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学校へ行こう!  作者: 青梅 刹那
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前編

 

 ある日の朝、8時を少し過ぎた頃。私は毎日の日課である犬の散歩をしていると、背後から

 タッタッタッタッタ・・・・・・

 と子気味良い音が近づいて来た。


 なんの音だろうと、音のする方へ顔を向けると通学かばんを背負った少年がこちらへと走ってくる。よく見てみると、どうやら向かいの家に住んでいる家族の息子さんのようだ。


 しかし、どうにもその様子がおかしい。いつもは私を見かけると「こんにちは」と一言声をかけてくれるのだが今日はそれも無く、それどころか「そこをどけや!このババア!!」と言ってきそうなほど恐いを私に向けながら走ってくるのだ。


 その迫力に思わず「ひっ」小さな悲鳴をあげてしまうが、その少年は私には目もくれずにそのまま走り去っていった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 8時8分


「ひっひっふっふっひっひっふっふっ……」


 いつもより息が上がるのが早い。ペースが早過ぎただろうか?


 少し前から両足の裏から鈍い痛みが伝わって来る。こんな事ならランニング用の靴を履いてこればよかった。


 朝特有の心地よい風が頬を撫でるが、その風に何かを感じる余裕はない。


 そういえば、さっき向かいの家のおばさんとすれ違った。挨拶をしなかったのを少し申し訳なく思うが、今は挨拶をしている余裕も当然ない。


 チラリと腕時計を見てみるが、まだ走り始めて数分しか経っていない。元はといえば自分が悪いのは分かっている。でも、なんでこんな事になってしまったんだろう?


 足の痛みと少しの息のし辛さを誤魔化すように、こんな事になる羽目になった少し前の自分を思いかえした。




 7時55分


 ・・・ジリリリリリリリリリ・・・・・バシッ!!


 ふっ……ん……ふあ〜


 何時ものように目覚ましを止め、何時ものように伸びをし、寝ている間に固まった筋肉をほぐしつつ、何時ものように目覚まし時計の時刻を確かめると、そこには何時ものように7時55分を表示してい……る……は?7時55分!?


 あれ、なんで!?

 目覚ましの鳴る時刻は6時55分に固定してたはずなのに……


 想定していた時刻との違いに思わず二度見をしてしまう。そんなはずはないと自分に言い聞かせながら、部屋の隅に掛かっている時計を見るが、無情にも壁掛け時計の針が指し示す時間も目覚まし時計と同じ7時55分……これはやばい。


 僕が通っている学校は家から少し遠く、通学バスを使って10分くらいかかる位置にあるのだ。さらに、住んでいるところがちょっとした田舎なので7時、7時30分、8時、8時30分……と30分毎にしかバスがこない。


 つまり僕が学校に間に合わせていくには、あと5分で着替えて、朝食を食べて、学校の用意をして、バス停に行かないといけない。


 …………と言ってる間にあと4分!?絶対間に合わないだろこれ!




 8時01分


  取り敢えず、コマ送りのように素早く動いてバス停に来たものの、当然のようにバスは発車した後だった。

 ちらりと腕時計を見る。進学とともに買ってもらった真新しい腕時計は、残酷にも8時1分を指している。


 どうしようか?一瞬、遅刻回避を諦めそうになるが、なんとか気持ちを持ち直す。考えろ、どうすれば学校に遅れずに行ける?……そうだ!今なら走って行けばギリギリ学校に間に合うかも!!


 家から学校までの距離は7キロとちょっと、僕の1.5キロのベストタイムは5分ぴったり。と言うことはここから学校までを7.5キロだとすると単純計算で25分で着くことができる。実際はもう少し遅れるだろうけどそれでも時間に間に合う可能性は充分にある!


 そう思った僕は、善は急げとばかりに颯爽と走り出した。




 8時9分


 そうだ、あの時は確かにそれが1番いい方法だと思っていた。実際に、計算上は走っても間に合う時間帯だったし。


 でも、よくよく考えて見ると家にはまだお母さんが寝ていたはずだから、すぐに家に帰って頼めば車で送ってくれたかもしれない。


 それにもしダメでも、自転車に乗れば、走って行くよりもはるかに楽だし、早く着くし。


 あぁ、もうどうして僕はそんな簡単なことも思いつかなかったんだ。このバカ!


「ひっひっふっふっひっひっふっふっ……」


 少し前の、軽率すぎる自分の行動に突っ込みながらも、部活の先輩に言われた長距離を走る際の呼吸法を守り、学校を目指す。


 ところで、この呼吸法って何か名前がつけられてた気がする。何だったっけなー……ラマーズ法?いや、あれは用途が違う。うーん、何だったかな?




 8時16分


「ひっひっふっふっひっひっふっふっ……」


 しばらく走りながら自己嫌悪に陥っていた僕だったが、全てを吹っ切り、楽しんで走ることにした。

 焦るだけしんどいし、変なことを考えても脳に酸素を無駄に行き渡らせるだけだしね。


 そう考えると、自然と足取りは軽やかになり、景色を見る余裕も現れてきた。この調子でならなんでもできるきがする。そんな気持ちを胸に秘めながら、途中で見かけた友達に向かって手を振った。そんな光景が奇妙だったのか友達は困惑した様な顔を見せる。そんなに僕が挨拶するのが変だったのかな?まあいいや。うーん、空気がうまい!




 8時19分


「ひっひっふーひっひっふーひっひっふー……」


 先輩から教えてもらったのとは何処か違う呼吸法を実践しつつ、楽しいこと(げんじつとうひ)を考えながら長い通学路を走る。しかし、現実は残酷ですぐに楽しいこと(げんじつとうひ)を考える気にもならなくなる光景を見させられる。


「ひっひっふーひっひっふー……っ!」


 こ、これは……

 目の前にはスキー場の様な急勾配の大斜面が僕を待ち受けていた。


 この坂は通称、心臓破りの坂。

 ありきたりな名前と言われるかもしれないが、最大斜度30度越えのこの坂こそ、そう呼ばれるにふさわしいと僕は思ってる。……とまあ、現実逃避はこれくらいにして登らないと。

 ちくしょう、なんでこんなことをしないといけないんだよー!!

 ああもう……頑張れ僕。この坂を越えれば学校はすぐだ!


 学校まであと、2.2キロメートル

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