旅の始まり、一人で生きる君
「母さん。絶対見つけてくるから。だから待っててくれよ」
「...うん。気をつけて行ってくるんだよ」
「あぁ」
ベットに横たわったまま俺の方に優しく微笑む母に別れを告げる。そして俺は家の外に出た。
「お兄ちゃん...」
「リア。母さんのこと頼むな」
「...うん」
悲しげな顔でそう答える7つ下の妹。今までずっと一緒だったから寂しい気持ちは大きかった。俺は妹を抱きしめた。
「頑張ってねお兄ちゃん。絶対お母さんを助けてね」
「あぁ。任せろ」
そして俺は妹を離し、最後に父の方を向いた。
「じゃあ父さん。あとは任せたよ」
「...あぁ。リヒト生きて帰ってくるんだぞ」
「もちろん」
そして俺は笑顔で歩き出す。母さんを救うために...。
母さんが盗賊に襲われたのは2ヶ月前のことだ。買い物帰りの母さんの金を狙ったものだった。揉み合いになり、盗賊は母さんの体を突き飛ばした。運が悪いことに突き飛ばされた先は崖だった。母さんはそのまま崖から落ちた。幸い一命はとりとめたが、もう二度と動けない体になってしまった。そんな時にとある話をしてきたのは友だった。
「なぁ、知ってるか?」
「なにを?」
「隣国にあるハレン草ってのを煎じて飲むとどんな病気も怪我も治しちまうって話だぜ」
「本当にそんなのがあるのか?」
「わかんねぇけどあるって噂は聞くぜ」
そんな奇跡みたいな草があるわけないと思いつつ、本当にあったなら母さんを助けられるかもしれないという思いがあった。
「俺隣の国行ってみる」
「はぁ!?お前まじで言ってんの?何日かかると思ってんだよ」
「それでも今の俺には必要なんだよ」
母さんが夜一人で泣いてる声を聞いていた。父も妹もこの2ヶ月元気がなかった。そんな家族を救うにはその草で母さんを動けるようにするしかないと思った。
「昔よりは大分マシになったけど、外は危ねぇぞ?」
昔は国同士で資源や土地を巡って争いが起こっていた。外を歩いたら他の国の兵がいるということも容易にあったらしい。
「向かってくる奴がいたら倒すのがヒーローってやつだろ」
それでも俺は行くしかなかった。
「はぁ〜...。はいはい。気をつけて行ってきな」
「あぁ。ありがとう」
そして俺はハレン草を求めて隣国へ行くことを決意した。
森の中でひっそりと暮らす俺たちのような人には馬などの移動するものを買う金はない。地道に歩いていくしかなかった。しかし諦めずに歩き続ければいつか隣国に着く。その思いだけで俺はまた一歩進む。
そして1週間が過ぎた。
「腹減ったなぁ」
周りを見ると木ばかり。しかし少し先に店があるのが見えた。
「よし。そこで飯食おう」
そして俺はその店に入った。
「やってる?」
「あぁやってるよ」
そう答えたのは店のおばあさんだった。俺の他に客はいなかった。
「あまり金ねぇから悪いけど一番安いのちょーだい」
「はいよ」
そしておばあさんは店のキッチンに入り、料理を作り始めた。料理を作りながらおばあさんは俺に話しかける。
「あんた旅人かい?」
「あぁ旅してるんだよ。ちょっと隣の国に用があってな」
「へぇ〜。何の用だい」
「ハレン草って知ってるか?その草飲むと病気も怪我も治っちまうらしいんだ。それが欲しくてな」
「ふぅーん。そんな草は知らないけど何でも治す歌姫は知ってるよ」
「歌姫?」
「あぁ。その子の歌声を聴くと病気も怪我も治しちまうらしいんだ。それが結構噂されてて奇跡の歌姫なんて呼ばれてるよ」
「へぇ〜」
ハレン草だったり奇跡の歌姫だったり...。この世には信じられない噂が沢山あるんだなぁと思った。
「その歌姫っての何処にいるか知ってるか?」
「いや。何でも世界を転々としてるらしくてね...。今何処にいるかは誰にも分からないらしいんだ」
「へぇ〜」
その奇跡の歌姫に母さんを治してもらいたいとも思ったが現在地がわからないのであればどうしようもない。俺はある場所がある程度限定されているハレン草に頼ることにした。
「はい。おまち」
そう言って持ってこられたのは焼かれたソーセージとジャガイモに溶かしたバターを混ぜたものだった。
「ありがとう。いただきます」
「あぁ。ゆっくり食べな」
久しぶりに食べる飯は最高に美味しかった。頬張る俺をおばあさんは優しく見つめる。その眼差しが母を思い出させて少し心がキュッとなった。
そして俺は食べ終わり、金を払った。
「美味しかったよ。ありがとう。じゃあな、おばあさん」
「あぁ。気をつけて行くんだよ」
そして俺はまた歩き出した。
「あと何日くらい歩けば良いんだよ...」
地図からはあとどれくらいで着くかは分からなかった。それでも今は行くべき場所を目指して歩き続けるしかなかった。
「さっさとここから出て行け!」
突然大きな声が聞こえてきた。声の聞こえた方を見ると10人くらいいる大人が一人の男の子に向けて暴言を吐いている。そしてその中の一人の大人が男の子に石をぶつけた。男の子は逃げるように走って行った。
「おっ、おい!」
俺は咄嗟にその男の子を追いかけた。
「待てよ!おい!」
その子の足はとても早かった。追いつけないと思ったが、途中で男の子が転んだ。彼は痛がりながら地面にうずくまっている。俺はその子に近づいた。
「おい、大丈夫か?」
「やめろ!離せ!俺は...俺は...」
声を荒げているがその体は震えていた。そして彼の頭には獣の耳のようなモノが生えていた。
「落ち着けって!俺はあんな奴らと違って酷いこともいわねぇし、石も投げないから...」
俺は優しく彼の背中に手を添えた。すると落ち着きを取り戻してきたのか、俺の方をじっと見た。
「...本当か...?」
「当たり前だろ。お前頭から血出てんじゃねぇか!早く治療してくれる人に...」
俺は医療用具を持っていなかったため手当ができなかった。近くに住んでる人といったら...。
「あのおばあさんか」
俺は彼を背中に乗せた。
「おいっ!?」
「ちょっと我慢してろよ」
そして俺は彼を乗せて走り出した。
「はぁ...。はぁ...。おばあさんごめん...」
「おや?早いお帰りで...その子怪我してるのかい?」
「あぁ。包帯とかあるか?」
「ちょっと待ってな」
そしておばあさんは家の奥に行った。俺は彼を下ろし、椅子に座らせた。
「頭以外怪我してないか?」
「...あぁ。大丈夫」
ぱっと見ではあるが、確かに頭以外は酷い怪我はしていないようだった。
「持ってきたよ。ちょっと見せてみな」
戻ってきたおばあさんが彼を診る。おばあさんは手つき良く手当をした。
「上手いんだな...手当...」
「息子がヤンチャ坊主だったからね。よく頭から血出して帰ってきたのを手当してたんだよ」
その息子は今何処に居るのか気になったがここで聞くのは野暮だと思い、聞くのはやめた。
そしておばあさんの手当が終わった。
「あの...ありがとう...」
「あぁ。あんた狼少年かい?」
「狼少年?」
狼の血が混ざって生まれてきた子を狼少年と呼ぶということは聞いたことがあった。しかしその存在が実際にいることは知らなかった。
「この耳」
そう言っておばあさんは彼の頭から生えている耳を触る。
「これは狼少年の子がもつものだよ」
彼は視線を下に落としながら答えた。
「...うん」
その声はとても暗く、小さいものだった。
「なんで...さっき石投げられてたんだ?」
聞かれたくないことかもしれないが、俺にはあの時何があったのか知る義務があると思った。そのため俺は彼に聞いた。
「俺この耳のせいであの村の人から恐れられてたんだ。姿を見られればこっちに来るなって怯えられて...。そんな毎日を過ごしてた。それでさっき森で倒れてる子を見つけた...。俺村に運ぼうとしたんだ。その時村の人に見つかって...」
そう言って彼は涙を零した。
「それであんなことされたのか...?」
「うん。俺がその子を食べようとしていたとでも思ったのかな...。俺を蔑む目で皆見てた...。俺はただ助けたかった...だけなのに...」
胸が痛くなる声だった。ただ助けたかった。その善意を理解されることもなく、悪人と決めつけ人は彼を傷つけた。中身はこんなに優しい男の子なのに少し人と違う所があるという理由で平気で傷つける。そんな人に怒りが芽生えた。
「なんで...なんでお前が泣かないといけないんだよ!お前はただ...人を助けようとしただけなのに...」
男の子は涙を拭って軽く笑った。
「俺が狼少年だからかな」
といった。その顔は何かを諦めた時の顔だった。
「狼とか人とか関係ないさ」
「おばあさん...?」
おばあさんがキッチンへ向かいながら言う。
「大切なのは人の心をちゃんと見れるか。その人がどんな人間なのかを自分の目で見れるかどうかなんだよ」
彼は真っ直ぐな瞳でおばあさんの話を聞く。
「どれだけ人に酷い仕打ちを受けても一人の子を救おうとしたお前は偉いよ」
あぁ、そうか。村の人に怒りを覚えるよりも人を助けようとした彼の善意に目を向けなければいけなかった。彼に背中を向けて彼に酷い仕打ちをした大人を睨むよりも彼と向き合い優しく包み込まなければいけなかったと思った。
「俺は...」
「誰がなんと言おうとお前は優しくて温かい心を持った人間だよ」
おばあさんの手にはイチゴやバナナなどのフルーツの盛り合わせがあった。それを男の子に差し出しながら言った。
「...食べていいのか?」
「あぁいいよ」
「...ありがとう」
男の子はフルーツを受け取り一口一口大切に食べた。
「...おいしい...おいしいよ...」
「そうかい。それは良かった」
男の子の目から大粒の涙が溢れていた。
「名前はなんて言うんだい?」
「グリフ...」
「よし。グリフその傷が治るまでここに泊まるかい?」
「えっ良いのか?」
「あぁ。そんな状態で外に放り出すなんて心配だからね」
そう言われたグリフは顔を輝かせたがすぐに申し訳なさそうな顔になった。
「...迷惑かけられない」
「迷惑なんかじゃないさ。人の好意には甘えるもんだよ」
「...うん。ありがとう」
おばあさんの優しい声に促されグリフは泊まることになった。
「あんたも泊まってくかい?」
「えっ。俺も?」
「あぁ。どうせここら辺で野宿するんだろ?それにあんたが連れてきた子だ。最後まで面倒みな」
温かい家で夜を過ごしたいという気持ちもあったし、何よりグリフのことが心配だった。
「あぁ。厄介になるよ」
俺もおばあさんの家に泊まることにした。
「でも二人も急に泊まることにして大丈夫か?家の他の人とか...」
「大丈夫だよ。今は私一人だし、元々3人で暮らしてたからね」
「ふーん」
きっと旦那と息子のことだろう。今は一人ということはその二人は違う場所にいるのだろうと思った。
「今日はもう遅い。風呂で温まって寝な」
「あぁ。そうさせてもらうよ」
グリフは黙ったまま椅子から立ち上がった。そして俺たちはそれぞれ風呂に入らせてもらい、別々の部屋で眠らせてもらった。
目を閉じるとグリフに吐かれていた暴言が頭に流れる。その声は鋭く、痛いものだった。あんな言葉を何度言われてきたのだろう...。そう思うだけで俺の胸は苦しくなった。
夜が明け、俺たちは起きた。3人で朝ごはんを食べ、グリフとおばあさんは他愛ない話をしていた。俺は昼頃家を出て、グリフがいた村に向かった。
「フレン村...か」
名前は聞いた事あったが、実際に来たことはなかった。俺は村に入った。すると店が立ち並んでおり、人は多く賑わっていた。
「よぉ兄ちゃん。肉あるよ?くわねぇか?」
そう言いながら串に刺さった肉を差し出してきたのは昨日グリフに酷いことを言っていた大人だった。
「あ...いや、俺は...」
「ん?なんだ?あんた旅人か?じゃあこの村に来た記念にこれ一本食べていきな」
その大人は俺に串の肉を持たせた。
「い、いや、良いよ」
「良いってことよ。ほら食べてみろ」
優しい笑顔を振りまく人。それは昨日グリフを蔑む目で見ていた人とは別人だった。
俺は一口肉を口に入れた。
「うまいか?」
「...うん」
「そうか。良かった」
そして俺は肉を食べ終えた。
「ここ良いところだからよ。また来たくなったら来たら良いよ」
「なんで...」
「ん?」
どうして見ず知らずの俺に食べ物を渡す優しさがあるのにグリフにその優しさを向けられないんだろう。どうしてグリフの言葉を聞こうとしてくれなかったのだろう。
狼少年は確かに恐れられている。しかし誰もその実態を知っている人はいなかったのではないか?昔から言われてきたことを鵜呑みにして勝手に恐れている。どうして人は自分の目で人を見ようとしないのだろう。
俺は走り出した。そしてグリフがいるおばあさんの家に戻った。
「あ、おかえり」
「グリフ...」
「な...なに...」
泣きそうな俺の顔を見て不思議な顔をするグリフ。俺はグリフを抱きしめた。
「お前さ...人のこと嫌いか?」
グリフは少しの間沈黙し、口を開いた。
「...怖い思いもしたし、嫌いじゃないって言ったら嘘になる。でも俺は人と仲良くなりたい。笑って話せるようになりたいんだ」
この子はどれほど優しい人なのだろう。あんな言葉をかけられたのに人と仲良くなりたいと言う広い心を持っている。そんな優しいグリフが理解されないなんてあってはならない。そう思うのにグリフにはもう人に近づいて欲しくないと思う自分もいた。痛い思いをするくらいなら人と関わらなくて良いのではないかと思う自分もいた。
「あんたは強い子だね」
奥で聞いていたらしいおばあさんが出てきて言った。
「俺は...そんな...」
「理解されたいなら話せばいい。それで理解されなかったらそういう運命だったって思って諦めていいんだよ」
「...やっぱり理解されないかもしれないんだな」
「色んな人がいるからね。何を言っても理解しない人もいれば、何も話さずともお前を背中に背負う人もいる」
俺のことを言っていると分かって少し顔が赤くなった。
「少なくともここに2人お前を理解してる人が居るからね」
グリフは俺とおばあさんの顔を交互に見る。
「...うん。ありがとう。俺村の人に話しにいくよ。人を食べようなんてしてない、助けたかっただけだったって」
「そうかい」
おばあさんは優しく微笑みグリフの頭を撫でる。
「でも行くなら怪我が治ってからにしな」
「分かったよ」
そしておばあさんは家の奥に行った。
「おばあさん」
「ん?」
俺はグリフから離れ、おばあさんに話しかける。
「本当に村の人に話しに行った方が良いと思うのか?石投げるような奴らだぞ?そんな人達に何言ったって...」
「それならそういう運命なんだよ」
「運命って...。それでまた石投げられたらどうするんだよ!」
「あんたが守ってやれば良い」
「え?」
「今までは一人で戦ってた。でも今は違う。グリフを守る人がいる。それとも石は痛いからあの子を守らないなんて言うのかい?」
「そんなことねぇけど...」
「私はね何もせず諦めて欲しくないんだよ。可能性を自分の手で潰して欲しくない。自分にできること全てをして、それでも上手くいかなかった時だけ諦めて欲しいんだ」
グリフは村の人に理解されることを望んでいた。このまま何も言わず理解されることを諦めたらおばあさんの言う何もせず諦めることになるのか...。
「それで更に傷ついてもいいのか?」
「...その時はその傷が治るまで私が傍にいるさ」
「...なるほどね...」
グリフに痛い思いはして欲しくない。でもグリフという人の良さを皆に理解してほしい。その両方の気持ちで揺らいでいた俺はおばあさんの言葉を受け止め、グリフと村の人を話してもらおうと思った。
そして数日が経ち、グリフの怪我は治った。
「グリフ。行くか?」
「あぁ。行くよ」
「よし!じゃあ行くぞ!」
そして俺たちはフレン村に向かった。おばあさんは家で待機してることになった。
「...怖いなら辞めてもいいんだぞ」
「大丈夫だよ。そういえば兄ちゃんの名前聞いてなかったな」
「あぁ。リヒトって言うんだ」
「リヒト。ありがとう」
「...あぁ」
拗れた性格になっても仕方ないと思うのにこの子はとても素直で真っ直ぐだ。どんな環境でも優しさを持てるグリフをすごいと思った。
そして俺たちは村の入り口に着いた。
「行けるか?」
「あ...俺...」
見るとグリフの足が少し震えていた。今までのことを思い出しているのだろう。
「グリフ...」
「お前...!」
声の聞こえた方を見ると2人の大人がグリフを指差している。そしてズカズカと近づき、グリフの手を掴んだ。
「何しにきた!また人を狙ってきたのか!?」
「お前もこいつの仲間か!」
グリフに大声を浴びせ、俺にも疑いの目を向けてきた。
「ち、違うんだよ...俺たちは」
「俺人なんて食べてねぇ」
グリフは意を決して声をあげた。
「あ?」
「あの日も森で倒れてたから村まで届けようとしただけなんだ」
「そんな話信じられるかよ」
「本当なんだ!信じてくれ!」
大人たちとグリフの声に周りはざわつき始め、人が集まってくる。
「どうせてきとうなこと言って人を言いくるめて一気に食っちまう気だろ」
「なんで信じてくれねぇんだよ!俺はただあんたたちと一緒に過ごしてみたかっただけなんだ!俺は...ただ...」
グリフの目から涙が溢れる。
「グリフ...もう...」
「やめて!」
そう言って大人とグリフの間に割り込んできたのは小さな女の子だった。
「君は...」
「このお兄ちゃんはただ私を助けようとしただけだよ!森で頭痛くなって倒れた私の傍に来てくれたんだよ!」
「それはお前を食べようとして...」
「心配そうに大丈夫かって言ってくれた声聞こえてた!優しく顔に触れてくれた温もりも覚えてる!そんな人が私を食べるわけないじゃん!」
女の子は大人に臆することなく言い続ける。それを見るグリフの瞳には光が宿っていた。
そして女の子はグリフの方を向く。
「助けようとしてくれてありがとう!今度一緒に遊ぼうよ!」
突然の提案にグリフは戸惑っている。
「えと、あの...」
「ね!お兄ちゃん!」
「あ...うん...。遊ぼう...」
「やったぁ!」
女の子は飛んで喜んでいる。
「何をふざけたこと言ってるんだ!」
黙ってその様子を見ていた大人たちが怒鳴る。
「こんなやつの傍に寄るんじゃない」
「どうしてこの子をそんな酷い奴みたいに言うんですか」
隣にいることしかしていなかった俺が口を挟む。
「狼少年だぞ?そんな奴がいい奴な訳...」
「なんでそう決めるんですか?この子が何をしました?貴方達に危害を加えましたか?何か悪さをしましたか?」
「それは...でもきっと心の中で...」
「心の中ってなんですか?この子が何を考えているのか分かるんですか?この子の言葉を聞こうともしなかった貴方達が?」
「な、何が言いたいんだよ!」
「この子はただ貴方達と一緒に過ごしてみたかったって言ったでしょう。それが全てなんですよ!他の気持ちなんてない。どうしてそんな1つの気持ちを受け入れてやろうと思えないんだよ!」
「だっ黙れ!」
大人達はばつが悪そうに俺の言葉に答える。
「ちょっとだけでいいから...。この子のこと見てやってくれよ...。狼少年とかそんなの関係なく...一人の人間として見てやってくれよ...」
「...ちっ」
大人達は舌打ちをし、女の子も連れて帰っていった。
グリフは彼らが帰っていく様子を見つめている。
「...大丈夫か?」
「...うん。俺の気持ちは伝えられた。それにあの女の子はちゃんと俺のこと分かってくれたから...」
「...そうだな」
そして俺たちはおばあさんの家に戻る。俺よりも幼いグリフ。こんなに小さな子が今まで一人で頑張っていたと思うと目頭が熱くなった。
「グリフはこれからどうするんだ?」
「うーん...」
グリフが悩んでる間におばあさんの家に着いた。
「戻ったぞ」
「どうだったんだい?」
「俺の気持ちは言えた...。全員に分かってもらうことは出来なかったけど、少しの人には伝えることができたよ」
「そうかい」
そう聞いたおばあさんは優しくグリフを抱きしめた。
「頑張ったね」
「...うん」
その時のグリフの笑顔は会った中で一番温かかった。
「グリフ。一緒に住まないかい?」
おばあさんはグリフに提案した。グリフは笑顔のまま答える。
「ありがとう。でも俺はリヒトと一緒に旅に出るよ」
「...は!?」
いきなり俺の名前を言われて驚いた。
「ま、待て。そんなこと言ってなかったじゃないか」
「さっき思いついたことだからな」
「い、いや、待て。俺がこれから何処に行くのか知ってるのか?」
「知らない。でも何処へでも着いてくから」
「まじかよ...」
満面の笑みで言われてしまっては邪険に扱うことはできない。
「ははっ。良いじゃないか。しっかり守ってやるんだよ」
おばあさんも笑いながら言う。
「仕方ねぇな」
そう言って俺も笑う。3人がいるこの場には温かい空気が流れていた。
「これから先今回みたいな理不尽に酷い仕打ちを受けることがあるかもしれない。それでも周りをただ恨むのではなく、明るい未来を信じて行動してほしい。あんた達のより長く生きてる私からのアドバイスだよ」
俺とグリフは顔を見合わせる。
「うん」
そして二人揃って返事をした。
「あんたらは良い子だね。これ持っていきな」
そう言っておばあさんは医療用具を差し出した。
「どうせまた怪我でもするんだろ。自分たちで何とか出来るようにするんだよ」
「あぁ。色々ありがとな。じゃあ行ってきます」
「行ってきます」
そして俺とグリフはおばあさんに別れを告げた。おばあさんは手を振って見送ってくれた。
一人で歩き始めた俺の旅に仲間が加わったのだった。