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記憶
町中を歩いていると声をかけられた。相手は親しげに自分の名前を呼ぶが、誰だったか思い出せない。
そんな経験したことはないだろうか。
その相手を思い出せないのが単なる物忘れならばいい。
しかしどれだけ思い出そうとしても、あるいは周囲の人に聞いても一向に誰だかわからない。そんなときには注意が必要だ。
きっとあなたはソレに出会ってしまったことがあるのだ。
しかしその時の記憶を、ソレが誰であるのかを思い出してはいけないと本能で知っている。だからこそ思い出せない。
もしも何かの拍子に思い出してしまえば、ソレはあなたを決して逃がしはしないだろう。
忘れることを忌避してはいけない。忘れたからこそ無事でいられることもあるのだから。