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5ー11 急転

今回は、もう少し話を進められると思ったのですが、ローリエがどういう動きをするか、まで到達できませんでした。話が冗長にならないよう、気をつけたいと思います。

「拠点の場所や近衛の二人の実力は、アメリが連中に合流してからでないと正確なところはわからないね。あとは……連中はどうやって責任をギエルダニアに押しつけるつもりなんだろう?」


 ぼくはとりあえず主要な問題を整理してみた。


「それも確かなところはわたしが見極めるしかないでありますが、ふつうに考えればだれかギエルダニアの関係者の死体を冒険者の死体といっしょに転がしておく、というところだと思うでありますよ」


 すこし考えこんでいたビットーリオがふと顔を上げた。


「人の集め方や集めている冒険者のレベルを考えても、誰もそんなに大きな仕事とは考えていないと思うよ。ただ、ひとつ頭にとめておかなきゃならないことがある。責任を押しつけるというけど、そもそもほんとうにギエルダニアは無関係なのかな?」


「ギエルダニアが、国としてドルニエに接近しようとしていることは間違いないとわたくしも思います。ただ、上から下まで例外なくそう考えているかというと……」


「一人の例外もないと考えるほうがどうかしてるよね。ただ、今のところ話には出てきていないから、現場に出てくるレベルの人間じゃないと考えた方がいいのかな。その人物は、この一件でなにを得るんだろう?」


 おかしいな。なにか引っかかる。


「ギエルダニアの人間がこの件でなにか利を得るとすれば、女王国に売れるちっぽけな恩と、ドルニエとのあいだに生まれるちょっとしたミゾだ。いずれにしても個人が得るものとしてはたいしたものじゃない」


「逆ならどうでありますか?」


 ぼくらの話をよそに食事に専念していたシルドラがふと顔を上げて言った。口の中にはまだ咀嚼中の肉がある。美人が台無しだよ。


「まず口の中をカラにしようよ、アメリ。で、なんだって?」


 シルドラは肉を水で素早く流しこむ。なんて男らしいんだ。


「そのギエルダニアの人間が狙っているのが、『学生たちを襲った女王国の秘密部隊を退治する』とかだと、話は違ってくるでありますよ」


「なるほど」


 ビットーリオが、合点がいったという風情でうなずいた。


「ハメられるのは女王国のほう、ってことか」


「それでも話が少々みみっちくないかな?」


 率直な感想を口にしてみたが、ビットーリオは首を振る。


「いや、現場の騎士団長レベルだと、意外といい得点稼ぎにはなるんだ。ただ、そうだとしても、なぜ実際に襲わせなければならない? 事前にその引き込んだ近衛を拘束しちまえばラクだし話は早いと思うんだが」


「学生を襲わせることにも、なにかほかに意味があるのでは?」


 リュミエラのひとことがぼくの頭の中のわだかまりを吹き飛ばした。


「これはローリエに確認するまでは断言はできない。でも、学生の中に重要人物がいて、それを始末することが計画の一部だとしたら、このまだるっこしい話も少しはすっきりしないかな? ドルニエ側にはそんな人物はいないから、いるとすればギエルダニア側だよ」


「自分で言っておいてなんでありますが、妙な方向に進んでしまったでありますな」


 いやいや、今回の最高殊勲はシルドラさん、あなたです。しばらくは食費がかさんでもガマンしよう。


「となると、どうなさいますか、アンリ様?」


「とりあえず、アメリは予定どおりに賊にもぐりこんでよ。ビットーリオはアメリと当日うまく協力できるようにしてほしいんだけど、その前にこの黒幕がだれか、当たりをつけることはできるかな?」


「結果は保証しないが、やってみよう」


「当日はべつに顔を出さなくてもいいでありますよ」


「そんな冷たいこと言わないでくれよ、アメリさん!」


 これは放っておこう。


「わたくしはどうしましょうか?」


「リエラにはいちばん大きな役回りを頼まなきゃ。これからローリエと会うんだけど、一緒に行ってほしい。そして、一緒に行動できるくらいに仲良くなってほしいんだ」


「わかりました」


「おいおい、いちばん大きな役って、この期に及んで子供の出番があるのかい? それなら情報集めを手伝ってもらったほうが……」


「アンリ様の意思がわたくしの意思ですので」


 ビットーリオがぼくを見た。まあ、気持ちはわかる。わかるが、ぼくにも都合があるんだよ。


「よろしくね、リエラ」


 ビットーリオは今度はシルドラを見る。


「アンリ様の指示が最優先であります」 


 ため息をついたビットーリオが肩をすくめる。これで諦めるくらいには、ぼくたちの空気が読めているようだ。よしよし。


「それじゃ、あとは基本的にまかせたよ、アメリ。なにかあれば今晩中に知らせてね。明日には遠征に出ちゃうから」


「了解したであります。サッサと行くでありますよ、変態」


 シルドラとビットーリオは連れだって店を出て行った。ビットーリオは変態と言われてなにも言い返さないのか。すごいな。




「これ、おいしいね。さすがローリエのお薦めだよ。甘すぎないし、それでいてしっかりスイーツしてる」


「すいーつ、って何さ……。いやそれより、いったいいくつ食べるんだよ。もう、パフェの倍くらいの値段になってるじゃないか」


 前回ローリエといった店にまさるとも劣らないきれいなカフェでぼくが今パクついているのは、地球でいえばケーキである。スポンジをクリームが覆い、上に果物がのっている。多少果物のおもむきが地球と違うくらいだ。そして、これがうまい。なにを隠そう、前世ではケーキに目がなかったのだ、ぼくは。ちなみに今食べているのは四個目である。あと四個はいけるね。


「まあまあ、やりたくない勝負をやったんだからさ。これくらい、いいじゃない」


「あの勝負だって、ぼくは納得してないんだけど!」


 仕掛けたほうからすれば、それはそうだろう。だがそれはあくまでローリエの事情だ。ぼくにはぼくの都合があるのだ。だいたい、勝負を挑めば必ず相手が受けて立つ、というのは、強さに価値を置きすぎるひとたちの手前勝手な思い込みなんだよね。リシャールだってそうだった。ひどいのになると、あくまで拒否すると「卑怯者!」とか来るんだよ。




「アンリさん」


 リュミエラがやってきた。適当なところで声をかけて、「様」は禁止で、というのは打ち合わせ済みだ。そして、いちばん欲しいタイミングで声をかけてくれるのが、空気を読むことに関して右に出るもののいないリュミエラである。


「リエラじゃない。どうしたの?」


「ちょっとお知らせしたいことが……」


 そういってリュミエラは耳に口を寄せてきた。


「こんな感じでよろしかったでしょうか?」


 完璧だ。ぼくはうなずいてみせる。そしてローリエを見ると、ポカンとしてリュミエラを見つめている。うんうん、子供には破壊力抜群のきれいなお姉さんだもんな。


「お話の最中に失礼しました」


 リュミエラがニッコリ笑ってローリエに話しかける。


「い、いえ、とんでもない。あの……失礼ですけど……?」


「この人は冒険者のリエラさんだよ。カルターノで知り合ったひとで、たまたまシュルツクに来ていたらしいんだ」


「そ、そうなんだ……。ステキな人だね~。冒険者って、もっと荒っぽい感じの人ばかりかと思ってたけど、こんなきれいな人もいるんだ?」


「あら、ありがとうございます。お世辞でもこんな可愛いかたに言われると嬉しいですね」


「いえ、お世辞なんかじゃ……。それに可愛いって……」


 おお、ローリエはすっかりリュミエラにデレデレになってるな。妙に身体をくねらせているのが不思議な感じだ。完全につかみはオーケーだね。




「ところでローリエ、少しマジメな相談があるんだ」


 ほとんどぼくをカヤの外に置いてリュミエラとローリエが話しこんでいたのだが、もちろんそれだけが目的ではないので、適当なところで割りこませてもらった。


「ん、なに?」


 ローリエは少し不満そうにぼくを見た。そこまで邪魔にされると少し傷つくな。


「このリエラさんが聞き込んできて、ぼくに教えてくれたことがあるんだけど、少し困った問題があるんだ。ローリエにしか相談できないんだよ」


「困った問題って、ぼくも二回生の子供だよ? きいたところで何ができるっていうのさ?」


 といいながら、ローリエはぼくにしっかり向き合ってくる。素直だ。利用するような形になるのが少し心苦しいが、そんなことも言っていられない。こんなケースは今後山ほど出てくるだろう。


「ラグシャン女王国が、明日から遠征に出る一行を襲撃しようとしているらしいんだ。どうやら、ドルニエとギエルダニアが親密になるのがおもしろくないみたい」


「ちょ、それってぼくなんかに言うんじゃなくて、学校にすぐに知らせないと!」


「それが、そう簡単でもないんだ。リエラさんの情報によると、女王国の軍人をギエルダニア国内に引き込んだのは、国の中枢に近いだれかである可能性があるらしい。誰が誰とつながっているかわからないし、学校にもつながりがあるかもしれない。ひとつききたいんだけど、遠征に行くきみの先輩に、命を狙われる可能性がある人っている?」


「……なぜぼくの先輩?」


 ローリエの歯切れは悪い。まちがいなく、誰か心当たりがいる。


「ぼくの先輩たちの素性は全部知っている。兄様や姉様を含めて、殺すことで何か政情に影響があるような立場の人はいない。いるとすればきみの先輩なんだよ。首謀者は、その人もろとも遠征の参加者をすべて殺した上で、責任を女王国に押しつけようとしているとしか思えないんだ」


「絶対に口外しないと約束してくれる?」


 非常に心細そうにローリエがぼくに言った。なんか少し可愛いぞ。


「もちろん。ぼくの兄様や姉様の命だってかかってるんだぞ」


「うちの学校の代表の序列二番、アウグスト・ロッセリのほんとうの名前はアウグスト・ギエルダニアなんだ」


 ぼくはリュミエラを見た。皇家に連なる人間であることは間違いなさそうだが、このあたりは彼女のほうが詳しい。


「現皇帝テオドール・ギエルダニアの三男ですね。長男、次男が多少武に特化しすぎていることもあり、知の面でもすぐれ、性格も穏やかな三男を次期皇帝にと考える人もいるとか」


 うわーい、話がすごく大きくなっちゃったよ。シルドラたちがうまくやってくれるといいけど……。


お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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