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15-11 性と結婚に関する考察

前世とはいろいろ違うところがあるようで……


運営からの指摘を受け、改稿を施しています。

 翌朝は少しキツかった。ようやく眠りに落ちかけたときに街が動き始める合図となる教会の朝の鐘が聞こえてきたのだ。あわててエリーゼの部屋の浴室を借りて汗を落とし、前日と同じ服で食堂に向かった。リズムを乱して使用人に迷惑をかけることを嫌うエリーゼがいなかったら、朝食はスキップしていたかもしれない。




「アンリさん、服が昨日と同じですね~。昨日の夕食後からついさっきまで、というところですか~」


 思ったとおり、ナターリャが下品な突っ込みを入れてくる。これはさすがにエリーゼも顔を赤らめた。しかし図星なのだから何も言えない。時間がないからと一緒に浴室に入り、汗を落とすはずがもう一度汗をかいてしまったのだ。ついさきほど、ぼくの放ったものがエリーゼの内腿を垂れているのを見てしまったばかりだ。彼女はそれを指で拭い、ぼくに視線を送りながら舐めとった。あやうくもう一度挑みかかりそうになったのは内緒だ。


「新婚なんだから大目に見てくださいよ」


「全然かまいませんよ~。詳しく話してくれてもいいくらいです~」


 するか、そんなこと!




 リュミエラに筆おろしをしてもらって以降ときどき思っていたことがある。結婚した後にさらに強く感じたことだ。


 前世の女性に比べてこの世界の女性は概して性的な成熟のスピードが速い。最初に行為を経験したあとはそれがさらに加速する。前世の感覚のままでいるとしばしば戸惑ってしまうことになる。一方で衰えが早いかというとそんなこともない。マリエールやシャルロット様、パウラ様、ジュリオラ様など、ママン軍団も見た目完全に現役だ。


 男のほうはどうかというと、体力的、精力的にはどうもこの世界のほうが余裕がある感じだ。だが、のべつ性欲を感じるかというとそんなこともない。リュミエラと初めてを経験するまではけっこう悶々としたが、それ以降は状況が出来て初めて、というところだ。少なくとも、街で歩いている女性を見て「オッ」という感じになったりはしない。


 仮説としてぼくが立てたのは、前世よりもこちらの世界のほうが、種の保存と繁栄というテーマに関する人間の危機感が強い、ということだ。つまり、行為がより強く人間の生物としての本能に結びついているのではないかと思うのだ。人間の種としての生存を脅かすものは、前世では人間自身だけだと言われることもあったが、この世界では同じ知的生命体だけをとっても魔族という存在がある。また、外敵の脅威も強い。


  男女同権に異を唱える気はまったくないが、事実として生物としての種の繁栄は、出産をする女性がどう男性を受け入れるかにかかってくる部分が大きい。生物の本能としての生殖行為を抑制する文化的背景が弱ければ、それだけ女性も積極的に男を受け入れる。危機感が強ければ、積極的に男を生殖行為に誘い込む。ぼくの中で異質だったリュミエラとの初めても、成熟しきっていた彼女の発する何かがぼくを積極的に刺激していた、と考えると納得がいく。いや、それに飛びついたことへの言い訳じゃなくてね。


 それに、こう考えていくと一夫多妻に抵抗がなく、女性に男性に対する独占欲が少ないという社会通念にも納得がいく。強いオスは、女性の共有財産だと言うことだ。ちなみに、自分がその強いオスだと言い張る気は全くない。全くないが、男女ほぼ同数の社会で一夫多妻がアリだと、結果として「持つものと持たざるもの」が生まれてくる。貴族に複数の相手と結婚しているものが多いのは、養う財力も含めて「強い」ということなのだろう。前世的価値観から行くと「?」だが、この世界で生きていく限り、そういうものと納得しておいたほうがいい。




「ナターリャは結婚しようと思う?」


「突然どうしたんですか~。アンリさんと結婚する気は今のところないですよ~」


 だれがそんな恐ろしいことを訊いたよ!?


「そうではなく! 結婚話を持ちこまれた経験とか、これから打診される可能性とか、どうなんです?」


「結婚話が舞い込み始めるころには教会に入ってましたからね~。なまじ昇進が速かったもので~、それどころではなかったというのが正直なところです~。スミルノフの家とは疎遠になってますので~、その関係で結婚話が来ることはないでしょうね~。わたしとしても、今のところ興味はないですし~」


「そういう考えの女性も多いんですか?」


「不思議なことを訊きますね~。周りを見ればわかるでしょうに~。まるでどこかから迷い込んできた人間みたいな質問ですね~」


 おおっと、相変わらず食いつくポイントが鋭すぎる。あまり変な質問は出来ないと思い直した。


「いやいや、ぼくが知ってる女性の数なんてわずかなものですよ? それに、その中には適齢期を過ぎて平然として『興味ない』なんて言ってる女性、いなかったですから」


「興味のない人間に適齢期なんて意味ないんですよ~。魔法のあれこれを考えているほうが男とまぐわって子育てするより楽しいですしね~」


「ちょっとは表現を考えましょうよ! エリーゼだっているんですから!」


「あの……わたくしも興味がありますの。わたくしは幼い頃から誰かと結婚することを当然のこととして育ちましたわ。そしてアンリさんの妻にしていただきました。ただ、自分が結婚ということに関心があるのか、真剣に考えたことはない気がするんですの」


「普通のお嬢様なら当然ですね~。考える必要すらないことだというのが普通の感覚です~」


「では、もとはスミルノフという立派な家でお育ちになったナターリャ様は、どうしてそのように結婚という重大事から距離を置いた考え方ができるのでしょう?」


「ふむ、エリーゼちゃんにそう正面から訊かれると、真面目に答えないといけませんね~」


 おい、ぼくなら真面目に答える必要はないってかい?


「わたしは中途半端なんですよ~。なまじ魔法の才能があったためにスミルノフの家もわたしをどう扱うか決めかねてましたし~、教会でもどこか腫れ物を触る扱いでしたからね~。まわりがわたしをどう利用するか、決めきる前に教会を出ちゃいましたし~。だから、距離を置いて考えられるわけじゃなくて、まともに考える機会がなかっただけです~」


 なるほど。ナターリャは複数の価値観のあいだのエアポケットに存在してきたのだ。そして、自分を取り巻く価値観を距離を置いて見つめ、ふつうなら流される局面も自分で考えて道を選んできたわけだ。この人に勝てない理由の一つがわかった気がする。前世を含めても、局面局面で、ぼくなんかよりずっと深く考えながら生きてきたのだろう。


「そんなわけで、エリーゼちゃんみたいに、抱かれるならアンリさんに~、なんてことも思ったりしないわけですよ~。ついてるものは似たり寄ったりですしね~」


 何かが爆発したように、急にエリーゼの顔が真っ赤になった。


「え、その、わたしはやっぱりアンリさんだけ……」


「おやおや~、アンリさんはそんなに床上手ですか~」


 おい、なんてことを口走るんだよ!


「そ、それはわかりませんわ……。でも、とってもやさしくて、たくましくて……」


 エリーゼも説明しようとしなくていいから!


「うーん、たしかにこの年齢で五、いや四人を喰っちゃってるわけですからね~。しかもつまみ食いでなく抱え込んでしまっていると~。よほど上手いかモノが立派なんですかね~。ちょっと試してみるのもアリかもしれませんね~」


 おい、新婚早々の妻の前でなにを言いだすんだよこのやろう! それにあんたいまわざと数まちがえたろ!? ホントは六なんだがなっ! それから、リシャールやマルコたちよりは少し立派な程度だぞ!


「あの、ナターリャ様、わたくしはともかく、ベアトリーチェさんにはひとことおっしゃったほうが……」


 え? それってエリーゼは認めるってことかい?


「それもそうですね~。さすがに正妻の知らないところで、というのは少し問題ですね~」


 ぼくはこの世界の結婚がわからない~!!




 その後も二人のちょっとヤバ目なガールズトークは続いたが、ぼくは固まったまま口を挟めなかった。少なくとも結婚とセックスの距離感が前世とだいぶ違うのは疑う余地がない。エリーゼが今のところぼくにベタ惚れ気味でいてくれてるのは間違いないし、ナターリャとのチャットを聞く限り、あっちの方でも満足しているようだ。にもかかわらず、ナターリャがぼくとイタすことに否定的なコメントが一切ない。このあたり、いちど前世の常識を完全にリセットする必要があることを思い知った。


 ナターリャとの会話を終えて三階に戻るあいだ、エリーゼはぼくにピッタリくっついていた。そして、階段をのぼりきったところでぼくに向き直った。


「アンリさん……、わたくし、もっと頑張りますわね!」


幸せものだぁな~。


お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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