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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死にたい私と死なせたいヤツ

作者: 城戸 月






死にたい。






私なんてつまらない人間だ。




生きていても意味がない。




それどころか周りに迷惑ばかりかけている。






私ほど死んだほうがいい人間も

珍しいものだ。





私が死んだときのデメリット


・こんなクズにかける葬式代がもったいない。


・死体の処理をする人がかわいそう。





私が死んだときのメリット


・もう周りに迷惑がかからない。


・あいつらに復讐できる。


・地球温暖化がほんんんの少し遅まる。


・楽になれる。








いやいや落ち着け。




「死んだほうがいい人間なんていない」


というような名言があったはずだ。





私が生きているメリットを考えてみた。




…ない。








結局名言は迷言でしかなかった。














こんな気分のときは勉強もはかどらない。





かといってゆっくり休むことも許されない。



ほら、ヤツが来る。









「お前は浪人生だ。そうだろう?



浪人生が勉強をしなくなったら


それは人間としての存在価値が


皆無ではないか。」





「違う、私はただ休憩がとりたくて…」





「仮にただの休憩だとしても


今日お前は何時間勉強した?



休憩を取らなければならないほど


集中したのか?」





「それは…」





「志望校に合格するには


まだまだ時間がかかるんだろう。



そんなに怠けた態度で


間に合うとでも思っているのか?」





「ちょっと厳しいってわかってるけど…」





「いいか、浪人生はな、


落ちこぼれなんだ。



浪人して産近甲龍なんて


人生終わりだぞ。



今怠けるなら、


今死んでも変わらない。






ほら死ねよ。」







「やだ、怖いよ。」






「いいから死ねって!!


自分でできないなら私がしてやるよ!!」








剃刀を持った右手が近づいてくる。







私は必至で抵抗する。







しかし、若干ヤツのほうが強かった。







左手首にひんやりとした刃の感触。







鋭い痛みが

ゆっくりと横線上に広がる。









ぽたぽたと床に現れる

赤黒い斑点。








何度も何度もヤツは切り付けてくる。








痛い痛い痛い!










でも











傷ついた左手を見れば











「よくやった。」









ヤツはそう言ってくれる。










うれしかった。










ヤツに認められるために


今まで頑張ってきた私にとって


その一言が


どれほど価値のあるものだったか。










だから、


死にたくなったときは


手首を切る。











それが私の喜びにつながり、


唯一勉強を忘れられる


至福の時間だった。
















9月の半ば。





相も変わらず死にたいと葛藤しつつ


ヤツに追い込まれ


教科書とにらみ合う時間を


ひたすらに続けていた。








成績は着々と伸び、


この調子でいけば


志望校も夢ではなかった。












はずだった。












目の前の答案用紙。




赤いペンで「61」。




頭を抱える講師。







ああ。死にたい。







「ちょっとスピードあげんと


このままじゃ間に合わんなあ。」








講師の一言が、ヤツを呼び起こした。











「お前、なんであんなけ勉強して


6割しかとれないの?




このまま勉強しても


結局点数取れないんじゃね?




あー、お前がやることって


すべてが無意味なんだ。



お前の人生自体無意味なんだ。







だったらもう死ねば?」











また始まった。











ご褒美タイムだ。











いつものように


剃刀で軽くなぞる。










しかし今日は褒められなかった。











「お前ほんとに死ぬあんの?」











「…え?」











「そんな切り方じゃ


死ねないってわかってんだろ?




お前、私のことなめてんの?」











なんで…







手首はもういくつもの傷が交差して


今にもちぎれてしまいそうだった。








褒められるために



ここまで自分を傷つけてたのに…











「見損なったわ。



もう好きにしな。」











待って…!!











見捨てないで…!!











私のこと認めてよ…!!!











…!!!!!!!!












気が付けば


赤い噴水が


壁一面、


床一面を


赤に染めていた。











手首からは骨が見えていた。




その骨の白さと言ったら


コピー用紙すら黄ばんで見えるほだった。











ぎゃーーーーーーーーーーー!!!!!!!!











ヤツが叫んだ。











その叫びは


私の口から洩れてしまうほど


私に近いものだった。











大慌てで救急車を呼ぶ親を見て


あいつのもとに生まれなければと


薄れる意識の中ですら憎み続けた。


































11月の終わりごろ。






ファミレスの厨房でハンバーグを焼きながら



これからの人生について考えている



一人の女性がいた。








高卒、フリーター。



資格もなければ特技もない。







しかし彼女はいつも笑顔だった。









死ぬ直前に、


『ああ、生きててよかった。』


そう思える。







それが彼女の目標だと


以前に話してくれた。












ハンバーグを焼く時も


エビフライを盛り付ける時も


びくともしない彼女の左手と


2度と消えない傷跡は


心の奥底にしまいながら。












誰も知らないヤツは、


今も彼女の中に存在していた。
















ーENDー

たくさんの人の率直な感想が聞きたいと思っております。

コメントお願い致します。

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