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8-6  探索 前

珍しくも、全編遺跡探索です。探索&戦闘は書き慣れないからどうもリズムが悪くなってます。

今後修正していくかも知れません。

 くだんの遺跡は、街外れから馬車で半日ほど。いくつかポイントを設定したので、帰りはタニアとテルマの転移で戻ることになる。五日分ほどの食料と必要物資を持って乗りこんだ。


 食料と物資はタニアの異空間に収納してもらっている。今回は勝手に同行したのでそのお詫びに、ということらしい。学舎入学前以来だけど、やっぱり便利だよ、空間魔法。人間にはハードルが高いらしいが、いつかなんとかしたいものだ。ちなみに、転移魔法もそう思いつづけているが、いまだにものにならない。


「それじゃ、シルドラとローラが前、ニケを最後尾にして、タニアとテルマはニケのすぐ前で。シルドラの指示に従って慎重に進もう」


 いちおうパーティリーダー役として隊列を指示した。ただ、油断をするわけじゃないが、普通の遺跡調査であれば過剰と言っていいほどの戦力だ。


 トラップはシルドラが感知し、後方の脅威はニケがチェックする。盾は十三歳でギエルダニアの近衛騎士団入りした天才剣士ローラがつとめるし、リュミエラが遠距離の支援を完璧にこなす。ぼくは近距離寄りの万能型で、ここまででも普通は充分な戦力だ。多少火力が淋しいぐらいである。


 ここに戦略級広域殲滅兵器のタニアとテルマが加わるのだから、どこの国をつぶしに行くのか、というレベルである。だが、ぼくは二日前のタニアとテルマの殺気に満ちた目を見ている。そういう存在が出てくる可能性があるのだ。


 さらにタニアが注文をつけた。まさに火力不足についてだ。


「ローラはなにかあったら攻撃に専念してください。盾は別に用意します」


 まさかと思ったが、やはりあのスケルトンが姿をあらわした。


「きゃああっ!!」


 ローラがひっくり返った声で悲鳴を上げて抱きついてきた。こういうところは完全に女の子だ。


「大丈夫だよローラ。タニアが使役してるスケルトンなんだ。もとはAランク冒険者だったらしいよ。ぼくの子供のころの剣の練習相手だし」


 ぼくは彼女の髪をなでながらそう言って落ちつかせた。


「こ、これが練習相手って、きみの子供時代ってなんなの?! 今になって一回生の時のきみのふてぶてしさに納得だよ!」


 ふてぶてしいって、心外だな!




 遺跡はどうやら、かなり昔の墳墓のようだ。


 小さめの入り口の奥に広い空間が広がっており、そこでいきなり魔方陣を使ったトラップが待っていた。テルマが解析したところでは、魔方陣に触れたものの魔力を奪い取るトラップであるらしい。最初の挨拶としては地味にイヤらしい。また、ニケが「血の匂いがクサい」と騒いでいた。


 そしてタニアはぼくとテルマに、その魔方陣に紛れて、転送ゲートの出口となる魔法陣が描かれていることを告げてきた。これで、魔族が絡んでいることはほぼ確実となった。一瞬迷ったが、ほかのメンバーには、とりあえずそのことを告げないままで先に進むことに決めた。




 その先は小部屋を抜けていく形で順路が続いており、途中分かれ道もいくつか存在していた。シルドラによると、道の選択をミスれば、そのすぐあとの小部屋で致死級トラップが出迎えてくれる手はずになっているらしい。


 五つ目の小部屋にあった分かれ道を抜けた先の部屋で最初の戦闘があった。


 部屋に入るやいなや、三体のスケルトンが出迎えてくれた。どうやら、正しいルートを選んで扉を開けると、魔方陣が発動して召喚される仕組みらしい。こちらにもスケルトンがいるが、装備とか向こうの方がちょっと上等だ。ひょっとしたら上位種なのかもしれない。


 スケルトン種はダメージを与えても身体がバラバラになるだけ、という意味で物理には強いが火属性の魔法には弱い。ウチのスケルトンとローラが適当にいなしながら、シルドラ、ニケ、リュミエラにぼくがヒットアンドアウェイでダメージをあたえ続け、動きが止まったところをふたりの殲滅せんめつ兵器様が焼く。料理完了だ。




 ついさっきはいってきた扉を試しに開こうとしてみたが、がっちりとロックされている。魔方陣が発動すると同時にロックされたのだろう。どうやらここが最初のポイントオブノーリターンらしい。ヘタに連絡役を残そうとすると、ここで分断されることになる。そして、最初の広間にあったゲートの出口から、彼の死を呼ぶなにかが現れるというわけだ。


「未帰還の冒険者はだいたいこのへんまでだったと思う?」


 落ち着いてまわりを見渡すと、いくつか死体が確認できた。シルドラにたずねてみると、彼女は首をかしげた。


「Bランク以上が複数いるパーティなら、抜けた可能性はあると思うであります。道を間違えておだぶつになったケースを考えても、死体が少なすぎるでありますな」


「もうしばらくお宝は拾えないかぁ」


「気にするのはそこでありますか!?」


「だって、もともとお金がないからここに来ることにしたわけだし」


「アンリ様についていって大丈夫か、考えたくなってきたであります」




 いちおう、認識票や身元のわかるものを探して回収する。そのついでに金目のものを見つけたりした場合は、いちおう預かっておく。金欠できれいごとは言っていられない。


「最低でありますな」


「なら同じことをするのやめなよ」




 二つほど小部屋を抜けると扉のない部屋に行き着いた。天井にあいた穴と、その下に刻まれたいくつかの足掛けステップのような穴。いわゆる第二階層というヤツだ。イメージよりずいぶんショボい通路だが、現実はこんなものだろう。


 第二階層に上がり、最初の扉を通過すると、重苦しい音が響きその扉がロックされた。あかりがなく、一瞬真っ暗になったところで、テルマが空中に小さな光を浮かべて視界を確保する。さっきの例からすると、扉がロックされると……いた。


 こんどのお出迎えは、双頭の超大型犬が二頭。うなり声を上げながらこちらを睨んでいる。ケルベロスの頭がひとつ少ないバージョン、ではなくバイオ○ザードのゾンビ犬の双頭バージョンだ。ゲームでは慣れっこになって麻痺まひしてしまっていたが、実物として見ると、やりきれなくなるくらい気持ち悪い。


 スケルトンが素早くリュミエラの前に位置を変えた。さすが彼はわかっている。あとは前の四人が再びヒットアンドアウェイで、動きを止めることを目的にしてダメージを与え続ける。タイミングを合わせて犬ころから距離をとった瞬間、リュミエラの矢が飛んでくる。


 それを繰り返しているウチに、不意に後方の気配が変わった。見るとニケが猫化していた。


 猫と犬だと相性は微妙だが、そのサイズは相手をしのぐ上に見た目は虎そっくりだ。ニケが戦闘態勢を取ると、ゾンビとはいえ獣の本能は残っているのか、二頭が縮こまったように動きを鈍らせた。次の瞬間ニケがそのうちの一頭に飛びかかったので、ぼくらは残りの一頭に群がってザクザク切り刻んだ。隣ではニケが爪でバリバリと切り刻んでいる。


 ローラが首二本をまとめて切り飛ばしたところでもう一頭の様子を見ると、すでに首を二つつけた肉塊になっていた。ニケはその横で壁に身体をこすりつけて汚れを落としていた。さすがに気持ち悪いらしい。毒もありそうだから、めて落とすわけにも行かないしな。




「たぶん、冒険者はここまでだったでありますな」


 部屋の中をざっと確認したシルドラが言った。光を当ててよく見ると、人間の死体がけっこうゴロゴロ転がっている。


 さきほどと同じように身元のわかるものを回収する。もちろん金目のものもだ。ひとりの冒険者が、おそらくここまでで出たお宝であろう、大きな未加工の紅玉を持っていたので、ありがたく回収する。

 

「しかし、人間の死体は腐らないのに、なんでさっきの犬はあんなに腐ってるんだろ?」


 単純な疑問を口にしてみた。


「ノスフィリアリ」


「ええ、間違いないでしょう」


 タニアとテルマが短い言葉を交わした。


「タニア?」


「アンリ様、いまの犬はこの墓の住人ではありません。おそらくこの墓の最深部にいるわたしの同族が手持ちの死霊を送りこんできたものです」


「魔族がこの奥にいるの!?」


 ローラとリュミエラが表情を強ばらせた。そういえば、この二人は魔族と戦うのは初めてだな。シルドラは想像がついていたようだし、ニケは……身体の汚れを落とし終わって、座ってあくびをしている。まったく気にしていないようだ。


「相手は見当がついてるってわけ?」


「ゴルドノフのことは一昨日話しましたね? その配下にバルという死霊使いがいます」


「そいつが?」


「たぶんこの奥で魔方陣の管理をしているでしょう。シルドラ、その魔方陣の魔力の流れは見極めましたね?」


「もちろんであります。この感じだと、最奥まで転送陣はあとひとつだと思うであります」


「バルのやり口だと、最後は牛か鬼」


 テルマのコメントにタニアが頷き、ぼくたちの方を向いた。


「使役される死霊はほとんど意思がないので、魔法を使ってくることはほとんどありません。おそらく最後は圧倒的な膂力りょりょくをもった死霊を出してくるはずです。力押しの局面はニケに任せて、とにかく攻撃を多くあてることに集中してください。ローラは急所だけを狙って攻撃を続けなさい。そうすればなんとかなるでしょう」


「あれ、なんとかなるでしょうって、タニアやテルマは?」


「わたしたちは、そのあとに備えて気配を消します。ですから、アンリ様たちだけでおやりください」


「そ、そんなぁ……」


「何を情けない声を出しているのですか。もともとわたしはゴルドノフに用があってここにいるのです。荷物運びをしているだけで感謝していただきたいものです。それでは足りないと仰せですか?」


「いや、そんなことはない、ないよ?」


「それに、この程度の相手でわたしたちをあてにしていると、そのうちどこかで詰みますよ。テルマも気まぐれですから、いつまでひとところにいるか知れたものではありません。とにかく考えて戦いなさい。スケルトンの使い方を工夫すれば、たいした相手ではないはずです」


 タニアはそう言うと、リュミエラの方に歩いて行った。


「アンリ、ノスフィリアリのスケルトンは道具。仲間じゃない」


 テルマがぼくにひとことかけて、シルドラをかまいにいってしまった。ぽつんと一人残ったぼくは、その言葉を反芻し続けた。


 

お読みいただいた方へ。心からの感謝を!


遺跡探索はまだ続きますが、ラスボス戦とかあっさり終わりそうな予感がびしびし。

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