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5ー4  晩秋の学舎〜遠征

日付が変わる30分前で、字数も少ないですが、少しでも続けたい一心です。日曜に一分も原稿に使えなかったのがきつかったです。

「やっと着いたでありますか。待ちくたびれたであります。アンリ様に乗せられてここへ来たはいいでありますが、いったいなにをさせるつもりでありますか? アンリ様の口車にはあまりいい記憶がないでありますよ」


「わたくしも、なんのためにここにいるのかさっぱり……ギエルダニアに来るのは初めてですし」


 シルドラとリュミエラの疑問はもっともだ。話は十四日ほど前にさかのぼる。




「七日後にギエルダニア帝国の帝都シュルツクにいくから、あんたも来るのよ」


「イネス姉、意味がもうちょっとわかるようにいってくれるかな? まず、なんのためにギエルダニアにいくのさ? そしてそれにぼくが巻きこまれる理由はなに?」


 イネスのぼくに対する無茶ぶりは今に始まったことではないが、それにしてもこれは行き過ぎだ。だいたい、馬車でおそらく七日以上かかるであろう、異国であるギエルダニアに、八歳児がいきなり「七日後に出発」とか、言われた側が冷静に受け止めると考えるなら、その人はどこかおかしい。


「ギエルダニアの騎士養成学校とウチの騎士課程が生徒の交流を持つことになったのよ。今年はこちらが向こうを訪問することになったらしいわ。ウチからは兄様を代表として合計十名が、来月の頭から十四日間、あちらの学校に滞在することになったの」


「それはわかったけど、ぼくとなんの関係が? 騎士課程かどうか以前に、初等課程生にそんな話をしてどうするのさ」


「正式な派遣団員は五名で、五名の補助要員がついて行けることになっているの。あんたはそのうちの一人」


「だからなんで? 騎士課程の下級生を連れていくべき話でしょ? 騎士課程を志望してもいないぼくが行く理由がまったくわからないよ。どうしてもウチの学年から連れていくにしても、ふつうに考えればリシャールでしょ」


「あんたはわたしの専属補助。小間使いに騎士課程もなにも必要ないでしょ? むしろ騎士課程の下級生だと気を使っちゃって疲れるわ」


「ぼくにも少しは気を使ってくれないかな?! こっちも授業とかあるし、そんなの行けるわけないじゃん!」


 正直言えば、ギエルダニアという国に行くことには非常に興味がある。これまで足を踏み入れたことのない国だ。だが、イネスの小間使いとして行きたいかというと話は別だ。自分の時間があるかどうかすら怪しい。


「リシャールくんとの勝負、わざと負けたことをバラすわよ」


 ぐ、そうきたか。でも負けるもんか。


「い、言いつけたきゃ言いつけろよ! フェリペ兄様に怒られるくらいでイネス姉の小間使いを十四日間もやらないですむなら、いくらでも耐えてみせる!」


 どうだ、という感じで見得を切ってみせた。


「誰がフェリペ兄様に言うって言ったのよ。カトリーヌ姉様よ」


「ごめんなさい、許してください! 小間使いでもなんでもやります!」


 カトリーヌ姉様は、ぼくが納得のいかない行動をとったりしても、決して声を荒げて怒ったりしない。暴力に訴えるわけでもない。だが、いつも優しい光をたたえるその目からいっさいの甘さが消える。これがそもそもかなり怖い。さらに、冷徹にぼくの行動の問題点を挙げ、そこに説得力のある説明を求めてくる。言い逃れはいっさい許されない。リシャールの件のように自分にうしろぐらいところがある場合には、思わずすべて白状したくなってしまうのだ。


「はじめからそう言えばいいのよ」




「というわけで、ぼくにはどうしようもなかったんだ」


「なんとも情けない話でありますな。最初の威勢はどこに行ったんでありますか?」


「カトリーヌ様は騎士課程からの誘いもたびたびあったとうかがっています。騎士の道を選ぶことはあり得ないからほかの世界についての見聞を広めたい、と固辞されていました。ご自分にも他人にも厳しい方なのでしょうね」


「面目ありません。……で、ギエルダニアと、このシュルツクっていう街の印象はどんな感じ?


 到着してしばらくイネスの荷ほどきの手伝いをしたあと、イネスは着替えをすませてむこうの騎士養成学院の代表との顔合わせにむかった。しばらく空き時間となったので、さきに街に入っていてもらったシルドラやリュミエラと合流したのである。


 ちなみに、シルドラたちはタニアが昔設置したゲート経由だ。シルドラのブートキャンプ三日で使わせてくれたらしい。だから、二人がシュルツクに到着したのは四日前である。


「ドルニエとそう大きな力の違いはなさそうでありますよ。やはり対外的に本格的な行動を起こすなら、最低でもあと十年ほどは必要という印象であります。ただ、ドルニエよりも幾分王権が強いでありますな。いざというときの動きは、この国の方が軽いかもしれないでありますよ、」

  

「街の活気も似たようなものであると思います。店頭に並んでいる商品の数や種類、それから値段もカルターナと大差ありませんね。治安は多少この街の方がいいようですが、スラムの規模はここのほうが大きいようです。王権が街のどこまで行き届いているか、という点に関しては、多少カルターノに分があるかな、と思います。ただ、いまドルニエとこの国がぶつかり合ったときに影響があるほどの違いは見えませんね」


「ありがと。今のところ自然体で力をたくわえている国みたいだね」


「今すぐどこかとどうこう、という感じは見えないでありますな。国力を蓄えるためにムリをしている、という印象は受けないでありますよ。そういう国の都はどこかピリピリした空気をもつでありますが、それは感じないであります」


「それじゃ、ちょっと街をぶらついてみたいな」


「今後のこともあるでありますから、とりあえずギルドまで行ってみるでありますよ」




 途中、屋台でいいにおいをさせていた焼き肉串を買ってもらった。どうやら、物価水準がドルニエと似たようなもの、というのは事実のようだ。味付けは……ドルニエ風よりすこし味が濃いめで、香辛料の香りが強い。もともと濃い味ごのみのぼくには悪くないが、好みが分かれそうだ。イネスは好きそうだが、フェリペ兄様は今ひとつかもしれないな。


 ここギエルダニアでは、もちろん、ドルニエのお金は使えないし、両替なんていうものもない。リュミエラには小さめの紅玉をひとつ預けてあった。シルドラに預けると食費ですべて消える恐れがあるので、もちろんそんな真似はしていない。


 武器屋やよろず屋をのぞきながらゆっくりあるく。なにか目的がないと街に出ないぼくにとって、こういう散策はけっこう貴重な機会だ。最近は、ことショッピングに関してはリュミエラよりもぼくのほうが世間知らずなくらいなのだ。


「道がわかりやすいね」


「カルターナは自然発生した集落が街になったのですが、このシュルツクは計画的に作られた街、という印象です。街の造りがカルターナよりも整然としていて合理的ですね」


「城壁が機能しているあいだは大きな強みでありますな。軍の集散、移動を機能的に行えるであります。いったん壁を破られれば話は違ってくるでありますが……そこが冒険者ギルドでありますよ」




「あたりまえかもしれないけど、中の雰囲気はあまり変わらないね」


「規模も似たようなものでありますが、カルターナよりも幾分腕利きの数が多かったと記憶しているであります」


「一度任務を受けましたが、扱っている仕事も大差ないような気がします」


「ここで任務を受けてみることができるかどうかは、イネスがぼくをどう扱うかにかかっているんだなぁ……」


 そのとき、うしろからいきなり肩をたたかれた。痛え。


「少年! 失礼だが横におられるの二人の麗しき女性たちは、きみの姉君か保護者だろうか? それとも、きみの財産だろうか?」


 なんだこいつ?


お読みくださった方へ。心からの感謝を!

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