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16-3 帰路

一度勢いが止まるとなかなか動けません。そういうところが素人なのでしょうね。

待っていただいていた方には、更新の遅れ、申しわけありませんでした。

「アンリくん、ご実家にいる間、何をしてたの? 全然姿を見なかったけど……」


 カルターナに戻る馬車の中で、ベアトがぼくに尋ねてきた。横でエリーゼも頷いている。


「いや、ぼくの出る幕なんてなかったじゃない? ふたりとも母様とシャルロット様に拉致されたままだったしさ……」


「それはそうなのだけど……ねえ?」


 ベアトがエリーゼを見ると、エリーゼも力強く頷いてみせる。


「はい、それでも少し割り込んできていただければ、と思ってしまいましたわ」


 ふたりの不満はわかる。わかるが、同時にとても受け入れられるものではない。女性の集団の中にわけいって自分の意思を通すことがどれだけ困難か、女性は決してわかってくれないのだ。




 ベアトとエリーゼが手の届かないところに行ってしまっていたために思いがけず自分の時間ができてしまった実家での四日間、ぼくは教会関係者の運命を見届けるとともに、タニアやナターリャとアレックスの今後について話し合っていた。夜をリュミエラと過ごしたとかは、とりあえず別の問題だ。ナターリャには「妻二人を連れた旅ですごい度胸ですね~」とか言われたが、無視だ。


 まず、教会関係者については、ぼくがタニアに話をした翌日の朝には、なにかに追い立てられるように街を出て行った。何に追い立てられたかは、タニアの説明がすべてだ。


「たいしたことはしておりません。あの方たちがおやすみになったあと、ご自分たちのなさったことがきっかけとなって自らが滅びを迎える未来を夢の中で何種類も愉しんでいただいただけです」


「それで……壊れなかったの、あの人たち?」


「それで壊してしまうような下手は打ちません。カルターナに帰り着いて向かう先を確認しなければなりませんので。それを教えていただいたあとは、ラクになっていただきます」


「向かった先の人たちは?」


「ご説明が必要とは考えておりませんが?」


 うんうん、そうだね。ぼくは首をタテに振り続けるしかなかった。首謀者と関係者をすべて洗い出したうえで適切な処置を加えるということだ。処置の内容は確認すべきではなかろう。要するに、この話はここまでということだ。




「それはそうと、確認してよろしいですか? アレックス様がここに同席されているということは、アレックス様をこの世界に引き込むおつもりですか?」


 タニアがクリティカルな質問を投げつけてきた。まだピンときていないのか、アレックスはポカンとしてタニアのいっさいゆるみのない厳しい表情を見る。


「迷ったよ。でも、いまは確信している。引き込まないようにしてもアレックスくんは巻きこまれる。なら、はじめからこちらにいてもらって、守る算段をした方がいい」


「なるほど、珍しく一理ありますね……」


「珍しく、って何だよ!?」


「わたしも残念ですけどアンリさんに同意ですね~。このガキンチョの人誑しスキルは人間のクズレベルのアンリさんを越えている可能性があります~。危険な情報のほうから寄ってくるでしょうね~」


「残念!? クズ!?」


「ア、アンリ様、お二人とも、アンリ様の力を評価していらっしゃいますから……」


 リュミエラが間に入ってくれたが、あまり救いにはなっていない。というか、まず「珍しく」とか「残念」とかを否定してほしかったよ。


「全っ然そうは思えないんですけどっ!?」


「で、こちらに引き込むとして、どうなさるおつもりですか?」


 ぼくの行き場のない気持ちはタニアに完全にスルーされた。


「タニア、才能的にはアレックスは……?」


「可もなく不可もなく、ですね。お話にならないとは申しませんが、ここまであまり厳しい鍛錬をされてこなかったようですし、身を守る術を覚えることに集中してもらったほうがいいかもしれません」


 こころなしか、アレックスの肩が落ちた。ひょっとしたら、強くなることを夢見てしまっていたのかもしれない。もうすぐ中二世代だしな。だが、土壇場であまり役に立たないぼくでも、小さいころからタニアにギリギリ絞られてきている。ここは現実を見るべきだろう。


「頼めるかな、タニア?」


「なぜそれが必要か、という説明はどうされるのですか? アレックス様にしても、つらい思いをするにはそれなりの動機づけが必要でしょう」


 ああ、「つらい思い」をすることは確定なんだ……。頑張ってくれ、アレックス。


「それはこれからぼくがやるよ。何をどれだけ話すか、ぼくしか案配できないしね」


「了解しました。わたしに押しつけるようなことがあれば、今晩から久しぶりにアンリ様に再教育をさせていただくところでした」


 あ、あぶねえ……。実はちょっとはタニアに頼むことも考えていたんだ。




 幸い、と言うべきだろうか、アレックスはぼくの抱える事情をあまり抵抗なく飲み込んでくれた。


「先生がどこか遠くを見据えているような気がしたのは、そういう事情だったのですね。ぼくに何かできることがあればいいのですが……」


 この子は本当に素直でいい子だ。本心でぼくの役に立ちたいと思ってくれている。


「アレックスくん、勘違いしないでほしい。きみは今回、本当にぼくを助けてくれた。きみがいなかったら、教会との関係で後手に回っていたところだ。これからも同じように助けてもらうことがあると思うからこそ、タニアにきみの鍛錬を頼むんだよ」


「でも、タニアさんは『可もなく不可もなく』と仰ってましたし……」


「戦いに出るということだけなら、ほかに頼れる仲間がいる。ローラを覚えている?」


「はい。ぼくは姉上がどれだけ鍛練を重ねてきたか、どれだけ強いか知っています。あの細身できれいなお姉さんが、その姉上を手もなくひねってしまわれたのは本当に驚きました」


 ローラも「きれいなお姉さん」と言われるようになったか。教えたら有頂天になりそうだ。


「ローラは騎士学校を男として、二度飛び級して卒業した才能の塊なんだよ。シャーリー殿下も、騎士学校の天才少年としてのローラの噂は知っていたよ。女だとは思っていなかったけどね。戦うのは、そういう人たちにお願いしてるんだ」


「ふわあ……」


「きみは自分から進んで厄介ごとに首を突っこまなくていい。むしろ突っこんじゃいけない。ナターリャが言っていたように、きっときみには今回みたいにぼくが必要とする情報が勝手に舞い込んでくる。それをぼくたちに伝えてくれるだけでいいんだ。まさかの時に少しの間身を守れれば、タニアがあとはなんとかしてくれる。でも、自分から首を突っこめば、自衛だけではすまないこともあるし、タニアも間に合わないかもしれない」


「そうか、先生たちに迷惑をかけてしまうんですね……」


 アレックスはシュンとしている。うん、素直ないい子だよね、ほんとに。


「迷惑なんて考えてほしくない。情報をもってきてくれるきみを守るのはぼくたちの義務だ。守れなくなるかもしれない状況を作りたくないだけなんだよ」


「わかりました。でも、先生のタニアさんへの信頼はすごいですね」


 これは信頼、というのだろうか……? 信頼だとすれば、何に対する? 「死神」とよばれたその力に対する? 違うな……。


「アレックスくんはぼくを先生と呼んでくれる。そのぼくのすべてを作ってきたのがタニアだと思ってくれればいいよ。いままでぼくが成長してきた道を振り返って、悔やんでいることはひとつもない」


「わかりました! タニアさんを信じてついていきます!」


 この子のすごいところは、この誰にでもすぐにだまされそうに見える素直さと、必要な情報を過不足なく選別する抜け目なさが同居しているところなんだろうな……。




「ぼくもアレックスくんとはまだあまりなじみがないからね。じっくり話したりしてたんだ」


 ウソではない。じっくり話したことは間違いないし、最初に会ってからまだ三ヶ月弱、回数にすれば二回目だ。一回ずつか濃いだけである。


「少ししかお話しはできなかったけど、素直でかわいい子だったわね。アンリくんやお義兄様たち、お義姉様たちとまた違った感じ」


「素直で可愛いなら、ぼくとは同じタイプでは?」


「どの口がそれを言うかな~?」


 ベアトに頬を抓り上げられた。けっこう痛い。エリーゼがクスッと笑う。


「たしかに、透明感の子でしたわね。天使様のような感じがしましたわ」


 透明感、か。エリーゼはうまいことを言う。そこが彼の武器であるのかもしれない。


「明日の夕方にはカルターナだけど、ふたりは明後日からどうするの?」


「わたしはしばらく予定がビッシリ、かな。お客様の予定を先延ばししてしまっているし、いくつか顔を出しておきたい集まりが続いてるの」


「わたくしは、しばらくは真面目に聖騎士団のおつとめを果たしませんと。身体もなまってしまいますし、まわりの方の目もございますから……」


 ベアトは自分のやることをしっかり見据えているし、エリーゼも自分の立場にふさわしい行動をとろうとしている。すばらしい。そして、しばらく二人がそれぞれにやることがあるのなら、ぼくも自分の職分プラスアルファに集中できる。


「少ししたら、またひと月ほど留守にするけど、いい? この間の旅の成果を生かせるようにしなきゃいけないし、残してきたベルメイリアとも合流しなきゃなんだ」


 ベアトとエリーゼは顔を見合わせ、うなずき合う。


「わたしたちはアンリくんが安心して飛び回れるようにできることをしたいの。だから、そういうことは遠慮しないでね」


「ありがと……」


 ベアトの言葉に感激し、感謝の言葉を口にしかけたぼくはエリーゼに遮られた


「ただ、寂しくないというわけではありませんのよ? ですから、お発ちになるまではできるだけわたくしたちのお願いをきいてくださると嬉しいですわ」


「う、うん、それはもちろん……」


 当然のことだ。当然のことだが、直前に二人が目を見合わせていたのが気になる。気のせいだよね? 誰かそう言って!



お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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