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Interlude 1  ある日のド・リヴィエール家

今日もなんとか自転車を倒さずにこぎ続けることができました。

前回投稿時、後書きで先の展開のさせ方を迷っていると書きましたが、結局「間章」という形で二つの選択肢の間をとるという、ある意味とても安易な道を選んでしまいました。しかも、1、なんて、まだ続けることができるような保険までかけて。ちょっと自分でも情けないです。


内容は、ぶっちゃけてしまえばアンリを取り巻く環境の説明回。説明ばかりしている気がします。

「アンリくん、今日は森にいかなくてもいいのかしら?」


 マリエールが呑気にぼくに問いかける。


 マリエールとイネスとぼくはいま、夕方の敷地内の舗道を、伯爵家の本宅にむかってのんびりと歩いている。

 ぼくのすぐ上のジョルジュ兄様が王立学舎への入学のため、明日首都のカルターナに向けて出発する。学年末の休暇で戻ってきている同じ学舎にかようカトリーヌ姉様やフェリペ兄様、そしてイネスも、同じ馬車で学舎に戻る予定である。今日はジョルジュ兄様の壮行と四人の送別をかねて、本宅で家族全員が集まって晩餐だ。


「アンリ、あんた、あいかわらず森の散歩に行ってるの? そんなに広い森じゃないのに、よく飽きないわね。まったく子供なんだから」


 イネスがみょうに上から目線で言った。イネスとぼくは五歳違いで、ぼくが三歳で森に行き始めてすぐ、学舎への入学のためにカルターナに旅立った。学舎の二回生になるイネスにとって、入学までまだしばらくあるぼくは、格好の子供あつかいの対象だ。女の子は、大人ぶりたがるからね。

 ちなみに、ジョルジュ兄様は本家、ということもあって、安易に上から目線でものを言うわけにもいかないようだ。ジョルジュ兄様自身は優しいし、たぶん気にしないと思うけど、外からの目も気にしなければならない。いろいろ難しいね。。



 というわけで、いまのぼくは四歳、悲壮な(?)決意をしてから約一年がたった。タニアには、座学に鍛錬にしごかれまくっている。

 座学は、最近はドルニエ以外の国の歴史、言語、文化に及んでいる。長命の魔族であるタニアの知識の幅広さがなければできない話だ。この世界では、よその国の情報など、ほうっておいたら絶対に入ってこない。とてもありがたい。これで教え方がもうすこしソフトならもっとよいのだけど。


 剣術は、父上にはあいかわらず稽古を付けてもらっている。そちらの方も、父上が悦に入るスジの良さだそうだ。だが、本番はあいかわらず森の中。最近のスケルトンは、向こうから攻撃もしてくる。そうなると、さすがに防戦一方だ。スケルトンに手加減など求めても無意味だし、タニアは、「死ななければなんとでもなる」と放置である。


 魔法は、相変わらずの身体強化を中心に、支援魔法を主に学ばされている。対象に魔力で直接働きかける支援魔法は、自分の周囲の精霊と魔力のやりとりをして発動する攻撃魔法とは性格が異なる。もう少し成長しないと、精霊とのコミュニがうまくいかないらしい。ぼっちは攻撃魔法が苦手とか、あるのかな。



「楽しいよ、森は。毎日行っても、たくさん、『初めて』があるんだ。今度帰ってきたときは、姉様も行こうよ」


 イネスは鼻をフンとならし、アゴをツンとあげる。


「わたしはほかに勉強することがたくさんあるの。子供の遊びにつきあってはいられないわ」


 ちなみに、そういう返事が返ってくることを計算した上での誘いだ。本当についてこられたらすこし困る。



 そうこうしているうちに、本宅に着く。扉を入ると、父様とシャルロット様が、カトリーヌ姉様とフェリペ兄様を連れて出迎えてくれる。


「伯爵様、シャルロット様、本日はお招きをありがとうございました。マリエールとイネスおよびアンリ、ここに参上いたしました」


 マリエールが優雅に一礼し、口上を述べる。そして、うなずいた父様と、そしてシャルロット様と順にハグをしていく。イネスもそれに続く。お、それなりにサマになってる。

 ぼくが父上に礼をすると、父上は黙ってうなずき、微笑する。父上とは剣術の訓練でよく顔を合わせているから、特にいま話すこともない。続いてシャルロット様に礼をすると、シャルロット様がぼくを抱きしめてくれる。


「アンリくん、ひさしぶりね。もう少し遊びに来てくれてもいいのよ。ジョルジュも寂しがっていたわ」


「ありがとうございます!」


 こういうのは、話半分のことも多いが、シャルロット様は本心で言ってくれている。ジョルジュ兄様とも、そうしょっちゅう顔を合わせるわけではないが、仲は悪くない。というか、本宅の兄、姉とはいい関係を築いている。


 そして、シャルロット様がマリエールをエスコートし、応接間に入っていくと、カトリーヌ姉様とフェリペ兄様がぼくとイネスをうながして応接間に向かう。自然と、カトリーヌ姉様とイネス、ぼくとフェリペ兄様という組み合わせになる。


「フェリペ兄様、騎士課程はいかがですか? 兄様ならふだんの訓練相手に困っておいでなのでは?」


おべんちゃらではない。ぼくは剣をあわせたことはないが、この年齢の男の子としては、破格に強いらしい。父様が鍛えていたようだし、なんといっても母は違うとはいえ、英雄を生み出したはずの血筋なのだ。

学舎は、三回生が終わると、総合課程、騎士課程、魔術課程にわかれる。フェリペ兄様は、ロベールのあとを継ぐべく、騎士課程にすすんでいる。


「いや、勉強することが多いよ。でも、父様のあとを追いかけているという、実感はしてきたな」


いや、あいかわらず男らしい。でも、自信はありそうだな。りっぱに父様のあとを継いでくれるだろう。ド・リヴィエール伯爵家は安泰だ。いや、もしかすると、侯爵への昇爵もあるかもね。ぼくが変な汚点をつけなければ、だけど。


「がんばってください。兄様は、ぼくのあこがれですから」


「よせよ。ま、やっていく自信はあるけどな」


多少、子供らしくないゴマすりもまじっているが、ぼくはこの長兄が好きだし、そもそもうちは兄弟仲はよい。優秀な長男を中心に、よくまとまっている。


ちなみに、タニアの「授業」を聞いていてわかってきたが、この世界、貴族制はきわめて健全である。王も、貴族も常に臨戦体制にあり、すべてが「強い国を作る」という方針のもとに動いている。

 王はその目的のもとに時代を見つめ、配下を処遇する。配下たる貴族は王を支え、より強くなるために領内をおさめる。王のまちがった判断や処遇は配下の離反を招き、貴族が領主として所領をうまくおさめなければ、臣下や領民は彼を見限る。すべては強くなるための競争。特権にあぐらをかいている暇などない。強くなれないものは相手にされず、歴史から消されていく。


 ド・リヴィエール家は、そんな世界において、手本のような貴族なのだ。



「そろそろ、わたしともお話ししてくれるかしら、アンリくん?」


 フェリペ兄様との話がいち段落したところに声をかけてきたのは、カトリーヌ姉様だ。学舎では六回生で、総合課程の高等科に進んでいる。シャルロット様に似た、ふわりとした美人だが、学舎では才色兼備でとおっており、上級生から下級生まで、知らぬものはいないらしい。魔法の才能も高いらしいのだが、本人はその道に進む気はないようだ。まったくすごい兄弟だが、本当にすごいのはロベールの遺伝子かもしれない。


「はい。姉様のうわさはぼくにも聞こえています。イネス姉様が、いつか追い越すんだって、すごい鼻息でした」


 聞こえたらしく、イネスがものすごい顔でにらんでいる。子供らしい会話をするために必要なネタなんだよ。勘弁してくれ。


「怖いわねぇ。でも、イネスちゃんなら、わたしなんかひとっ飛びに超えていきそう。あまり目標を低くおくな、って言っておいてね。なんでも、同学年でイネスちゃんにさからえる子はいないらしいわよ」


 おっと、そんなことになっていたのか。まあ、イネスもちょっと性格が乱暴だけど、頭は回るし身体も動く。ベクトルはちょっとだけ脳筋方向だが。それに、だんだんと美人の卵と言っていい感じになってきた。マリエール似かな。


 まあ、カトリーヌ姉様もイネスも、完全に対象外年齢だから関係ないけどね。ぼくの実年齢、シャルロット様より少しだけ下、って感じだし。


「カトリーヌ姉様もイネス姉様も、ぼくの目標です。学舎に入ったら、全力でがんばります」


「がんばってね。アンリくんが学舎に入るころには、わたしは卒業しちゃってるのが残念だけど」


 そう言って、カトリーヌ姉様はぼくの頭をなでた。そろそろ慣れてはきているが、年下と思っている相手に子供あつかいされるのは妙な気分である。



 今日のぼくの課題は、「ちょっとませているが子供らしいところも多い弟」を演じきることだった。重要なポイントは、「素直であること」だ。

 クズをスカウトする、と一言で言うのは簡単だが、クズもいろいろだ。それに応じて接し方を変えなければならない。タニアはぼくに、いくつもの人格を演じることを教えている。だが、同時に重要なアドバイスもくれた。


「ほんとうに大事なことは、いくつの人格を演じていても、ほんとうの人格を見失わないことです。それを見失ってしまったら、アンリ様の心は広い海に流され、二度と港には入れなくなるでしょう」


 その、ほんとうの自分に戻るきっかけとなる人格が、今日演じている人格であり、「ちょっとませているが子供らしいところも多い」というのは、タニアがみるいまのぼくの真実の姿だ。これを年齢なりに成長させていくことを忘れなければ、自分の真実を見失うこともない、ということである。



 やがて、ロベールに伴われて、ジョルジュ兄様が、ちょっと緊張した面持ちで応接間に入ってきた。ちょっとだけきっちりした服装である。

 ロベールが、軽くジョルジュ兄様の肩を叩くと、兄様が深呼吸する。


「父様、母様、カトリーヌ姉様、フェリペ兄様、マリエール様、イネス姉様、そして、アンリ。ぼくは明日から学舎に入学のため、カルターナに向かいます。ちょっとだけ緊張していますが、先輩である姉様たちや兄様に恥ずかしくないよう、全力でがんばってきます。父様、母様、マリエール様、今日までぼくをあたたかく見守ってくださって、ありがとうございました。姉様たち、兄様、よろしくお願いします。そして、アンリ。ひとあし先に、学舎で待っているよ」


 言い終えたジョルジュ兄様に、皆から静かに拍手が起こっていく。ぼくももちろん手を叩いていた。ちょっとはにかんだジョルジュ兄様は、ぼくを見た。


「アンリ、領地に残っているのはおまえだけだ。父様、母様、そしてマリエール様をしっかり守ってくれ」


 ぼくも大きくうなずいて言葉を返す。


「わかりました、兄様」


「おいおい、ぼくらは四歳のアンリに守られなきゃならないほど頼りないのかい?」


 ロベールの言葉にみんなが笑った。続いて、シャルロット様が手を叩く。


「さあさあ、そろそろ食事にしましょう」


 その言葉をきっかけに全員が食堂に移り、晩餐が始まった。



 あたたかい食事だったと思う。あたたかい家族だと思う。ほんとうに、おなかも心も満たされた食事だった。


 ……ぼくは、あと何度、こういう時間を持てるのだろうか。

読んでいただいた方へ。深い感謝を!


すこしずつ、ブクマしてくださる方が現れているのを、涙が出るほどうれしく感じています。

気に入っていただければ、ブックマーク、評価、感想などをいただけると気合いのノリが違ってきます。ぜひよろしくお願いいたします。

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