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17-2 おしごとのはなし、そして……

外交と言えば外交ですね。


運営からの指摘を受け、改稿を施しています。

「何か用?」


 相変わらずの感情の起伏の少ない表情で、シャナ王女はまったくの通常運行だった。




 レイハナの騒動の時から久しぶりに、ぼくはシルドラとともにシャナ王女の部屋を天井裏経由で訪れていた。少し前までマイヤが来ていたらしいが、ぼくが来ると知るや、サッサとひきあげたとのこと。シャナ王女のライフワークの邪魔をしているわけだから、少なくとも上機嫌では迎えてもらえないはずと覚悟はしている。それを思えば、上々の滑り出しとすら言えるだろう。


「セリアさんと相談事をしていて、シャナ王女と話すべきだと言われまして」


 シャナ王女の視線を受けたセリアさんは「ちょっ……」という表情を一瞬浮かべたが、思い直したように黙って頭を下げた。ぼくは嘘は言っていない。シャナ王女と話したいと言ったわけではないのだ。あって話すように仕向けたのはセリアさんである。


「なに?」


 相変わらず話が早いというか興味の向くこと以外はムダがないというか……。


「ギエルダニアに、女王国への伝手を欲しがっている人がいまして……」


 ぼくはセリアさんにした話に加え、皇位継承のキャスティングボードを握るミュラー辺境伯がいまだに旗幟を鮮明にしていないこと、ミュラー辺境伯がギエルダニア皇家に対して強い忠誠心は持っていないこと、女王国との関係をとりもつことで彼を陣営に引き込める可能性が小さくないこと、を説明した。ぼくが関わるのがどちらの陣営かは話していない。


 シャナ王女は黙って考えている。セリアさんもここまでの話のひろがりは予想していなかったらしく、引きつった表情で口を開いた。


「フォーゲル男爵、ご自分が何をしようとしているかはおわかりですよね?」


「もちろん」


「本気で辺境伯領と皇位を引き替えるおつもりですか?」


 さすがにセリアさんはそこまで読み切ってくれている。


「自分の国のことじゃありませんしね。ぼくが思いつきを提案して、ギエルダニアの人が受け入れ、思いついたぼくが話をつなぐところまでを請け負っているだけです。ギエルダニアの人間がいいと言っているわけですしね」


「しかし……」


「セリア」


「はい……」


 シャナ王女に制されたセリアさんはすぐに引き下がった。


「うちの国は向こう十年ほどギエルダニアに手を出せなくなる。わたしは別にかまわないけど、かまう人はけっこういる」


「そうでしょうね」


 ミュラー辺境伯領はギエルダニアと女王国がコトをかまえるときには最前線になる。辺境伯領に手を出さないということは、ギエルダニアに侵攻するルートを失うということだ。ほかにルートがないわけではないが、軍の移動は遙かに厳しくなる。


「いずれは約束を反故にするとしても、目先の話でうちの国は何を得る? それがなければ、さすがに納得する人はいない」


 こえー。領地を脅かさないという言をひるがえすところまで考えているよ、この王女さま。ぼくも考えているけどさ。ただ、ちょっと考えすぎだ。


「誤解しないでいただきたいのですが、ぼくはミュラー辺境伯領を脅かさないことをお願いしているのではありません。ぼくが請け負ったのは伝手を紹介するところまで。その先、話がどう動いていくかはぼくの興味の対象外です」


 ぼくが知る限り、ミュラー辺境伯としても直ちに叛旗をひるがえすほどの準備はできていない。手勢を密かにととのえ、女王国から保証を引き出して、それからだ。皇位継承はおそらくその前にカタがつく。


「なら、辺境伯の依頼を拒絶しても?」


「それが女王国の判断ならいいと思います。ただ、将来ギエルダニアに目を向けるときに辺境伯を自軍に数える、という選択肢ができるなら、辺境伯にいま窓口を与える程度のことの見返りにはならないでしょうか?」


「アンリは何を得る?」


「この話をぼくに託したギエルダニアの有力貴族に恩が売れますし、買ってくれるでしょう。その程度の話です」


「セリア」


「はい!」


「情報部でこの話をうまく転がせるのは誰?」


「スジでいえば調査局長でしょうが、個人として欲が強すぎます。同じ位階でいえば編成局長かと」


 いきなり矛先が向いたにもかかわらず、セリアさんは指示を受ける準備ができていた。


「あなたが拾ってきた情報として、接触してきたら話は聞くように言って。わたしの指示と言ってかまわない」


「承知しました」


 そしてシャナ王女の視線がセリアさんからぼくにゆっくりと移る。


「そろそろ眠い」


 そう来るか!?


「す、すいません、もうひとつ知恵を……」


 続けて女王国の王族のドルニエ訪問の話をすると、説明を終わる前にシャナ王女は手を振って遮った。


「それはシャーリーと話して。どうせ行くのはシャーリーかブリギット。セリアには手伝わせるけどわたしは興味ない。ここを離れるのはイヤ」


 とことん引きこもりだ。でもどうしてシャーリー殿下? 少なくともこの話をしたのはブリギット殿下だし、それくらいは伝え聞いているだろうに。


「シャーリーはあてもなくアンリを待ってる。いちおう、応援すると言ってある」


「あ、そ、それはお気遣いを……」


「セリア、シルドラにあなたの服を着せてシャーリーのところに連れていって。そのあと、ここに転移で戻ってきてほしい」


 セリアさんは急に名前が出て戸惑っているシルドラを引っ張って退出していった。


「あの、なぜシルドラを?」


「いつもここを使われても困る。シャーリーのところに直接行けるようにすればいい。シャーリーの匂いをさせたあなたと顔をあわせるのもめんどくさい」


「……いたみいります」


 ストレートな気遣いありがとうございましたぁ!




「フォーゲル男爵、わたしはもちろんそなたの来訪を心待ちにしていたが、ちょっとの前触れくらいほしいと思うのは我が儘だろうか?」


 シャーリー殿下は服の裾を気にしながら少し上目遣いでぼくを睨んで言った。すでに寝る支度を調えていたらしいが、セリアさんのしらせで慌てて着替え直したらしい。以前欲目にしたような騎士服ではないが、上質の生地のブラウスにツヤのある素材の柔らかそうなパンツ。部屋でくつろぐ時の装いと言ったところだろう。部屋には趣味のよい、おそらく眠りを促進する香が焚かれている。


「面目ありません。まさか今日お邪魔することになるとはぼくも思ってなくて……」


「冗談だ。息災だったか?」


「はい」


「それで、何用であったか? どうせわたしに会いに来てくれただけではないのであろう?」


「えと、会いたいと思っていたのは間違いありませんが、二つほどお話ししたいことが……」


 ぼくはローザを連れてきたこと、それからドルニエ訪問の窓口決めの話をざっと伝えた。


「ふむ、明日は所用で女王宮を離れられないが、短い時間であれば明後日に外に出られる。昼少し前頃にローザを冒険者ギルドに連れてきてくれぬか? キリエどのに話を通して部屋を用意しておいてもらうようにしておくゆえ、あまり目立たぬようにできるだろう」


「わかりました。殿下はお一人で?」


「ギルドに一人で出向くのは無理だ。それができるなら、そなたがビルハイムを発ったときにやっている。ただ、部屋にはひとりで入れるようにしよう。もうひとつのほうだが、シャナは……」


「興味ないそうです。シャーリー殿下と話せと言われました。セリアさんには協力をお願いできそうですが……」


「で、あろうな。マイヤ殿の縁で話をこじつけられる気がしたのだが、あまりセリアに負担をかけるわけにも行くまい」


「シャーリー殿下に近い方で、マイヤに接近しておかしくない人は? ブリギット殿下の側近の方でもいいですが……」


「ブリギットのまわりは脂ぎった背景をもつものが多いからな……。それに、それだとマイヤ殿を直接巻きこむことになるが、彼女は引き受けてくれるのか?」


「もちろんイヤがるでしょうが、話の中身に関わらせようとしなければなんとかなる気がします。厳重に封をした書簡をぼくに取り次ぐだけ、とかですね」


「なるほどな。それでは、ブリギットと話して誰かを見つくろうこととしよう。わたしだけで勝手に決めるわけにもいかぬだろう。その上で書面をでっち上げて……これだけの仕事を持ってきているということは、何日かはビルハイムに滞在するのであろう?」


「四、五日は。ぼくもマイヤに話を通しておこうと思います」


「そうしてくれ」


 訪ねていったとたんに塩をかけられて追い出される気もしないではないが、彼女もマジメな話にはそれなりの姿勢で臨んでくれる子なので、なんとかなるだろう。




「その……だな、まさかこのあとすぐにそなたらの拠点に戻る、とか言わぬ……よな?」


 話にいちおうの区切りがついたところで、シャーリー王女はおずおずとそう切り出し、頬を赤らめながらぼくを上目遣いに見た。


「えと……、はい。シルドラは朝に迎えにきてくれることになってます」


 なんのことはない。ぼくも完全にその気だったということだ。我ながら全く節操のない男である。


「ならば……」


「シャル、隣にきてよ」


 ホッとしたような笑みを浮かべたシャーリー王女は、ロングソファにいたぼくの横に座り、躰を預けてくる。就寝まぎわだった彼女からは品のよいシャボンの香りが漂ってくる。部屋に立ちこめている香と混じり合ってぼくの脳髄を刺激する。


「ひどい男だ。これだけ焦がれた相手と会うというのに、満足に化粧も装いもさせてくれぬ」


 ぼくの肩に頭を乗せた彼女は、咎めるような視線をつくってぼくに向けた。


「いまのシャルも素敵だよ?」


「そういう問題ではない。これでもわたしも女なのだ。少しでも綺麗にしてそなたの前に出たいのは当たり前ではないか。なのにこんな、寝る前の普段着で、ほとんど素顔のままで……」


 シャルが泣きそうな顔になる。彼女はスッピンにルージュだけを引いていた。そのせいで、その唇はみょうに紅く扇情的だ。ぼくはそのままその唇に自分の唇を近づけた。ぼくの顔にかかる息が一気に熱くなった。


「待たせてごめん、シャル」


「フォーゲル男爵、逢いたかった……」






お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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― 新着の感想 ―
[一言] 読了。なかなか英雄をプロデュースへの道は遠いな
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