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4-4  刃の上の日常(後)

「謎はすべて解けた!」

とっととこう叫んで先に進みたいですね。いちおうミステリーパートは今回までになると思います。

微妙にキャラがふえてきたので、そろそろ登場人物一覧などで整理した方がいいかも。

(とくに作者にとって)

 最近のぼくの朝は剣の訓練で始まる。午後の魔法の訓練と夜のシルドラとの打ち合わせで、朝食前しか剣を握る時間がないのだ。しかもマッテオと戦る(やる)ときに物理がカギになることはまちがいないから、サボるわけにいかない。


 当初困ったことは、相手がいないということだった。


 シルドラはリュミエラの送迎からそのまま情報収集に出て、夜まで戻ってこない。情報収集は彼女にしかできないことだから最優先だ。だが、学舎にはぼくがまともに剣を使えることを知っているのは兄様たちとイネスしかいない。


学舎の中にいる人の中でシルドラといい勝負ができるのも、フェリペ兄様くらいだろう。兄様に頼めば相手はしてくれるだろうけど、理由を話さなければならないだろうし、そうなると兄様をだまさなければならない。それは出来ない。


 シルドラに、タニアにあのスケルトンを貸してもらえないか聞いてもらったが、当然ながらムリ。ぼくがスケルトンを制御できないことも理由だが、「これいじょうめんどうをかけるんじゃないじぶんでなんとかしろ」というフラットなメッセージがポイント。いや、予想はしていたんだけどね。


というわけでジルに泣きつくと、なんとセバスチャンを貸してくれた。(仮)ではなく、ほんとうにセバスチャンだったのも驚きだが、剣の腕もたつとは驚きだ。聞くと、「執事のたしなみです」とか言っていたが、さすがセバスチャンだね。セバスチャンも、小屋にこもる主人か心配だったようで、こころよく引き受けてくれた。


「旦那様はアンリ様もご存じのとおり、魔法以外はたいへんに残念な方ですので、わたくしがおそばにいなくて大丈夫か、といつも案じておりました。ですので、アンリ様には感謝しておりますよ」


 そういうセリフまで、まさにセバスチャンだ。



 このセバスチャン、剣の腕もまさにセバ……うん、やめるね。剣の腕も一流なんだな、これが。「わたしは魔法はあまり得意ではありませんが」とか言いながら、片手剣でぼくをいなす合間にいきなり距離をとって魔法を撃ちこんできたりする。ぼくが撃ちこむ魔法を剣ではじくという信じられないワザを見せたりもする。


「魔法を剣ではじくのは、ぼくにもできるでしょうか?」


「アンリ様なら、すぐにわたし程度の芸当は習得されるでしょう。ただ、さすがに強力な魔法に対抗するのはムリでしょうから、そのへんを見極めてください」


 そんなこんなで朝食のときにはもうクタクタなのだ。午前の授業も、寝てしまわないようにするのがたいへんで、ほとんど頭にはいらない。




 昼食の時間は、前日ルカから聞かされていたとおりベアトリーチェといっしょだ。だが、テーブルには女の子がもうひとりいた。おとなしそうな子で、ずっと下を向いている。


 ん? ひょっとしてぼくに紹介したいとかリア充パターンきたか? 残念だけどぼくにはやらなきゃいけないことがあるから、気持ちは受けいれられないってか? そういえばどこかで見たことあるな、この子。


「アンリさん、ルカさん、時間をとらせてしまい申しわけございません。この方はマイヤ・ジレスさん、ジレス伯爵のお嬢様で、わたしが小さいころから仲良くしていただいている方です。いまは第二クラスで学んでいらっしゃいます。きょうは、アンリさんとルカさんにお願いしたいことがありまして、こういう席を作らせていただきました」


 はい、わかってますよ。ぼくの妄想乙,ってやつだね。そんなことがあるわけはないことはわかっていたんだよ。


「いま、魔法学の授業はわたしたち三人で受けさせてもらっています。授業の登録期間は過ぎているのですが、先日マイヤさんが自分もいまから魔法学を選択できないだろうか、とクラス担当教官に相談されたそうです。教官の答えは、いま授業を選択しているわたしたち三人が同意すれば手続きを進めてくださる、というものでした。マイヤさんがわたしに相談に来られましたので、わたしから二人のご意見をうかがえれば、と」


 ああ、思い出した。入舎式のときにぼくの斜め前にいた女の子だ。強い魔力を感じたっけ。じぶんにオドオドっ娘属性がないから忘れてたよ。


しかし、さすがは女子で存在感のきわ立つベアトリーチェだ。テーブルの仕切りから話の運び方まで完璧だね。目の前の三人は家格も下で、もう少しぞんざいな態度でも許されるはずだが、自分からの頼みごとという事情も踏まえてか、いっさいのスキがない。よほどの理由がないかぎり、この時点でぼくらに「ノー」という選択肢はない。こういうのは、自分に自信があるからできるのだ。


「ぼくはベアトリーチェからすこし話を聞いていたし、かまわないんだけど、アンリはどう?」


「なんの問題もないと思うよ。マイヤさん、よろしくお願いします」


 マイヤはピクッと身体をすくめ、そして顔を上げた。


「は、はい、よ、よろしくお願いします。わわ、わがままを聞いていただきありがとうございます」


「わたしからもお礼を申し上げます。ありがとうございました。マイヤさん、これからいっしょにがんばりましょうね?」


 締めまで完璧なベアトリーチェであった。



 ジルが複合属性魔法について教えてくれた。違う属性の精霊が起こす現象を掛け合わせて効果を得る、というのがポイントで、一対一や乱戦での攻撃魔法としてはむずかしい部分が多い。複数の精霊にイメージを伝えなければいけないため、どうしても詠唱する呪文が長くなる。しっかりした盾がいなければ役に立たないのだ。


 このへんは中級以上の属性魔法にも共通した課題である。魔法が強力になるにつれて長くなる呪文をいかに短くするか。それは多くの研究者がとりくんできた課題であり、呪文を短くする能力は、そのまま魔法の才能といってよい。


 ぼくには詠唱から来る制約はないが、正確にイメージが作れなければ精霊も何もしてくれないから、そこはおろそかにはできない。多くの先達が作り上げてきた呪文から逆にイメージを読みとり、それを頭に描く訓練を続ける。


 複合魔法を詠唱なしで発動する場合、どのように属性魔法をかけ合わせてどういう効果を狙うかという理論構築と、それを頭の中でイメージしたものが重ならなければ失敗である。呪文に頼るほうがラクだともいえるのだ。ジルはぼくに何度も何度も試行錯誤を繰り返させた。



 夕食後、部屋に引き上げてしばらくすると、課題をやりながらマルコが話しかけてきた。


「イネス様、かっこいいよなぁ」


 は? いったいこいつは何を言ってるんだ?


「きょう騎士課程の剣術実技をのぞいたんだけどさ、何人相手にしても、汗ひとつかかずにあしらってるんだ。相手は息も絶え絶えなんだぞ? 立っているところからほとんど動かないんだもんなぁ。きれいだし、スタイル抜群だし、あこがれるよ」


 まあ、イネスは見た目は悪くない。母様譲りの金髪を短く刈りそろえ、父様に少し似たシャープな顔立ち。体型も細身のわりに出るところは出てきている。また、剣の腕も悪くない。いまならぼくもそうラクには勝てないかもしれない。だがな、中身はアレだぞ?


「見るだけにしておいた方がいいよ。ぼくなんか、ずいぶんいじめられたし」


 いじめられておいてやると、すごく機嫌がいいんだよね。でも、泣きまねしたりすると急にあわて出す。基本的に善人ではあるんだ。


「そこがいいんじゃないか。厳しく鍛えられたりしたら幸せだな」


 こいつ、八歳児のくせに枯れた趣味をしていやがる。気をつけた方がいいな。


「課題早くやっちゃいなよ。それくらいでつまづいてると、姉様に相手にされないよ?」


「そうか! よし、がんばるぞぉ!」


 まあがんばってくれ。脳筋のイネスは課題のことなんか頭にないけどな。




「今日お伝えするのは二点であります」


「その言いかただとひょっとして収穫が大きかった?」


「なんでわかるでありますか? もったいぶってみせたつもりでありましたが……」


 いつもつけない前置きをつければ、そりゃ収穫なしか大収穫のどちらかに決まってる。さらに「二点」などと振ってみせれば、収穫ありのほうだと簡単に想像がつく。


「まず、馬車を襲った実行部隊のほうからであります。ジェンティーレ伯爵家に出入りしているものを片っ端から洗ったでありますが、少し前からベルガモという冒険者が何度か姿を見せていたそうであります。しかも、ここひと月ほどはまったく見かけないそうでありますよ」


「その冒険者はどういう素性のヤツなのかな?」


「冒険者としての実績は並でありますが、ベルガモとパーティーを組んだ冒険者が数人、任務中に命を落としているであります。まちがいなく暗殺目的で任務を受けているでありますな。わたしも何度かやったことがあるであります」


「それ聞きたくないから!」


「そうでありますか? 要するに、ベルガモの本職は暗殺者ということであります。一週間ほど前に、ベルガモと縁のあった盗賊団が壊滅したそうでありますから、リザードマンのしっぽ切りと思われるであります」


 あー、トカゲのしっぽ切りね。リザードマンって、地球のトカゲよりずいぶん大きいから、しっぽを切るのもたいへんだと思うけど、ひょっとして魔族の言いかたなんだろうか?


「じゃあ、ベルガモ以外はもう死んでるってこと? ひとりひとり片づける必要がなくて、助かるといえば助かるけど」


「リュミエラが納得してくれれば、ラクでありますな。リュミエラにとってきついのはもうひとつのほうでありますよ」


「なにがわかったの? 公爵家がらみ?」


「ひっくるめて全部といっていいであります。三女のヘラは黒の可能性が高いであります。そしてヘラが黒なら、アンドレッティ公爵も自動的に黒であります」


「なにが自動的かさっぱりわからないんだけど?」


「ヘラは身ごもっているであります」


「なっっ!?」


 合計三十男にはきつい衝撃だった。ふつうの八歳児には問題がヤバすぎて、なにが問題かわからなかっただろう。


「……父親はアンドレッティ公爵ってことだね?」


「それ以外に可能性があれば教えてほしいであります。充分な根拠がなければ、身ごもった娘を公爵家に送りこむなんてことはできないであります。家格の高いものに対する侮辱でありますからな。ベルガモとの関係でジェンティーレ伯爵を黒と考えるのであれば、あとは考える必要もないでありますよ」


「ジェンティーレ伯爵は公爵のお手つきによる三女の懐妊を利用しようとしたわけか。公爵は伯爵に押し切られたんだろうけど、同罪だよね」


「もちろん、形になる証拠はなにもないであります。しかし、わたしがリュミエラであれば、証拠のあるなし関係なくその場で皆殺しでありますな。ただ、黒かどうかを最終的に判断するのは、リュミエラにまかせるでありますよ」


「それ以外にどうしろっていうのさ……」


 今晩はさすがに寝つきが悪そうだな……。


読んでくださった方へ。心からの感謝を!

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