5-2 夏の終わりの冒険者
ふたたび朝投稿に戻すことができました(ちょっとだけ遅いですが)。しかし、外伝のほうを短くしたとはいえ、一日二本はキツいですね。これはちょっと続きそうにないです。
◎皆様、申し訳ありません。外伝の第二部を、間違って本作品のほうに投稿してしまいました。すでに削除いたしましたが、混乱させてしまい、ほんとうにすみません。以降、このようなことのないように気をつけます。
「どうしてそう思うのですか、アンリさん?」
「じつは、マイヤさんが自分の意見をはっきりいうのを聞いたの、今日が初めてだっていうことに気づいたんだよね。それに、ベアトリーチェさんが相談事があるっていうのも、マイヤさんが先回りしてぼくらに話を持ってきたでしょ?」
マイヤはひとつ大きく息を吐いた。
「アンリさんが『相談事がありそうな気がして』」と言ってくださったときに、アンリさんがなにかを感じているな、とは思ったのですが」
「もしかして、他人が考えていることがわかるとか、そういう超人間的なオチがあったりする?」
「いつもわかるわけではありません」
「たまにはあるんだっ!?」
「その人のことを強く思ったりすると、ときどき頭の中にぼんやりと相手がなにを考えているのか、浮かんできたりすることがあります」
「で、ベアトリーチェさんのことを強く思ったわけだ」
「わたしはいつもベアトリーチェ様のことを思っています。ベアトリーチェ様がいればほかのどなたも必要ありません」
あれれ? ちょっと「病ん」的な方向に話が行っていないか? 人前ではベアトリーチェ「さん」になっていたのが、「様」にもどってるし。
「そ、そんなにベアトリーチェさんが大切なんだ? なにかあったのかな?」
「ベアトリーチェ様はドンくさいわたしをいつも守ってくださいました。わたしがいじめられているときは、いつもわたしを助けに来てくださいました。ベアトリーチェ様はわたしの太陽であり、命です」
やべえ、目が据わってる。サッサと切り上げるべきか? 背筋が寒くなってきたぞ。
「とでも言えば、アンリさんは引いてくださるでしょうか?」
え? ひょっとしてかつがれた? よく見ると目線も戻ってるし。……いや、それでもいつものマイヤとは違う。
「アンリさんの目はなかなかごまかせませんね。油断のならない方です」
「えーと、どこまでが本気で、どこまでが冗談かな?」
「いちおう、全部本気です。ベアトリーチェ様の考えることをわかろうとしていることも、ベアトリーチェ様を守りたい気持ちもほんとうです」
「そのためにいつもは影を薄くしてるんだね? ベアトリーチェさんにもそれを気づかせないように」
「できれば、そのことはベアトリーチェ様には……」
「わかったけど、それならなぜ魔法学の授業を最初から選択しなかったの? 最初から選択して一緒にいるようにすれば良かったんじゃない?」
「学舎では遠巻きに見ているつもりでした。少し距離をとっている時間も必要かと思いまして。でも、途中からアンリ様にかすかな殺気を感じるようになりましたから」
おい、ちょっと待て。シャレにならないこと言ってるぞ、この子。
「ご安心ください。授業に参加させていただいてから半月ほどで、殺気も血の臭いもなくなりました。いまはアンリさんをベアトリーチェ様のご友人として認めておりますから」
マイヤはニッコリ笑って見せた。いや、ぜんぜん安心できないよ。何者なんだ、この子? マッテオを殺ったころにぼくに殺気を感じていたなら、そして血の臭いも感じていたなら、ひょっとしてこの子、気づいてるのか?
「ベアトリーチェ様のご友人を困らせるようなことはいたしませんからご安心を。それでは、これで失礼します」
マイヤは一礼して歩み去った。ぼくは茫然とその後ろ姿を見ているしかなかった。
「それはまたとんでもないくせ者がいたものでありますな。中身がエロ爺のアンリ様を八、九歳で手玉にとってみせるというのは。なかなかできないでありますよ。なにも知らなければ、わたしもあのときのアンリ様に殺気を感じたかどうかはわからないであります。」
エロ爺言うなし。
「ジレス伯爵家……あまり目立った功績を挙げたこともありませんが、常に王家との関係が密な家系ですね。わたくしの同じ学年に長男のディエゴさんがおられましたが、さほど目立ったところはありませんでした」
「目立たないのに王家に近い、って、怪しいといえば怪しいよね。隠密系だとすれば、子供をだれかひとり選んで鍛え上げるとか。ほかの子供はふつうの貴族の子供なんじゃないかな。ただ、今日のマイヤはベテランの暗殺者みたいな空気だったよ」
「その空気をアンリ様に見せたのでありますから、いちおう警戒は解いていると思うのでありますが、調べてみるでありますか?」
「今はいいよ。さすがにシルドラのことまではつかんでないだろうし、下手に動いてやぶへびになってもマズいんじゃない?」
「それもそうでありますな。しばらく様子を見るであります」
アンドレッティ公爵の惨殺、ジェンティーレ伯爵父娘の謎の死は、少しの間カルターナを騒がせた。だが、そのふたつを結びつけて考えるものもあらわれず、リュミエラの死を疑うものも出ず、ほどなく騒ぎは下火になった。王家の血縁であるアンドレッティ公爵家は多少ごたごたしたもののエンリケの弟のアダムが、ジェンティーレ伯爵家はジュリオの長男マルセルが家督を継いだ。
「あたりまえだけど、リュミエラって王家の血縁者なんだよね。下手したら『頭が高い』なんて切り捨てられてたりして」
「ドルニエでは、国王本人でもそんなことはしませんよ」
「まだまだ、王家も『もっとも力のある貴族』に過ぎないところがあるでありますよ。下手に形式にこだわって寝首をかかれるようなことはしないと思うであります」
リュミエラは「リエラ」という名で冒険者登録し、修行がてらシルドラといっしょに任務をこなしている。ぼくは最近学舎生活の比重が大きくて、冒険者活動をあまりしていないのだが、リュミエラはすでにランクでぼくより上だ。
「冒険者の生活というのもおもしろいものですね。今まで知らなかったカルターナ、今まで見てこなかった人間のいろんなところが見えてきます」
「それは今のところリュミエラが生活に困ってないからだからね?」
「ほとんどの冒険者は、そんなこと考えている余裕はないでありますよ?」
「も、申し訳ありません……」
「アンリ様も明日から久しぶりの冒険者リアンであります。気を抜いていると思わぬケガをするでありますよ」
久しぶりの任務は、数パーティ合同で盗賊のねぐらの襲撃なのだが、ぼくらのパーティーは侮られる要素満載だ。メンバーは若い美女(ひとりは若く見えるだけだが)ふたりに八歳児ひとり。ランクはシルドラがB、リュミエラがE、ぼくはFのまま。むしろ侮るほうが正常な反応だろう。
合計四パーティーだが、うちふたつの顔ぶれからは嘲笑が浴びせられた。それをヘラヘラ笑ってやり過ごすと、ディノが割ってはいってきた。ちなみに、つい最近ランクはBに上がったらしい。
「おまえら、馬鹿にしてかかってると、獲物を全部持って行かれるぞ。たぶん戦闘力はこの中でこいつらが一番高いからな」
一瞬笑い声は引いたが、顔から嘲笑は消えない。まあ、信じないだろうな。
べつにぼくらは報酬がほしくてこの任務を受けたわけでも、盗賊のお宝を狙っているわけでもない。ぼくらを笑ったふたつのパーティーのひとつにベルガモがいる。依頼主の死に警戒して名前はアルミンと変えているが、金に困って実入りのいいこの任務に潜り込んできたらしい。リュミエラは気づいていない。
「アンリ様の訓練その一であります。リュミエラに気づかれないようにベルガモを殺ってみてほしいであります」
「当然ほかの人たちにもだよね?」
「ほかの人たちに見られたら重犯罪者でありますよ。ボケる余裕は立派でありますが」
襲撃自体はスムーズに運んだ。ぼくはわざとベルガモの近くで前に突出して見せ、宝の隠し部屋がある方向に少しずつ彼を引っ張りながら移動した。
隠し部屋の情報はシルドラが事前に調べてある。微妙に首領がいるとおぼしき奥の部屋からずれた方向にある隠し部屋を選んであった。その位置の情報は、ベルガモにはシルドラとの会話を盗み聞きさせている。仲間を連れてくるかどうかが心配だったが、欲に駆られたベルガモはうまくひとりでついてきた。
部屋の前に来ると、いきなりベルガモがぼくを後ろから殴りつけた。とはいっても、あらかじめ予想していたのでうまく衝撃を殺しつつ地面に転がった。
「てめえはそこで寝てな、ガキ。ここのお宝は俺がいただく。ガキのくせにえらそうに欲をかくから痛い目にあうんだ」
うん、セリフまでだいたい予想どおりだったね。でも、それをやるなら殺さなきゃダメでしょ。欲の皮が突っ張ってるのはわかるけど、秘密の行動は慎重にやらなきゃ。
ぼくは転がったままベルガモの様子をうかがう。彼が辺りを見回して部屋に入り、周囲から完全に見えなくなるのを待った。
「なんだこりゃ? なにもねえじゃねえか。おいガキ……」
もちろんそのときにぼくが同じ位置に転がっているはずはない。
「おい、どこ……ギシェ!」
べつに正面から正々堂々と戦う必要もないわけで、後ろに回りこんで首筋を掻き切るのはとても簡単だった。初級編レッスンワンってところだね。
ほかの冒険者が戦っているところに戻ると、シルドラが魔法をぶっ放しながら目で首尾を聞いてきた。うなずいてみせると、サムアップで返してきた。
盗賊との戦いは収束にむかっているが、ひとつ気づいたことがある。いま、リュミエラは弓で戦っているが、それをシルドラが魔法使いモードで守っている。ほとんど守る必要もないが、フォーメーションとしてはそんな感じだ。ちなみに、リュミエラはタニアから、剣よりも弓がむいているといわれたらしい。
そもそも魔法使いが弓手を守る形が異常で、それにもうひとり、つまりぼくが短剣使いだ。防御力が紙だね。武器を変えたとしても、こんどは三人シーフがいるような形になる。やはり紙だ。相手が強くなってくると火力も足りない。しかし、シルドラが魔法使いとしてギルドに登録している以上、魔法使いをもうひとり、というのも外から見ると変だ。
「タンクがほしいな。それと正当派の剣士かな」
「たんく、とはなんでありますか?」
まあ知らないだろうね、言葉は。そのうち教えるよ。
それやこれやで、もうすぐ夏期休暇は終わり、新しい学期ので授業が始まる。またしばらくおとなしい学舎生だ。
読んでくださった方へ。心からの感謝を!




