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3-8  学舎の放課後・春(後)

アンリくんのやらなければならないことが目白押しになってきました。

学舎の生徒としてのアンリくんも描きたいのですが、どうしたものか。

八歳児としてのアンリくんの生活は、必要な記述だと思うんですが、

全体のバランスをどうとるか、難しいところです。

「なるほど、そういうことですか。参考になりました」


 ザカリアスの言葉は、あまりにしっくりきすぎて特段の感慨を生まなかった。


「それだけか? 食いつきが良かったわりには、えらくあっさりしとるの。もうちょっとなにか反応してくれんと、思わせぶりにしゃべったわしがバカみたいじゃ」


「あ、やっぱりちょっと狙ってたんですね?」


「これならうまい引きになるか、というぐらいには狙っておったぞ。八歳のガキに見透かされるとは思わんかったがな」


「なんというかその、『ああやっぱり』でしかないですよね? わかっていればなんの害もないというか……」


「そのとおりじゃ。そのとおりなんじゃが、おまえさん、ひょっとしてわしと同族で歳も同じぐらい、というオチを隠しもっとらんか? 醒めすぎじゃろう」


「ド・リヴィエール家の三男は八歳だと学舎も確認してますよね?」


「その言いかたがすでに怪しいんじゃが、そういうことにしておこうかの。というわけで、おまえさんの思っとるとおり、関わらなければなんということもない。ただおまえさんは『害はない』と言ったが、マッテオのほうから関わってくるのはやっかいじゃぞ」


「このまま諦めてはくれないでしょうかね?」


「くれんじゃろうな。いい女にむらがる男と同じじゃよ。冷たくされればされるほどムキになる。そういうときにはな……」


 ザカリアスが「ニヒヒ」と聞こえてきそうな笑みを浮かべる。ダメだ、この人根っこはただのスケベ爺だ。


「それ、とりあえずどうでもいいですから」


「つまらんヤツじゃな。ただマッテオの場合は、『手に入らないものなら消してしまおう』と思ってしまう異常性もあることを忘れてはいかん。おまえさんはあの男を受けいれない。それはいいじゃろ。だが、そのうち後ろから刺されるかもしれんぞ」


 うわ、めんどくせ。どこのヤンデレですか、あいつ? ゲームで二択が出て上を選べばよくてバッドエンドで、下を選べばデッドエンド直行、みたいな状況ですよね、これ。


「じゃあ、どうしたらいいでしょうかね? 目をつけられたのが運の尽き?」


「そういうことじゃな。それがイヤなら発想を変えるしかないのぉ」


「イヤに決まってるじゃないですか! 上司ならなんとかしてくださいよ!」


「そうはいってもわし、あの男と思いっきり距離をとっとるからの。世渡りがうまい男で、魔法課程を牛耳ろうとしとるんじゃ。関わるのが面倒じゃて、この小屋に逃げこんどるんじゃよ」


 フリーダムな爺さまだな……。主任の仕事は完全放棄か。そしたら、ひとつしか道はないじゃん?


「消しちゃうしかないですかね?」


「それしかないじゃろうな」


 うわあ、一気に話が終わってしまったけど主任教官はそれでいいの?


「いやいや、それ以前にホントにいいんですか?」


「なにがじゃ?」


「マッテオを殺してしまうことに決まってるじゃないですか!」


「ダメに来まっとるじゃろう」


「え、でもさっきは……」


「当然じゃろ。おまえさんが『消すしかないか』と聞いたから、わしの助言として同意したまでじゃ。殺していいかなどときかれたら、ダメだというに決まっとる。わしは助言はできても、おぬしの決断を代わってやるつもりはない。そういう決断に他人を巻きこむでないわ」


 ザカリアス教官が続けた言葉は、ぼくを完膚なきまでに打ちのめした。


……わかっていたつもりだったんだ、自分は他人に安易に頼っちゃいけないと。でも、どこかでまだまわりに甘えているところがあった。そこをピンポイントでつかれてしまったわけだ。


「ごめんなさい……」


「まあええ。わしもおまえさんが八歳の子供だと言うことを忘れとったわ。わしはマッテオがいなくなっても毛ほども困らん。だれかにもし殺されたとしても同情も怒りもわかん。この国にとってもたいした損失じゃない。おまえさんがどういう決断を下したとしても、わしはまったく気にせんよ」


 涙が出そうになった。ザカリアス教官はぼくの甘えをただした上で、ぼくが決断を下しやすいようにしてくれている。


「わかりました。じっくり考えて決めます」


「えらく縮こまっとるのぉ。さっきまでのあつかましさはどうしたんじゃ?」


 そうだ。ここでザカリアス教官の優しさに感謝しつづけて立ち止まっちゃいけない。ぼくはこの優しさすら利用して前に進まなきゃいけないんだから。


「いえ……大丈夫です! 復活しました!」


「そうか、ならええ。ひとつ教えといてやろう。マッテオは小物じゃ。しかし、まずいことに能力のある小物じゃ。そういうヤツは用心深いぞ。自分がやりそうなことは他人もやると思うからの」


「敵としたときに充分てごわい、ということですね?」


「簡単に倒せる相手ではないの。それに、おまえさんが適性検査で手を抜いていたのはあの男も知っとる。子供だと思ってなめてかかってはくれんじゃろうし、魔法の力はどう考えてもあっちが上じゃ。よく考えるがいいわ」


 ここで、ぼくの頭にひとつの取引が浮かんだ。可能性はゼロじゃないだろう。


「考えます。ところで話はまったく変わりますが、ザカリアス教官が自主休業中だというのなら、ひとつぼくに雇われてもらえませんか?」


「……まわりくどい言いかたをするでない。おまえさん、わしに魔法の手ほどきをしろというんじゃろ?」


「ぶっちゃけ、そのとおりです」


 代価となる可能性のあるものを、たぶんぼくは持っている。


「わしはべつに金に興味はないぞ。あって困るものではないが、必要な分くらいは持っとる。雇うと言ったが、おまえさんはわしに何をくれるんじゃ?」


「ぼくがいまできることを、教官にお見せしようかと」


「なんでそれが対価になると思うんじゃ?」


「教官はさっき、ぼくの力が気にならんことはない、と言いましたよね? 教官にはそれをお見せします。必要ならそれをぼくがどうやって身につけたか、も」


「むう……そりゃ、気にならんわけではないが、ちと対価としては安すぎんか? わしはこれでも魔法の研究に長年を費やしとる。おまえさんでは、わしの知らんことを探してくるほうが大変じゃと思うがの」


「時に教官は、転移魔法はお得意ですか?」


「わしには使えん。あれは魔力を出し入れする加減が微妙すぎるんじゃ。小人族は人族よりは魔力のあつかいにたけとるが、それでも魔族には遠く及ばん。それが小人族が人間側に分類されてしまう原因なんじゃ」


「知りあいに使えるものがおりまして……」


「なんじゃと?! ひ、ひょっとしてわしの前で使ってくれるのか?!」


「転移を体験してもらうこともできると思いますよ?」


「ぜ、ぜひたのっ……いやいや、あぶない。まだ安すぎじゃ。もう一声あるかの?」


 くっ、けっこうがめつい爺さんだな。これが出せる最後のカードだ!


「必要な魔道具などはありますか? 最近裏市場に伝手ができまして……」


「む……ない、とは言わん。じゃがの……」


「値段についてもたぶん相談に乗れるんじゃないかな」


「ええい、わかったわい。わしに教えられることは教えてやろう」


「毎度ありがとうございます!」


「おまえさんは悪徳商人かなにかかの? じゃがな、魔法は剣術や武術以上に才能がものをいう世界じゃ。剣術ならよほど身体能力が絶望的でない限り、なんとか戦場に立つことができる水準までは努力だけでいける。しかし魔法は努力だけではその水準には絶対に届かん。教えたからといって、それをものにできるとは限らんぞ?」


 うーん、まだまだ疑心暗鬼だな。ちょっとだけ前金を払っておくか。教える意欲をかき立てておかないとよけいな時間を食うし。


「あそこの壁に立てかけてある薪、切っていいですか?」


「かまわんが?」


 ぼくは風の刃で薪を両断するイメージを浮かべ、そのイメージに微量の魔力を込めた。魔力に呼応して小さなカマイタチが飛び、薪を両断する。


「……詠唱省略か?」


「ぼくは精霊との意思疎通が上手いらしいです。頭でイメージを作って魔力を込めるとこんな感じで。詠唱は精霊にイメージを伝えるために行うんですよね? ぼくには必要ないみたいです。もちろん、まだ初歩的な魔法しか撃ったことはありませんが」


 ザカリアス教官は大きなため息をついて座りこみ、カベに身体を預けた。


「おまえさんは天才じゃよ。無詠唱はもちろん理論的には可能じゃ。じゃが、少なくともわしはそれを実際に可能にした人間に会ったことはない。魔族なら別じゃが、人間には実際には不可能なことだと思っとったよ」


 そのうち成長が頭打ちになることはどこかのタイミングで白状しよう。


「やる気を出してもらえました?」


「出たにきまっとるわ。おまえさんをマッテオなんぞに潰させるわけにはいかん。わしの研究の邪魔をさせてたまるか」


 ……え、最後なんて言ったの?




 というわけで土壇場で少々不安は残ったものの、ぼくは無事に学舎における魔法の師匠を確保した。しかも、理想的な師匠だ。世俗的なことに興味はなく、魔法の研究ができればなにもいらないという。ダメダメな人間(小人族だが)である。まあよほどのことがない限り、研究材料になるぐらいは我慢しようじゃないか。



 それにしても、意外に時間が足りない。アンドレッティ公爵家の調査はなるべく早く手をつけなきゃいけない。ついさっきまでは、マッテオのことはそのうちゆっくり考えればいいと思っていたのだが、こちらもどうやらあまり時間の余裕はないらしい。すでにひと月、マッテオのちょっかいを無視し続けているわけで、今のところ向こうも楽しんでいるようだが、いつまでもそういうわけにはいかないだろう。


 なるべく早く、マッテオの魔法に関わる能力だけでなく物理の能力、戦法、行動パターン、趣味嗜好、その他必要な情報をすべて集めなければならない。こういうときに限ってシルドラはブートキャンプ中だ。外に出られない以上、シルドラが戻ってくるまで動きは取れない。


……帰ってきたら、当分食事制限だな。


お読みいただいた方。心からの感謝を!


タイトルから内容が推測しにくいかもしれない、という感じがしています。

すぐに、というわけではありませんが、ちょっと工夫するかもしれません。

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