第一章2話
「よし、ガブリスに向かう準備を……」
そう思い道具屋へ足を進めようと振り返った時、突然人影のようなものが視界に現れぶつかってしまう。
「うわっ、ごめんなさい大丈夫ですか?」
ぶつかってしまった人に目をやると、その人物はきれいな青色の所々レースが付いたドレスに、頭にはティアラを身につけている綺麗な金色の髪がよく似合った俺と同い年くらいの女性が座り込んでこちらを見ていた。
「わ、私の方こそごめんなさい……周りを見れてなくて……」
女性が立ち上がろうとしているところに手を差し出す。
「ありがとうございます……」
立ち上がった女性のことを改めて見ると、どこかで見たことがあるような気がした。
不思議そうに女性のことを見ていると女性が声をかけてくる。
「あの、どうかしましたか?」
「あ、いや、何でもない……」
にしてもどこかで見たことある気がするんだよなぁ。
すると少し遠くの方から声が聞こえてきた。
「そっちに王女はいたか!?」
「いや、見当たらない。向こうを探せ!」
女性もその声を聞いたようだが、とても慌てた様子だ。
「え、あっ……ど、どうしよ……」
「えっと、どうしたの……?」
目に涙を浮かばせながら俺の服をつかみ「助けて!」と声を上げる。
何が何だかわからないが、この女性を放っておくわけにもいかない。
女性の腕を引いて、人気の少ない路地へと走っていく。
「はぁはぁ、ここならしばらく見つからないだろう」
そう言って、壁にもたれかかる。
女性も息を切らしているようで、その場にしゃがみ込む。
「ところで、どうしたんだよ。急に助けてなんて」
何かを言いたそうにしているがなかなか言い出せないようだ。
しかし、意を決したのかゆっくりと口を開く。
「わ、私はセントウィス王国第二王女、リディア・ファンファーニと言います。さっきのは私を追ってる王国の騎士たちです……」
俺は目が点になり、啞然としているしかなかった。
少しの間、俺の思考は鈍ったがやがて正常に戻る。
「おう……じょ……王国の騎士……え、えぇぇぇぇぇぇ⁉」
思わず叫んでしまう。
するとリディアは慌てて俺の口を手で押さえつける。
「お、大声出さないで、見つかっちゃう!」
「す、すみません、王女様」
「えっと……リディアでいいよ。王国とは決別してるし……」
「それはどういうこと?」
リディアは俯くと、少し悲しげな表情を浮かべ話し始める。
「私は……ずっと王族のふるまいというのが嫌で仕方なかったの。ずっと、町で楽しそうに遊んでる同い年の子たちが羨ましかったの。自由なんてなくて規則に縛られた生活が苦痛でしかなかったの」
王族というのは自分なんかと全く違う存在で、何不自由ない生活をしてるもんだと思っていた。
しかし、リディアは逆だ。
王族ということに苦悩しているようだ。
「……それで逃げてきたのか?」
「それだけじゃないの。私、お父様のやり方が納得いかないの。権力にものを言わせて無理な命令を与えたり、近くの村が襲われた時だって小さな村くらい放っておけばいいなんて言って何もしない……私はそれが許せなくて……」
セントウィス王国の国王、リーデルト・ファンファーニ。
噂では聞いたことがあるが、暴君であるや独裁者といった悪評は耳にしたことがある。
「私は、そんな国のあり方に不満を持って、私が王国を変えようと考えたの」
「なるほど……そういう事情だったんだな。でもこれからどうするんだ?」
「……どうするって?」
「この町にいても見つかるのは時間の問題だろ? どこかに当てでもあるのか?」
俺がそのように聞くも、リディアきょとんとしている。
「ええっと……まさかとは思うけど、これからのこととか考えてるのか?」
リディアは目線をそらし、黙ったままだ。
どうやら何も考えておらず、計画無しに行動していたらしい。
俺は大きくため息をつくと、身に着けていたマントをリディアに渡す。
「とりあえずこれでも着ておいて。その格好だと目立っちゃうから」
「え、あ、うん……ありがとう……」
リディアがマントを身に着けるのを確認すると、ゆっくりと歩きだす。
「まずは服をどうにかしようか。マントを着てフードを被ってるとはいえ、やっぱりその格好は目立っちゃうしな」
「あっ、うん。そうだね」
リディアを連れて、路地を抜けて服屋を目指す。