正月ラーメン
それはセブンスターが240円だった頃の話。
明け方まで麻雀をした私は、普段ならツケで済ませる負けを、年末という事で過去の精算分まで支払ってスッカラカンだった。
一枚だけ残った千円札で買ったタバコを吸いながらサークル棟に戻ると、
『おろさないとお金ないな〜』
と考えつつベンチに座ったら寝てしまい……目がさめると周囲は真っ暗だった。コンビニで弁当を買うと、ゲームをしながら食べて、また寝た。(部屋が汚な過ぎて、サークル棟に住んでいた)
翌日、郵便局に行った帰りに、サークル棟に戻った私は、ベンチに座ると途方にくれた。
郵便局には「年内の営業は終了しました。年明けは四日からの営業となります」の張り紙。
知り合いは皆実家に帰り、当時はケータイも無く、他府県民の大学に行っていた一年生の私は、知り合いの実家の電話番号など知る由もなく……
手持ちのお金は二百円強しかない。ろくに店もやっていないこの年末年始の五日間をどう生き延びるか……考える事を放棄した私は、とりあえずゲームの電源を入れた。
それでも腹は減り、唯一開いてるコンビニに行き、袋麺2つとチロルチョコを3個購入すると、資金は尽きた。
一つ目のラーメンを作り食べる。焦燥感でいつもより味がしないせいか、すぐに食べ終わった。
腹が減ったら残りの汁を飲み、それを肴に、サークル室にあった焼酎を飲む。一升瓶に半分ほど残ったそれは、この生活唯一の希望。五臓六腑に染み渡る希望は暖かな眠りをもたらし、再び目覚めると大晦日だった。
年越しそばに残りの袋麺、新年のお雑煮はラーメンの残り汁。合間にチロルチョコを食べ、タバコも尽き、唯一あるのは給湯器のお湯のみ。
その状態で三が日を乗り切ったらしい。というのも記憶はそこで途絶えている。
最初に登校してきた先輩を捕まえて、ラーメンを奢ってもらった。殺す勢いで飯を食わせて欲しいと懇願したらしい。
部室には噛んだとおぼしき紙が散乱していたとかいないとか、記憶に乏しく詳細は不明。
あの時以来、たまに一人で袋麺を食べると、スープを全部飲んでしまうが致し方あるまい。奥さんがいるときは目を盗んで飲んでいる。ラーメンのスープには飢えを凌いでくれた恩があるのだ。
先輩の言葉は覚えている。
「野良犬の臭いがする」
と言われた。一週間くらいは風呂に入っていなかった、と思う。