転生の魔女
「異世界転生で大人の記憶持った子供が普通に受け入れられんのなんで? 中世ベースの世界でそんな事したら魔女狩りに遭うわ! いざいざ転生者狩りを始めよう 」
とツイッターでふざけていた結果、この作品が生まれました。生まれ方が『理系蛮族』シリーズと同じな時点で作品のノリはお察しです。
いくつか覚えていることがある。
過去の私は、『あの世界』の日本で生まれた。
今の私は、『この世界』のイウロ帝国に生まれた。
過去の私は、知識ばかりが先行する生意気な高校生で。
今の私は、過去の知識を受け継いだだけの孤児だ。
過去の名前は大橋 鈴音。
今の名前はベルリエナ。
この世界に産み落とされて早十年。
昔の自分とは似てもつかない灰色の髪をなびかせ、民衆を見下ろす私は……
魔女として、処刑される所だったりする。
◇◇◇
物心着いた時には、自分が他の人と違うという事には気付いていた。
自分が子供用のスプーンで食事する事がものすごくイヤで、修道女さんに『ベルちゃ〜ん』と猫なで声で呼ばれようものなら、トリハダ全開・全力退避。
少し成長して、まともな思考回路を持つようになってからは自覚した。
私はこの世界のものではない記憶を持っていて、いわゆる『異世界転生』に当たる現象を体験している最中なのだと。
ハッキリ自覚してからは、少し妄想してみたりもした。
何をって、そんなの決まってる。自分に何か、特別な力があったりするのかどうかという事をだ。
過去の記憶を受け継いでいる事がまず特別なんだけど、もっと直接的に役立つ力はないのかなぁ、と。そんな事を考えたわけだけど。
ただ、実際にはそんな事を調べたりする余裕なんてなかった。
私の育った孤児院には、私よりも小さな子供がたくさんいる。
働ける大人は極端に少なくて、人手なんて足りた試しがない。
そんな状況だから、私も修道女さんと一緒にてんやわんやで弟や妹の面倒をみなくてはいけなかったわけで。
そう、日々の生活に必死すぎて夢を見る暇なんてなかったのだ。
そんな状況をひっくり返してくれやがったのは……
私がこうして縛られとっちめられる原因を作った、腹立たしいガキんちょどもだったりする。
あれは、夕刻の事だった。陰気くさい帝国北端の街〈イスカリオ〉__私たちの孤児院があるそこは、あの日も陰気臭い灰色の空に覆われていた。