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転生の魔女ベルリエナ  作者: Thera
Chapter.1 イースフェイオン修道会
5/8

赤髪の修道女


 目が醒めると、石造りの堅固そうな天井が目に映った。


「……? 」


 あれ?

 おかしい。私はもう死んだはずだ。業火の聖母に閉じ込められて、蒸し焼きにされて。

 私が今見ているこの世界は、夢なのだろうか?

 いや……そもそも馬車に轢かれた時点で私が気絶して、変な夢を見ていただけなのだろうか。


「…… 」


 そんな事を考えながら、右手を持ち上げる。

 腕には包帯が巻いてあって、隙間からは緑色の軟膏がうっすらと見える。左手も似たような状況だ。

 その手を頭に触れさせると、頭にも包帯が巻いてあった。私は今、頭も怪我しているらしい。

 右手の包帯を外すと、広い範囲を火傷しているが見えた。

 ……まるで、焼けた金属を押し付けられたかのように。


「お、目ぇ覚めたか 」


 そんな声がして、私はガバッと身を起こした。

 途端に目眩がして、歪む視界。腕を前についた私に、声の主は呆れたように言った。


「おい、急に起きんなよ。アタマ打ってるんだからさ 」


「なんで…… 」


「ん? 」


「なんでわたし、怪我してるの? 」


 私の質問に、声の主はしばし立ち止まった。

 三、二、一。

 そのくらいの間を置いて__


「あはは、そんな質問の仕方をしてくる奴は初めてだよ! 普通は『なんで私は生きてるの 』って来るのにさ! 」


 __大爆笑。

 私が寝ているベットを彼女がバッシバシと叩くたびに、小さな羽が空中に舞い上がる。

 呆れて見ていた私は、その人が修道服を着ている事に気付いた。髪は赤みがかった金髪で、金の円盤を編み込んでぶら下げている。その横に長く伸びた耳は、本人の笑い声に合わせて小刻みに震えていた。


(赤髪に尖った耳……この人もしかして、ヴィリテ王国のリセルト人? )


 帝国から離れた北方に浮かぶ島、ヴィリテ島。

 赤髪に尖った耳が特徴的な人たちが暮らしている国家だ。

 あまり詳しい話は聞いた事がないけど、最近帝国に占領されて、属州になったと聞いている。私の故郷らしい土地と場所と同じように。

 まぁ、彼女の外見的な特徴と服装のちぐはぐさは今回大した問題じゃない。


「……あの、ごめんなさい。状況をおしえてくれるとたすかるんだけど 」


 今私が置かれている状況を的確に説明できる人物なら、どこの誰でも構わない。

 私が答えを促し黙っていると、彼女は茶色の瞳を瞬かせて言った。


「あぁ、そっか。紹介が遅れたね。アタシは…… 」


「はい 」


「オマエを『なの隊長』に合わせなきゃいけないんだった 」


「……は? 」


 会話が成り立っていない。

 この人、見たところ十五、六歳にはなってるはずなんだけど。

 あ、もしかして帝国公用語に不慣れで私の会話を曲解しちゃったとかそういう展開?

 __それなら、もう一度懇切丁寧に説明する必要があるだろう。頑張れ私。


「いや、あの。わたしは、あなたが誰なのかってことと、どうしてわたしがここにいるのかってことを知りたくてですね 」


「あ、オマエ立てるよね。足はヤケドしてないし 」


「え、いや、ちょっと待ってよ! 」


 乱暴にベットから引きずり出され、冷たい石の床に裸足で降り立たされる。

 アタマ打ってるんだから急に動くなって言ったのあんただよね⁈ というツッコミを喉に押し戻して、私は慌てて叫んだ。


「だから、さきに状況をおしえて! わたしはどうなったの? なんで生きてんの⁈ 」


「んー? オマエ、わりと混乱してるなー 」


 扉を出たところで、その人は振り返る。

 姿勢を立て直し、私よりもずっと大柄なその人を振り仰いだところで__私はギョッと目を見開いた。

 部屋の作りから、ここが石造りの建物ということは分かっていた。

 でも、一見寒々しいくらいに広いアーチ状の廊下。壁に何枚も貼り付けられたモザイク画。ステンドグラスに聖母アラディルの像。

 これらの装飾物が意味する事は、そう多くはない。


「__気付いたな、ここが何の施設なのかってことに 」


 聞こえてくる高らかな聖歌に顔を引攣らせる私に、修道女の黒いベールを被った彼女はニヤリと笑ってみせた。

 私の瞳を覗き込む茶色の瞳。

 その瞳孔は、まるで鹿のモノのように横に向かって裂けている。


「アタシは説明とか下手だから、説明はぜんぶ『なの隊長』に任せるわ!」


 いやあなたが天才的かつ天災的に説明下手なのはこの短時間の会話だけで超明白に分かりましたよ、ええ。っていうか『なの隊長』って誰。

 ……なんて言うのは微妙に憚られ、私は半ば引きずられるようにして廊下を進んだ。

 風に触れた手が、ヒリヒリと痛む。その痛みこそが、私が確かに死を覚悟したはずのあの『業火の聖母』の存在を否が応でも思い出させる。


 そう。私は確かに、『業火の聖母』で処刑されたはずなのだ。

 なんで生きている? なんで……


 答えを模索する私の思考など関係ないと言うように、その人は私の手を引いたままズンズンと進む。

 やがて大きな扉の前で立ち止まり、ノックとともに扉を開けると__



 最奥部の机に、今度は純白の聖衣を纏った少女が鎮座していた。



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