐにバレる。一気に駆け抜けるけど大丈夫?」
「こ、こうなったら仕方ないもんね……行こう」
俺は強く頷き、門の方を確認する。
「それじゃあリディア……行くぞ!」
俺は声を上げると門に向かって全力で駆け出した。
それに続いてリディアも走り出した。
迫りくる俺たちに気が付いたのか王国騎士がこちらに対峙する。
「おい、お前たちそこを止まれ!」
その声に耳を貸すことなく俺とリディアは走るのをやめない。
騎士たちの横を通り過ぎ、町の外に出る。
一瞬後ろを確認してみると、リディアもちゃんとついてこれているようだ。
「リディア! 大丈夫か⁉」
「だ、大丈夫……!」
俺は走る速さを緩め、リディアの横に並んだ。
後ろからは騎士が一人、追いかけて来ているようだ。
でも十分な距離が空いているため、このペースであれば追いつかれることはまずないだろう。
しかし、応援を呼ばれないと限らない。
考えていた通り、森の中に入って姿をくらます方がいいだろう。
「このまま森に入ろう!」
「う、うん……!」
俺とリディアはそのまま森にむかって走っていく。
「そこの怪しい連中待て!」
追いかけてくる騎士が大声を出してこちらに迫ってくる。
目印もなければ森のこともわかっていないため、どこに進んでいるかはわからないが、今はとにかく騎士たちから逃げなければならない。
ただ、リディアの体力もそろそろ限界が近づいているようで、呼吸がとても荒い。
「リディア、大丈夫かい?」
「はぁ……はぁ……ちょっと大丈夫じゃ……ないかも……」
これでは追い付かれるのも時間の問題だ。
何とかしないといけない。
「リディア、光魔法で何とかできないか?」
「はぁ……はぁ……や、やってみる……」
リディアは走りながら何かをつぶやき、右手の平に魔法陣を浮かべる。
そして、後ろの騎士に向かって右手を突き出す。
するとその右手を中心に周囲が眩い光に包まれる。
追ってきた騎士は光に目が眩んだようで腕で顔を覆っている。
この隙にリディアの腕を引っ張り近くの茂みに飛び込んだ。
しばらくすると光は消滅した。
「くそっ、どこ行った!」
いらだった様子で騎士が言い放つと明後日の方向に走っていった。
茂みの影に隠れてしばらく様子を伺うも、あれから特に増援が来る用がない。
「どうやら何とか撒けたみたいだ、これで少しゆっくりできるな」
そう言ってリディアの方を見ると、肩を刻むように息をしておりしゃべるのが苦しそうだ。
普段ここまで必死に走ることはないだろうし、無理もない。
「しばらくここで休もう。ただ森で一夜過ごすのは少し危ないだろう。すぐ出発したいところだけど大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……うん、大丈夫。ありがとうねオルト」
しんどそうな顔をしているが、笑顔でお礼を言ってくる。
俺もリディアに笑顔を返し、肩の力を抜いてしばらく休息をとる。