文芸部の部長は変な人かも
あらすじにも書いてありますが、「文芸部の部長は変な人」の続編です。
一応シリーズものです。
前回を見ていなくても問題はありません。
僕の名前は明。
文芸部所属の一年生だ。
この文芸部の部長の名前は高山彩。長い黒髪で、いかにも清楚な外見とはうらはらに、どこか中二病をこじらせた人である。
とある部室の日。
「明君。ちょっとおかしいことが今日あったの」
部長が少女漫画を読みながら言った。
「何があったのですか?」
「担任に、黒板消しを依頼されたの。意味が分からないわ。目上の人をこき使うなんて」
「目上の人は担任ですからね。仕方がありません」
「私の方が偉いに決まっている」
そんなことあるわけがない。
「それに、見て!」
そういって、部長は部室の本棚の奥に隠された少女漫画を十冊ほど取り出して。
「七巻だけないでしょう? 実は昨日家に持ち帰って、今日学校に持ってきたら。生活指導の先生に見つかって取り上げられたの」
「見つかったら、そりゃあ取り上げられますよ」
「おかしいと思わない?」
「僕はおかしいと思いません。まず、学校に漫画を持ってくることがおかしいと思いましょう」
「だって。小説って字ばっかりで退屈でしょう?」
あんたは本当に文芸部の部長かよ。
別のある日のこと。
部長は鞄から小テストを取り出して僕に見せつけてきた。
「見なさい。賢い私は小テストで40点も取ったのよ。ボスは賢くないといけないからね」
「よくもまあ、100点満点中40点でそんなに威張れましたね。赤点間近じゃないですか」
「良いのよ。国語以外の科目は赤点を取らないだけで、良いのよ。もう一度言うわ。良いのよ」
「何故もう一度言ったのですか。それにしても部長、国語以外ダメなんですね」
賢くないボスのようだ。
「中間テストでも赤点を取らないように頑張りましょう」
「そうする」
よくよく考えたら、部長は今年受験だ。どこの大学を受けるのだろうか?
だから聞いてみた。
「どこの大学を受けるのですか?」
「T大の法学部よ」
よくもまぁ、その成績でそこを受けようと思ったものだ。T大は国立で、偏差値も普通に高いというのに。
「受験勉強は大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。多分」
「そのポジティブなところ、尊敬します」
「いやー、えへへ」
部長はどこか嬉しそうだった。
しかし、その次の日。
昨日のポジティブな部長からは考えられないほど焦った様子で僕に言ってきた。
「明君。私に勉強を教えることを許可するわ」
「そこで素直にお願いできずに、上から目線になるのは部長らしいです」
「ありがとう。明君。でもそんなことはどうでも良いの。私、昨日考えたの。今の成績じゃ受験勉強が危ない、とね」
「よく気づきました。部長、成長しましたね」
「今は褒めているところじゃないわ。聞いたところ、明君は勉強ができるみたいじゃない」
「どこでそれを聞いたのですか」
「それはどうでも良いのよ。一生のお願い。一年生の範囲、教えて? なんでもするから」
「…………分かりました」
部長の上から目線には対抗できても、上目遣いには敵わないみたいで。
僕はつい承諾してしまった。
「なんでもするからなんてあまり言わない方が良いですよ」
「あら、どうして?」
「どうしてもです」
その日の部長は何時もと比べておとなしかった。
日ごろのギャップか、部長がすごくかわいく見えた。
そんな部長のことが。僕は別に好きじゃない、と思う。多分。
その日も雨だった。
「酷い雨ね。傘は?」
「あります」
「私はないの」
「さいですか」
「ボスである私に傘を貸そうという発想にはいたらない?」
「この前、頑なに僕に傘を貸そうとした人が何を言っているのですか。あと誰がボスですか」
「ボスである私に歯向かうとは。なるほど、あなたがこの物語の主人公だったのね」
「違います」
「ノリが悪いわね。そうだ、男なら、あの時の仮を返しなさいよ」
「なら、一緒に傘に入って帰りますか? 先に部長の家まで送ります」
「…………っえ?」
僕の提案が予想外だったのか。
そう言ったことに抵抗がないのか。
部長の顔が赤く染まった。
「いや、それはダメよ! ボスと右腕がそんな浮ついた関係じゃ、部下に示しがつかない!」
「部下とは一体どこの誰ですか」
「この学校の人間全員よ」
「さいですか」
面倒くさくなった僕は、窓の外を見る。少しだけ雨が弱くなったように感じた。
「それじゃあ、僕は帰ります。お疲れさまでした」
帰ろうとする僕の後ろを部長は追いかけてきた。
「まちなさい。分かったわ。特別に私をあなたの傘の中に入れることを許しましょう」
部長が僕の隣を歩く。
「だから、どうしてそこで上から目線になりますか」
それがどこか、僕はうれしかった。
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