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9ゴールg@me...

作者: muku








  「 あなたが悪いのよ・・・」

しおりはその像に向かって言った










5月2日PM11時50分。



「ふぅ」  


バタン!


ゆうすけは音をたて自分のお気に入りのソファーに座った。開いた窓のカーテンがヒューと風で揺れる。ゆうすけはソファーの前にある机の上のリモコンに手を伸ばしテレビのスイッチを入れる。


ブーンっと音をたてテレビの画面が映る


うぅぅぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!



大きなサッカースタジアムに大勢の人間の歓声が響きわたる



「いたいよ、痛いよ…..」

一人の三、四十代の女性が苦しみ、必死にもがいている。その女性の両手と左足に太く長い槍が刺さっている。そして両手、両足には金属の金具で頑丈に固定され仰向けに寝かされている。



カチャン、カチャン、


と金属の交わる音がする。


ヒューっと何かが落ちていく。



グチャッ

「ぎゃゃゃゃゃぁぁぁぁああああああ」



女性の叫び声が響く。女性の体の何メートルか上には槍が何本か吊るされており、今その中の

一本が女性の右太ももにくい込んだ。



「おっねがい….たったすけて….りょうくん….」

 女性は嗚咽を吐きながら涙を流し言った。



 「ぅぅうう、ごめんなさい、おっおかあさん」

 中学生か少学生かわからないようなあどけない顔立ちの男の子が涙を流し苦しそうに言った。



男の子の足元にはサッカーボールが一つありその何メートルか前にサッカーゴールとそのゴールにはゴール正面を覆い尽くすように9枚の板が張られていた。そのうち4枚の板が落とされ、それは一枚、一枚落としていく仕組みの物だということだとわかる。



「さぁ!私実況の山口です、今日も始まってかなりの時間が経ちました。今日の選手はかなりのスロースタターなのでしょうか?どう考えますか解説の山田さん」



少し高めの声の実況から

 「う〜ん。何かの作戦なのでしょうかそれともまだ調子が出てないのかはわかりませんがそれにしても今日の選手はかなり年齢が若いですね、中学生と書かれていますが本当なのですか」



山田の低めの声の解説から

 「はい、ではりょう選手の細かいプロフィール紹介しましょう。

 年齢は十三歳まだ中学一年生ですね。

9ゴールへの参加の理由は、こっこれはなんと父親の借金が原因だそうです。りょうくんが小さい頃父親は借金だけを残しりょうくんと母親を捨ててどこかへ逃げだしたようです。そして、その母親はサッカーゴールの奥に金具で固定されているあの女性です。やはり母親一人ではりょうくんを育てるだけで精一杯で莫大な借金など返せるはずがなくそして不運にも9ゴールへの強制参加を余儀なくされたわけですね。」山口の説明が終わる



 「なんとかわいそうな、父親が残した借金をあの母子が返済しないといけないなんて….」     

 山田が大げさに悲観的に語り言葉を詰まらせたが、

 「でもしかたがないことですね。さぁゲームはまだ終わっていません、次はどうなるのでしょうか」

 軽い口調で言い終わる山田。

 


「あれっ!?」山口が驚く



 「どうしましたか」山田が尋ねると



 「みっみなさん、あっあれを見てください

なっなんとりょう選手泣きながら倒れこんでしまいました。」

 驚きを隠しきれず山口が解説をする。



タッタッタッタっと芝生を走る音がする

 


「あっ主審がりょう選手に近づいていきます、こっこれは….」



ピッ!

っと笛の音が鳴り響き一枚のカードを出した。



 「レッレッドカードです、まさかのいきなり…..」

 



バーン!



山口の解説の途中に渇いた銃声の音が響く。



「試合終了ですね。」



 「ハイ、でも山田さん、いきなりのレッドカードとはどうでしょうか」



 「いや、これは妥当な判断ですね、最近は紳士的行為に反する選手が多くなりましたから」



 「なるほど、でも今回は残念な結果でしたね。あまりファンの期待を裏切らないで欲しいですね」



 「ええ、次のゲームに期待しましょう」


山田と山口の解説と実況が終わり、エンディングロールが流れた。提供の企業の商品の他人の声を正確にまねる高性能のおもちゃのCMが流れていた。



 ダン!



「痛ってぇ」

 床に顔をつけていて全身の痛みで、ゆうすけは、自分がソファーから落ちたことに気付いた。



「はいボブ!これが噂の思い道理の声が出せるおもちゃね」とテレビ画面は深夜のテレホンショッピングになりポニーテールの外人女性と白人男性が映っていた。



 「寝てたのか….」

 自分が寝ていたことに気付き床に倒れた体を起こした。



その時、トゥゥルルルル!



と携帯電話が鳴る、だれだよと思い、眠たい目をこすり受話器のボタンを押し、少し不機嫌に電話にでるゆうすけ。



 「おーゆうすけ!今何しとる?」


 携帯からはまの抜けた声が聞こえた。



 「寝てたよ、でどうした?」



 「別になんとなくだよ何してるのかなって」



 「そんなことで電話したのかよ」



 「なんだよ、そのテンション!このたくや様に向かってよ」



 「はい、はい。で、そのたくやがなんですか?」



適当に合わせて喋る。このたくやと言う男は高校からの友達で卒業してからもよくでかけたりする仲だ。

 「最近どう」

 「どうって?」

 「しおりちゃんとだよ」

「別に普通だよ」

 しおりとはゆうすけの彼女の名前であり、普通だと答えたが二週間前に「今何してる?」 と送ったメールの返事が来ずにそれからこちらからの連絡が取れないじょうたいだ。

 「そうかぁ、最近バスケしてるか?」

 「もう全然してねぇよ」

 「なんだよ、一緒に昔全国目指したじゃねぇか、大学ではやらないのか」

 「やらねぇよ!てか、なんだよ、そんな話をするために夜中に電話したのかよ」



 「・・・・・・・」



先ほどとはうって変わり急に黙り込むたくや



プーープーー




っという音が受話器から聞こえた。


えっ!

と、驚き携帯の画面を覗き込む。なんなんだよ急に電話してきたと思ったら急に切りやがって。そんなことを思いながら時計を見る



0時44分



本当になんだったんだろう・・・



ガン!


妙な音が玄関の方から聞こえた。ん!?と、不思議に思いソファーのある部屋のドアから玄関の方を覗きこむと、





ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン




ビクッ

と驚き、

「なんだよ・・」

ゆうすけは不安にかられながらその得体のしれない音を確認しに行く。部屋から玄関への廊下を歩き、ゆっくり進むとギシッっと床のきしむ音がし、その音がさらに恐怖を掻き立てる。額と背中から大量の冷や汗が流れており、5月だというのにとてつもなく寒く感じる。鳥肌が全身を覆う。




「ううぅうううぅううっ」




と玄関の扉の向こう側ですすり泣きが聞こえてくる。

なんなんだよと思いながら歩き。ようやく玄関まで辿り着いた。リビングから玄関までの距離が異常に長く感じた。ゆっくり玄関のドアの覗き穴に目を通す。




あけてよ




うぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!




女の声が聞こえ大声をだし腰を抜かすゆうすけ。震えながらゆっくり立ち上がるゆうすけ。覗き穴の向こう側には長い髪を垂らした女が立っていた。



 「えっ!?」

 ガチャッっと扉を開けるとそこに立っていたのはゆうすけのよく知る人物だった。

 「しおり?」


 そこにいたのはゆうすけの彼女の速瀬しおりが立っていた。


 「どっどうした?」

 ゆうすけが聞くとしおりはゆうすけの胸に頭をつけて泣き始めた。


 「とりあえず中に入ろうか」


 ゆうすけがしおりに聞くとしおりはゆっくり頷きゆうすけの部屋に入った。

 

しおりを部屋のソファーに座らせ、ゆうすけは隣に座る。


そして、詳しく話を聞くと今日の夕方頃、しおりは仕事を終え家に帰宅途中に何者かにつけら

れて襲われそうになったらしい。


しおりのお気に入りのワンピースの汚れがその瞬間をリアルに感じさせた。

恐かったと聞きとれないほど小さな声で言った。




ゆうすけはどう答えたらいいのかわからずとりあえず自分の部屋の開けっ放しになっていた窓をしめようと立ち上がった時、

ダン!!ダッダッダッタ!と、勢いよくゆうすけは自分の部屋の廊下を走りぬけドアを飛び出しアパートの前の大きな道へ出た。




「くそっ」



と、自分の足元にあった空き缶を蹴る。カランと音が鳴り飛ぶ。先ほどカーテンを閉めようとした時ゆうすけの部屋をじっと見ている黒い帽子に黒のコートを着ている人物いたのだ。



ゆうすけはその人物を捕まえようとしたがその場所にはもうだれもいなかった。



 「ん!?」



ゆうすけは自分が蹴った空き缶が飛んだ場所に1枚の紙が落ちているのに気付いた。手にとって見ると







     9ゴール誓約書


一、 命の保証はできません途中棄権もできません。



二、 二人一組で参加して頂きます。参加は原則として家族、恋人、親しい友人同士でお願いします。



三、皆さんは国のために選ばれた人間なのです。だから

・・・・・そんな項目が何個か続いていた。




 「なんで、こんなものがここに」

ゆうすけは紙をぐちゃぐちゃにして捨てた。



9ゴールとは国が発案したシステムだ。

日本では自殺やニート、フリーターといった事が社会問題となりその解決策が9ゴールであった。

そしてその法律は9G法と呼ばれ、対象はニートやフリーターなどで、そういった人間を減らすこととまれに、参加者をランダムで選ばれることもあり国民に生きる刺激を与えるものと言うことになっている。法律であるが、実際は最近、国のテレビの視聴率の低迷の解決策。


自分の恋人や家族を助けようとして殺してしまうといった苦渋が視聴率を上げている。そして今ではこのゲームが年金問題をも解決してしまった。


そう!


9G法は国が認めた賭博になってしまった。参加料が一0万円もするのにも関わらず人気がありすぎて参加できないこともあるほどだ。その掛け金のほとんどは税金として徴収される。莫大な賞金がでることも視聴率アップに繋がっている。


イカレタゲームだ。


最初は、反対するものも多かったが自殺、ニート、全ての問題を解決し、それだけではなく9G法導入により生きる刺激による日本の学力向上は目まぐるしい成果を上げ、全ての科目が世界で1位の学力という記録に輝いた、そして日本は今も世界一の経済大国に輝き続けている。こんな数々の実績により誰も反対する者はいなくなった。



















お母さんごめんなさい

しおりは泣きながら言った










ピンポーン

ゆうすけはインターホンを何度か鳴した。



ガチャ

 


「ごめん、ちょっとまって」

 インターホンの横のドアからうっすら化粧をし、髪を束ねたしおりがでてきた。高校時代から変わらず化粧をしなくてもわかる綺麗な顔立ち、アイシャドウなんてしなくてもパッチリした目。



ゆうすけ自身では化粧をあまりしてほしくはないのだが大人のマナーとしてしなくてはならないとしおりが言っていたことを思い出す。




 「遅いよ」

 ゆうすけが言うと、

 

「ごめん」

 顔の前で両手を合わせて謝る


あれからゆうすけはしおりを毎日駅まで送り迎えしている。

面倒だと思う時も多々あるのだがあの時のようなしおりの悲しい顔はもう二度と見たくない。

 



「早く行くぞ」

 「うん」

 二人はしおりのアパートから出て行き車の停めてある場所まで歩き、車の助手席にしおりを乗せゆうすけは鍵をひねりエンジンを入れた。


 「よろしくお願いします」


 「おう」


ぺこりと頭を下げたしおりに軽く返事をしながらその姿を見てゆうすけは高校時代の時を思い出した。






なんなのよ!


と大きな声が教室に響きみんなそちらに目をやった。金髪にピアス化粧は濃く制服はだらしなくきている。


そんな女の子が一人の女の子に向かって何かを言っている。


「なに」



さらりと言うその女の子は金髪の子と比べると髪は真っ黒で化粧など全くしていない容姿だった。



「マジムカつく!そういう態度」

さらりと言われたのが気に入らなかったのか金髪の女は怒りを露わにし、黒髪の子の肩を強く押す。ダンという音をたて黒髪の女の子は床に尻もちをついた。



「へっ!いいざまね、しおり!あんたなんか死ねばいいのよ、どうせあんたのとこ家族いないんでしょ!悲しむ人なんかいないんだしさぁ、施設で育っているような奴にはお似合いの姿なのよ」



かなり嫌味ったらしく言われショックだったのか言われたくないことを言われてかはわからないがしおりは黙って俯き何も言い返せなかった。




「いい加減にしろ!」


ゆうすけが教室にいる全員に聞こえるほど大きな声で怒鳴った。



「なによ」金髪の女は言ったがクラスのほとんどの人間が自分たちに冷ややかな目を向けてい

ることに気付き、金髪の女は俯きながら何も言わずどこかへ行ってしまった。



ゆうすけはそれ以外の言葉は発しなかった。



しおりも黙ったまま制服についた汚れを掃い自分の席に着いた。




 そのまま何もなかったように授業も進んでいき学校が終わった。



 「おうっゆうすけ今日は部活もないことだしどっかご飯行こうぜ!」

話かけてきたのは同じバスケ部でクラスでも一番仲のいい友達だった。


「またおごれってか?」


「すまん、最近金欠でさ。いいじゃん!ゆうすけお金持ちなんだし」

まぁいいけどと思いゆうすけは友達と会話しながら学校の駐輪場まで自分の自電車を取りに行った。



「あっわりぃやっぱ今日用事あるわぁ」

そう言い急に走りだすゆうすけ。驚いた顔をした友達が言った。



「つかえねぇ…..」



そんな言葉は聞こえづゆうすけは急いで自分の自転車に乗り走りだした。

チャリンチャリンと自分の自転車のベルを鳴らし一人の女の子に声をかける。




「よっ」



声をかけられ振り向いやのはしおりだった。



 「どうも」

 と小さい声で言った。



 「何してるの?」とゆうすけが聞くと、



 「歩いて帰ってる」ぼそりと答えるしおり。



 「家まで結構遠くなかった?」



 ゆうすけが聞くと


 「うん」と、そっけなく答える



 「なんか友達が遠い所から通っているって言ってたから、てか自転車は?」




そう聞くと、


 「パンクしてたから」またしおりはそっけなく言う。


 「乗りなよ」荷台を指差し言った。そしてしおりとゆうすけの間にしばらく沈黙が続く。

えっという顔をしてきょとんとするしおり。



 「乗りなよ、送るからさぁ!遠いんでしょ!」



「でも….」




「いいから」

迷っているしおりに半ば強引に手を引き乗るように言うとしおりはお願いしますと言いぺこりと頭を下げ、ゆうすけの荷台に乗った。




「家ってこっちだっけ?」

しおりはゆうすけに聞く。




「あぁっあこっちにちょっと用があったからさぁ」

少しおどおどしながら言うるゆうすけを見て笑いながらありがとうと言った。

本当はしおりの自転車のタイヤがズタズタに切り刻まれていたので心配になり友達の誘いを断りこっちに来てみたのだ。ゆうすけは金髪の女にやられたのだろうことは簡単に予想がついた。










「ゆうすけはそんな人じゃない!!」

しおりは黒の帽子に黒のコートを着ている人物にむかって叫んだ!









キーー



っという音をたて車のブレーキがかかる。



 「ついたよ」ゆうすけの車が駅の前についた。



 「ありがとう、ゆうすけも大学頑張ってあぁっやば!52分の電車に乗れない!」

 

 車のドアを開けて手を振りながら駅へと走っていくしおり。ゆうすけも返事をし、車をだす。


本当は大学になんて通っていない大学には数か月前まで通っていたのだが誰にも相談しないままやめてしまった。


だからゆうすけの周りの人間はまだ通っていると思っている。





そしてまた過去のことを思い出す。





キーー



っと音をたてて自転車を止めるゆうすけ「しおりの家ってここ?」



 「うん」

 ついた場所はテレビでみたことのあるような身寄りのない子供達があつまる施設のような場所だった。



 「私はねここで色々な事情な子達と暮らしているの」



 「なんでしおりはここで暮らしているの」

 何気なく聞いたが自分がとても不謹慎な発言をしたことに気付き謝ろうとしたときに

 



「実はね・・・・」

 

しおりの昔まだしおりが小学生ぐらいの時に父親の借金が原因で親が離婚し、しおりは父親についていくことになった。


そしてその時にはまだ幼かった弟は母親についていくことになったのだ。

そうして家族はバラバラになったのだが、父親が借金を苦に自殺をしてしまい母親との連絡も取れずに今にいたるわけだ。



 「あ、ごめん変な話して」




謝るしおりを見てゆうすけはあぁとそっけなく返しながら身近に

いるこの少女を見て自分だけが苦しいおもいをしているわけではないと思った。





「俺も」




小さい声で言った。




 「えっ」




きょとんとするしおり



 そしてゆうすけも自分の過去を話しだした。自分の父親と母親は昔に事故で死んでおり、両親の多額の遺産を巡り親戚どうしの争いや金目当てで近づいてくる人間の話などをした。




その中には辛い出来事もあったがあまり深くは話さなかった。




ブーーー

車を走らせながらゆうすけは過去を思い出していた。

 

 

 「あれから付き合いだしたんだよな」っと独り言を言った。

アパートに着いたゆうすけは自分の部屋の前に地面からゆうすけの腰ぐらいまで大きな段ボール箱があった。

 



 「なんだこれ」




 っと箱を覗きこむと段ボールには紙が張られておりそこにはゆうすけ様へと一言だけ書いてあった。とりあえず自分宛ての荷物だとわかり部屋の中に運び中を確認してみる。



 ガバッ




 「なんだこれ!」




 箱を開け、中を確認すると中から真っ白の手足のない女性をモチーフにした石工像のようなものがでてきた。美術室においてあるものに似ているきがした。でも美術室のものとは違い妙にナマナマしく感じられ、両手両足は無理やり引き千切られたような感じだった。

 



 「うぅぇっ」

気分が悪くなり吐きそうになる。そしてその像の裏に真っ赤な血を思い出させる色で







《参加ありがとうございます》

と書いてあった。



「気持ち悪いなぁ、なんだよこれ」



と、ひとり呟いていた瞬間に!




 ガタン!!

 ピンポーン!

玄関のドアを叩く音とゆうすけの部屋のベルが鳴る。はいと答えながらも警戒して歩く。

 



 ダン!ダンダンダンダンダンダン!

 

 玄関のドアを何者かが叩く。やはりおかしい、誰だ!と叫ぶが何の反応もない。しばらく沈黙が続き

 



 ガチャン!ガチャガチャ!!

  何物かはドアノブを無理やり回す音がするが鍵のせいでドアは開かない。

 


 ゆうすけは周りを見渡し何か武器になるものを探した。

 

 しばらく周りを見渡すと金属バットを見つけ、拾い上げ、力強く握りしめた。バットは床に 

あてるとカタンっと金属音を響かせる。そしてゆっくり覗き穴を見ると、




 「んっ」



そこにはいつもと変わりない景色が広がっていた。







ドアを開けると・・・・


















ねぇねぇ知ってる?9ゴールって負けた人はねぇ・・・・・・









 「9ゴールのものです。」



ゆうすけの死角から何者かが出てきて言った。

 一瞬、

 驚くがすぐさま相手の方に体を向け敵意むき出しと言わんばかりにバットを向けた。

 


 「落ち着いてください」

その得体の知れない男は真っ黒のスーツを着ていて、両手を掌を見せるように胸の位置まで上げて笑顔で自分は何もしないということをアピールした。

 



 「てめぇ!」わけがわからないままゆうすけはバットを振っていた。

  


バチン!


 っと音を立てゆうすけのバットは止まった。いや、止められた。バットの先を見ると大きな手がバットの先を握っていた。



 そして、

我に返ったゆうすけは、正面に大きな真っ黒の壁があることに気付いた。でもそれは壁ではなかった、ゆうすけが見上げると真っ黒のスーツにスキンヘッドの大きな男が立っていた。

その男、二メートルはあるであろう。そして男はじっとゆうすけを睨んでいる。

 



 「すいません、こいつは何もしゃべらないのです。」

 あんたらは何者だと言いたいが驚きのあまりうまく言葉が出ない。

 

 「あのー私たちは9ゴールのものです。お迎えにまいりました。」

 

 黒スーツの男の年齢は三十代後半だろうとても紳士的に感じそしてもう一人は大きい男で顔はぶすっとしていて不気味な印象を受ける。

 


 「えっ」


とわけがわからずゆうすけは答える。

 


 「9G法はご存じでしょう?あんたは9ゴール参加者に選ばれたのです、わたくし達が会場までご案内させていただきます。」

 「9ゴール?はぁ?何でおれがそんなのに参加しなくちゃいけねぇんだよ!」

 「はぁ・・・・しかたありませんね」

 


 スーツの男が言った。




 カチャッ



 「おい、なんだよ・・・それ、何の冗談だ・・・」

 ゆうすけは驚き後ろに後ずさりする





 バン!



 乾いた音がひびく。




うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお




「ゆうすけ」



うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお



 「ゆうすけ」


ん、なんだ、これ?頭がぼうっとする、それにうるさい音とどこかで聞いたことのある声がする。



 「さぁさぁやって参りました。9ゴールです。わたくし実況の山口と」



 「解説の山田です。」

二人は華麗に話す。




 「そして今回のチャレンジャーはまだ床に倒れています。なぜこのような状態でスタートしたのですか?」



 「あぁ、これは参加拒否をしたのでしょう、参加拒否はできないので、麻酔銃で眠らされてから連れてこられたのでしょう。」






 「あぁ、そうなんですか、おやっ、チャレンジャー目を覚ましたようです。」





 「ゆうすけ!!」

 目を開け、体を起こすと目の前にはバスケットゴールがあり、自分の手にはバスケットボールを抱えていた。





 「なんだ、これっ!」


 バスケットボールを放し周りを見渡すと、体育館のような場所のコートに倒れており、見渡すと二階席にはたくさんの人があふれかえっていた。



 そして、ゴール横には大きな丸々人が入れそうなビーカーのようなケースに蓋がしてあり、何本もホースが付いている。蓋のしてあるケースは蟻一匹入れる隙間がない。



そして、

 そのケースを覆うように白の布がかけられてシルエットのようになっていた。布で隠されているが中には確実に誰か人が入っていた。



 どうなっているのかわからず、自分で整理してみる。



 9ゴール・・・


 9G法・・・



バスケットゴール

 


 まさか、自分は、

 



 ピッッ!



「おっと起き上ったゆうすけ選手に主審が近づきます。」



審判は、準備はよろしいですかと小さな声でゆうすけに言った。



「9ゴールのルールは知っていますね。」



ゆうすけの回答より早く審判が聞いた。


ルール、


9ゴールの競技の選び方は挑戦者の得意なスポーツで行われる。



それはもし、ゴールから外してしまった場合は、挑戦者の大切な人は死に近づくことになっている。


でも、それではゲームが盛り上がらないということで得意なスポーツなら外さない。



 そういった考えで決まっている。そしてどのスポーツが選ばれたとしても、9つのゴールに入れること、それは変わらない。


 9つのゴールには一つでは挑戦者の大切な人が死なない程度に苦しむようになっておりその中の一つに助かるゴールがある。



 でも何度ハズレを重ねると確実に大切な人は死ぬ。そしてゆうすけはビーカーのようなケースにはしおりがいることを確信した。



 「さぁ今回のゲームは挑戦者の得意なバスケということになっています。」山口の実況が入る。

 


 「えぇ、今回は期待できそうですね、なんていっても今回の挑戦者は高校で全国に行ったほどの実力の持ち主ですから。



 山田が答える。



 頭がこんがらがっているがルールや9G法のことを思い出して少しづつ冷静さをとりもどしていくゆうすけ。


 ゴールの方を見上げるとバスケットゴールのゴールは9つに無理やり改造してあった。




「さぁはじめてください」



その一言で会場のたくさんの人たちが歓声をあげた。

 



ゆうすけ!


と、ケースから呼ぶしおりの方を見てゆうすけは手に力を込め、この一球で終わってくれと念じながらボールを放つ。




 「まずは一球、放ちました。」



解説の声以外は何も聞こえない。さっきの歓声がうそのように。


 シュッ!


ゆっくりボールが空気をきる音だけが聞こえる。



シュコン!


と、音をたてボールがゴールに入った。




うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!




先ほどとは比べられないほど大きな歓声が

響く。



 「しおり!」



 ゆうすけは大きな声でしおりの名前を呼ぶ


 「えっ」


 しおりは何ともなさそうにケースの中にいた。



 「まさか一発で決まったのか?」



 シュー

 ボールが空気をきる音とは違う、何か空気が漏れる音がする。

 


「ううぁうぅあうぁうぅぁうぅぁ」

 しおりが悶え苦しみながらビーカーのガラスを爪でひっかく。



 「しおり!!」


ゆうすけが叫ぶ!ゆうすけがゴールに決めた瞬間にしおりの入っているケースの中にガスがながされた。




「だいじょうぶだよ」


しおりがふらふらになりながら言った。



「なにか特別な毒ガスが流されたようです。今回はゴールを決める度にガスが流されるようですね。」


実況が入る。


「えぇ、でも今回のも一発目から強烈ですね。これでは最後までもたないのではないでしょうか」


「しおり!」

「だいじょうぶだから心配しないで続けて・・・」

今にも気を失いそうなしおり

「でも・・しおりが・・・」

「ゆうすけ・・」

ピッ!

「早く次を」審判に急かされるゆうすけ。


「はやくやらないとゆうすけまで・・」


しおりが涙をながしながら言った。


ゆうすけはその言葉を聞き、審判を睨みつけた。


「なんだ!イエローカードをだすぞ」


審判に殴りかかろうと拳をおもいっきり握るが、もし自分が殴りかかったりしたら自分だけでなくしおりまで死んでしまう。



それだけは嫌だ。



しおりだけでも助けたい。握った拳をゆっくりほどき主審からボールを渡される。

「ごめん、しおり」



シュッ!




っと言う音をたててゴールに近づくボールは周りの音を消していた。




シュコン!




ボールがゴールに入る。



うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!



歓声が聞こえる

しおり?

ジャー



次はホースから水が流れてきた。



物凄いスピードで水ができたためケースは一瞬のうちに水でいっぱいになった。ケースの中では水が溢れ人影が水の中を苦しそうに暴れていた。


そして、ケースの中の人影はぐったりし始めた。





「しおり!」





ゆうすけが呼ぶが反応がない。



「おっともう、ゲーム終了でしょうか?」



山口の実況がはいる。




「まだわかりませんよ」

山田が言う。




「水が抜かれていきます。」


実況が入り。





「大丈夫よ」



ふらふらになりながらも言った。




「しおりさんは・・・い、生きています。ゲームはまだ終わりません」




「しおり!」ゆうすけが叫ぶ。



「やはり、まだ終わりませんでしたね」



「えぇ、ゲームはこれからですね、ん、あれはなんでしょう?」



「ごめん」


ゆうすけが言うと



「だいじょうぶだよ・・あやまらないで・・・」



バタン!っと音をたて、ケースの中の人影が倒れた。



「しおり!!」



大声で叫びながらしおりの方へと全力で走り出す。



別の場所からゆっくり歩きながら誰かがゆうすけに近づいてくる。



「しおり!」


ダン!ダン!と、しおりの入ったケースを拳で殴るゆうすけ。それでもしおりはケースの中で

全く動かなかった。


ゆっくり歩いてきた何者かがゆうすけの背後に立つ


「えっ、なんでこんなところに・・」


ゆうすけが言い終わる前に





グサッ!





何かが何かを突き破るような音がした。そして、気づくとゆうすけの腹部には鋭く尖った槍が喰い込んだ。体から生ぬるく赤い液体が滴り落ちるのを感じた。





「試合終了」




審判が言った。




「これはまさかの展開でしたね。」


山田と山口の実況と解説が入る。





ピッピッピッー!




試合終了の笛が鳴り響く



その音はゆうすけの耳の中でいつまでも反響していき、ゆうすけのまぶたは重くなりゆっくり

閉じた。





4月2日。PM7:00【しおり】




「お母さん!?」

自分の部屋で渡されたビデオを見ていたらそこには一人の女性がいた。女性と言うには老けているきもした。




がそんなことより、そこに映っていたのは歳をとっていて何年も会っていないので気づくまでに時間がかかったが間違いなく自分の母親だと気づいた。がテレビの映っているのは間違いなく自分の母親だった。





「えっ何、どうなっているの?」

わけもわからずテレビをじっと見る。




「ぎゃゃゃゃゃぁぁぁぁああああああ」



槍が母親の右太ももにくい込んだ。


「っぃぃおぉねがい….ったっったすけて….りょうくん….」


 「ぅぅうう、ご、ごごめんなさい、おかさん」


バン!勢いよくテレビの電源を消す。


うぅっと喉に熱くて生臭いものがこみ上げてきた。しおりは急いで自分の部屋のトイレに駆け

込み、トロトロしたものを口から便器に吐き出した。吐き出した際のぐちゃっという音はいつまでも耳に残り母の足に喰いこんだ槍を思い出させた。




「はぁはぁ」




少し落ち着きビデオに張ってあった紙に書いてある番号に電話をかけた。




4月2日AM8:50【しおり】


「おっひさしぶりやね」

軽くあいさつをされてとまどいながらもしおりは時間を気にしながら歩いていた。俺だよと言われたがよくわからい人物だったので新手のナンパだと思い無視して歩き去ろうとしたが、



「しおりちゃん」

と自分の名前を呼ばれたので自分を知っている人間に間違いはないと思うがまだ誰だかわからない。




「あぁ、はい」




返事をし、軽く挨拶をしてその男の顔をよく見て思い出そうとする。それでも思い出せなかったのでしかたなく本人に聞いてみた。



「あのぅ・・どちら様でした」



「おれだよ!けんた。」



けんた?ケンタ?あぁっと大きな声で言いながら顔や格好をまじまじとみる。



「わすれてたのかよ」


笑いながら返すけんた。


ごめん、ごめんと謝るが高校を卒業して1年以上たつしその格好で言われてもわからないはずだ。



 昔と比べてだいぶチャラクなった。髪は黒の短髪からロン毛で金銀茶のメッシュガ何本も入っていし服装も軽い感じの格好で首にはアクセサリーが大量につけられていた。




「で、今なにしているの?」




とけんたに聞かれ急いで自分の腕時計で時間を確認したが時間は8時56分だった。これは完全に仕事に遅刻したと思い少しだけ話につきあろうと思った。




「今から仕事に出勤途中だったんだけどもう遅刻だからゆっくり出勤するとこ」



「そうなんや、久し振りだね」



「そうだね、けんたくんはここで何しているの?」


しおりが聞くとけんたは急に静かになりけんたの顔の形が別人のような顔でしおりを睨みつけ

ながら言った。



「ちょっとな」


 そう言いながら次の質問が来る。




 「で、ゆうすけとはどうなの?」




 ビクッ




その質問をされた時になぜか背筋に悪寒が走った。




「あっうん・・」




俯きながら答えると、



 「どうしたの?気分悪いの?」


 けんたがやさしく聞いてきた。



 「あっうん、うん、大丈夫だよ」

 しおりは何事もなかったように答える。




「これ、ゆうすけに渡してくれない?」

けんたはケースにも入っていない真っ黒のビデオテープをしおりに渡す。




「なにこれ?」




「ちょっとね」




「ふーん」


興味なさそうにしおりが受け取りカバンの中に入れる。それを確認したけんたはその後、簡単に話を終わらせすぐさまどこかへ行ってしまった。





「なんだったの?」



カバンの中のビデオテープを見ながら首を傾げる。



「あっ!?もうこんな時間!早く行かなくちゃ」

走りだすしおり。でもなんでけんたくん私に声かけたのかな・・・今までゆうすけとはよく喋っていたのを見かけたけど私に声かけたことなんか今までなかったのに・・・






トゥルルルルルルルル






 電車の発車ベルが鳴り、急いで改札を通り電車に乗り込もうとする。駆け込み乗車はやめてくださいと車掌さんに注意されたがすみませんと一言いい電車に乗り込んだ。ガタンと車輪が音をたてて電車が走りだした。



そして頭の中で忘れていた高校時代のあの時のことをおもいだした。



 「けんたくん」と廊下の先にいるけんたを呼ぶが聞こえていないのか私の方に振り向いてくれない。



もう一度大きな声で呼ぶとけんたはゆっくりとこちらに振り向いた。

そして私は小走りで近づき



 「一回で気づいてよ」



と、私が冗談っぽく言うと


「ごめん」

と、一言謝った。


「別に謝らなくていいけど・・」

冗談っぽく言ったのに真顔で言われて驚くしおり。


無言になりなにも言わずに下を向くけんた。

 「ゆうすけどこかしらない?」



 そう聞くと、



 「体育館裏にいる」

 「体育館?なんで?」

 「さぁ」

 けんたが無愛想に答え廊下を歩いていく。



「あっ・・・



まだ何か聞こうとしたが歩いて行ってしまったので他には何も聞けなかった。なんで体育館裏なんかにいるのだろうとかなり疑問に思ったがとりあえず言って本人に聞くことにした。




ゆっくり体育館に向かっていると女の子の集団にどこ行くのと声をかけられてそれを笑顔で返す。昔だったらこんな風に言葉を交わすことはなかっただろう。


 あの日ゆうすけが声をかけてくれなかったらこんなに自分をさらけ出すことはできなかった。



「ねぇっ」



と、女の子の集団の中の一人が私に声をかけてきた。




「ん?なに?」



「ゆうすけくんさっき、ゆうこちゃんと二人で歩いていたよ。」


ゆうこ・・・


ゆうすけが声をかけてくれた日に私に暴力をふるってきた金髪の女。私を嫌っている女。


今はそれぐらいしかおもいつかない。でもなんでゆうすけと二人で・・・


 「えっどこに?」


 「体育館の方に歩いて行ったと思うよ」

 その言葉を聞いて私は急いで体育館に向かった。




廊下を走ると足音がバンバンと廊下全体に響く。



廊下を走るな、



と誰か先生に怒鳴られたがそんなことはしおりの耳には届かなかった。




はぁはぁ



と息をきらしながらしおりは体育館に着いた。ゆうすけはどこ?辺りを見渡すがこちら側には

おらず、裏側に回ってみることにした。




「なんで私じゃダメなの!?」





裏側に回ろうとすると体育館裏側で何か大きな声が聞こえた。ゆっくり近付くとそこにはゆうすけとゆうこがいた。倉庫の陰から少し顔を出しながら除きこむ。






しおり、ゆうすけ、なんで!あの時、



大きな声はよく聞こえたが、ゆうすけ達は少し遠い位置で話しているのでここからだと話の単語しか聞こえない。そして、



「ゆうすけが好きなの!」

と大声で言いゆうすけに抱きつく。



私は驚き顔を倉庫の陰に引っ込める。驚きのあまりうまく呼吸ができない。苦しい。


何かが胸を引き裂く感じがした。


ゆうすけはゆっくりゆうこから体を放して何かを言った。そして、二人は歩いていきゆっくり見えなくなっていった。


その時、ゆうすけが私の方を振り返り見た気がした。




4月2日PM6:30【しおり】



バタン!気をつけろと言わんばかりにこちらを睨みつけてくるおじさん。ぶつかってきたのはそっちなのにとしおりは思いながらも目をそらす。



駅のホームでたくさんの人が行きかう中しおりは一人で駅から自宅までの帰り道を歩く。今日はいいことないなぁ。仕事に遅刻し、仕事ではミス連発。怒られてばっかり。ため息をつきながらしおりは40分かけて自宅に帰る。




ガチャ




鍵を回しアパートの借りている部屋の扉を開ける。




バタン




っと言う音をたてて自分のお気に入りのソファーに寝転ぶ。




このまま寝てしまいたいと思いながらも化粧落とさないと、とかシャワー浴びないと、とか色々しなくてはいけないことを考える。



立ち上がりかばんから化粧ポーチを出そうとした時カバンの中で固いものに手があたる。



「ん!?」



何だろうと思いながらカバンから取り出すとケンタから渡されたビデオテープだった。



どうせ男が好きそうなエッチなビデオだとおもいながらビデオの裏側を見るとテープで留められた紙が一枚貼ってあった。





そこには




見たら感想聞かしてと一言と携帯の番号が書いてあった。















「けんたくんって私のこと嫌いなの?」



しおりが聞くと、

「かもね」

とゆうすけが答える。

ずっと疑問だった。



けんたくんは他の女の子や男子には明るく話すのになぜか私には無愛想にしか話してくれなかった。

また過去を思い出した。





4月2日PM7:40【しおり】




ガチッウィーン




ビデオテープが自動的に巻き戻されていた。



紙に書いてある番号は恐らくけんたのものであると確信し電話をかけるしおり。

何度か呼び出し音が鳴ったがつながらなかったので留守電に




 「しおりです。折り返し電話ください。」



 と入れた。




 うっ、とまた胃の中のどろどろしたものが喉に近づく。


 その時、



トゥルルルルルルルルルルルル



 しおりの携帯が鳴る。画面を見ると先ほどかけた電話番号だった。しおりはゆっくり通話ボ

タンを押した。


 「もしもし」

 しおりから言葉を発した。




 向こうからの声はしない。



 「ねぇけんたくんなんでしょ、このビデオなんなの!答ええて、何で私のお母さんが・・・」




 大粒の涙を流しながら言った言葉は力づよく始まり最後までもたなかった。



 「・・・へへ、そうだよ。あれはねしおりちゃんのお母さんなんだよ。しおりちゃんなら絶対ビデオ見ると思ったよ」



 「ちゃんと説明して・・・」



薄気味悪く笑っているのを感じながらしりは弱々しく言った。



「まずね、しおりちゃんとゆうすけの関係はね・・・・・仕組まれていたんだよ」


私は驚きながらもけんたの話に耳を傾ける。




 「実はしおりちゃんのお父さんは9ゴールのギャンブルにはまったせいで多額の借金を作ったんだ」



 「そう・・・」



 そんなことには興味がなかった。




私はどんなギャンブルだろうが借金を作ったことに変わりはないし知りたくもない。





 「そして、ゆうすけのお父さんが9G法と言うシステムを作り金儲けをしていた」

 私は少し驚いた。




今まで悪いと思って両親のことはお互い聞かなかったがゆうすけのお父さんが何をしていたと

してもゆうすけを好きでいる気持ちは変わらない。





「そして、ゆうすけの両親は事故で亡くなったのではなく9ゴールによって恨みを買い殺された。そしてその遺産は全てゆうすけのものとなった。」





「当たり前じゃないゆうすけの両親のお金だからゆうすけに渡されるのが普通でしょ。そんなことより、仕組まれたって何よ」




少し怒鳴るようにしおりが言うと





「ゆうすけは全て知っていてしおりちゃんに近づいたんだ。そして、しおりちゃんが母親に会えないように裏で工作をしていたんだよ。」




それを聞いて私は頭が真っ白になった。




「えっなんでゆうすけがそんなことを・」




「あの日のこと覚えている?ゆうこがしおりちゃんに暴力を振るった日。」



けんたに聞かれもちろん覚えている。忘れるはずがないあの日ゆうすけが私を救ってくれた。



「あの日の出来事は全てゆうすけによって仕組まれていたんだ」

また、頭が真っ白になる。




金髪の女のいきなりの暴力。自転車のパンク。最初はけんたの話を全て鵜呑みにはできないと思っていたが、あの日から少したった日に体育館裏でゆうことゆうすけが何か話していたのを思い出す。



あの女の気持を利用してゆうすけが私をだましたのだと確信した。



あの時、ゆうすけに何していたのかを聞きそびれてしまったままだったが今、点と点がつながった感じがした。

 「どう?信じてくれた?」

 「・・・・」



けんたの問いかけに答えようとするが悲しさと悔しさで声が出ない。




今まで信じていた人がこんな薄汚れた人だったなんて・・・・





怒りでいっぱいになった.. .. .



コロシタイ?



 えっ



 「殺したい?」



 けんたがしおりに問いかけた。





 4月18日【しおり】



あれから何日もたち私は毎日を自分のアパートの部屋でボーと過ごしていた。あの話から私は何もする気になれなかった。仕事には行っておらず。当分休むと会社には連絡してある。




あの後、けんたはまた連絡すると言ったがその連絡はまだこない。



トゥルルルルルルルルルル




バン!


私は机に置いてある自分の折りたたみ携帯を勢いよく取り上げた。そして、急いで開き画面を

見る。



そこには



メール受信

と書いてあった。私はけんたからの電話でなかったことにがっかりしながらメールを開くと



[今何してる?]



と言うゆうすけからのメールだった。私は携帯を閉じ机に投げるように置きベッドに倒れ込んだ。





トゥルルルルルルルルルルルルル



また携帯が鳴る。




私はベットから起き上がり机の携帯を手にとり携帯の通話ボタンを押す

と、



「もしもし」


けんたの声だった。


「もしもし」


私が答える。




「一度会って話合わない?」


「わかった」


「なら・・・・」


私とけんたは日時と場所を決め会う約束を交わした。





5月2日AM12時50分【しおり】



私は自分の家からそう離れていない喫茶店に向かう。




けんたとの約束の時間まであと10分分あることを、腕時計を見て確認し歩く。


電話での約束では昼の一時にゴールという名の喫茶店で待ち合わせだった。


カラン


 店のドアにつけられた鈴のようなものが鳴る。



いらっしゃい



 女性店員に言われ私は店内を見回した。



 店には一人も客がおらず店はかなりすいていた。私は店の奥のテーブル席に座った。窓から

は喫茶ゴールと書かれた看板が見えた。



 そして、窓には私が写っていた。窓に写った私はゆうすけが私の着る服のなかで一番気に入っているワンピースを着ていた。



 「何にします」



 店員がテーブルの前に立ち聞いた


 「アイスコーヒー」


 と私が言うのを聞き、はいと返事をした。


数分してアイスコーヒーが運ばれてきた。


 自分の腕時計を見ると針は一時を指していた。


カラン



 店に誰かが入ってきた。


「いっいらっしゃいませ」


 先ほどの店員がひきつった笑顔をしながらいった。なぜなら、今きた客は黒のコートに黒の

帽子で顔はマスクをしていて見るからに怪しい人物だったのだ。


 その人物はキョロキョロ辺りを見回した。私は下向き目を合わせないようにする。



しかし、その人物はしおりを見てこちらに歩いてきた。



「よう」



黒いコートの人物が言った。



「ん!?」



私はおそるおそる見る。


マスクでわかりづらいがその人物は間違いなくけんただった。



 「なんでそんな恰好なの?」



 私が聞くと、




 「ちょっとね」


 そう言いながら私の正面に座る。


 「これを見て」


 席について胸ポケットから一枚の紙をだすけんた。


 「なにこれ」


 紙には9ゴール誓約書と書いてあった。


 「これにゆうすけを参加させようと思う」


 




【ゆうすけ】





 自分の腹部からは大量の血液が今も出ている。

なにがどうなっている?




 「しおり・・・・」





自分を刺した相手は自分の愛する彼女のしおりだった。そして俺を見下ろすようにして泣いていた。



パサッ



 ケースの中のシルエットが落ちた。ケースの中にいたのはしおりではなかった。



 「ゆうすけ」




 そこにいたのは自分のよく知る人物だった。




 「ゆうこ・・・」




 高校の時以来会っていなかったがそこにいたのは間違いなくゆうこであった。口と首のまわりに何かスピーカーのようなものがつけられていた。





どうなっている!?





そして、あの時の過去を思い出して、俺は急に眠くなり瞼を閉じた。






5月2日PM11時40分【しおり】




辺りは暗く二人はあるアパートの前にいた。



「わかったか?」



そう聞かれ、


「うん・・・・」


私はそう答えた。


「いいか、ゆうすけは最低な人間なんだ!死んだ方がいい、君だって騙されていたんだ大学に

行っているなんて嘘や多額の遺産があることだって君に黙っていたんだ。君だってあいつにうまく利用されていただけだったじゃないのか」




そう言われてゆうすけとの楽しかった過去を思い出し、




「ゆうすけはそんな人じゃない!!」



しおりは黒の帽子に黒のコートを着ている人物にむかって叫んだ!





バン!



 「きゃっ」

 私はけんたに突き飛ばされた。



 「あっごめん」


 けんたはしおりにかけより言った。


 「いたっ」


 そういいながら立ち上がるしおり。倒れた拍子にワンピースが物凄く汚れてしまった。


 「ごめん、でも、もうやるしかないんだよ


君だってゆうすけがどんな人物かわかったんだろ?君のお母さんだってあいつに殺されたよう

なもんだろ」




 そう言われて、やっぱり私を騙したゆうすけはゆるせないし、お母さんの顔を思い出す。



ゆうすけの遊ぶお金は私のお母さんやその他の死んでいった人を利用して設けたお金であることを思い出した。




 そして、私たちはゆうすけのアパートの前にいた。





ブゥーン、ガチャ





 ゆうすけが帰ってきて車から降りる。




 そしてゆうすけは自分の部屋まで歩いて行き部屋に入った。





 それから少しし、私はゆうすけの部屋まで歩いていった。





5月2日AM13時50分【しおり】





私は喫茶店でけんたと話していた。




けんたの計画では私がストーカーに合いゆうすけに助けを求める。そうすることによりゆうす

けの動きをできるだけ怪しまれずに監視し、そのままゆうすけを無理やりゲームに参加させ、自分が騙していたしおりに騙され死んでいくというものだった。





「なぜそこまでするの?」





と私が聞くとゆうすけは今も9ゴールにかかわっていて多額のお金を得ているらしい。


「えっ!」




私は驚く


「だからあいつを9ゴールで苦しんだ人以上に苦しめないと気がすまない」


けんたが言った。


私は納得し、その計画を実行することにした。





【ゆうすけ】





 ゆうこに告白された日のことを思い出した



 俺はその日ゆうこを呼び出した。なんのために呼び出したかというとこれ以上しおりに何か

したらただじゃおかないということを伝えるために呼び出したのだ。




 「しおりなんかより私を見てよ」




ゆうこがゆうすけに言った。 




「ごめん」


俺はそう言った。





「ゆうすけが好きなの!」



大声で言いながらゆうすけに強く抱きつくゆうこ。




俺はゆっくりゆうこを離し




「おれはしおりが好きだ。だからこれ以上しおりに何も、しないでくれ」




俺がそう言うとゆうこはゆっくり歩きだした。俺もゆっくり歩き出そうとする。その時倉庫の

陰からしおりが見ているのを見つけたが、今自分が言ったことが恥ずかしくて見ていないふりをした。




後で全て話そうと思い歩きだした。



自分の体から全ての血液が出ていった感じがした。夢でも見ているかの様に過去を思い出した。



あの時、



結局恥ずかしくてなぜ、ゆうこといたのかを話さなかった。そのことを今、物凄く後悔した。しおりがあの時そのことを聞こうとしていたのは知っていたのに・・・・





【けんた】



 「全て計画道理に進んだ」




 モニター越しにけんたはゆうすけ達を見ていた。



計画、まず始めに、ゆうこを騙す事から始まった。


高校時代からおれの計画は進んでいた。


「ねぇねぇ」


「ん!?」


ある一人の女の子がけんたに話しかけてきた。


「あのう、けんたくんってゆうすけくんと仲いいよね?」


「あぁ、まぁそうだけど、なに?」


「ここじゃ、ちょっと話しにくいから・・・・あっち行かない?」


「わかった」


俺はこの時、何の話か全くわからなかったが後にこの話が俺の計画を実行させるきっかけにな

ったのだ。


「早く!」


俺がゆっくり教室から出て行くとゆうこに言われた。


「あぁ」


この時は昼休みで、みんな騒いでおり俺達が」教室から出て行くことに誰も気づかなかった。



「ここでいいの?」


俺が聞くと


「うん」


とゆうこが答え二人は非常階段に座った。


「で、何の話??」


俺が聞くと、



「私ゆうすけくんのことが好きで・・・相談にのってくれない?」

そう言われた時に俺はゆうすけを落とし入れる計画が頭の中で瞬時に作られた。


「ゆうすけ・・・・しおりって子が好きだよ。」


「しおり??」


「うん、窓側の全然しゃべらない子」


俺が説明すると、


「えっあの子って・・・」




あの子、しおりは当時何も喋らず黙っていることが多く、それゆえ色々な噂が立ち、三十八歳のおじさんと不倫しているとか、風俗で働いているなどの噂がたっていた。



「あんな子を好きなの・・・」


「う〜ん、好きとかじゃなくて騙されている感じかな?」


「騙されている?」


 ゆうこがそう言った。


 「うん、なんかあの子の家家族いないでしょ。だからゆうすけが同情しちゃって・・・」


 全てを話終わる前にゆうこは非常階段を急いで上り教室の方に走って行った。けんたは自転車置き場に行き、持っていたカッターナイフである自転車のタイヤをズタズタにした。


 そして、おれがゆっくり教室に戻ると、


 「いい加減にしろ」


 と、ゆうすけが怒鳴っていた。


 そして、ゆうこは泣きそうな顔をして教室から出て行った。


 帰りに俺はゆうすけにご飯を奢らせようとしたがしおりの自転車のタイヤがズタズタになっ

ているのを見て走って行ってしまった。


 「つかえねぇ」


「でも、計画道理に・・・・」


おれはそうつぶやきながら一人で帰った。


そこから高校を卒業して今にいたる。


そして、ゆうこは本当に馬鹿な女だった。



その時、俺はある風俗店の前にいた。


そこでゆうこが働いている情報を9ゴールの人間から聞き、行ってみたのだ。


中には、入らず店から出てくるのを待っていた。そこから何人か人が出てきた。待っている間

に見知らぬ男に声をかけられた。



「あんたここで何してるんだ」



そう聞いてきたのは真っ白のスーツを着ている金髪のホスト風な男に言われた。


「人を待っている」


あまり関わりたくないので小さな声で言った。その男は自分から聞いておいて興味なさそうに

そっぽを向いていた。




なんだ、こいつと思いながらよく見るとその男のスーツはよれよれでかなり汚れも目立つ。そ

れを見てホストではないと思った。




ホストは客に気を遣う職業だ、こんな姿では客の前になど立てない。そう思い、じゃあこいつは何の職に就いているのか疑問に思い。



こんな男を雇うところがあるのだろうかと思ったがやはりどうでもよかった。

 少ししてゆうこが出てきて声をかけた。




「よっ」




俺が声をかけると最初はびっくりしていたが俺だとわかり、


「あぁ久し振り」



ゆうこは笑顔で言うが顔は疲れきっており、服装はよれよれの服を着ていて生活の苦しさが一目でわかった。



「おい、遅いよ!」


先ほどのホスト風の男がゆうこに言った。


「ごめん、ごめん、みーくん」


ゆうこがその男に謝った。


そして、


「彼今の彼氏の宮本みことくん」


ゆうこは俺にこいつを紹介してきた。


「どうも」


俺がそう言うと興味なさそうに


「ちぃーす」


と返してきた。


「こっちは高校の同級生の・・・」


ゆうこが俺のことを軽く紹介すると、


「そんなことより金は?」


みーくんことみことが言った。


「あっごめん、はい」


ゆうこがみーくんにお金が入っているで、あろう茶色い封筒をそのみーくんに渡す。


「おう、じゃあ俺は向うのファミレスいるから」


みーくんは封筒を受け取りそう言いながら歩いて行く。


 「彼、あんなだから私が頑張んないといけないの」


 「そうなんだ」

9ゴールの調べたとおりでゆうこは今、ヒモ男を養うために毎日必死に働いているらしい。

そこで、俺があるバイトの話をした。ただケースに入っているだけでいいというバイト

を・・・・




【ゆうこ】


私は泣きながら教室を出て行く。涙を誰にも見せないように・・・・


どうして・・・?


私が間違っているの?


私は教室を出て行き廊下を歩きながら思う。


助けてあげたかったのに・・・


ゆうすけが・・・・・


そして、数日がたち


がやがやうるさい教室で私はゆうすけに声をかけられた。


「ちょっとついて来て」


「え、うん」


私はそう答えついて行く。


廊下を歩きながら私はもしかしたらしおりの本性に気付いてくれたのではと思った。いや、そ

れにちがいいない。ゆうすけくんの性格上、教室では人が多くて話にくいから別の場所で話そ

うとしているんだ。



私たち二人は会話のないまま体育館の方へと向かった。

それもゆうすけが照れているのだと私は思った。


「ここなら人いないし、ここでいい?」


「うん」


こことは体育館裏だった。



「@@@@@@@@@@」



ゆうすけがそう言った。



「・・・」



私は黙り、ゆうすけの言葉を聞き取れたがわけがわからなかった。



わからない、わからない


わからない、わからない


わからない、わからない


わからない、わからない


わからない、わからない


わからない、わからない


わからない、わからない



なんで?私は頭が真っ白になった。


ゆうすけは私にもうこれ以上しおりに何かしたらただじゃおかないと言った。


『あなたはしおりに騙せれているの!』


そう言おうとしたが言えなかった。これだけしおりの事を気にしているゆうすけにそんなこと

言っても私なんかの言葉を信じてもらえるはずない。



そして、ゆうすけの後ろに目をやると倉庫の陰にしおりがいることに気づきこう言っていた。




「しおりなんかより私を見てよ!!」








「ごめん」








ゆうすけはそう言った。


「ゆうすけが好きなの!」


私は大声で言いながらゆうすけに抱きつく。


もうこれしかないと思った。これでだめならもうゆうすけくんは諦めるしかない。私には彼は

救えない。


それが高校生の時の失恋だった。


それから高校を卒業したがまともな道へは進めなかった。




高校デビュー




髪を染めたのも派手な格好全ては自分でしたくてしたものではなかった。誰か

に気付いて欲しい。


私の存在を知っていて欲しかっただけだった。中学の時は一言で言うと地味だった。



『えっと・・・名前なんだっけ?』


この言葉は心を深くえぐられた気がした。


ある男子に言われた言葉。中学卒業する少し前。三年間も同じクラスだったのに名前すら覚え

てもらえていなかった。友達がいなかったわけではない。




本当の友達じゃなかっただけ・・・・・・・


『おい』


『お前』


『あなたはねしっかり勉強してね』


気づいたら母親にもクラスメイトにも、そう誰も私の名前を呼んでくれていないことに気付い

た。



高校入学。



派手な格好。成績が落ち、友達も変わった。


『なんで、あなたどうしちゃったの?』


いつまでたっても呼ばれない名前。私の心は暗い海に沈んでいった。


『ゆうこって言うんだ』


その一言が私を救いあげてくれた。


それがゆうすけだった。


初恋だった・・・・


 


「話がすんだなら行こうぜ」


 みーくんが言った。


「あっうん」


長く話をしていたので待ち切れずにみーくんが呼びに来た。


「じゃあまた連絡して」


けんたはそう言って歩いて行く。


「なんの話?」


「なんでもないよ、ちょっとね」


私はそうみーくんに言った。




私は高校を卒業して親にも見放され一人で生きていこうと決心したが成績が悪くうまく就職で

きなかった。最初は女優を夢見たが所属事務所が典型的な悪徳事務所でレッスン費用という名目でお金を巻き上げられ、金が底をつくとすぐキャバクラを紹介されそこで働くことになった。



「また来てくれてうれしい」


私は心にもないことを言った。


「好きよ」


また言った。お客さんには来てもらわないと困るが別に好きで言っているわけではないナンバ

ーワンにも興味がない。

「やらしてくれたらナンバーワンにしてやる」

お客さんにそういうことを言う人がいたが私はそういったことはしないと決心していたそれが唯一のプライドだった。

でも、事件は起きた。

「ねえ、ねえ姫ちゃん」

わたしはキャバクラでの先輩に呼ばれた。

姫とはわたしの源氏名である。


「今日店終わってから用事とかある?」


「ないですけど、なんですか?」


「ちょっと相談があるんだけど、今日店の裏で待っててくれない?」


「わかりました。」


そう答えて私は店が終わってから言われた通りに待っていた。


「さむっ」


先輩もすぐに着替えて出てくるだろうと思ったが中々出てこず店の外は寒かった。




キーー!バッ!




いきなりワンボックスの車が止まり、中から黒いマスクをつけた男達が出てきてゆうこの周りを囲んだ。


「な、なんですか」



バン!!



頭に衝撃が走り気を失った。


よくは覚えていない、鼻息の荒い男達が何人も、何回も私の上に乗り腰を動かしていた。


股の辺りがナイフで突き刺されるように痛かった。


気づいたときには朝日が見え、うっすら雪が積もる芝生の上に私は衣服を一枚も身につけずに

倒れていた。



怖かった。



その時、一人の男性に声をかけられた。



「だ、大丈夫ですか?」




「・・・・」


私は何も発することができなかった。私はその彼が次に声をかける暇を与えないように周りに落ちていた自分の下着やら服を拾い急いで着ながら走った。



そして、


自分部屋に帰り。

バスルームへと歩いた。どうやって帰ったなんて覚えていない。ただ必死に走ったことだけは

体の疲労から感じた。


わたしの住んでいる場所は少し安いアパートに一人暮らしだ。私は急いでシャワーを浴びた。

汚れきった体を洗うように。




ジャャャャャヤヤヤヤヤヤヤ





シャワーの音を浴びながら私は風呂場のタイルの上に倒れ込んだ。





 「・・・・・」





 わたしは大粒の涙を流しながら嘆いた。





この日、私は何事もなかったかの様に店に行った。



ガチャ




店のドアを開けるとそこには信じられない光景が広がっていた。



店内には写真がばら撒かれていた。


「ゆうこちゃん・・・・」


店の店長が言った。女の店長で優しくてときには厳しいが、私が尊敬する人。


「・・・・・・・」

私は驚き声が出ずにいた。店には私が襲われた時の写真が大量にばらまかれていた。

乳房を男達にもぎ取られそうになる私、苦しそうに顔をしかめる私、店にいた女の子達が私を汚いものを見るようにみる。幸い営業時間外なのでよかった。



お客さんにこんな物見られたら・・・・・



私はばら撒かれた写真を店長と片づけた。



片づけ終わってから店長に店の奥に連れて行かれた。



「もう店やめてくれないか・・・」



店の奥には私と店長と雑に並べられたロッカーだけであった。しなかった。さっきの言葉で私の頭が真っ白になっていくのがわかった。




「こういうことがあると・・・警察沙汰とかに・・・迷惑な・・」




よく聞き取れなかったが店長の発する言葉は私の胸にナイフをぶっ刺すようだった。




そして、私は店に置いてある荷物を全て片づけた。


私はゆっくり店の扉から出た。この仕事は嫌いじゃなかった。


それだけにショックだった。



レイプされたことより店長は助けてくれると思っていたのに・・・・でも、なんかもうどうでもよくなってきた。


『死』


ふいに出てきたのはこんな考えだった。


 「ねぇねぇ、うちで働く気ない?」


 キャッチだった。そして、その人物はあの日の襲われた時に声をかけてきてくれた人だっ

た。


 「あれ、あの時の・・・」


 「あっそうなんだ。」


 「お願いがあるんだけど」


 「店に女の子いなくて」


 「マジ、ありがとう」


話は進み彼の紹介する店で働くことになった。彼だけが私にやさしくしてくれたのだ。  


彼の名前はみこと。



【けんた】


 「これつけてこの中に入っているだけでいいよ」


 けんたはゆうこにそう言った。


 「え、これつけて入っているだけでいいの?」


 しおりが聞き返す。


「そう入っているだけ」



けんたが言う。


 カチャッと首にスピーカーの様な物をつけて喋る「わかった・・・」


 そう言ったゆうこの声は別の女の声になっていた。ゆうこはビーカーのようなケースの中に

入って行った。


 【ゆうこ】



 本当はわかっていた。けんたの言っていることが嘘であること・・・でもそれでいい。


 「しおり!!」


 大声でゆうすけが叫ぶ声が聞こえる。


 「だいじょうぶだよ」


 私はゆうすけに言った。しおりと勘違いされたままでいい。ゆうすけに心配されて死ねる、

ただそれだけでいい。私の人生は長すぎたんだよね。





 「@@@@@@@」



 ゆうすけが何か言っているがもう何も聞き取れない。



 「だいじょうぶだよ」



 ただそれだけを言って重くなった瞼を閉じた。



 【しおり】



 全てが終わった。


 ガチャ


 私はゆうすけの部屋の鍵を開けて中に入る。


 その部屋のリビングには真っ白の両腕が引きちぎられた石膏像が置いてあった。



「お母さんごめんなさい」




しおりは泣きながら言った。




そして、しおりはその横に置いてあるもう一つの男の石膏像を見て、 




「あなたが悪いのよ・・・」




しおりはその像に向かって言った。


 誓約書



 ・・・・・ゲームに負けた人の死体は石膏で固められ次の参加者への挑戦状として贈られま


す。





【けんた】




 しおりに言ったことは半分ぐらい嘘であった。ゆうすけはもう9ゴールには関わっていない

し遺産もほとんど手をつけていないのだ。 




「ゆうすけの両親は9ゴールで恨みを買ったせいで殺されたんだよ。」しおりに言った言葉を

思い出す。



それは変えることのできない真実。でも一つ言っていなかったことがある。そのゆ

うすけの両親を殺したのは俺の父親だ。俺の家はごく普通のどこにでもある家族だった。優しくて怒ると怖い父親と毎日笑顔でにこにこしている母親と俺の三人家族。




ただ、母親はゲームに無理やり参加させられ殺された。参加理由は

偶然、たまたま、ランダムで、




「国のための最少の犠牲なんです。」と、あいつらは俺と父親に言った。そして、そこからの俺の人生は最低だった。父親は9ゴールを作ったゆうすけの親を殺して死刑になった。



 俺は小さかったがその時のことだけは、はっきり覚えている。


その時、

俺は絶対復讐することを誓った。



ただ、本心を言えばゆうすけのことは好きだった。でも俺だけノウノウと生きることは許されなかった。


家族を亡くした俺にはこんな人生しかないのだと・・・・普通に生れ育ってきていたらゆうす

けとは一生の親友になれた思う・・・



けんたは大粒の涙を流して倒れ込んだ。



「ありがとうこれで視聴率もウナギ登りだ。9ゴールはその人物に恨みがありそれが国に認められると9ゴールに強制参加させることができる、それにより君の恨みはこれに値すると認められた。


こんな話をつければもっと視聴率はあがる」声をかけてきたのはテレビ局の人間だった。こいつにいいように使われたのはわかっている。




でも、・・・それから何年か経った。














9ゴールに一度係るともう絶対抜け出せなくなるんだよ。










 「うぉおおおおおおおおおおおおお」


 ここは・・・・・


 けんたはある場所に倒れていた。


 バーン!


 一瞬、スーツの男に銃を向けられた記憶がよみがえる。


 「痛てて」


 体の痛みを感じながらけんた瞼を開ける。


 見上げるとそこは体育館のような場所だった。けんたはバスケットボールを抱きかかえる様

に持ち仰向けに倒れていた。立ち上がり周りを見渡すと客席には物凄い数の人間がいた。


そして、上から蓋がされホースが何本も繋がれた特大のビーカーのようなケースの中にしおり

が入っていた。


ゆうすけが9ゴールをした場所だった。


 そして、ケースの目の前には見覚えのある真っ白のスーツを着た男と俺のよく知る・・・人物・・・が立っていた。


 「ゆ、う、・・・・・・・」


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